コロケーションとチャンクの指導 ― 「単語の相性」を、選ぶ・気づかせる・くり返すで身につける
「強い雨」は strong rain ではなく heavy rain。単語を知っていても、組み合わせを知らないと英語は不自然になります。どのコロケーションを選び、どう気づかせ、どうくり返せば残るのか。日本の高校生の実験もふくめて整理しました。
エビデンスの強さ:コロケーション指導のメタ分析では大きな効果が出ているが、もとになった研究は17件と少なく、直後のテストが中心。どの練習の形が効くかは、規模の小さい実験から少しずつわかってきた段階。

コロケーションってなに? ― 「単語の相性」
ひとことで言うと、コロケーションとは、heavy rain(強い雨)や take medicine(薬を飲む)のように、英語で「いっしょに使うのが自然」と決まっている単語の組み合わせです。
コロケーション(collocation)の専門的な定義の1つは、「コーパス(大量の英文データ)の中で、偶然より高い確率でいっしょに出てくる語の組み合わせ」というものです(定義のちがいは、ページ下の「もう一歩深く」で扱います)。つまり実際には、「雨が強い」は heavy rain、「薬を飲む」は take medicine、「決める」は make a decision のように、単語の意味を1つずつ知っているだけでは出てこない組み合わせのことです。
文法的にはまちがっていないのに、ネイティブ・スピーカーには「なんだか変」に聞こえる。それがコロケーションの誤りです。strong rain と言っても、たぶん意味は通じます。でも、相手は一瞬「ん?」と立ち止まります。
日本語の「身につけるもの」を思い出してください。帽子はかぶる、眼鏡はかける、手袋ははめる、靴ははく、シャツは着る。英語ならぜんぶ wear で済みます。日本語を学ぶ外国の人が「帽子を着ました」と言ったら、意味はわかります。でも、私たちは一瞬つまずきますよね。生徒が書く strong rain や drink medicine は、英語のネイティブ・スピーカーにとっての「帽子を着る」なのです。大事なのは、意味は通じても、組み合わせのずれは相手を立ち止まらせるという点です。
似たものとのちがい
| 何のこと? | まちがえるとどうなる? | |
|---|---|---|
| 文法 | 語の形や並べ方のルール | 文として成り立たなくなる |
| コロケーション | 語と語の相性(heavy rain / make a decision) | 文法は正しくても「なんだか変」に聞こえる |
| チャンク(かたまり) | コロケーションをふくむ、決まり文句・文の枠・句動詞などの広い「かたまり」 | → レキシカル・アプローチ で扱う |
| イディオム | kick the bucket(死ぬ)のように、1語1語の意味からは全体の意味がわかりにくい決まった言い方 | 授業ではまず、make a decision のような身近な組み合わせを優先する |
やり方を3ステップで
- 選んで、目立たせる:教科書本文から、日本語とずれる組み合わせを5〜8個選び、太字や下線で示して、音声を聞きながら読む。
- 日本語と比べて、かたまりで練習する:「風邪をひく」→ catch a cold のずれを板書し、線結びではなく「正しいかたまりを選ぶ・言う」練習をする。
- 間隔をあけて思い出す:翌週・翌々週の授業のはじめに1分ほど、先生が日本語を言い、生徒が英語のかたまりで言う。そのあと、リテリングや英作文で使わせる。
コロケーションには、いくつかの型があります。教科書の本文から探すときの目安にしてください。
| 型 | 例 | 日本人がつまずきやすい理由 |
|---|---|---|
| 動詞+名詞 | make a decision / catch a cold / pay attention | 「する」「ひく」「払う」の訳語どおりに動詞を選ぶと外れる |
| 形容詞+名詞 | a high fever / thick fog / a close friend | 「高い」「濃い」「親しい」の訳語が1対1で対応しない |
| 副詞+形容詞 | deeply sorry / highly likely | 「とても」= very だけで済ませてしまう |
| 動詞+前置詞・副詞 | depend on / look forward to | 前置詞の選び方に日本語の手がかりがない |
| 名詞+of+名詞 | a piece of advice / a sense of humor | 数えられない名詞のあつかいと重なる |
決まり文句・文の枠・句動詞など、より広い「かたまり(チャンク)」の考え方と、それを中心にした教え方の歴史は レキシカル・アプローチ のページで扱っています。このページでは、その中でもいちばんつまずきやすい語と語の組み合わせにしぼって、「何を選び、どう教え、どうテストするか」を具体的に考えます。
なぜコロケーションが大事? 研究ではどうなってる?
- 教えれば大きく伸びる:コロケーション指導の効果を調べた17の研究(64の実験条件・合計3,859人)をまとめたメタ分析では、指導の効果量は d = 1.415 と大きく、明示的な指導の方が暗示的な指導より効果が大きくなっていました。期間の長い指導が短い指導より効果が大きい、という結果にはなっていません 1。
- 上級者でも足りない:約30万語の学習者作文を分析した研究では、どの習熟度の学習者も、母語話者よりコロケーションの使用がずっと少なく、使用が増えたのは上級になってからでした。とくに母語の影響による誤りは、上級でも残っていました 2。
- 母語の影響は予想以上:上級のドイツ語話者の作文の分析でも、コロケーションの誤りに対する母語の影響は、それまでの小規模な研究が予想していたよりはるかに大きいものでした 3。
- 日本人は「ずれる組み合わせ」が苦手:日本人の英語学習者は、日本語と組み合わせ方が違うコロケーションで誤りが多く、反応も遅くなりました。英語圏で暮らした経験のある人でも、この種のコロケーションの誤りは多いままでした 4。
- やさしい語でも半分未満:頻度の高い語(上位3,000語まで)でできたコロケーションでさえ、学習者が知っていたのは、どのタイプも半分未満でした。知っているかどうかをいちばんよく予測したのは、中心になる語(take medicine の medicine のような語)の頻度でした 5。
- 「よく聞く組み合わせ」に偏る:学習者の作文は、頻度の高いコロケーションには頼る一方、頻度は低くても結びつきの強い組み合わせ(母語話者には印象に残りやすいもの)が少ない、と報告されています 6。
不自然なコロケーションは「通じるけど、読み手を疲れさせる」
「意味が通じればいいのでは?」という疑問はもっともです。ところが、学習者が書いた不自然なコロケーションを母語話者に読んでもらった実験では、そうした組み合わせを読むときに余分な処理の負担がかかり、それが続くことがわかりました 7。
strong rain は「通じる」。でも、相手の頭の中では小さなブレーキが毎回かかっている。これが文章のあちこちで起きると、内容はよくても「読みにくい英語」になります。英作文の評価で、語彙の「正しさ」だけでなく「適切さ」が問われることが多いのも、このためだと考えると納得がいきます。
教科書の「線結び」には副作用がある
左に動詞(make / do / take / have)、右に名詞(a mistake / homework / a bath / a decision)を並べて線で結ぶ。教科書や問題集でよく見る練習です。ところが、この形の練習の効果を確かめた4つの小規模な実験(合計135人)では、どの条件でも伸びは小さく、しかも最初は正しく選べていた組み合わせを、練習に出てきた選択肢(まちがいの組み合わせ)に書きかえてしまう現象が起きていました。これは、組み合わせを最初から「正しいかたまり」として見せた練習より、線結びの方で多く見られました 8。
その追試では、①動詞だけを選ばせる、②動詞の頭文字をヒントに書かせる、③正しいかたまりごと選ばせる、の3つの穴埋めを比べ、1週間以上あとのテストで③がいちばんよい結果でした。研究者たちは、最近の教科書10冊の練習がこの結果に沿っているかも点検しています 9。
理由は単純です。線結びでは、生徒は take a mistake? do a mistake? と、まちがった組み合わせを頭の中で何度も試すことになります。試した組み合わせの方が記憶に残ってしまうことがあるのです。
「たくさん読めば、そのうち身につく」はどこまで本当?
まず、うれしい知らせです。大人の学習者もインプットから「どの語とどの語がいっしょに出てきたか」を覚えている、という実験があります。研究者は、学習者のコロケーションの知識が足りないのは覚え方が下手だからではなく、インプットの量が足りないからだと論じました 10。物語を読むだけでもコロケーションの知識は身につき、そのペースは単語の形や意味を覚えるのと同じくらいだった、という研究もあります 11。
ただし、「ただ読む」より効率のよい読み方があります。
- 台湾の大学生138人を、読む・聞く・音声を聞きながら読むの3つに分けた実験では、聞きながら読むグループがいちばん多くのコロケーションを覚えました 12。
- ベトナムの学習者100人が、9週間で3冊のやさしい本を読んだ実験では、コロケーションに下線を引いて目立たせた読み方がいちばん効果が大きく、聞きながら読むのは、ただ読むよりよい結果でした。また、母語と組み合わせが一致するかどうかも、覚えやすさを左右していました 13。
- コロケーションをたくさん含む物語を3週間読ませた実験でも、下線で目立たせた条件では、形を思い出す・見分ける力が伸びました 14。
つまり、多読や音読のような「たくさんふれる」活動は土台になります。そこに目立たせる工夫と、日本語とずれる組み合わせを意図的に覚える時間を足すのが、いちばん現実的な組み合わせです(くわしくは 多読 と 語彙指導の全体像 へ)。
日本の学習者の研究からわかる「覚えさせ方」
日本の学習者を対象にした研究から、教え方のヒントがいくつも見えてきます。
- 読むだけの課題でも、書く課題でも覚えられる:日本の英語学習者が、訳のついた例文を3つ読む課題と、穴埋めで書く課題でコロケーションを学んだ実験では、どちらでも伸び、差は小さめでした。ただし、習熟度の高い学習者には書く課題、低い学習者には読む課題の方が効果的でした 15。
- 1つの語に組み合わせる語は多めに:1つの中心語にいくつの組み合わせ相手をつけて教えるかを変えた実験では、相手が多いほど多く覚えられました。一方、意味の似たコロケーションを一緒に教えると、覚えにくくなりました 16。
- 同じ動詞の仲間を、まとめて、くり返す:日本の高校1年生90人が、日本語とずれる動詞+名詞のコロケーション(draw a line、carry weight など)を3週間で学んだ実験では、同じ動詞のコロケーションを同じ日にまとめて学び、それを毎週くり返すスケジュールがいちばん効果的でした。しかも、学習していない同じ動詞のコロケーションにまで効果が広がりました 17。
- 日本語と比べて訳す:高校生の実験で、母語と英語を比べ、英→母語・母語→英の訳をする活動をしたグループは、コロケーションと単語の定着でほかのグループを上回り、1週間後もその差は続きました 18(訳を活動にする方法は 訳を活動として使う へ)。
明日の授業でこうする
- 選ぶ(5〜8個):教科書本文から、①日本語とずれる組み合わせ(日本人がつまずきやすい 4)、②中心の語がよく使われる語(知られやすいのは中心語の頻度が高い組み合わせ 5)、③本文の内容を語るのに必要なもの、を優先します。
- 聞きながら読み、目立たせる:本文の音声を流しながら黙読させ、選んだコロケーションは太字か下線で示しておきます 1213。
- 日本語と比べる:「日本語ならどう言う?」と聞き、ずれを板書で見える化します。「高い熱」→ a high fever は日本語と同じ、でも「風邪をひく」→ catch a cold は日本語と動詞がちがう、のように一致するもの・ずれるものを分けて示します 18。
- かたまりごと練習する:線結びではなく、「文脈に合うかたまりを、自然な表現どうしの選択肢から選ぶ」「頭の部分を見て、かたまり全体を言う」練習にします 9。意味の似たコロケーションは、同じ日にまとめて出さないようにします 16。
- 間隔をあけて思い出す:同じ動詞の仲間(make a decision / make an effort / make progress)はまとめて導入し、翌週・翌々週の授業のはじめに同じセットを思い出させる(先生が日本語を言い、生徒が英語のかたまりで言う) 17。思い出す練習のしくみは 単語を定着させる覚え方 へ。
- 使う:リテリングや英作文で「今日のコロケーションを3つ使う」を条件にします。使ったものに下線を引かせると、先生も確認しやすくなります。
日本語とずれる組み合わせ:教室で使える例
教科書の本文に出てきたときに、比べて見せると効果的な組み合わせの例です(教室向けに選んだ例で、特定の研究のリストではありません)。
| 日本語の発想 | 出てきやすい誤り | 自然な英語 |
|---|---|---|
| 風邪をひく | pull a cold | catch a cold |
| 決定をする | do a decision | make a decision |
| 注意を払う | give / do attention | pay attention |
| 夢を見る | see a dream | have a dream |
| 辞書を引く | pull a dictionary | use a dictionary / look a word up in a dictionary |
| 電話をかける | hang a phone | make a (phone) call |
| 濃い霧 | dark fog | thick fog |
| 高い熱 | (一致する) | a high fever |
| 親しい友だち | near friend | a close friend |
| 大きな間違い | (big も可) | a big / serious mistake |
「一致する」組み合わせもわざと混ぜておくのがポイントです。「日本語と全部ちがう」と思いこむと、今度は一致するものまで疑ってしまうからです。
中学1〜2年:日課の単元で、have breakfast / take a bath / brush my teeth / do my homework を「朝と夜のかたまり」としてカードにします。ペアで「What do you do after school?」と聞き合い、使ったカードを机に置いていく。take a bath の take は、「お風呂を『とる』?」と日本語と比べて笑いながら確認すると印象に残ります。
中学3年〜高校1年:環境問題の本文から、make an effort / play a role / reduce waste / take action を選び、音声を聞きながら、太字にしたかたまりを目で追って読む。翌週と翌々週の授業のはじめに、先生が日本語(「努力する」「役割を果たす」)を言い、生徒がかたまりで言う「クイック・リコール」を1分ずつ。
高校2〜3年(論理・表現):意見文で使う have an impact on / draw a conclusion / raise awareness / pose a problem を、draw や raise のような中心の動詞ごとにまとめて導入。draw なら draw a line / draw attention / draw a conclusion を同じ日に並べ、「線を引く」「注意を引きつける」「結論を導き出す」のように、組み合わせによって draw の意味がどう広がるかを、例文と訳で確かめ合わせます。英作文の添削では、文法の誤りとは別の色でコロケーションに印をつけます。
小学校:コロケーションという言葉は使わず、歌やチャンツ、決まった会話の中で、brush my teeth、go to bed、have lunch をかたまりのまま何度も聞かせ、言わせます。
コロケーションの小テストの作り方
テストも「かたまり」で作ります。
- よい形:日本語を見て英語のかたまりを書く(例:「決心する」→ m______ a d______)。頭文字のヒントがあると、ねらったコロケーションだけを思い出させやすくなります。
- よい形:本文の要約文に空所を作り、かたまり全体を書かせる。
- 避けたい形:まちがいの組み合わせを大量にならべた選択問題や線結び。テストそのものが「まちがった組み合わせにふれる機会」になってしまいます 8。
テストは思い出す練習そのものでもあります。毎回のテストで、前の単元のコロケーションを2〜3問混ぜておくと、自然に「間隔をあけた復習」になります。
- コロケーションのリストを配って終わる:リストは便利ですが、気づき・比較・練習・思い出す、の流れがないと残りません。メタ分析でも、効果が大きかったのは明示的に扱った指導です 1。
- 線結びとまちがい選択肢だらけの練習:まちがった組み合わせを何度も試させると、それが記憶に残ることがあります 8。正しいかたまりを見せて、選ばせる・言わせる形に。
- make と do、say と tell をいきなり対比させる:似た意味の組み合わせを同時に教えると覚えにくいという結果があります 16。まずは片方をしっかり、対比はあとで。
- 難しいイディオムばかり集める:まずは中心の語の頻度が高い組み合わせから 5。kick the bucket より make a decision です。
- 「たくさん読めば自然に」と放っておく:インプットは土台ですが、日本語とずれる組み合わせは、英語圏での経験があっても誤りが残りやすいことがわかっています 4。
❓ よくある質問
Q. コロケーションとは何ですか?
いっしょに使われやすい語と語の組み合わせのことです。「雨が強い」は heavy rain、「薬を飲む」は take medicine。単語の意味を1つずつ知っているだけでは出てこず、文法的には正しくても母語話者には「なんだか変」に聞こえる誤りになります。
Q. コロケーションは教えると効果がありますか?
コロケーション指導の研究17件をまとめたメタ分析では、指導の効果量は d = 1.415 と大きく、明示的な指導の方が暗示的な指導より効果が大きくなっていました 1。ただし、ねらったコロケーションを直接テストした結果で、そのまま英語力全体の伸びを意味するわけではありません。
Q. make・do・take の線結びの練習はよくないのですか?
線結びの効果を確かめた小規模な実験では伸びは小さく、最初は正しく選べていた組み合わせを、練習に出たまちがいの組み合わせに書きかえる現象が起きていました 8。追試では、正しいかたまりごと選ばせる穴埋めがいちばんよい結果でした 9。
Q. 日本人はどんなコロケーションでつまずきますか?
日本語と組み合わせ方がずれるものです。日本人学習者はこうしたコロケーションで誤りが多く反応も遅く、英語圏で暮らした経験がある人でも誤りは多いままでした 4。「風邪をひく」→ catch a cold のように、日本語と比べてずれを見せて教えます。
Q. コロケーションはどう覚えさせればいいですか?
日本の高校1年生の実験では、同じ動詞のコロケーション(draw a line / draw a conclusion など)を同じ日にまとめて学び、毎週くり返す形がいちばん効果的で、学習していない同じ動詞の組み合わせにも効果が広がりました 17。音声を聞きながら読む、下線で目立たせる工夫も役立ちます 1213。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「コロケーション」は何で決まるのか ― 2つの定義と測り方の問題
コロケーションの定義には大きく2つの流れがあります。1つは頻度にもとづく見方で、コーパスの中で偶然より高い確率でいっしょに出現する語のペアをコロケーションとみなし、t-score や MI(相互情報量)などの統計量で結びつきの強さを測ります。もう1つは句の固定性にもとづく見方(phraseological approach)で、ある語が特定の意味ではどの語とだけ組めるか、という「制限の度合い」で定義します。学習者のコロケーションを研究する Nesselhauf 氏は後者の立場から、上級学習者の動詞+名詞コロケーションを定義・分析し、制限の度合いよりも母語の影響の方が難しさを大きく左右したと報告しました 3。
測り方によって見える姿も変わります。語彙とコロケーションを研究する Philip Durrant 氏と Norbert Schmitt 氏は、頻度情報を適切に考慮し、学習者ごとの差を隠さない分析をすると、学習者の作文はコロケーションに乏しいのではなく、高頻度の組み合わせに頼り、頻度は低いが結びつきの強い組み合わせをあまり使わないという偏りをもつことを示しました 6。「学習者の英語は決まり文句が少ない」という印象の正体は、量ではなく種類の偏りだったわけです。
指導研究の側でも、結果をどう測るかが論点です。メタ分析では、選択式・制限つきの産出・自由産出といった測定の種類によって効果量に差は見られませんでしたが、もとになった一次研究は17件にとどまります 1。教室で本当に知りたいのは「自由な英作文や会話で、自分から正しく使えるか」ですが、そこまで追った研究はまだ多くありません。
🎓院生モード偶発的学習 vs. 意図的学習 ― 「インプット不足説」と、その先
定型表現の研究で知られる言語学者の Alison Wray 氏などは、大人の第二言語学習者は入力を単語に分解して処理し、どの語がいっしょに出たかという情報を保持しにくい(非定型的な学習をする)と主張しました。Durrant 氏と Schmitt 氏はこれを実験で検証し、大人の学習者もインプットから共起の情報を保持していることを示して、学習者のコロケーション知識の不足はインプットの不足によるものだと論じました 10。
この立場に立てば、教室の役割は「インプットを増やし、目立たせ、くり返す」ことになります。実際、偶発的学習の研究では、音声を聞きながら読む条件や下線による強調が効果を高めることが示されています 121314。一方で、1つの物語の中で4回出会っても8回出会っても有意な差が出なかった研究もあり 11、「何回出会えばよいか」の答えは、語の性質や測り方によって揺れています。
研究上の限界も押さえておきましょう。入力モードの比較研究は、アジアの大学生を対象にしたものが中心で、日本の中学生・高校生の教室にそのまま当てはまるかは確かめられていません。また、意図的学習の効果(メタ分析の d = 1.415 1)は、ねらったコロケーションを直接テストした結果であり、そのまま一般的な英語力の伸びを意味するわけではありません。教室では、多読・多聴による「量」と、日本語とずれる組み合わせへの「的をしぼった意図的学習」を組み合わせる設計が、現時点の研究とも矛盾しない落としどころです。
🎓院生モード母語との一致・不一致(congruency)と「意味の組みかえ」
第二言語習得の研究者 Junko Yamashita 氏と Nan Jiang 氏は、日本語と構成要素が対応する一致コロケーションと、対応しない不一致コロケーションを比べ、EFL 学習者は不一致の方で誤りが多く反応も遅いこと、ESL 経験者は全体に成績がよいが不一致の誤りは残ること、ただし反応時間には母語の影響が見られなかったことを報告しました。著者らは、母語との一致と第二言語へのふれる量の両方が習得に影響し、いったん記憶された第二言語のコロケーションは母語から独立して処理される、と解釈しています 4。
不一致の組み合わせを身につけるには、動詞などの中心語の意味の範囲そのものを組みかえる(semantic restructuring)必要がある、という見方があります。日本の高校生を対象にした 語彙学習を研究する Satoshi Yamagata 氏・Tatsuya Nakata 氏・James Rogers 氏の実験では、同じ中心動詞の複数のコロケーション(draw a line / draw a conclusion など)を同じ日に並べ、それを週ごとにくり返す条件が、学習したコロケーションだけでなく、学習していない同じ動詞のコロケーションの成績も最も高めました 17。並べて見ることで「draw の意味の広がり」をつかむ(集中)ことと、時間をあけてくり返す(分散)ことの両方の利点を生かした設計と言えます。
これは、意味の似たコロケーションを同時に教えると干渉が起きるという結果 16 とも矛盾しません。「同じ動詞で、意味の違う組み合わせを並べる」のはよいが、「似た意味の別の動詞(make と do)を対比させる」のは最初は避ける。中心語の意味のネットワークをどう見せるかが、日本人学習者向けのコロケーション指導の設計のカギです。母語の影響全般については 母語の影響と転移 を、頻度とかたまりの理論的背景は 用法基盤モデル を参照してください。
🎁 玉手箱で使えるツール
原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。
📑 出典(18件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Li, X., & Lei, L. (2022). Effectiveness of second language collocation instruction: a meta-analysis. IRAL - International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 62(2), 377-404. doi:10.1515/iral-2021-0218 ✔ DOI照合済コロケーション指導の効果のメタ分析(17研究・64プロジェクト・3,859人)。明示的な指導の方が効果が大きい
- Laufer, B., & Waldman, T. (2011). Verb-noun collocations in second language writing: A corpus analysis of learners' English. Language Learning, 61(2), 647-672. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00621.x ✔ DOI照合済学習者コーパスの分析。どの習熟度でも母語話者よりコロケーションの使用がずっと少なく、母語由来の誤りは上級でも残った
- Nesselhauf, N. (2003). The use of collocations by advanced learners of English and some implications for teaching. Applied Linguistics, 24(2), 223-242. doi:10.1093/applin/24.2.223 ✔ DOI照合済上級学習者の動詞+名詞コロケーションの誤りを分析。母語の影響が予想以上に大きかった
- Yamashita, J., & Jiang, N. (2010). L1 influence on the acquisition of L2 collocations: Japanese ESL users and EFL learners acquiring English collocations. TESOL Quarterly, 44(4), 647-668. doi:10.5054/tq.2010.235998 ✔ DOI照合済日本人学習者は、日本語と組み合わせが違う英語のコロケーションで誤りが多く、英語圏で暮らしてもなお難しいと示した研究
- Nguyen, T. M. H., & Webb, S. (2017). Examining second language receptive knowledge of collocation and factors that affect learning. Language Teaching Research, 21(3), 298-320. doi:10.1177/1362168816639619 ✔ DOI照合済高頻度語のコロケーションでも、学習者が知っていたのは各タイプとも半分未満だったと示した研究
- Durrant, P., & Schmitt, N. (2009). To what extent do native and non-native writers make use of collocations?. IRAL - International Review of Applied Linguistics in Language Teaching, 47(2), 157-177. doi:10.1515/iral.2009.007 ✔ DOI照合済学習者は高頻度のコロケーションには頼るが、頻度は低くても結びつきの強い組み合わせは少ないと示したコーパス研究
- Millar, N. (2011). The processing of malformed formulaic language. Applied Linguistics, 32(2), 129-148. doi:10.1093/applin/amq035 ✔ DOI照合済学習者の不自然なコロケーションは、母語話者の読みに余分な処理の負担をかけ続けると示した研究
- Boers, F., Demecheleer, M., Coxhead, A., & Webb, S. (2014). Gauging the effects of exercises on verb-noun collocations. Language Teaching Research, 18(1), 54-74. doi:10.1177/1362168813505389 ✔ DOI照合済教科書によくある動詞と名詞の「線結び」練習は伸びが小さく、まちがった組み合わせが記憶に残る副作用があると報告した研究
- Boers, F., Dang, T. C. T., & Strong, B. (2017). Comparing the effectiveness of phrase-focused exercises: A partial replication of Boers, Demecheleer, Coxhead, and Webb (2014). Language Teaching Research, 21(3), 362-380. doi:10.1177/1362168816651464 ✔ DOI照合済動詞を選ばせるより、正しいかたまりごと選ばせる穴埋めの方が覚えやすかったと示した追試。教科書10冊の練習も点検
- Durrant, P., & Schmitt, N. (2010). Adult learners' retention of collocations from exposure. Second Language Research, 26(2), 163-188. doi:10.1177/0267658309349431 ✔ DOI照合済大人の学習者もインプットから語と語の組み合わせを覚えていると示し、不足の原因はインプット量だと論じた
- Pellicer-Sánchez, A. (2017). Learning L2 collocations incidentally from reading. Language Teaching Research, 21(3), 381-402. doi:10.1177/1362168815618428 ✔ DOI照合済物語を読むだけでもコロケーションの知識は身につき、単語の形や意味と同じくらいのペースで学ばれると示した研究
- Webb, S., & Chang, A. C.-S. (2022). How does mode of input affect the incidental learning of collocations?. Studies in Second Language Acquisition, 44(1), 35-56. doi:10.1017/S0272263120000297 ✔ DOI照合済台湾の大学生138人。読む・聞く・音声を聞きながら読むの3条件で、聞きながら読むが最もコロケーションを覚えた
- Vu, D. V., & Peters, E. (2022). Incidental learning of collocations from meaningful input. Studies in Second Language Acquisition, 44(3), 685-707. doi:10.1017/S0272263121000462 ✔ DOI照合済ベトナムの学習者100人。下線で目立たせた読み方が最もコロケーションを覚え、母語と一致する組み合わせほど覚えやすかった
- Szudarski, P., & Carter, R. (2016). The role of input flood and input enhancement in EFL learners' acquisition of collocations. International Journal of Applied Linguistics, 26(2), 245-265. doi:10.1111/ijal.12092 ✔ DOI照合済コロケーションを大量に含む物語に下線をつけて読ませると、形を思い出す・見分ける力が伸びたと報告した研究
- Webb, S., & Kagimoto, E. (2009). The effects of vocabulary learning on collocation and meaning. TESOL Quarterly, 43(1), 55-77. doi:10.1002/j.1545-7249.2009.tb00227.x ✔ DOI照合済日本の英語学習者で、例文を読む課題と穴埋め課題のどちらでもコロケーションと意味が身についたことを示した研究
- Webb, S., & Kagimoto, E. (2011). Learning collocations: Do the number of collocates, position of the node word, and synonymy affect learning?. Applied Linguistics, 32(3), 259-276. doi:10.1093/applin/amq051 ✔ DOI照合済日本の学習者で、1つの語に組み合わせる語が多いほど多く覚えられ、似た意味のコロケーションを一緒に教えると覚えにくいと示した研究
- Yamagata, S., Nakata, T., & Rogers, J. (2022). Effects of distributed practice on the acquisition of verb-noun collocations. Studies in Second Language Acquisition, 45(2), 291-317. doi:10.1017/S0272263122000225 ✔ DOI照合済日本の高校1年生90人。同じ動詞のコロケーションを同じ日にまとめて、しかも毎週くり返す学習が最も効果的だった
- Laufer, B., & Girsai, N. (2008). Form-focused instruction in second language vocabulary learning: A case for contrastive analysis and translation. Applied Linguistics, 29(4), 694-716. doi:10.1093/applin/amn018 ✔ DOI照合済母語との対照と訳の活動をしたグループが、単語とコロケーションの定着でいちばん成績がよかった実験(高校生)
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら










