多読(たどく)指導の始め方 ― 「やさしい本を、たくさん、楽しく」が効く理由
辞書を引かずにスラスラ読める本を、とにかくたくさん。精読だけでは育ちにくい「読む速さ」と「英語を英語の順番のまま理解する力」を、多読は時間をかけて育てます。
エビデンスの強さ:複数のメタ分析で、読解関連の力(読解・読む速さ・語彙などの総合)への効果は「小〜中くらい」でおおむね一貫。ただし語彙が1冊で劇的に増えるわけではない。

- やさしい本を、たくさん、楽しく。 多読は「ほぼ全部わかる本」を大量に読む指導です。
- 効果は複数のメタ分析で確認ずみ(小〜中程度)。日本の大学生の研究では読む速さが伸び、理解度も保たれました。
- よくある失敗は、本が難しすぎること。レベルは「やさしすぎるかな?」くらいでちょうどいい。
多読ってなに?
ひとことで言うと、辞書を引かずにスラスラ読める「ほぼ全部わかるやさしい本」を、自分で選んで、楽しみながら、たくさん読む指導です。
多読(たどく/extensive reading)は、研究では「やさしい本を、大量に、楽しみ・情報・大意のために、速く読む」読み方として原則がまとめられています 1。つまり実際には、語句や構造を1文ずつ詳しく確かめる読み方とは対照的に、わからない語はとばして、英語の順番のまま、どんどん読み進める時間をつくることです。
精読は「自転車の部品を分解して、しくみを学ぶ」時間。多読は「実際に自転車に乗って、毎日あちこち走り回る」時間です。しくみを知っているだけでは、スイスイ乗れるようにはなりません。逆に、乗っているうちに体が勝手にバランスを覚えます。どちらも必要で、多読は乗る時間の担当です。大事なのは、乗る練習にはこがなくても進むくらいの、ゆるい坂道(=やさしすぎるくらいの本)を選ぶことです。
精読とのちがい
| 精読(intensive reading) | 多読(extensive reading) | |
|---|---|---|
| 読む文章 | 教科書など、新出語をふくむ文章 | 知らない語がほとんどない、やさしい本 |
| 読み方 | 語句や構造を1文ずつ確かめながら、ていねいに読む | 辞書を引かず、わからない語はとばして速く読む |
| 目的 | 細かいところまで正確に理解する | 楽しみ・情報・大意(細部の正確な訳は目的ではない) |
| 量・選び方 | 決められた文章をじっくり | 自分で選んだ本を、できるだけたくさん |
| 役割 | 英文のしくみを学ぶ | すでに知っている語や文に大量にふれて、速く読めるようにする |
やり方を3ステップで
- 本を選ぶ:学年のレベルより1〜2段階やさしい本から。最初の100語ほどを読んで、知らない語が2語くらいまでならOK。
- 毎回同じ時間に読む:授業の最初の10分。「辞書は引かない」「わからない語はとばす」「つまらなければ途中でやめていい」。
- 記録して、声をかける:書名・語数・ひとこと感想を残し、先生はテストではなく本の話をする。
多読の考え方をまとめた有名な「10の原則」があります 1。かみ砕くと、こうなります。
| 原則 | ひとことで言うと |
|---|---|
| ① 読む本がやさしい | 知らない語がほとんどない本を読む |
| ② いろいろな本がある | 物語・ノンフィクション・漫画風など、選べる量と種類 |
| ③ 生徒が自分で選ぶ | つまらなければ途中でやめてもいい |
| ④ できるだけたくさん読む | 量がすべての土台 |
| ⑤ 目的は楽しみ・情報・大意 | 細部の正確な訳は目的ではない |
| ⑥ 読むこと自体がごほうび | 読んだあとの重いテストはしない |
| ⑦ ふつうは速く読む | ゆっくり訳読みしない |
| ⑧ 一人で、黙って読む | 自分のペースで |
| ⑨ 先生は案内役 | 目的・やり方を説明し、記録を見て声をかける |
| ⑩ 先生も読む人のお手本 | 先生が楽しそうに読む姿を見せる |
なぜ効くの?
「知っている語」の割合がカギ
英語の文章を辞書なしで十分に理解するには、知っている語が約98%、つまり知らない語が50語に1語くらいまでが目安だ、という研究があります 2。最低ラインは95%、理想は98%という整理もあります 3。
ただし、この98%はニュージーランドの大学生66人のデータから推定された値で、スリランカの成人学習者104人で同じ方法を試した2023年の追試では、元の結果を完全には再現できませんでした 4。文章の種類や背景知識、文の難しさでも必要な割合は変わるので、「98%なら必ず読める」という絶対の線ではなく、本を選ぶときの目安と考えるのが安全です。
教科書の本文は、生徒にとって新出語だらけ。これでは「乗れない自転車」です。多読では、わざとほぼ全部わかる、とてもやさしい本(目安は98%前後)を読むので 2、頭が「訳す」作業から解放され、英語を英語の順番のまま処理する練習を大量に積めます。
研究ではどうなってる?
- 34研究(全体で約3,900人)を集めたメタ分析のうち、対照群と比べた研究を統合した結果では、多読をしたグループは、しなかったグループより読解の総合的な力(reading proficiency:読解・読む速さ・語彙などをふくむ指標)が伸び、効果量は d = 0.46(中くらい)でした 5。
- 49研究(約5,900人)をまとめた別のメタ分析でも、効果は「小〜中」。EFL(日本のように、英語が社会のふだんの言語ではない環境)の方が効果が大きく、多読をカリキュラムの一部にした場合に最も効果が大きかったと報告されています 6。
- 2025年の最新メタ分析では、読解だけでなく語彙・流暢さ・動機づけ・ライティング、さらに口頭の力(oral proficiency:話す・聞くなどをまとめた指標で、スピーキング単独の効果ではありません)まで、調べたすべての領域でプラスの効果(小〜中)が見られました 7。ただし、まとめられた研究の中心は大学生で、中高生の研究はまだ少なく、長い期間あとまで効果が続くかを追った研究もわずかです。
- 日本の大学1年生97人を1年間追った研究では、楽しむ多読をしたグループはすべて、精読のグループより読む速さが伸びました。とくに2週間に1冊以上読んだ生徒で伸びが大きく、読む速さが上がっても理解度は下がりませんでした 8。
効果量 d = 0.46 は、ざっくり言うと「多読をしたクラスの平均的な生徒が、しなかったクラスの中では上位3分の1くらいに入る」イメージです 5(効果量の読み方は 論文の読み方 で解説しています)。
ただし「単語がどんどん増える」は言い過ぎ
グレイデッド・リーダー(学習者向けにやさしく書き直された本)を1冊読んだあと、新しい単語がどれだけ残るかを調べた実験では、3か月後まで意味を覚えていたのは25語中平均1語ほど。8回未満しか出会わなかった語は、ほぼ残りませんでした 9。
つまり、やさしい本を1冊読むだけで新しい単語がどんどん身につく、とは期待しにくいのです。多読のねらいは、むしろすでに知っている単語や文に大量にふれて、英語を速く読めるようにすることにあると考えるのが妥当でしょう(読む速さの伸びは、上で紹介した日本の大学生の研究で報告されています 8)。新しい単語は、語彙指導 で意図的に覚えるのと組み合わせるのがおすすめです。
明日の授業でこうする
- 本を用意する:学習者向けのグレイデッド・リーダーや、絵の多い児童書を、学年のレベルより1〜2段階やさしいものから。最初は学級文庫30冊でも始められます。
- 最初の授業で「ルール」を説明する:「辞書は引かない」「わからない語はとばす」「つまらなければ途中でやめていい」の3つだけ。
- 授業の最初の10分を読書タイムに:毎回同じ時間に読むと習慣になります。研究でも、カリキュラムに組みこんだ多読ほど効果が大きいとされています 6。
- 記録を残す:書名・語数・ひとこと感想(★3段階でOK)。最新のメタ分析では、読書記録や簡単な確認などの「説明責任(accountability)」を組みこんだ研究の方が、平均の効果量が大きい傾向でした 7(記録そのものの効果を直接確かめた実験ではない点には注意)。
- 先生が声をかける:記録を見て「この本おもしろかった?」「次はこのシリーズどう?」。テストではなく、本の話をします。
本のレベルの選び方(いちばん大事)
生徒に本の最初を100語ほど読んでもらい(短い部分なので、あくまで大まかな目安です)、知らない語が2語くらいまでならOK。それより多ければ、ひとつ下のレベルへ。これは「50語に1語」という98%の目安 2 を教室用に言いかえたものです。1ページの語数は本によってちがうので、ページ数ではなく語数で考えるのがコツです。
中学1〜2年生なら、絵本や、ほとんど絵だけで話が進むレベルからで十分です。「こんなにやさしくていいの?」と生徒が言うくらいが、ちょうどいいスタートです。
- 本が難しすぎる:よくある失敗です。辞書を引きたくなる本は、多読ではなく精読用です。
- 読書感想文を毎回書かせる:読むことが「宿題の前ふり」になり、楽しさが消えます。記録はひとことで十分。
- 1学期で成果を求める:多読は量が勝負。日本の大学生の研究も1年がかりです 8。
- 「好きな本を自由に」だけで放っておく:レベル別に本を並べ、最初の数冊は先生がすすめる方が、迷わず読み始められます。
❓ よくある質問
Q. 多読は本当に効果がありますか?
対照群と比べた研究を統合したメタ分析では、読解の総合的な力に d = 0.46(中くらい)の効果がありました 5。別のメタ分析でも効果は小〜中で、日本のような EFL 環境や、多読をカリキュラムの一部にした場合に効果が大きいと報告されています 6。
Q. 多読の本は、どのくらいやさしいものを選べばいいですか?
知っている語が約98%、つまり知らない語が50語に1語くらいまでが目安です 2。教室では、本の最初を100語ほど読んで知らない語が2語くらいまでならOK、それより多ければ一つ下のレベルへ。ただしこの値は追試で完全には再現されておらず、絶対の線ではなく目安です 4。
Q. 多読をすれば、単語はどんどん増えますか?
それは言い過ぎです。グレイデッド・リーダーを1冊読んだあと、3か月後まで意味を覚えていた新しい語は25語中平均1語ほどでした 9。多読のねらいは、知っている語や文に大量にふれて速く読めるようになることで、新しい単語は語彙指導と組み合わせます。
Q. 授業で多読をどう始めればいいですか?
学年より1〜2段階やさしい本を用意し、「辞書は引かない」「わからない語はとばす」「つまらなければやめていい」の3つのルールを伝えます。授業の最初の10分を読書タイムにし、書名・語数・ひとこと感想を記録させ、先生は記録を見て本の話をします。
Q. 多読の効果が出るまで、どのくらいかかりますか?
短期で判断するのは早すぎるかもしれません。日本の大学1年生を1年間追った研究では、楽しむ多読のグループで読む速さが伸び、とくに2週間に1冊以上読んだ生徒で伸びが大きく、理解度も保たれていました 8。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「自由に選ばせる」は本当に正しい?
多読を研究する Richard R. Day 氏と Julian Bamford 氏の原則では「生徒が自分で選ぶ」ことが大切だとされます 1。ところが2025年のメタ分析では、本の選択肢をある程度しぼった研究や、何らかの説明責任(accountability:記録・簡単な確認など)を組みこんだ研究の方が、平均の効果量が大きくなっていました 7。これは研究どうしを比べた分析(モデレーター分析)なので、「しぼれば必ず伸びる」という因果まではわかりませんが、無視できない結果です。
これは「自由に選ばせるな」という意味ではありません。教室の現実では、選択肢が多すぎると生徒は迷い、難しすぎる本を選んでしまいがちです。先生がレベルで選択肢をしぼり、その中から生徒が選ぶという「ガイド付きの自由」が、研究と実践の両方に合う落としどころでしょう。
もうひとつの論点は、何を測るかです。日本の大学生の1年間の研究では、多読のグループで読む速さ(reading rate)が伸び、理解度は高いまま保たれました 8。多読の成果は読解テストの点だけでなく、読む速さにもあらわれる可能性があるので、短期の読解テストだけで「多読は効かなかった」と判断するのは早すぎるかもしれません。
日本の高校生を対象にした研究では、多読を続ける動機として、日本語での読書と英語での読書の両方への「内発的動機づけ」(読むこと自体の楽しさや興味)が大切だと報告されています 10。1冊ごとに内容テストをするなど、評価を重くしすぎると、この楽しさを壊してしまうおそれがある(これは研究の直接の結果ではなく、実践上の懸念です)――ここに「記録は残すが、重いテストはしない」バランスの難しさがあります。
多読の理論・本のレベル設定・研究デザインまでまとめた手引きとしては、語彙と多読を研究する Paul Nation 氏と Rob Waring 氏の本が詳しく 11、古典的な体系書としては Day 氏と Bamford 氏の本があります 12。
🎓院生モード研究を読むときの注意点
多読研究には、①多読グループの方が英語にふれる総時間も長い(多読そのものの効果なのか、時間の効果なのか分けにくい)、②多読をやりたがる先生・生徒が参加しやすい、という弱点がよく指摘されます。メタ分析で「EFL の方が効果が大きい」とされるのも 6、もともと読む量が少ない環境ほど、増えた分の伸びしろが大きいからだと考えると自然です。
🎁 玉手箱で使えるツール
原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。
📑 出典(12件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Day, R. R., & Bamford, J. (2002). Top ten principles for teaching extensive reading. Reading in a Foreign Language, 14(2), 136-141. doi:10.64152/10125/66761 ✔ DOI照合済多読の「10の原則」を示した、多読指導でいちばん引用される短い論文
- Hu, M. H.-C., & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403-430. doi:10.64152/10125/66973 ✔ DOI照合済知っている語が98%ほどないと、助けなしで物語を十分に理解するのは難しいと示した研究
- Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners' vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15-30. doi:10.64152/10125/66648 ✔ DOI照合済読解に必要な既知語率を、最低ライン95%・理想98%と整理した研究
- Kremmel, B., Indrarathne, B., Kormos, J., & Suzuki, S. (2023). Unknown vocabulary density and reading comprehension: Replicating Hu and Nation (2000). Language Learning, 73(4), 1127-1163. doi:10.1111/lang.12622 ✔ DOI照合済Hu & Nation (2000) の「既知語98%」の研究を、スリランカの成人学習者104人で追試。元の結果は完全には再現されなかった
- Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6-37. doi:10.1002/tesq.157 ✔ DOI照合済多読の効果をまとめたメタ分析(34研究・約3,900人)
- Jeon, E.-Y., & Day, R. R. (2016). The effectiveness of ER on reading proficiency: A meta-analysis. Reading in a Foreign Language, 28(2), 246-265. doi:10.64152/10125/66901 ✔ DOI照合済多読と読解力のメタ分析(49研究・約5,900人)。EFL環境・カリキュラムに組みこんだ多読で効果が大きい
- Sangers, N. L., van der Sande, L., Welie, C., Dobber, M., & van Steensel, R. (2025). Learning a language through reading: A meta-analysis of studies on the effects of extensive reading on second and foreign language learning. Educational Psychology Review, 37(4). doi:10.1007/s10648-025-10068-6 ✔ DOI照合済多読の効果を技能ごとに調べた最新のメタ分析。本選びの範囲を絞る・読んだ証拠を残すと効果が大きい
- Beglar, D., Hunt, A., & Kite, Y. (2012). The effect of pleasure reading on Japanese university EFL learners' reading rates. Language Learning, 62(3), 665-703. doi:10.1111/j.1467-9922.2011.00651.x ✔ DOI照合済日本の大学1年生97人を1年追跡。楽しむ多読のグループは精読グループより読む速さが伸びた
- Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader?. Reading in a Foreign Language, 15(2), 130-163. doi:10.64152/10125/66776 ✔ DOI照合済グレイデッド・リーダー1冊から覚えて3か月後まで残る新語はごくわずか、という実験
- Takase, A. (2007). Japanese high school students' motivation for extensive L2 reading. Reading in a Foreign Language, 19(1), 1-18. doi:10.64152/10125/66622 ✔ DOI照合済日本の高校生の多読への動機づけを調べた研究
- Nation, I. S. P., & Waring, R. (2019). Teaching Extensive Reading in Another Language. Routledge doi:10.4324/9780367809256 ✔ DOI照合済多読の進め方・本のレベル・評価までをまとめた実践と研究の手引き
- Day, R. R., & Bamford, J. (1998). Extensive Reading in the Second Language Classroom. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済第二言語の多読指導を体系化した古典的な本
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら






