文法指導は明示的に教えるべき? ― メタ分析が出した答えと、その使い方
「文法は教えるべきか、使う中で自然に身につけさせるべきか」。40年以上の論争に、メタ分析はかなりはっきりした答えを出しています。ただし「説明すれば使える」わけではありません。
エビデンスの強さ:文法指導に大きな効果があることは複数のメタ分析でおおむね一貫。初期のメタ分析では明示的指導が優位だったが、測定方法による水増しの可能性や、明示・暗示の差が小さいとする新しいメタ分析もある。

- 文法は「教えた方が伸びる」。 初期のメタ分析では、はっきり説明する明示的指導の方が効果が大きいとされました(新しいメタ分析では差は小さめ)。
- ただし「わかる」と「使える」は別物。テストの形式によって、効果は大きくも小さくも見えます。
- 説明は短く、意味のある場面で使う時間と、混ぜて思い出す練習をセットにしましょう。
文法指導ってなに? ― 「明示的」と「暗示的」
ひとことで言うと、文法指導とは、英語の形とその意味・使い方に生徒の注意を向けさせ、練習させて、「わかる」を「使える」に近づける指導です。 ルールを説明するやり方も、説明しないやり方もあります。このページでは、ルールを短く示し、意味のある場面で使わせ、時間をおいてくり返し思い出させる組み立てをすすめます。
研究では、文法指導のやり方は、ルールを説明するかどうか(明示的か暗示的か)と、あらかじめ決めた文法項目を取り出して順に教えるか意味中心の活動の中で扱うか、という2つの軸で分けて調べられてきました 1。つまり実際には、「説明するか、しないか」の二択ではなく、説明・使う・くり返すをどう組み合わせるかを考えることです。
文法の説明は「将棋の定跡の本」です。定跡を知っている人は上達が速い。でも、本を読んだだけで実戦で指せるわけではありません。実戦(意味のあるやり取り)の中で、定跡を何度も使ってはじめて、考えなくても手が動くようになります。明示的指導は近道を教える役目、使う練習は手に覚えさせる役目です。大事なのは、本を読む時間より、実戦の時間を多く残すことです。
似たものとのちがい
1つ目の軸は、ルールを説明するかどうかです。
- 明示的指導(explicit instruction):ルールを説明する、または生徒にルールを見つけさせて言葉にさせる。「今日は現在完了。have+過去分詞で、過去から今につながることを表します」。
- 暗示的指導(implicit instruction):ルールの説明も「この形に注目して」という指示もしない。そのかわり、目標の形をたくさん含むインプット、やり取り、まちがいのさりげない言い直し(リキャスト)などを意図的に用意して、使う中で身につけさせる。
もう1つの軸が、あらかじめ決めた文法項目を取り出して順に教えるか、意味中心の活動の中で扱うかです。
| フォーカス・オン・フォームズ(Focus on Forms) | フォーカス・オン・フォーム(Focus on Form) | |
|---|---|---|
| 文法をいつ扱う? | あらかじめ決めた項目を1つずつ取り出し、それ自体を学ぶ対象として教える | 意味中心の活動の途中で、必要が生じたときに |
| 注意の向け方 | はじめから形を学ぶ | やり取りの中で、生徒の注意を形へ向ける |
(くわしくは フォーカス・オン・フォーム)
やり方を3ステップで
- 説明は短く:ルールは1つにしぼり、例文2〜3個で示す(生徒に見つけさせてもよい)。
- すぐ意味のある場面で使う:「Have you ever 〜?」なら、クラスメートに本当に聞いてみたいことを質問させる(例:Have you ever been to Okinawa?)。
- 混ぜて、くり返す:既習の文法と混ぜた練習や小テストで、2週間後・1か月後にもう一度使わせる。
研究ではどうなってる?
- 1980〜1998年の実験研究(49サンプル)をまとめた最初の大規模メタ分析では、焦点をしぼった文法指導は大きな効果があり、明示的指導の方が暗示的指導より効果的でした。フォーカス・オン・フォームとフォーカス・オン・フォームズの効果は同じくらい大きく、効果は時間がたっても持続していました 1。
- 英語の文法項目を、正しい形を作るのに必要な規則が1つの「単純な(simple)」項目と、2つ以上必要な「複雑な(complex)」項目(受動態・関係詞節・疑問文の作り方など)に分けて調べたメタ分析(41研究)では、単純な項目でも複雑な項目でも、明示的指導の方が効果が大きいという結果でした。明示的指導は、時間をかけて考えられるテストだけでなく、自由作文や絵の描写のような自由産出の課題にもプラスだったと報告されています 2。
- その後の研究を加えて比べ直したメタ分析(34研究)でも、明示的指導が暗示的指導より効果的という結論は変わりませんでした 3。
- 35年分(1980〜2015年)の54研究・5,051人をまとめたメタ分析では、第二言語の指導(形に焦点を当てた指導。文法が中心ですが、語彙や語用論を扱った研究も一部含みます)全体の効果は g = 1.06(大)。一方で、明示的と暗示的の差は小さかったとされ、効果を左右していたのはテストの形式、学習者のもとの習熟度、研究の場、指導の濃さなどでした 4。このメタ分析では、時間をおいた遅延テストでは、むしろ暗示的指導の効果の方が大きかったという分析結果も示されています 4。ただしこれは、明示・暗示の片方しか含まない研究もまとめた研究どうしの比較で、「暗示的指導の方が長く効く」と因果的に言える結果ではありません。
- 日本の学習者115人が5つの英文法項目を練習した実験では、1項目ずつまとめて練習するより項目を混ぜて練習した方が、練習中はまちがいが多いのに1週間後の成績がよいという結果でした(成績は1週間後の文法性判断テストで測定)。とくにもとの知識が少ない学習者ほど、混ぜる練習の恩恵が大きかったと報告されています 5。
効果量 g = 1.06 は、一般に「大きい」に分類される値です 4。ただし、メタ分析の効果量は、どの研究を集め、何と何を比べたかで意味が変わるので、「何倍伸びる」といった単純な言いかえはしない方が安全です(効果量の読み方は 論文の読み方 へ)。
「複雑な文法ほど、自然に任せるべき」ではなかった
「関係代名詞や受動態のような複雑な文法は、説明してもわからないから、たくさんふれさせて自然に身につけさせるべきだ」と考える人もいます。ところがメタ分析では、複雑な項目でも明示的指導の方が効果が大きかったのです 2。複雑だからこそ、ポイントを短くはっきり示す価値があるといえます。
でも「説明すれば使える」わけではない
ここが文法指導でいちばん大事なところです。最初の大規模メタ分析は、どんなテストで測ったかが効果の大きさに影響している可能性を指摘しています 1。この分析では、選択式や穴埋めのように答えが強くしぼられたテストで効果が大きく、自由に話す・書くテストでは小さめでした。ルールについて判断させるテスト(メタ言語的判断)でも、とくに大きな効果が出たわけではありません 1。とっさに話すような場面での使用は、もっと伸びにくいと考えておくのが安全です。
文法を「活動と切り離して教える」か「活動の中で扱う」かについては、どちらにも役割があると整理されています 6。たとえば日本語の影響でまちがえやすい項目は切り離して説明する時間が有効で、すらすら使える力は、活動の中で扱う方が育ちやすい、という考え方です 6。
つまり、文法指導は「説明するか、しないか」の二択ではなく、説明+使う+くり返すの組み合わせで考えるのが現実的です 7。
明日の授業でこうする
- 説明は短く(目安は5分程度。研究の数字ではなく筆者の実践上の目安です):ルールは1つにしぼり、例文2〜3個で。生徒にルールを見つけさせる方法もあります(インプットで文法を育てる)。
- すぐに意味のある場面で使う:「Have you ever 〜?」なら、クラスメートに本当に聞いてみたいことを質問させる。答えを知りたい質問だから、形と意味が結びつきます 6。
- 既習の文法と混ぜて練習する:その日の項目だけのドリルで終わらず、過去形・未来表現・現在完了を混ぜた問題を出す。日本の学習者の実験では、項目を混ぜた練習の方が、練習中はまちがいが増えても1週間後の成績がよい結果でした 5。ただしこの実験は選択式の練習と文法性判断テストで測ったもので、話す力への効果は未確認です。
- まちがいには短くフィードバック:ねらいの項目のまちがいは、その場で短く気づかせる。ただし意味中心の活動の最中なら、会話を止めずに先生がメモしておき、活動のあとにまとめて扱う(口頭の誤り訂正)。
- 単元をまたいで再登場させる:2週間後・1か月後の Small Talk や小テストで、もう一度使わせる。
- 中学校(2年・比較):比較級の説明は例文3つで3分。すぐに「クラスで一番人気の給食は?」というアンケートをペアで取り、結果を比較級・最上級で報告させます。翌週の授業のはじめに、先生が日本語を言って生徒がすぐ英語で言う「瞬間英作文」をし、過去形・未来表現の文に比較の文をまぜて、もう一度言わせます。
- 高校(関係代名詞):ルールの説明のあと、「自分の好きな人・物を、関係代名詞を使って説明し、ペアに当ててもらう」クイズへ。複雑な項目こそ、短くはっきり説明してから使わせます 2。
- 定期テスト:文法の問題を単元ごとに並べず、複数の項目をまぜて出題する。テストそのものが「混ぜて思い出す」練習になる、という応用案です(混ぜる練習の効果を示した実験 5 を定期テストに当てはめた提案で、定期テストで直接確かめた研究ではありません)。
❓ よくある質問
Q. 明示的指導と暗示的指導の違いは何ですか?
明示的指導は、ルールを説明する、または生徒にルールを見つけさせて言葉にさせる指導です。暗示的指導は、ルールの説明も「この形に注目して」という指示もせず、目標の形を多く含むインプットややり取り、リキャストなどを用意して、使う中で身につけさせます。
Q. 文法は説明して教えた方が伸びますか?
初期のメタ分析では、焦点をしぼった文法指導には大きな効果があり、明示的指導の方が暗示的指導より効果的でした 12。ただし54研究をまとめた新しいメタ分析では、明示と暗示の差は小さかったとされています 4。
Q. 関係代名詞のような複雑な文法は、自然に任せた方がいいですか?
メタ分析では、単純な項目でも複雑な項目でも、明示的指導の方が効果が大きいという結果でした 2。複雑だからこそ、ポイントを短くはっきり示し、すぐに意味のある場面で使わせる価値があります。
Q. 文法問題が解ければ、話せるようになりますか?
そうとは限りません。選択式や穴埋めで測ると、自由に話す・書くテストで測るより、指導の効果が大きく出やすいと報告されています 1。説明+意味のある場面で使う+くり返す、をセットにすることが大切です。
Q. 文法の練習は、その日の項目だけでいいですか?
既習の項目と混ぜるのがおすすめです。日本の学習者115人の実験では、項目を混ぜて練習した方が、練習中はまちがいが多いのに1週間後の成績がよく、もとの知識が少ない学習者ほど恩恵が大きかったと報告されています 5。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード測定のバイアスと「明示的優位」の読み方
第二言語習得研究者の John M. Norris 氏と Lourdes Ortega 氏 (2000) は、明示的指導の優位を示すと同時に、結果のテスト形式が効果量に影響している可能性と、構成概念の操作的定義・追試が十分でないことを限界として挙げました 1。初期の研究では、選択式や制約つきの産出(穴埋めなど)のように、時間をかけて明示的知識を使える測定が多く、自由産出の測定は少なかったため、明示的指導が有利に見えた面がある、という批判は今も続いています。
第二言語習得研究者の Nina Spada 氏と Yasuyo Tomita 氏 (2010) は、明示的指導が「統制された知識」だけでなく、自由産出課題で測った「自発的な使用」にも寄与したと報告し、この批判にある程度答えました 2。ただし自由作文などには考える時間もあるため、純粋に即興的な力を測ったとまでは言いきれません。一方で、第二言語習得研究者の Eun Young Kang 氏・Sarah Sok 氏・ZhaoHong Han 氏 (2019) は、明示・暗示の差は小さく、効果を左右するのは結果の測定方法、学習者の習熟度、研究の場、指導の濃さだとしています 4。メタ分析ごとに対象研究・分類・測定の扱いが異なるため、「明示的が何倍効く」という数字を一人歩きさせない注意が必要です。明示的知識と暗示的知識の関係(インターフェイス論争)については 明示的知識と暗示的知識 で扱います。
🎓院生モード「何を・いつ・どう」教えるか
第二言語習得研究者の Rod Ellis 氏 (2006) は、文法指導をめぐる論点を「教えるべきか」「どの文法を」「いつ」「どう」など8つの問いに整理し、第二言語習得研究は決定的な答えを出すというより、指導の前提を問い直す材料を与えるものだと位置づけています 7。Spada 氏と、第二言語習得研究者の Patsy M. Lightbown 氏 (2008) の「切り離す(isolated)か、統合する(integrated)か」も、二者択一ではなく、項目の性質・学習者・条件によって使い分けるという立場です 6。
最近は、認知心理学の「交互練習(interleaving)」の知見を文法学習に応用する研究も進んでいます。日本の学習者を対象にした実験で、混ぜる練習の効果がもとの知識の少ない学習者で大きかったという結果は 5、習熟度の差が大きい日本の教室にとって示唆的です。
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📑 出典(7件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417-528. doi:10.1111/0023-8333.00136 ✔ DOI照合済第二言語の指導効果をまとめた最初の本格的メタ分析(49研究)。明示的な指導が暗示的な指導より効果的
- Spada, N., & Tomita, Y. (2010). Interactions between type of instruction and type of language feature: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 263-308. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00562.x ✔ DOI照合済明示的/暗示的指導と、文法項目の難しさ(単純/複雑)の関係を調べたメタ分析(41研究)
- Goo, J., Granena, G., Yilmaz, Y., & Novella, M. (2015). Implicit and explicit instruction in L2 learning: Norris & Ortega (2000) revisited and updated. In Rebuschat, P. (Eds.), Implicit and Explicit Learning of Languages (pp. 443-482). John Benjamins doi:10.1075/sibil.48.18goo ✔ DOI照合済Norris & Ortega(2000)を34研究で更新したメタ分析。明示的指導の方が効果が大きかった
- Kang, E. Y., Sok, S., & Han, Z. (2019). Thirty-five years of ISLA on form-focused instruction: A meta-analysis. Language Teaching Research, 23(4), 428-453. doi:10.1177/1362168818776671 ✔ DOI照合済35年分(1980〜2015)の形式重視の指導研究54本・約5,000人をまとめたメタ分析
- Nakata, T., & Suzuki, Y. (2019). Mixing grammar exercises facilitates long-term retention: Effects of blocking, interleaving, and increasing practice. The Modern Language Journal, 103(3), 629-647. doi:10.1111/modl.12581 ✔ DOI照合済日本人学習者115人の実験。5つの文法を混ぜて練習(インターリーブ)すると、1つずつまとめて練習するより1週間後の成績がよかった
- Spada, N., & Lightbown, P. M. (2008). Form-focused instruction: Isolated or integrated?. TESOL Quarterly, 42(2), 181-207. doi:10.1002/j.1545-7249.2008.tb00115.x ✔ DOI照合済文法指導を活動から切り離す(isolated)か、活動の中に組みこむ(integrated)か、両方の役割を論じた論文
- Ellis, R. (2006). Current issues in the teaching of grammar: An SLA perspective. TESOL Quarterly, 40(1), 83-107. doi:10.2307/40264512 ✔ DOI照合済文法指導をめぐる論点(何を・いつ・どう教えるか)をSLA研究から整理した論文
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








