単語を定着させる覚え方 ― 間隔をあけて「思い出す」が最強の理由と単語テストの作り方
「答えを見ながら何度も書き写す」「直前に詰めこむ」は、やった気になるのに残りにくい方法です。記憶研究が示す2つのカギ「想起」と「間隔」を、毎週の単語テストに組みこみましょう。
エビデンスの強さ:想起練習(テスト効果)と分散学習は、認知心理学の大規模なレビュー・メタ分析と、日本の学習者を対象にした第二言語の実験の両方で一貫して支持されている。最適な間隔の決め方は条件しだい。

- 見直すより、思い出す。 答えを見る前に、まず自力で思い出させるのが記憶に効きます。
- 詰めこむより、間をあける。 同じ回数なら、間隔をあけた方が長く残ります。
- 単語テストは「1回きりの関門」ではなく、前の範囲をくり返し混ぜる練習の場に変えましょう。
単語が「残る」覚え方ってなに?
ひとことで言うと、単語を長く残すコツは、答えを見直すより「自分で思い出す」こと、一度に詰めこむより「間をあけてくり返す」ことの2つです。
生徒が単語テストで満点をとったのに、1か月後にはほとんど忘れていた――英語の先生ならだれでも経験があると思います。これは生徒の努力不足ではなく、覚え方の設計の問題であることが多いのです。
記憶の研究では、覚えたことを長く残すカギとして、くり返し次の2つが挙げられています 1。
- 想起練習(retrieval practice):答えを見ずに、頭の中から思い出そうとすること。「テストを受けること」自体が記憶を強める現象はテスト効果(testing effect)とよばれます 2。
- 分散学習(distributed practice):同じ回数の学習を、一度にまとめず、時間をあけて行うこと。間隔効果(spacing effect)ともいいます 3。
10の学習法を評価した有名なレビューでも、この2つ(練習テストと分散学習)だけが「有用性が高い」と評価され、逆に読み直しやマーカーを引くことは「有用性が低い」とされました 1。つまり実際には、単語テストや授業のはじめの短い活動を「答えを見る前に、まず思い出させる場」にし、前の範囲を間をあけて何度も出すことです。
記憶は「草むらの道」です。答えを見るのは、だれかが作った道を眺めるだけ。自分で思い出すのは、草をかき分けて実際に歩くこと。何度も歩いた道ほどはっきり残ります。しかも、毎日歩くより、少し草が伸びたころに歩き直す方が、道は長持ちします。大事なのは、眺めるのではなく自分の足で歩くことです。
似たものとのちがい
| 覚えた気になりやすいやり方 | 長く残るやり方 | |
|---|---|---|
| 何をする? | 答えやノートを見直す・読み直す・マーカーを引く | 答えを見ずに思い出す(想起練習) |
| いつやる? | テスト前日にまとめて詰めこむ | 時間をあけて、何回かに分ける(分散学習) |
| 直後のテスト | 点がとれることがある | 見直しと同じか、やや不利なことも |
| 時間がたってから | 残りにくい | よく残る 24 |
どちらも、学習者自身の「覚えた感」は当てになりません。詰めこんだ方が効いたと思いこむ人が多いことも、実験で示されています 5。
やり方を3ステップで
- 授業の最初に「思い出しタイム」:前回の語の日本語を見せ、ペアで英語を言い合ってから答えを見せる。
- 小テストに過去の範囲をまぜる:たとえば「新出7問+過去3問」(割合は実践上の目安)。
- 家庭学習も間をあける:単語カードを小さな束に分けてすぐ何周もするのではなく、全部をまとめてシャッフルして回すなど、1枚1枚が次に出てくるまでに間隔があくようにする。
研究ではどうなってる?
- 外国語の単語ペアを覚える実験では、一度言えるようになった語をくり返し見直しても時間をおいたテストの成績は変わらず、くり返しテストすると大きく伸びました。しかも学習者自身の「どれくらい覚えているか」の予想は、実際の成績と関係がありませんでした 6。
- 文章を読み直すグループとテストを受けるグループを比べると、5分後のテストでは読み直しが有利でしたが、2日後・1週間後ではテストを受けたグループが大きく上回りました 2。練習テストの効果は、メタ分析でも読み直しなどより大きいと確認されています 7。
- 1,350人以上を対象にした実験では、最適な復習の間隔は「いつまで覚えておきたいか」で変わり、復習から最終テストまでが1週間なら、最初の学習から復習までの間隔は1〜3日くらい(テストまでの期間の20〜40%)、1年なら期間の5〜10%(3週間〜1か月くらい)がよいという結果でした 8。ただし、覚えたのは英単語ではなく雑学的な事実で、学習は基本的に「最初の学習+復習1回」の2回です。教室の単語学習にそのまま当てはまる最適値ではなく、目安と考えましょう。
- 第二言語学習の分散練習のメタ分析(48実験・3,411人)では、間隔をあけることの効果は中〜大。直後のテストでは短い間隔でも長い間隔と同じでしたが、時間をおいたテストでは長い間隔の方が有利でした。間隔を少しずつ広げる方法と等間隔の方法は、統計的には同じでした 4。
- 日本の英語学習者98人が英単語16語を学んだ実験では、1回の学習で5回・7回思い出した語は、1回・3回の語より2週間以上たっても成績がよい結果でした。ただし同じ時間あたりで比べると、1回の想起が最も効率的でした 9。
小分けにすると、間隔が縮んで残りにくい
単語カードを「10枚ずつの小さな束」に分けて、その束だけを何周もする生徒は多いと思います。ところが、大きな束でまとめて回した方が、1枚1枚が再登場するまでの間隔が自然に広がるため、よく残るという実験があります。この実験では90%の参加者で間隔をあけた方が成績がよかったのに、72%の参加者は詰めこんだ方が効いたと思いこんでいました 5。
英単語を対象にした別の実験では、間隔をそろえると、小分けかまとめてかの違いはほとんど影響せず、間隔があいているかどうかの方が大きく効いていました 10。つまり、悪いのは「小分け」そのものではなく、小さな束をすぐ何周もして間隔が縮むことです。「詰めこむと覚えた気がする」という感覚は当てにならない、というのが研究の一貫したメッセージです 65。
単語テストの作り方
単語テストは「覚えたかを測る」道具であると同時に、それ自体が想起練習です 2。だからこそ、形式と出し方を工夫するだけで、定着が変わります。
どんな形式で問うか
語の知識には強さの段階があります。易しい順に、①英語を見て意味を選ぶ、②意味を見て英語を選ぶ、③英語を見て意味を書く、④意味を見て英語を書く、です 11。この研究では、③英語を見て意味を書く力が、授業での英語の成績と最もよく結びついていました 11。
また、意図的な語彙学習のメタ分析では、時間をおいたテストで意味を思い出せた語は約39%だったのに対し、英語のつづりを思い出せた語は約25%にとどまりました 12。異なる研究・活動の平均どうしなので形式の優劣を直接比べた数字ではありませんが、つづりを思い出す方が難しく、抜けやすいことはうかがえます。全部の語に「日本語→英語のつづり」を課すのはハードルが高い、と考えておくのが安全です。
| 目的 | 形式 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 読んでわかればよい語 | 英語→日本語の意味を書く | 毎回の小テストの中心 |
| 話す・書くで使わせたい語 | 日本語→英語を書く、例文の空所を埋める | 本当に使わせたい語にしぼる |
| 確認だけ | 選択式 | 授業中のクイズや導入 |
いつ、何回出すか
- くり返し小テスト:今週の範囲に、先週・先月の範囲を毎回少しまぜる(たとえば2〜3割。この割合は研究の数字ではなく、筆者の実践上の目安です)。間隔をあけた想起を同時に入れられます。間隔をあけた練習の効果そのものは、第二言語のメタ分析で中〜大と報告されています 4。
- すぐに答え合わせ:想起のあとに正しい答えを確認する。まちがえた語こそ次に再登場させます(ライトナー方式のカードやアプリは、これを自動で行うしくみです)。
- 1回で終わらせない:1回の学習で何度か思い出す場面を作ると、長く残ります 9。
明日の授業でこうする
- 覚える語をしぼる:教科書の新出語のうち、話す・書くで使わせたい語だけを「つづりも書く語」に。残りは意味を書ければOK 12。
- 授業の最初の3分で「思い出しタイム」:前回の語の日本語を見せて、ペアで英語を言い合う。答えはそのあとに見せる 6。
- 小テストに過去の範囲をまぜる:たとえば「今週7割・過去3割」(割合は実践上の目安)。過去の範囲を毎回まぜて、間隔をあけて何度も思い出させます。
- 家庭学習は間隔があくように:小さな束を続けて何周もせず、各カードが再登場するまで十分な間隔があくようにする。大きな束でまとめてシャッフルして回すのも一案です。できた語は少し間をあけてもう一度 510。
- 定期テスト前だけでなく、テスト後にも:1か月後・学期末にもう一度出題する。覚えておきたい期間が長いほど、最適な復習の間隔も長くなります(ただし長くしすぎると、かえって成績は下がりました)8。
- 小学校:「書かせるテスト」ではなく、絵カードを見て英語を言う、英語を聞いて絵を指すなど、音声での想起を短く何度も。前の単元の語をゲームにまぜます。
- 中学校:毎週の10問小テストを、たとえば「新出7問+過去3問」に。過去問は、まちがいの多かった語から出すと効率的です。定期テストの1か月後に「まとめ小テスト」を1回入れます。
- 高校:単語帳の範囲テストを「1回やって終わり」にせず、3週間後に同じ範囲を形式を変えて再テスト。英→日の意味を書く問題を中心にして、英作文で使わせたい語だけつづりを問います。
❓ よくある質問
Q. 英単語を長く覚えておくには、何が効きますか?
想起練習(答えを見ずに思い出す)と分散学習(時間をあけてくり返す)の2つです。10の学習法を評価したレビューでも、この2つだけが「有用性が高い」とされ、読み直しやマーカーを引くことは「有用性が低い」とされました 1。
Q. テスト効果とは何ですか?
テストを受けて思い出すこと自体が記憶を強める現象です。文章を読み直す群とテストを受ける群を比べた実験では、5分後は読み直しが有利でしたが、2日後・1週間後ではテストを受けた群が大きく上回りました 2。単語テストそのものが、定着のための練習になります。
Q. 単語テストは「英語→日本語」と「日本語→英語」のどちらで出すべきですか?
目的で使い分けます。研究では、英語を見て意味を書く力が、授業での英語の成績と最もよく結びついていました 11。つづりを思い出すのは難しく抜けやすいので 12、つづりまで問うのは、話す・書くで使わせたい語にしぼります。
Q. 復習の間隔は、どのくらいあければいいですか?
1,350人以上の実験では、最適な間隔は覚えておきたい期間で変わり、復習から最終テストまでが1週間なら、最初の学習から1〜3日後に復習するのがよいという結果でした 8。ただし雑学的な事実を2回学ぶ実験なので目安です。第二言語のメタ分析でも、間隔をあける効果は中〜大でした 4。
Q. 単語カードは、小さな束に分けて覚えた方がいいですか?
小さな束をすぐ何周もすると、1枚の再登場までの間隔が縮んで残りにくくなります。ある実験では90%の参加者で間隔をあけた方が成績がよかったのに、72%は詰めこんだ方が効いたと思いこんでいました 5。大きな束でシャッフルして回すのも一案です 10。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード拡張間隔か、等間隔か
「1日後→3日後→1週間後」と間隔を広げていく拡張間隔(expanding spacing)は、単語アプリなどで定番の考え方です。日本の大学生128人を対象にした実験では、拡張間隔にわずかな有利さが見られ、第二言語研究で初めて拡張間隔の優位を示したと報告されました。ただし間隔を入れること自体の効果の方がずっと大きかったとされています 13。その後のメタ分析では、拡張と等間隔は統計的に同等でした 4。
実践への示唆は、「間隔の決め方の細かい最適化」より「とにかく間隔をあける・何度も思い出す」を優先せよ、ということです。もとになった認知心理学の量的レビューは、最適な間隔が保持期間とともに長くなることを示しています 38。
🎓院生モード回数か、時間効率か
くり返しの回数と効率の関係も単純ではありません。1回の学習で5〜7回思い出すと長期の成績はよくなりますが、時間あたりの効率は1回の想起が最も高かったという結果は 9、「授業時間が限られた教室では何回やらせるか」という現実的な判断に直結します。たとえば、授業内では1〜2回の想起にとどめ、それ以上のくり返しは家庭学習での間隔反復にまかせるという設計が考えられます。
単語カード型ソフトを、記憶研究の基準(想起の努力を高めるか、間隔を管理するか、語を使わせるか)で評価した研究もあり、多くのソフトは間隔管理をそなえる一方で、想起の努力を高める工夫や語を生成的に使わせる機能には改善の余地があると指摘されています 14。アプリを選ぶときの観点として役立ちます。
🎓院生モード対連合学習の限界
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📑 出典(14件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students' learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58. doi:10.1177/1529100612453266 ✔ DOI照合済10種類の学習法を評価した総説。練習テストと分散学習を「有用性が高い」、要約・線引き・再読を「有用性が低い」と総合評価
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255. doi:10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x ✔ DOI照合済テストで思い出すことが、読み直すより長期の記憶に効く(テスト効果)ことを示した有名な実験
- Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354-380. doi:10.1037/0033-2909.132.3.354 ✔ DOI照合済分散学習(間をあけた復習)の効果を心理学の317実験でまとめたメタ分析
- Kim, S. K., & Webb, S. (2022). The effects of spaced practice on second language learning: A meta-analysis. Language Learning, 72(1), 269-319. doi:10.1111/lang.12479 ✔ DOI照合済間をあけて練習する「分散学習」の第二言語での効果をまとめたメタ分析(48実験・3,411人)
- Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297-1317. doi:10.1002/acp.1537 ✔ DOI照合済単語カードは小さな束に分けるより大きな1束で回す方が効果的。9割の人で間隔の効果があったのに、7割は逆だと思っていた
- Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966-968. doi:10.1126/science.1152408 ✔ DOI照合済外国語の単語ペアの学習で、覚えた後も思い出す練習を続けると長く残る。読み直しを続けても効果なし
- Adesope, O. O., Trevisan, D. A., & Sundararajan, N. (2017). Rethinking the use of tests: A meta-analysis of practice testing. Review of Educational Research, 87(3), 659-701. doi:10.3102/0034654316689306 ✔ DOI照合済小テストで思い出す練習(テスト効果)が読み直しより記憶に残ることを示した教育全般のメタ分析
- Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention. Psychological Science, 19(11), 1095-1102. doi:10.1111/j.1467-9280.2008.02209.x ✔ DOI照合済覚えておきたい期間が長いほど、最適な復習の間隔も長くなることを示した大規模実験
- Nakata, T. (2017). Does repeated practice make perfect? The effects of within-session repeated retrieval on second language vocabulary learning. Studies in Second Language Acquisition, 39(4), 653-679. doi:10.1017/S0272263116000280 ✔ DOI照合済日本人学習者98人。1回の学習で5〜7回思い出すと1〜3回より成績が高い。ただし時間あたりの効率は1回が最大
- Nakata, T., & Webb, S. (2016). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? The effects of part and whole learning on second language vocabulary acquisition. Studies in Second Language Acquisition, 38(3), 523-552. doi:10.1017/S0272263115000236 ✔ DOI照合済単語を小分けにして覚えるのと、まとめて覚えるのを比べた実験
- Laufer, B., & Goldstein, Z. (2004). Testing vocabulary knowledge: Size, strength, and computer adaptiveness. Language Learning, 54(3), 399-436. doi:10.1111/j.0023-8333.2004.00260.x ✔ DOI照合済語の知識を「形を思い出す・意味を思い出す・形を選ぶ・意味を選ぶ」の4段階の強さで測った研究
- Webb, S., Yanagisawa, A., & Uchihara, T. (2020). How effective are intentional vocabulary-learning activities? A meta-analysis. The Modern Language Journal, 104(4), 715-738. doi:10.1111/modl.12671 ✔ DOI照合済単語カード・単語リスト・書く・穴埋めなど「覚えるための活動」の習得率をまとめたメタ分析(22研究)
- Nakata, T. (2015). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning: Does gradually increasing spacing increase vocabulary learning?. Studies in Second Language Acquisition, 37(4), 677-711. doi:10.1017/S0272263114000825 ✔ DOI照合済日本の大学生128人の単語学習。間隔を少しずつ広げる方式がわずかに有利、間隔をあけること自体の効果は大きい
- Nakata, T. (2011). Computer-assisted second language vocabulary learning in a paired-associate paradigm: A critical investigation of flashcard software. Computer Assisted Language Learning, 24(1), 17-38. doi:10.1080/09588221.2010.520675 ✔ DOI照合済単語カード型ソフトを、記憶研究の知見(想起・間隔など)に照らして比較・評価した研究
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







