訳を活動として使う ― 和訳・英訳を「理解の確認」と「気づき」の道具にする方法
全文和訳で授業が終わるのはもったいない。でも訳を禁止するのも、もったいない。日英のずれを比べる、要点だけ訳す、訳を見比べて直す。訳は「使い方」しだいで、英語を使う時間を増やす道具になります。
エビデンスの強さ:母語との対照と訳で単語・コロケーションの定着がよかった実験がある一方、文を訳す課題が書き写しより記憶に残らなかった実験もある。効き方は、訳の向き・目的・学習者のレベルで変わる。

- 訳読(全文を訳して理解する授業の進め方)と、訳の活動(目的をしぼって訳を使う技法)は別物です。批判されてきたのは主に前者で、後者には効果を示す研究があります。
- 母語と英語を比べて訳す活動で単語やコロケーションがよく残った実験がある一方、文を訳すだけの課題が書き写しに負けた実験もあります。訳は「何のために・どの向きで」で効き方が変わります。
- 授業の基本は「訳は短く・要所だけ・使う練習とセット」。対照訳・要点訳・訳の見比べ・逆翻訳・AI訳の直しを、目的で使い分けましょう。
「訳を活動として使う」ってなに?
ひとことで言うと、本文を全部訳して終わるのではなく、「日英のずれに気づかせる」「理解をすばやく確かめる」などの目的のために、訳を短く、要所だけ道具として使うことです。
英語の授業での「訳」には、まったく違う2つのものが混ざっています。
1つは訳読(やくどく)。教科書の英文を1文ずつ日本語に訳し、その訳を確認することで本文の理解を進める授業の進め方です。日本の中学・高校で長く続いてきた形で、訳ができた時点で授業が終わってしまいがちなのが弱点です(訳読の歴史と評価は 文法訳読は役に立たない? で判定しています)。
もう1つが、このページで扱う訳の活動です。日英のずれに気づかせる、理解をすばやく確かめる、書く前の考えを整理する、ペアで話し合うきっかけを作る、といった目的のために、訳を短く道具として使う技法です。研究の世界では、こうした使い方を「授業での訳(translation in language teaching:TILT)」や「教育的翻訳(pedagogical translation)」と呼んで再評価する動きがあり、似た言葉(コードスイッチングなど)との境界を整理する論文も出ています 1。つまり実際には、訳を「授業のゴール」にせず、訳したあとに英語で使う練習へつなぐための、短い入り口にするということです。
訳は「虫めがね」です。虫めがねを使うと、ふつうに見ていたら気づかない細かいところ、たとえば「日本語では『薬を飲む』なのに英語では take」というずれが、はっきり見えます。でも、虫めがねで1冊の本を最初から最後まで読む人はいません。疲れるし、全体の流れがつかめなくなります。見たいところだけ、短く使う。それが訳の活動です。
似たものとのちがい:訳読と訳の活動
| 訳読 | 訳の活動 | |
|---|---|---|
| 何か | 1文ずつ訳して本文の理解を進める授業の進め方 | 目的をしぼって訳を使う技法 |
| 訳す量 | 本文の全部 | 要所だけ(ずれの大きい表現、主張の文など) |
| 訳したあと | 訳ができた時点で授業が終わりがち | 音読・リテリングなど、英語で使う練習につなぐ |
| 研究では | 批判されてきたのは主にこちら | 効果を示す研究がある(ただし設計しだい) |
やり方を3ステップで
- 全訳は短く済ませる:全訳プリントを配るか、ペアで5分確かめる。先生が1文ずつ訳を言う時間はつくらない。
- ずれの大きい表現を3つだけ比べる:「直訳だとどうなる?」「自然な日本語は?」「英語の発想は?」と聞く。
- 訳のあとは英語で使う:音読 → キーワードを見て言い直す(リテリング)、単元末には自分の和訳から英語に戻す(逆翻訳)。
外国語の授業は外国語だけで行うべきだ、という「モノリンガルの前提」は長く常識とされてきましたが、近年は疑問視され、学習者の母語と結びつけた教え方が見直されています 2。外国語教育から追い出された訳を、現代の目的に合わせて見直すべきだと論じた本もあります 3。日本語を授業でどう使うかの全体像は 「英語の授業は英語で」はどこまで?、日本語も英語も資源として使う考え方は トランスランゲージング で扱っています。
研究ではどうなってる?
- 対照+訳で、単語とコロケーションが残った:同じ母語の高校生3グループを比べた実験で、①内容中心の課題、②訳を使わない語彙の課題、③母語との対照と訳(英→母語・母語→英)の課題のうち、③のグループが、ねらった単語とコロケーションの定着で、すべてのテスト(1週間後も)で最もよい成績でした。課題にかける時間は3グループでそろえてありました 4。
- 単語の説明に母語を使うと残りやすい:韓国の小学生443人と大学生286人で、単語の説明を母語でするか英語だけでするかを比べた研究では、どちらの年齢でも母語と結びつけた方が有利で、とくに小学生で差が大きくなりました 5。
- 訳で覚えると「量」は多いが…:新しい単語を訳で覚える方法と文脈で覚える方法を比べた実験では、訳の方が多くの単語を覚えられました。ただし、習熟度の低い学習者は、訳で覚えた単語を英語の文脈の中で使うことができませんでした 6。
- 訳す課題が、書き写しに負けた:英語教師をめざすフランス語話者191人が、①母語→英語に訳す、②英語→母語に訳す、③そのまま書き写す、の3つの課題で新しい単語を学んだ実験では、どの条件でも短期的な記憶は伸びたものの、2つの訳の条件より書き写しの条件の方がよい結果でした 7。
- 頭の中の訳は「記憶の節約」かもしれない:読むときに頭の中で訳すことを調べた研究では、読む力が高い学習者ほど訳に頼る頻度が少なくなっていました。著者は、訳が英文の一部をなじみのある形で保持し、記憶の負担を軽くしている可能性があると論じています 8。
- 日本語で書いてから訳すのは、下位の書き手に有利:日本の大学生48人が、日本語で書いてから英語に訳す方法と、最初から英語で書く方法で作文した研究では、習熟度の低い書き手は訳す方法で内容・構成・文体がよくなりましたが、高い書き手はあまり得をしませんでした。訳した作文の方が文の構造は複雑でした 9。
- 訳の課題は「質問」を生む:大学の授業を録音して分析した研究では、訳す課題のときは、ほかの文法課題のときより、学生の方から本物の質問が多く出ていました。一方で、注意はねらった文法より語彙に向かいがちでした 10。
- 機械翻訳は書く学習でプラスの報告が多い:外国語教育と機械翻訳の87研究をまとめたレビューとメタ分析では、とくにライティングで良い影響を報告する研究が多い一方、学生の気持ちは複雑で、先生と学生の受けとめ方にずれがあることも示されました 11。
「訳せば深く考えるから覚える」とは限らない
訳は頭を使う作業なので、単語もよく覚えるはず――そう思いがちです。ところが、訳す課題が、ただ書き写す課題に負けた実験があります 7。一方で、母語と英語を比べ、ずれを先生が説明し、両方向に訳すという組み立ての課題は、ほかの課題を上回りました 4。
2つの実験はやり方も参加者も違うので、単純に比べることはできません。それでも、教室への教訓ははっきりしています。訳すという作業そのものに魔法の力があるわけではない。どのずれに気づかせるのか、訳したあとに何をするのか、という「設計」が効き目を決めるのです。
「訳すとき」と「訳さないとき」を分ける目安
研究から見える使い分けを、教室の言葉にまとめるとこうなります。
| 訳が向いている場面 | 理由 |
|---|---|
| 日英で組み合わせや発想がずれるところ(take medicine など) | 対照すると気づきやすく、残りやすい 4 |
| 新しい単語の意味の最初の確認(とくに初級) | 母語と結びつけると定着しやすい 5 |
| 複雑な文の理解の確認(要所だけ) | 頭の中の訳は記憶の負担を軽くする可能性がある 8 |
| 下位の生徒が書く前に考えをまとめるとき | 日本語で書いてから訳すと内容・構成がよくなりやすい 9 |
| 訳を控えたい場面 | 理由 |
|---|---|
| 本文を全部訳して授業が終わる | 聞く・話す・使う練習の時間がなくなる |
| 訳で覚えた単語を、そのままにしておく | 文脈の中で使えないことがある 6 |
| 上位の生徒の自由英作文 | 直接英語で書く方が得をしやすい 9 |
| 多読・速読の時間 | 訳さずに大意をつかむ練習そのものがねらい |
明日の授業でこうする
訳の活動 6つのメニュー
| 活動 | やり方 | ねらい |
|---|---|---|
| ① 対照訳 | 本文から日英のずれが大きい表現を3つ選び、直訳とこなれた訳を並べて比べる | ずれへの気づき(語彙・コロケーション・文の組み立て) |
| ② 要点訳 | 全文ではなく「筆者の主張の文」「段落の要点の文」だけを日本語にする | 理解の確認を短時間で |
| ③ 訳の見比べ | 先生が用意した2〜3通りの和訳(1つは誤訳)を比べ、どれが英文に忠実かを話し合う | 精読・ことばについての話し合い |
| ④ 逆翻訳(バック・トランスレーション) | 英文を日本語に訳してから本文を伏せ、自分の日本語訳を見て英語に戻す。最後に本文と比べる | 自分の英語とのギャップに気づく・使える英語へ |
| ⑤ 日→英の即答 | 本文の文型を使った日本語の短文を聞いて、すぐ英語で言う | 明示的な知識を口から出す練習へ |
| ⑥ AI訳の直し | 機械翻訳の英訳・和訳を配り、不自然な箇所や誤訳を見つけて直す | 批判的に読む力・機械翻訳との付き合い方 |
④の逆翻訳は、「訳したあとに英語に戻して、元の英文と比べる」ことで、自分が言えなかった語やコロケーションに気づく活動です。単に訳して終わる課題が書き写しに負けたという結果 7 を考えると、元の英語と比べて直すところまでやるのがポイントです(この活動自体の効果を直接確かめた研究ではなく、上の研究から組み立てた使い方です)。
- 全訳は「配る」か「ペアで5分」:全訳プリントを先に渡すか、ペアで訳を確かめる時間を5分に区切ります。先生が1文ずつ訳を言う時間はつくりません。
- 対照訳を3つだけ:日英のずれが大きい表現を3つ選んで板書し、「直訳だとどうなる?」「自然な日本語は?」「英語の発想は?」を聞きます 4。
- 訳のあとは必ず英語で使う:意味がわかった本文を音読→キーワードだけを見て言い直す(リテリング)へ。訳で意味を覚えても、英語力がまだ低い学習者では、その知識を英語の文脈で使うことにつなげにくい場合があるからです 6。
- 逆翻訳で「言えない」に気づかせる:単元の終わりに、自分の和訳を見て英語に戻し、本文と比べて赤で直す。直したところが、その生徒の「次に覚えること」です。
- 書く活動では、生徒のレベルで使い分ける:英語で書くのが苦しい生徒には「日本語メモ→英語」を認め、書ける生徒には直接英語で書かせます 9。
中学2年(比較の単元):本文の This is the most popular food in our town. を対照訳に。「直訳:これは私たちの町で最も人気のある食べ物です」「自然な日本語:うちの町でいちばん人気の食べ物」と並べ、日本語の「いちばん」にあたる部分が、英語では the most+形容詞(the most popular)の形になることに気づかせます。そのあと、自分の町の自慢を the most を使って3文言うペア活動へ。
高校1年(英語コミュニケーション):論説文の各段落から「要点の1文」を生徒が選び、その文だけを日本語に訳して段落の要約の代わりにします。全訳はプリントで配布ずみ。訳の確認は10分以内に終え、残りは要点の文を使ったリテリング。
高校2年(論理・表現):意見文を書く前に、先生が「機械翻訳で英訳した意見文」を配り、①意味がずれている、②不自然なコロケーション、③論理のつなぎが弱い、の3か所を見つけて直させます。そのうえで自分の意見文を書く。機械翻訳を「使わせない」ではなく、「直せる目」を育てる使い方です 11。生成AIの扱いのルールづくりは ICTと生成AI へ。
小学校:訳は最小限に。新しい語は絵やジェスチャーで導入し、どうしても伝わらないときだけ日本語で一言確認します。韓国の小学生を対象に、母語で意味を結びつけた方が単語がよく残ったという研究もあるので 5、「日本語を一切使わない」にこだわりすぎないことも大切です。
機械翻訳・生成AIとどう付き合う?
生徒が家で機械翻訳を使うのは、もう止められません。だからこそ授業では、機械翻訳の訳を「材料」にするのが現実的です。機械翻訳と外国語学習の研究をまとめたレビューでは、ライティングの学習に良い影響を報告する研究が多い一方で、学生の気持ちは複雑で、先生と学生の見方にもずれがありました 11。
おすすめは、次の3つのルールを最初に共有することです。①自分で書いてから機械翻訳と比べる(先に機械翻訳を見ない)、②違うところに線を引き、どちらが良いか理由を書く、③提出物には「どこで使ったか」を書く。こうすると、機械翻訳が「答えを写す道具」から「自分の英語を見直す鏡」に変わります。
- 訳の確認が授業の主役になる:訳は理解の確認です。訳が終わった時点で、まだ英語を使う練習が1つもないなら、時間配分を見直しましょう。
- 「訳すと深く考えるから覚える」と思いこむ:訳す課題が書き写しに負けた実験もあります 7。比べる・直す・使う、までをセットに。
- 訳で覚えた単語をリストのままにする:訳で意味を覚えても、英語の文脈で使えないことがあります 6。例文やリテリングで使わせる。
- 上位の生徒にも「まず日本語で書く」を強制する:直接英語で書ける生徒には、訳す方法はあまり得になりません 9。
- 日本語を「禁止」にして説明が長くなる:英語だけの長い説明より、日本語の一言の方が早くて正確な場面もあります。日本語は短く、英語を使う時間を長く。
❓ よくある質問
Q. 訳読と「訳の活動」は、どう違いますか?
訳読は、教科書の英文を1文ずつ日本語に訳し、その訳の確認で本文の理解を進める授業の進め方です。訳の活動は、日英のずれに気づかせる、理解をすばやく確かめるなどの目的のために、訳を短く道具として使う技法です。批判されてきたのは主に前者です。
Q. 和訳をさせると、英語は身につきますか?
訳し方しだいです。母語(この研究ではヘブライ語)と英語を比べ、両方向に訳す課題をしたグループは、単語とコロケーションの定着で最もよい成績でした 4。一方、訳す課題がそのまま書き写す課題に負けた実験もあります 7。比べる・直す・使う、までをセットにするのがポイントです。
Q. 英作文は、日本語で書いてから訳させてもいいですか?
生徒のレベルで使い分けます。日本の大学生の研究では、習熟度の低い書き手は、日本語で書いてから訳す方法で内容・構成・文体がよくなりましたが、高い書き手はあまり得をしませんでした 9。書ける生徒には直接英語で書かせます。
Q. 逆翻訳(バック・トランスレーション)とは何ですか?
英文を日本語に訳してから本文を伏せ、自分の日本語訳を見て英語に戻し、最後に本文と比べる活動です。自分が言えなかった語やコロケーションに気づけます。訳の課題についての研究から組み立てた使い方で、この活動そのものの効果を直接比べた実験にもとづくものではありません。
Q. 機械翻訳を、授業でどう扱えばいいですか?
機械翻訳の訳を「材料」にするのが現実的です。87研究をまとめたレビューでは、ライティングの学習に良い影響を報告する研究が多い一方、学生の気持ちは複雑でした 11。自分で書いてから機械翻訳と比べる、違う所に線を引いて理由を書く、などのルールを共有します。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モードTILT の再評価 ― 「教授法」から「技法」へ、そしてトランスランゲージングへ
20世紀の外国語教育は、直接法からコミュニカティブ・アプローチまで、おおむねモノリンガルの前提(目標言語だけで教えるのが望ましい)に立ってきました。応用言語学者の Graham Hall 氏と Guy Cook 氏の総説は、この前提が近年疑問視されていることを示し、授業での母語使用の広がりと機能を調べた実証研究、そして心理言語学・認知・一般的な学習理論・社会文化理論といった理論的な支えを整理したうえで、「最適な」母語使用とは何かを論じています 2。Cook は、外国語教育から追い出された訳を、現代の目的に合わせて見直すべきだと論じています 3。
ただし、再評価の議論では用語が混乱しやすい点に注意が必要です。言語教育の研究者 Lucía Pintado Gutiérrez 氏は、授業での訳(TILT)一般、目標をもった訳の課題(教育的翻訳)、そしてコードスイッチングが、概念上も用語上もはっきり区別されずに論じられていることを指摘し、その境界の整理を試みています 1。日本の文脈に引きつけると、「先生が日本語で説明する(コードスイッチング)」「生徒に訳させる(訳の課題)」「訳読という授業の型」は、それぞれ別の問いとして評価すべきだということになります。近年のトランスランゲージングの議論は、さらに学習者の言語資源全体を一つのものとして扱おうとする立場で(トランスランゲージング 参照)、訳の活動はその具体的な技法の1つとして位置づけ直されつつあります。
🎓院生モード「訳すと英語脳が育たない」の心理言語学
「訳しているうちは英語が身につかない」という主張には、学習の初期に母語を経由して意味にたどりつくことが、その後もずっと続くのではないか、という心配が含まれています。研究はもう少し複雑な姿を示しています。
第二言語の読みを研究する Richard G. Kern 氏(1994)は、読むときの頭の中の訳が、作業記憶の限界をこえる部分を、なじみのある母語の形で保持する働きをもちうると論じ、その頻度は読む力が高い学習者ほど少ないことを報告しました 8。訳は「やめさせるべき悪い癖」というより、処理が追いつかないときの補助輪のような方略だと考えられます。第二言語習得の研究者 Junko Yamashita 氏と Nan Jiang 氏のコロケーション研究でも、英語へのふれる量の多い学習者では反応時間に母語の影響が見られず、いったん記憶された第二言語の表現は母語から独立して処理される、という解釈が示されています 12。
一方で、訳の効果は学習者のレベルと課題の向きに左右されます。訳で覚える学習は量の面で有利でも、下位の学習者では文脈への転移が弱く 6、「日本語で書いて訳す」作文は下位の書き手には有利でも上位には得が少ない 9。つまり、「訳か、英語だけか」の二者択一ではなく、習熟度に応じて訳の補助輪を外していく設計が、研究から導かれる妥当な結論です。この論点は 日本語に訳すと英語脳が育たない? でも扱います。
🎓院生モード研究を読むときの注意点 ― なぜ結果がそろわないのか
訳の研究の結果がそろわない理由は、少なくとも3つあります。第一に、「訳」の中身がばらばらです。第二言語の語彙学習を研究する Batia Laufer 氏と Nany Girsai 氏の対照分析と訳(CAT)は、両方向の訳に加えて、先生が母語と英語の対応を説明する段階をふくみ、課題にかける時間もそろえていました 4。第二言語の語彙学習を研究する Kirsten M. Hummel 氏の研究は、両方向の訳の課題を書き写しの課題と比べたもので、参加者は英語教師をめざす大学生でした 7。同じ「訳」でも、気づき・関与・フィードバックの量がまったく違います。
第二に、参加者と測り方です。高校生か大学生か、母語は何か、直後のテストか1週間後のテストかで、結果は変わりえます。日本の中高生を対象にした訳の活動の実験研究は、まだ多くありません。第三に、言語教育の研究者 Marie Källkvist 氏の教室研究が示すように、訳の課題は授業の会話のあり方(生徒からの質問が増える、注意が語彙に向く)まで変えます 10。テストの点だけでは、その価値の一部しか測れません。
機械翻訳についても、レビューの対象は2000〜2019年の研究で 11、ニューラル機械翻訳や生成AIが急速に変化している現在では、結果の更新が続いています。「どの訳の活動が、どの生徒に、何を伸ばすのか」は、アクションリサーチ(自分の授業で研究する)で確かめる価値のある問いです。
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📑 出典(12件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Pintado Gutiérrez, L. (2018). Translation in language teaching, pedagogical translation, and code-switching: restructuring the boundaries. The Language Learning Journal, 49(2), 219-239. doi:10.1080/09571736.2018.1534260 ✔ DOI照合済授業での訳(TILT)・教育的翻訳・コードスイッチングの用語と概念を整理した論文
- Hall, G., & Cook, G. (2012). Own-language use in language teaching and learning. Language Teaching, 45(3), 271-308. doi:10.1017/S0261444812000067 ✔ DOI照合済授業での母語使用・訳の役割についての研究をまとめた総説
- Cook, G. (2010). Translation in Language Teaching: An Argument for Reassessment. Oxford University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済外国語教育から追い出された「訳」を見直すべきだと論じた本
- Laufer, B., & Girsai, N. (2008). Form-focused instruction in second language vocabulary learning: A case for contrastive analysis and translation. Applied Linguistics, 29(4), 694-716. doi:10.1093/applin/amn018 ✔ DOI照合済母語との対照と訳の活動をしたグループが、単語とコロケーションの定着でいちばん成績がよかった実験(高校生)
- Lee, J. H., & Macaro, E. (2013). Investigating age in the use of L1 or English-only instruction: Vocabulary acquisition by Korean EFL learners. The Modern Language Journal, 97(4), 887-901. doi:10.1111/j.1540-4781.2013.12044.x ✔ DOI照合済韓国の小学生と大学生で、単語の説明に母語を使うと英語だけより語彙がよく残り、とくに子どもで効果が大きかった研究
- Prince, P. (1996). Second language vocabulary learning: The role of context versus translations as a function of proficiency. The Modern Language Journal, 80(4), 478-493. doi:10.1111/j.1540-4781.1996.tb05468.x ✔ DOI照合済訳で覚えると多くの単語を覚えられるが、下位の学習者は文脈の中で使えないことがあると示した研究
- Hummel, K. M. (2010). Translation and short-term L2 vocabulary retention: Hindrance or help?. Language Teaching Research, 14(1), 61-74. doi:10.1177/1362168809346497 ✔ DOI照合済単語を含む文を訳す課題は、書き写す課題より短期の単語の記憶で劣ったと報告した研究(191人)
- Kern, R. G. (1994). The role of mental translation in second language reading. Studies in Second Language Acquisition, 16(4), 441-461. doi:10.1017/S0272263100013450 ✔ DOI照合済読むときの「頭の中の訳」は読む力が高いほど少なく、記憶の負担を軽くする働きをもちうると論じた研究
- Kobayashi, H., & Rinnert, C. (1992). Effects of first language on second language writing: Translation versus direct composition. Language Learning, 42(2), 183-209. doi:10.1111/j.1467-1770.1992.tb00707.x ✔ DOI照合済日本の大学生48人。下位の書き手は日本語で書いて訳す方が内容・構成で得をした
- Källkvist, M. (2013). Languaging in translation tasks used in a university setting: Particular potential for student agency?. The Modern Language Journal, 97(1), 217-238. doi:10.1111/j.1540-4781.2013.01430.x ✔ DOI照合済訳す課題では、ほかの文法課題より学生から本物の質問が多く出て、ことばについての話し合いが起きたと示した教室研究
- Lee, S.-M. (2021). The effectiveness of machine translation in foreign language education: a systematic review and meta-analysis. Computer Assisted Language Learning, 36(1-2), 103-125. doi:10.1080/09588221.2021.1901745 ✔ DOI照合済機械翻訳と外国語教育の87研究をまとめたレビューとメタ分析。とくにライティングでプラスの報告が多い
- Yamashita, J., & Jiang, N. (2010). L1 influence on the acquisition of L2 collocations: Japanese ESL users and EFL learners acquiring English collocations. TESOL Quarterly, 44(4), 647-668. doi:10.5054/tq.2010.235998 ✔ DOI照合済日本人学習者は、日本語と組み合わせが違う英語のコロケーションで誤りが多く、英語圏で暮らしてもなお難しいと示した研究
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら










