レキシカル・アプローチとチャンク指導 ― 英語は「単語+文法」より「かたまり」で覚える
英語が上手な人は、一語ずつ文を組み立てているわけではありません。make a decision、I was wondering if…のような「かたまり(チャンク)」をたくさん持っています。チャンクに気づかせ、使わせる指導の考え方と研究を紹介します。
エビデンスの強さ:決まった言い回しに気づかせる・覚えさせる指導の効果を示す実験は複数あるが、多くは小規模で短期。レキシカル・アプローチを教授法として長期に比べた研究は少ない。

- レキシカル・アプローチは、英語を「単語+文法」よりも、かたまり(チャンク)の集まりとして教える考え方です。
- チャンクに気づかせる指導を受けたグループが、面接で口頭の力が総合的に高いと評価された実験があります。日本人は、日本語と組み合わせが違うコロケーションで特につまずきます。
- 教科書の本文からチャンクを見つけ、音読・リテリングで何度も使うのが、日本の授業に取り入れやすい形です。
レキシカル・アプローチってなに?
ひとことで言うと、レキシカル・アプローチは、英語を「単語+文法のルール」で組み立てるものとしてより、make a mistake や I'm looking forward to … のような「いつも一緒に使われる語のかたまり(チャンク)」の集まりとして教える考え方です。
1993年に、英語教育者の Michael Lewis 氏は、ことばの中心は文法ではなく、こうした語彙的なかたまりだと主張し、チャンクを中心に教えるレキシカル・アプローチを提案しました 12。
チャンクは、料理の「合わせ調味料」のようなものです。しょうゆ・みりん・砂糖を毎回はかって混ぜる(単語から文を組み立てる)より、「すき焼きのたれ」を1本持っていれば、すぐにおいしく作れます。英語が上手な人は、この「たれ」をたくさん冷蔵庫に持っています。大事なのは、たれ(チャンク)を使う場面ごと覚えておくことです。
チャンクの種類
| チャンクの種類 | 例 |
|---|---|
| コロケーション(語の組み合わせ) | make a mistake / heavy rain / strong coffee |
| 決まり文句・つなぎの表現 | By the way, … / It depends. / Nice to meet you. / On the other hand, … |
| 文の枠(フレーム) | I'm looking forward to …ing. / Would you mind …ing? |
| 句動詞 | look forward to / give up / pick up |
「単語+文法」で組み立てる教え方とのちがい
| 単語+文法で組み立てる | チャンクで覚える | |
|---|---|---|
| 覚える単位 | 1語ずつ+文法のルール | 複数の語のまとまりや文の型ごと(長さは問わない) |
| 話すとき | 一語ずつ考えて並べる | かたまりで取り出す |
| 例 | do / make + a mistake のどちらかを考える | make a mistake を丸ごと覚えている |
レキシカル・アプローチは、文法指導の代わりではなく、文法指導を補うものです。
なぜチャンクが大切なの?
- 速く話せる:かたまりで取り出せるので、一語ずつ考えるより速く話せます。
- 自然に聞こえる:文法的に正しくても、"do a mistake" は不自然。"make a mistake" のような組み合わせは、組み合わせごと覚えておくと役立ちます。
- 文法の入り口になる:I'm looking forward to seeing you. をまるごと覚えておくと、あとで「look forward to の to は前置詞なので、後ろには名詞か動詞の -ing 形が来る」ことに気づく足場になります(不定詞の to のあとは動詞の原形なので、区別が大切です)。
やり方を3ステップで
- 気づく:教科書の本文で、いつも一緒に使われていそうな語のかたまりに線を引く。
- 覚える:チャンクの切れ目で区切って音読し、カードや小テストで思い出す。
- 使う:会話・リテリング・英作文で、チャンクを使う場面をつくる(くわしくは下の「明日の授業でこうする」)。
研究ではどうなってる?
- 英語専攻の大学生32人を対象に、22時間の授業で、教材に出てくる決まった言い回しに気づかせる指導をしたグループと、ふつうの「文法と語彙」の指導をしたグループを比べた実験では、授業後の面接で、判定者に口頭の力(総合的な上手さ)がより高いと評価されたのは気づかせる指導のグループでした(指導の前後で伸びを測った研究ではありません)。決まった言い回しの使用数は、上手さの評価とよく相関していました 3。
- 決まった言い回しの指導研究の総説では、学習者はチャンクを身につけるのが遅く、母語話者との差がなかなか縮まらないこと、そして指導法は「出会ったときに気づかせる」「辞書やコーパスで調べさせる」「覚えさせる」の3つに分けられることが整理されています 4。
- タスク中心の授業に、決まった言い回しに気づいて使う活動を加えた5週間の小規模な実験では、加えたグループの方が、話す速さ(1分あたりの音節数)や、ポーズなしで続けて話せる長さといった客観的な流ちょうさの指標で大きく伸びました 5。
- 日本人の英語学習者を調べた研究では、語句が自然な英語かどうかを判断する課題で、日本で学ぶ学習者(EFL)は、日本語と組み合わせ方が違うコロケーションで誤りが多く、反応も遅くなりました。英語圏で暮らす日本人(ESL)は全体に成績がよく、反応の速さの差は見られませんでしたが、この種のコロケーションでの誤りの多さは残っていました 6。
英語圏でたくさん英語にふれている日本人でも、日本語と組み合わせの違うコロケーションでは、判断の誤りが多いままでした 6。「たくさん聞けば自然に身につく」だけでは届かない部分がある、ということです。日本語との違いにわざと注意を向ける指導の、よい候補になる分野だと言えます(ただし、この研究自体は気づかせる指導の効果を試したものではありません)。
日本人がつまずきやすい組み合わせ(例)
| 日本語の発想 | 不自然になりやすい英語 | 自然な英語 |
|---|---|---|
| 薬を飲む(錠剤など) | drink medicine | take medicine |
| 辞書を引く | pull a dictionary | look it up in a dictionary / use a dictionary |
| 宿題をする | make homework | do homework |
| 雨が強い | strong rain | heavy rain |
(表は、日本語と英語で組み合わせが違う例を教室向けに選んだものです。)
明日の授業でこうする
- 本文を一度読んで内容をつかむ(チャンクの話はまだしない)。
- チャンクを探す:「いつも一緒に使われていそうな語のまとまり」に線を引かせる(まずは2〜4語程度の短いものから。長い文の型もチャンクです)。ペアで比べる。
- 日本語と比べる:日本語の発想と違うものに★をつける(日本語と組み合わせが違うものは身につきにくいという研究 6 を、重点を選ぶ手がかりにします)。
- チャンクで音読:チャンクの切れ目でスラッシュを入れて音読。
- チャンクを使ってリテリング:★のチャンクを3つ以上使って、本文の内容をペアに話す。
教科書の会話から "How about …ing?" "That sounds fun." "I'm looking forward to it." をチャンクとして取り出し、カードにします。ペアで週末の予定を話し合うとき、カードを使ったら机に置いていきます。全部使えたら、カードを見ないでもう一度。くり返すうちに、チャンクが「言える」ものになっていきます。
意見文によく出る "It is often said that …" "On the other hand, …" "This is why …" "In my opinion, …" を、教科書や過去の模範文から集めて「チャンク・バンク」を作ります。英作文の前に、バンクから3つ選んで使うことを条件にします。添削では、文法の誤りだけでなく「チャンクで言いかえられるところ」もコメントします。
チャンクを「使える」ものにする3段階
チャンクは、見つけただけでは使えるようになりません。研究の総説でも、気づかせる・調べさせる・記憶を助ける、という複数の手立てが整理されています 4。教室では、次の3段階で考えると組み立てやすくなります。
- 気づく:本文の中で線を引く、日本語と比べる。
- 覚える:チャンクで音読する、カードで声に出して確認する、小テストで思い出す。
- 使う:会話やリテリング、英作文で「使ったら1点」のしかけをつくる。
単語テストを「単語」ではなく「チャンク」で出す(take medicine の take を空欄にする、など)だけでも、生徒の意識は変わります。
- チャンクのリストを配って終わり:リストを覚えるだけでは、使える力になりにくい。本文の中で見つけ、使う活動まで。
- 全部チャンクで教えようとする:レキシカル・アプローチは、文法指導の代わりではなく、補うものです。
- 難しいイディオムばかり:まずは頻度の高いコロケーションや会話の決まり文句から。
- 気づかせて終わり:気づいたあと、何度もくり返し使う機会がないと残りません 4。
❓ よくある質問
Q. 英語のチャンクとは何ですか?
いつも一緒に使われる語のかたまりのことです。make a mistake のようなコロケーション、By the way や It depends. のような決まり文句、I'm looking forward to …ing. のような文の枠、give up のような句動詞・イディオムなどがあります。かたまりで取り出せるので、速く自然に話す助けになります。
Q. レキシカル・アプローチとは何ですか?
1993年に英語教育者の Michael Lewis 氏が提案した、ことばの中心は文法ではなく語彙的なかたまりだとして、チャンクを中心に教える考え方です 12。具体的な手順は体系化されておらず、独立した教授法というより、文法指導を補う指導上の原則として扱われることが多いです。
Q. チャンクを教えると、話す力は伸びますか?
英語専攻の大学生32人の実験では、決まった言い回しに気づかせる指導をしたグループの方が、授業後の面接で口頭の力が高いと評価されました 3。タスクにチャンクを使う活動を加えて流ちょうさが伸びた実験もありますが 5、どちらも小規模な研究です。
Q. 日本人がつまずきやすいコロケーションは何ですか?
日本語と組み合わせ方が違うコロケーションです。日本人学習者は、日本語と構成が違う語句で判断の誤りが多く、英語圏で暮らす人でもこの誤りは残っていました 6。「薬を飲む=take medicine」「雨が強い=heavy rain」のように、日本語と比べてわざと気づかせる価値があります。
Q. 教科書を使ったチャンク指導はどう進めればいいですか?
本文を読んで内容をつかんだあと、いつも一緒に使われていそうな語のまとまり(まずは2〜4語程度から)に線を引かせてペアで比べ、日本語の発想と違うものに印をつけます。そのあとチャンクの切れ目で区切って音読し、印のチャンクを3つ以上使って本文の内容をペアにリテリングします。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モードレキシカル・アプローチは「教授法」か
Lewis 氏の提案は、言語観(語彙と文法の二分法を否定し、チャンクを中心に据える)としては影響力が大きいものの、具体的なシラバスや手順は明確に体系化されておらず、独立した教授法というより「語彙中心の言語観にもとづく指導上の原則」として扱われることが多いと整理されています 2。実証研究も、レキシカル・アプローチ全体の効果ではなく、「決まった言い回しへの気づきを促す」「記憶を助ける」といった個別の介入の効果を検証するものが中心です 4。
この点で、レキシカル・アプローチは用法基盤モデル(用法基盤モデル・チャンク)と理論的に親和的です。頻度とくり返しの中でかたまりが抽出され、そこから規則性が育つという見方は、チャンクやパターンの学習を重視する考え方と整合的です。ただし、「チャンク指導を文法指導より先に置くべきか」という授業の順番そのものを比べて確かめた研究は、このページの出典の中にはありません。
🎓院生モード研究デザインの限界と、母語の役割
決まった言い回し(チャンク)の指導を研究する Frank Boers 氏らの実験は、32人・22時間・盲検の評価者という工夫があるものの小規模です 3。米国の大学の集中英語課程で教えていた Michael McGuire 氏と、応用言語学者の Jenifer Larson-Hall 氏の研究も各群10人前後(8人と11人)の5週間の研究です 5。しかも、指導群は開始時点で客観的な流暢さの得点が低く(伸びしろが大きかった可能性)、参加者は全員が米国の大学の集中英語課程で学ぶ留学生で、教室の外でも英語に豊富にふれていました。改善がはっきり確認されたのは主に発話速度や連続発話の長さで、母語話者による主観的な流暢さの評定では群間差が統計的な基準にわずかに届きませんでした。さらに、当初40人いた参加者のうち最後まで残ったのは19人で、指導群と対照群はそれぞれ別の教師(著者2人)が、研究の目的を知ったうえで担当していました。効果量は大きくても、日本の中学・高校への一般化には注意が必要で、再現研究が求められています。
母語の影響については、第二言語の読解や語彙の処理を研究する Junko Yamashita 氏と Nan Jiang 氏が、L1 と一致する(congruent)コロケーションと一致しない(incongruent)コロケーションで処理の速さと正確さが異なることを示しました。英語圏での経験は全体の成績を上げたものの、不一致のコロケーションの困難は残りました 6。日本の教室で L1 との対照を意図的に使うことは、「英語の授業は英語で」の方針とも両立させる工夫が必要な論点です(英語の授業は英語で?)。
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📑 出典(6件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Lewis, M. (1993). The Lexical Approach: The State of ELT and a Way Forward. Language Teaching Publications 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済語のかたまり(チャンク)を中心に教える「レキシカル・アプローチ」を提唱した本
- Richards, J. C., & Rodgers, T. S. (2014). Approaches and Methods in Language Teaching. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済教授法(文法訳読法・オーディオリンガル法・CLT など)の歴史と特徴をまとめた定番の教科書(第3版)
- Boers, F., Eyckmans, J., Kappel, J., Stengers, H., & Demecheleer, M. (2006). Formulaic sequences and perceived oral proficiency: Putting a Lexical Approach to the test. Language Teaching Research, 10(3), 245-261. doi:10.1191/1362168806lr195oa ✔ DOI照合済コロケーションなど決まった言い回しに気づかせる指導を受けた学生は、会話でより流ちょうと評価された小規模実験
- Boers, F., & Lindstromberg, S. (2012). Experimental and intervention studies on formulaic sequences in a second language. Annual Review of Applied Linguistics, 32, 83-110. doi:10.1017/S0267190512000050 ✔ DOI照合済決まった言い回し(コロケーション・イディオムなど)の指導研究の総説。気づかせる・辞書やコーパスで調べる・覚える、の3系統
- McGuire, M., & Larson-Hall, J. (2018). Teaching formulaic sequences in the classroom: Effects on spoken fluency. TESL Canada Journal, 34(3), 1-25. doi:10.18806/tesl.v34i3.1271 ✔ DOI照合済決まった言い回しに気づかせ使わせる5週間の指導で、話す流ちょうさが伸びた小規模実験
- Yamashita, J., & Jiang, N. (2010). L1 influence on the acquisition of L2 collocations: Japanese ESL users and EFL learners acquiring English collocations. TESOL Quarterly, 44(4), 647-668. doi:10.5054/tq.2010.235998 ✔ DOI照合済日本人学習者は、日本語と組み合わせが違う英語のコロケーションで誤りが多く、英語圏で暮らしてもなお難しいと示した研究
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








