ディクテーションとディクトグロスの指導法 ― 聞いて書く活動で「聞き取れない原因」と「文法の穴」を見つける
聞いた英語を書き取るディクテーションは、生徒の「どこが聞けていないか」を映すレントゲン。グループで英文を復元するディクトグロスは、生徒自身が文法の穴に気づく仕掛けです。
エビデンスの強さ:授業では広く使われ、ディクテーションがリスニングを伸ばした実験や、ディクトグロス中の話し合いを分析した研究はある。ただし小規模な研究が多く、学習成果を厳密に比べた研究は少ない。

ディクテーションってなに?
ひとことで言うと、ディクテーションは、聞いた英語を書き取って、どこが聞き取れていないかを目に見える形にする活動です。
ディクテーション(dictation)は、聞いた英語を書き取る活動です。日本では「書き取り」として古くから行われてきましたが、やり方によってねらいが大きく変わります。
ディクテーションは耳のレントゲン写真です。「なんとなく聞こえた気がする」では見えない骨折(聞き取れていない所)が、書き取ると一目でわかります。ディクトグロスは、バラバラになったジグソーパズルを、班のみんなで元の絵に戻す作業に似ています。手元のピース(メモ)だけでは足りないので、「ここは過去形じゃない?」「a がいるよ」と話し合ううちに、自分の文法の穴に気づくのです。
4つのタイプのちがい
| タイプ | やり方 | おもなねらい | 時間 |
|---|---|---|---|
| フル・ディクテーション | 1文ずつ聞いて全部書き取る | 音を語に切り分ける力、つづり | 10分前後 |
| 部分(穴埋め)ディクテーション | 本文の一部が空欄のプリントに書き取る | 機能語・音のつながりなど、ねらった音の聞き取り | 5分 |
| ランニング・ディクテーション | 掲示された英文を読みに行き、覚えて戻ってペアに伝え、ペアが書く | 読む・覚える・話す・聞く・書くの統合、活気 | 10〜15分 |
| ディクトグロス | ふつうの速さの英文をメモし、グループで文章を復元する | 内容理解と文法への気づき、協働 | 20〜30分 |
ディクトグロスは「一語一句書き取る」のではなく、キーワードのメモから意味が同じで正しい文章を組み立て直す点が、ほかの3つと大きくちがいます。
やり方を3ステップで(部分ディクテーションの場合)
- 聞く:1回目はふつうに聞いて内容をつかむ。
- 書き取る:2回目に空欄を書き取り、3回目で確かめる。
- くらべてふり返る:本文と比べ、まちがえた所の考えられる要因(知らない語・音のつながり・つづりなど)をふり返って、もう一度聞く。
なぜ効くの? 研究ではどうなってる?
ディクテーション:聞き取りの弱点を映し、鍛える
- 初級の成人学習者30人ずつの2群を比べた研究では、教科書のリスニング練習に加えて1学期に11回ディクテーションをした群は、しなかった群よりリスニングの伸びが大きくなりました 1。
- 大学の必修英語クラスで、教科書の活動にボトムアップの聞き取り活動を加えた群は、ディクテーションとリスニングのテストで比較群より伸びが大きくなりました 2。
- 中国の大学生367人のリスニングテストを分析した研究では、部分ディクテーションは低次の聞き取りだけでなく、より高次の理解を問う形式と同じリスニング能力を測っていたことが示されました。部分ディクテーションは先生が作りやすく採点しやすい形式で、この研究で使われた課題は受験者のレベルに合い、内的一貫性(信頼性の一種)も高いという結果でした 3。
- 日本の学習者を対象にした授業研究では、英語の音声の特徴に焦点を当てたディクテーションの得点が、TOEIC のリスニングの得点と有意に相関し、音声の知識をディクテーションと音読のくり返しで教える方法が検討されました 4。
ディクテーションが役立つのは、英語の話し言葉で語と語の音がつながり、語の切れ目がわからなくなる問題 5 を、生徒自身が書いた文字で確かめられるからです。
ディクトグロス:話し合いが文法への気づきを生む
- 13〜14歳のフランス語学習者が協力して文章を復元する課題を分析した研究では、生徒たちは、自分の知識の穴に気づき、語の形・働き・意味のつながりを意識し、仲間や先生からフィードバックを得ていました 6。
- ディクトグロス中の学習者の話し合いを「言語関連エピソード」として細かく分類した研究では、単純な回数の数え方では、話し合いの複雑さや価値をとらえきれないと指摘されています 7。上級の学習者ほど文法用語(メタ言語)を多く使い、メタ言語を使うと同じ形にくり返し立ち返る傾向がありました 8。
- スペインの11〜12歳の子ども31ペアの研究では、子どもたちは意味よりも形について多く話し合い、その多くを正しく解決して書き言葉に反映させていました。ただし、ねらった文法(3単現の -s)よりも、ほかの文法に注目することの方が多かったのです 9。
- 日本の公立高校2年生86人の研究では、個人で文を復元する形に変えたディクトグロスの得点(復元文に書けた意味のまとまりの数。つづりや文法の誤りは採点しない)が、ライティングよりもリスニングとリーディングの力と強く相関し、生徒の今の力を見る形成的評価として使えることが提案されています 10。
ディクトグロスで、生徒が「ねらった文法」に注目するとは限らない
ディクトグロスは「文法を自然に学ぶ活動」として紹介されることが多いのですが、少なくともスペインの11〜12歳の子どもを対象にした研究では、ねらいの文法よりほかの文法に話し合いが向かっていました 9。生徒は自分が気になった所について話し合うのです。これは欠点ではなく、班が迷った所や、話し合いに表れた「文法の穴」が見える長所でもあります(話さなかった生徒の理解までは見えないので、個人の理解は活動後の短い個人課題やふり返りで確かめます)。ねらいの文法を確実に扱いたいなら、最後の「元の英文と比べる」段階で、先生がその文法に焦点を当てる必要があります。
明日の授業でこうする
A. 部分ディクテーション(5分。毎回の授業のはじめに続けられる)
- 本文の音声から3〜4文を選び、機能語(a, the, to, of など)や音がつながる部分を空欄にしたプリントを作る。
- 1回目はふつうに聞く、2回目は書き取る、3回目は確認。
- 答え合わせのあと、まちがえた所の考えられる要因を ①知らない語 ②音のつながり・弱い音 ③つづりの誤り ④文法・聞き逃し(注意や記憶) からふり返らせる。迷う所は、もう一度聞かせたり、語を見せて発音できるか確かめたりしてから判断します。
- ②が多い部分を先生が取り上げ、音の変化を説明して、もう一度聞く。
B. ディクトグロス(20〜30分)
- 準備(3分):授業の前に、ねらいの文法(例:過去形、関係代名詞)を含む60〜100語の英文を用意しておく。授業では、話題を紹介し、知らない語を2〜3語だけ確認する。
- 聞く(2回):ふつうの速さで読む。1回目は聞くだけ、2回目はキーワードをメモ。
- 復元(10分):3〜4人のグループでメモを持ち寄り、元の英文に近い文章を書く。一字一句同じでなくてよいが、内容が同じで、文法的に正しい文をめざす。
- 比べる(10分):元の英文を配り、自分たちの文章とのちがいに線を引いて話し合う。最後に先生が、ねらいの文法がどう使われていたかを全体で確認する。
C. ランニング・ディクテーション(10〜15分)
教室の後ろに英文を貼り、「ランナー」が読みに行って覚え、席に戻って「ライター」に伝えます。ライターが書き終えたら役割を交代。最後に元の英文と比べます。聞く・話す・読む・書くがすべて入り、クラスが活気づくので、単元のまとめに向いています。名前は「ランニング」ですが、机の間は走らず歩くルールにし、通路をあけ、英文を何か所かに分けて貼って一度に移動する人数を減らすと安全です。
- 小学校:高学年の「書くこと」の言語活動には、文字の読み方が発音されるのを聞いて、活字体の大文字・小文字を書く活動があります 11。「B, I, G」と先生が文字の名前を言い、子どもが書いて単語にする、いちばん小さなディクテーションから始めましょう。
- 中学校:週1回、授業のはじめの5分で部分ディクテーションをする。2年生の後半からは、教科書の既習本文を少し書きかえた英文でディクトグロスに挑戦します。
- 高校:ディクトグロスを要約やライティングの前段階に使います。評価として使う場合、個人で復元させる形にした研究では、復元文に書けた意味のまとまりを数えて得点にし、形成的評価に生かす方法が提案されています 10。授業では、たとえばこれに加えて文法の正確さを別の観点として見ることもできますが、それはこの研究の採点法とは別の、先生の工夫です。
- 難しすぎる英文で全文ディクテーション:書けない時間が続くだけです。部分ディクテーションから始めましょう。
- 答え合わせで終わる:まちがえた所の要因(語彙・音・つづり・文法や聞き逃し)をふり返ると、次の指導の手がかりになります。
- ディクトグロスで、ゆっくり何度も読む:1文ずつのディクテーションになってしまい、「メモから文章を組み立てる」ねらいが消えます。
- 比べる段階を省く:元の英文と比べる段階は、自分たちの文とのちがいをふり返り、ねらいの文法を取り上げるよい機会です。生徒が話し合いでねらいの文法に注目するとは限らないので 9、ここで先生がねらいの文法を指さし、元の英文でどう使われているかを説明しましょう。
- ディクテーションの点数=リスニング力と決めつける:つづりや書く速さの影響も受けます。
❓ よくある質問
Q. ディクテーションにはどんな種類がありますか?
フル(全部書き取る)、部分(穴埋め)、ランニング(掲示された英文を覚えてペアに伝える)、ディクトグロス(メモをもとにグループで文章を復元する)の4つです。ねらいも時間も違い、部分ディクテーションなら授業のはじめの5分でできます。
Q. ディクテーションはリスニング力に効果がありますか?
初級の成人学習者を比べた研究では、教科書のリスニング練習に加えて1学期に11回ディクテーションをした群の方が、リスニングの伸びが大きくなりました 1。ただし得点にはつづりや書く速さも影響するので、点数そのものより誤りの種類を見ることが大切です。
Q. ディクトグロスとは何ですか?
ふつうの速さの英文(60〜100語)を2回聞いてキーワードをメモし、3〜4人のグループで元の英文に近い文章を復元する活動です。一字一句同じでなくてよく、内容が同じで文法的に正しい文をめざします。最後に元の英文と比べて話し合います。
Q. ディクトグロスで、ねらった文法は身につきますか?
生徒がねらいの文法に注目するとは限りません。スペインの11〜12歳を対象にした研究では、話し合いはねらった3単現の -s より、ほかの文法に向かうことの方が多くありました 9。最後の「元の英文と比べる」段階で、先生がねらいの文法を取り上げ、元の英文でどう使われていたかを全体で確かめましょう。
Q. ディクテーションの答え合わせのあと、何をすればいいですか?
まちがえた所の考えられる要因を、①知らない語、②音のつながり・弱い音、③つづりの誤り、④文法・聞き逃し、からふり返らせます。②が多い部分は先生が取り上げて音の変化を説明し、もう一度聞かせます。要因をふり返ると、次の指導の手がかりになります。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モードディクテーションは何を測っているのか
ディクテーションは、つづりを確かめるだけの低次の課題だと考えられることもあれば、聞いた内容を予測しながら再構成する総合的な課題だと考えられることもあります。中国の大学生367人のデータを確認的因子分析で比べた言語テストの研究者 Hongwen Cai 氏は、部分ディクテーションと、より高次の能力を問うとされる形式(穴埋めや記述式)が、同じリスニングの構成概念を測っているとするモデルが最もよく当てはまったと報告しました 3。
ただし、得点にはつづりの知識や書く速さも影響します。授業でディクテーションを使うときは、点数そのものより、誤りの種類(音の聞き取りか、語彙か、つづりか)を見ることが、指導に役立つ情報になります。
🎓院生モードディクトグロスとアウトプット仮説 ― 「話し合い」をどう評価するか
ディクトグロスは、アウトプット仮説で知られる応用言語学者 Merrill Swain 氏のアウトプット仮説の流れをくむ協働的な課題として研究されてきました。言語教育の研究者 Maria Kowal 氏と Swain 氏は、協力して文章を組み立てる課題が、知識の穴への気づき、形・働き・意味の結びつきへの意識、仲間からのフィードバックという3つの面で学習を促すと考え、データでそれを支持しました 6。
研究の多くは、話し合いの中の「言語関連エピソード(LRE)」の数や解決のされ方を分析しています。しかし、英語教育の研究者 Alan Fortune 氏と Dawn Thorp 氏は、エピソードの数を数えるだけでは、学習者がどれだけ深くその形と向き合ったかをとらえきれないと指摘しました 7。また、話し合いで正しく解決された形が、のちのテストで身についているかまで調べた研究は多くありません。子どもの研究でも、ねらいの文法への注目は少なかったと報告されています 9。「話し合いが起きた」ことと「文法が身についた」ことの間にはまだ距離があり、ここが今後の研究課題です。
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📑 出典(11件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Kiany, G. R., & Shiramiry, E. (2002). The effect of frequent dictation on the listening comprehension ability of elementary EFL learners. TESL Canada Journal, 20(1). doi:10.18806/tesl.v20i1.938 ✔ DOI照合済初級の成人学習者。1学期に11回ディクテーションを加えた群でリスニングが伸びた
- Siegel, J., & Siegel, A. (2015). Getting to the bottom of L2 listening instruction: Making a case for bottom-up activities. Studies in Second Language Learning and Teaching, 5(4), 637-662. doi:10.14746/ssllt.2015.5.4.6 ✔ DOI照合済日本の大学のリスニング授業で、音を聞き取るボトムアップ活動を加えた群が伸びた
- Cai, H. (2013). Partial dictation as a measure of EFL listening proficiency: Evidence from confirmatory factor analysis. Language Testing, 30(2), 177-199. doi:10.1177/0265532212456833 ✔ DOI照合済中国の大学生367人。部分ディクテーションは低次の聞き取りだけでなく、ほかの形式と同じリスニング能力を測っていた
- Satori, M. (2010). The effect of teaching phonetic information through repeated practice of dictation and reading aloud in L2 listening class. Language Education & Technology, 47, 159-180. 公式ページ ✔ リンク確認済音声変化の知識をディクテーションと音読のくり返しで教えた日本の大学の授業研究。音読練習は下位レベルの聞き手に役立つ可能性(DOI 10.24539/let.47.0_159・J-STAGE)
- Field, J. (2003). Promoting perception: Lexical segmentation in L2 listening. ELT Journal, 57(4), 325-334. doi:10.1093/elt/57.4.325 ✔ DOI照合済音のつながりで語の切れ目がわからなくなる問題と、その練習を提案した論文
- Kowal, M., & Swain, M. (1994). Using collaborative language production tasks to promote students' language awareness. Language Awareness, 3(2), 73-93. doi:10.1080/09658416.1994.9959845 ✔ DOI照合済13〜14歳のフランス語学習者が文章を協力して復元する課題(ディクトグロス型)で、形への気づきが生まれることを示した研究
- Fortune, A., & Thorp, D. (2001). Knotted and entangled: New light on the identification, classification and value of language related episodes in collaborative output tasks. Language Awareness, 10(2-3), 143-160. doi:10.1080/09658410108667031 ✔ DOI照合済ディクトグロス中の学習者の話し合い(言語関連エピソード)を細かく分類した研究
- Fortune, A. (2005). Learners' use of metalanguage in collaborative form-focused L2 output tasks. Language Awareness, 14(1), 21-38. doi:10.1080/09658410508668818 ✔ DOI照合済ディクトグロス中の学習者の会話を分析し、文法用語の使用が形への注意を助けることを示した研究
- Calzada, A., & García Mayo, M. P. (2020). Child learners' reflections about EFL grammar in a collaborative writing task: when form is not at odds with communication. Language Awareness, 30(1), 1-16. doi:10.1080/09658416.2020.1751178 ✔ DOI照合済11〜12歳の子ども31ペアのディクトグロス。形についての話し合いが多く、多くは正しく解決されたが、ねらいの文法(3単現-s)への注目は少なかった
- Maeda, M. (2018). The potential advantage of dictogloss as an assessment tool for EFL learners' proficiency. ARELE: Annual Review of English Language Education in Japan, 29, 33-48. 公式ページ ✔ リンク確認済ディクトグロスの得点はライティングよりもリスニング・リーディングの力と強く相関。形成的評価としての利用を提案(DOI 10.20581/arele.29.0_33・J-STAGE)
- 文部科学省 (2017). 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編 公式ページ ✔ リンク確認済小学校の外国語活動(3・4年)と外国語科(5・6年)の目標・内容・語数・文字の扱いを説明した公式の解説
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








