自分の授業で研究する ― アクションリサーチ入門(まず「探る」から始める)
研究は大学の先生だけのものではありません。自分の教室の「気になること」を、記録して、試して、確かめる。アクションリサーチは、忙しい先生でも続けられる研究のかたちです。
エビデンスの強さ:教師の成長の方法として広く勧められているが、その効果を厳密に示した研究は限られている(実践報告・質的研究が中心)。

- アクションリサーチは、自分の教室の課題について「計画→実行→観察→ふり返り」をくり返す、先生のための研究です。
- コツは、いきなり手を打たず、まず現状を探ること。「探ってから変える」と、的外れな対策を避けられます。
- データは特別なものでなくてOK。振り返りカード、ワークシート、小テスト、授業メモがそのまま材料になります。
アクションリサーチってなに?
ひとことで言うと、先生が自分の教室の困りごとについて、「計画 → やってみる → 記録して見る → ふり返る」をくり返し、記録で確かめながら授業を良くしていく研究です。
アクションリサーチ(action research)は、先生が自分の教室で、自分の課題について行う研究です(用語集:アクションリサーチ)。英語教育でアクションリサーチを広めた Anne Burns 氏の入門書は、①計画(planning)②実行(acting)③観察(observing)④ふり返り(reflecting)というくり返すサイクルで全体を説明しています 12。つまり実際には、目的は論文を書くことよりも自分の授業と生徒の学びを良くすることです。「やってみたら、なんとなく良かった」で終わらせず、「何が、どれくらい変わったか」「なぜそうなったと考えられるか」を自分のデータで確かめます。
アクションリサーチは、家庭菜園の観察日記に似ています。「トマトの実が小さい」と気づいたら、いきなり肥料を倍にする前に、日当たり・水やり・土の様子を数日記録します(探る)。原因の見当がついたら1つだけ変えて(実行)、また記録して比べます(観察)。うまくいったか、次は何を変えるかを考えます(ふり返り)。大学の農学部の研究ほど厳密ではなくても、自分の畑についてはいちばん確かな答えが手に入ります。
似たものとのちがい
- ふつうの研究授業とのちがい:アクションリサーチは、記録を取って、確かめて、次の手につなげる。「やってみたら、なんとなく良かった」では終わらせません。
- 大学などの実験研究とのちがい:大人数・統制群・統計がそろわなくてもかまいません。授業メモ・振り返りカード・小テストなどふだんの授業で手に入る記録で十分です。めざすのは「一般化できる法則」ではなく、その教室にとっての理解と改善です。
アクションリサーチの仲間にも、重心のちがいがあります(くわしくは下の「もう一歩深く」)。
| アクションリサーチ | 探究的アクションリサーチ | 探究的実践 | |
|---|---|---|---|
| 重心 | 計画・実行・観察・ふり返りのサイクル 2 | 変える前に「いま、どうなっている?」を探る段階を独立させる 3 | 解決よりも、先生と生徒が一緒に教室の「なぜ?」を理解する 4 |
このページでわかること3つ
- 先生が自分の教室で研究することについて、研究からわかっていること
- いきなり手を打たず「まず探る」探究的アクションリサーチの、2つの問い
- 8週間でできるミニ・アクションリサーチの手順と、よくある失敗・倫理の基本
なぜ「自分で研究する」と良いの? 研究ではどうなってる?
- 13か国の英語教師505人への調査では、多くの先生が「研究」を、伝統的な科学研究のイメージでとらえていました。研究を読む・行う頻度は中〜低く、壁として時間・知識・資料の入手が挙がりました。一方、実際に研究をしている先生の動機は、昇進などの外からの理由より、授業の実際的な関心が中心でした 5。
- 教師が研究を「する」「読む」ことは専門的成長の方法として勧められていますが、その効果を示した実証はまだ限られています。総説は、取り組みを支える条件を整えることが成功のカギだとまとめています 6。
- 日本の中学・高校の英語教師が協働的アクションリサーチに4年間取り組んだ研究では、分析の中心になった5人の先生全員に、経験年数にかかわらず、①大学院の授業や先輩の実践を見て自分の信念を問い直す、②コミュニカティブな指導の理論を自分の教室に合わせて作り直す、③生徒が変わる姿を見て自信をつける、という3つの段階が見られました 7。
- 日本の英語教師のグループが、改革の進め方に疑問をもち、ふり返りにもとづくアクションリサーチを通して、コミュニケーション能力についての自分たちの考えを作り上げていった報告もあります 8。
「研究=統計を使う実験」ではない
上の調査のように、多くの先生は「研究」を教科書的な科学研究のイメージでとらえています 5。大人数・統制群・統計がそろわないと研究ではない、と思いがちです。でも教室の研究では、生徒の振り返りの文章、授業の録音、同僚のメモ、小テストの点数など、ふだんの授業で手に入る記録で十分です。探究的アクションリサーチの手引きは、忙しい中学・高校の先生が実際に使えた情報源として、自分の授業メモ、同僚との雑談のメモ、生徒の振り返り、アンケート、指導案や教材、授業の録音、生徒のタスクの出来などを挙げています 3。
まず「探る」:探究的アクションリサーチ
チリの中学・高校の先生たちとのプロジェクトから生まれた探究的アクションリサーチ(Exploratory Action Research)は、アクションリサーチの前に、ていねいな探究の段階を置きます。手引きは、問題が山積みのときこそ、すぐに解決策に飛びつかず、一歩引いて状況をよく見ることをすすめています 3。
研究の問いは、たった2つです 3。
| 段階 | 問い | 例(中学2年・やり取りの活動) |
|---|---|---|
| 探る(Exploration) | いま、どうなっている? | ペアの会話は何往復で止まる?止まった後、生徒は何をしている?生徒はなぜ止まると言っている? |
| 変える(Action) | 変えてみたら、どうなった? | 会話をつなぐ表現カードを配ったら、往復の数と生徒の感想はどう変わった? |
探ってから変える理由として、手引きは3つを挙げています。①先生は教室で起きていることをわかっているつもりでも、そうでないことがあり、探らずに手を打つと逆効果になりうる。②変えた後と比べるには、変える前の様子の記録が必要。③探ることは、ふだんの授業と組み合わせやすく、負担が大きくならない 3。この手引きは無料で公開され、日本語訳も用意されています 3。
似た考え方に、先生と生徒が一緒に教室の「なぜ?」を理解しようとする探究的実践(Exploratory Practice)もあります。解決よりも理解と、教室で過ごす先生と生徒の生活の質を大切にする実践者研究です 4。
明日の授業でこうする
- 気になることを1つ選ぶ(1週目):「音読で声が小さい」「Small Talk が30秒で止まる」など。大きすぎるテーマは避けます。
- 探る(2〜3週目):先生は毎回の授業のあとに、気づいたことを3行メモします。生徒には、授業の最後の1分で振り返りカードを書いてもらいます(2週間で2回)。これが「いま、どうなっている?」に答える材料になります。
- 見当をつける(4週目):記録を読み返し、原因の候補を2〜3個書き出します。その記録を同僚に5分ほど読んでもらうと、自分では気づかない点が出てきます。
- 1つだけ変える(5〜7週目):変えるのは1つだけ。探るときと同じ記録の取り方を続けます(比べやすくするため) 3。
- ふり返る(8週目):変える前と後を並べ、「何が、どれくらい変わったか」「なぜそうなったと考えられるか、ほかの理由はないか」をA4・1枚にまとめます。数字があれば、効果量で表してみるのもよい練習です。
- 共有する:教科会や校内研修で5分発表。次のサイクルのテーマを決めます。
- 中学校:「やり取りがすぐ止まる」ことについて、2週間、会話が止まった場面をメモし、生徒に「止まったとき何を考えていた?」と振り返りカードで聞いた。多くが「次に何を聞けばいいかわからない」と答えたので、質問のパターン表を配り、同じ方法で2週間記録して比べた。
- 高校:音読の声が小さい原因を、最初は「やる気」だと思っていたが、生徒の振り返りから「読めない語がある」ことがわかり、範読と語の確認を先にする順に変えた。
- 小学校:ALT との授業で、子どもが英語を話した回数を担任が正の字でメモ。活動の順番を入れかえる前の週と、入れかえた週で回数を比べた。
- テーマが大きすぎる:「英語力を上げる」では、何を記録して比べればよいかが決まらず、研究になりません。「授業のこの場面のこの行動」(例:ペアの会話が何往復で止まるか)くらいまで小さくします。
- いきなり新しい方法を試す:探らずに手を打つと、原因と合わない対策になりがちです 3。
- 変える前の記録がない:比べるものがなければ、変わったかどうか確かめられません。
- 一度に2つ以上変える:どの変更が影響したのか、さらに見分けにくくなります。なお、1つだけ変えても、変化の原因がそれだとは言い切れません(生徒の慣れや、ほかの授業の影響もありえます)。
- 倫理を忘れる:校内研修も含めて結果を人に伝えるときは、名前を伏せる、子どもの写真や動画を公開するなら保護者の同意を(できれば書面で)得る、引用した発言から本人が特定されないようにする、が基本です。録音や写真は安全に保管します 3。
❓ よくある質問
Q. アクションリサーチとは何ですか?
先生が自分の教室で、自分の課題について行う研究です。目的は論文を書くことより、自分の授業と生徒の学びを良くすること。英語教育でアクションリサーチを広めた Anne Burns 氏の入門書は、計画・実行・観察・ふり返りのくり返すサイクルで全体を説明しています 12。
Q. 探究的アクションリサーチとは何ですか?
いきなり手を打たず、先に現状を探る段階を置くアクションリサーチです。研究の問いは「いま、どうなっている?」と「変えてみたら、どうなった?」の2つで、探らずに手を打つと逆効果になりうること、比べるには変える前の記録が必要なことなどが理由に挙げられています 3。
Q. どんなデータを集めればいいですか?
特別なものでなくてかまいません。自分の授業メモ、同僚との雑談のメモ、生徒の振り返り、アンケート、指導案や教材、授業の録音、生徒のタスクの出来など、ふだんの授業で手に入る記録が材料になります 3。変える前と後で同じ記録の取り方を続けると比べやすくなります。
Q. 忙しくてもできますか?
13か国の英語教師505人の調査でも、研究を読む・行う壁として時間・知識・資料の入手が挙がっていました 5。ふだんの授業で集まる記録をデータにし、テーマを「授業のこの場面のこの行動」くらいに小さくして、8週間で1サイクルを終える計画にすると負担が減ります。
Q. 結果を校外で発表するときの注意は?
名前を伏せる、写真や動画は保護者の同意を得る、引用した発言から本人が特定されないようにする、が基本です 3。また、結果は「この生徒・この条件で」という限定をはっきり書くのが誠実な書き方です。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モードアクションリサーチ・探究的アクションリサーチ・探究的実践の違い
3つはどれも「教室の当事者が行う研究(practitioner research)」ですが、重心が違います。Burns 氏に代表されるアクションリサーチは、計画・実行・観察・ふり返りのサイクルをくり返す点が特徴で 2、同僚と一緒に進める協働的アクションリサーチの手引きも早くから示されてきました 9。探究的アクションリサーチは、その前に探究の段階を独立させ、「現状は?」と「変えたら?」の2つの問いで研究を組み立てます 3。探究的実践は、問題解決よりも理解を優先し、先生と学習者がともに教室の謎を探ることを重視します 4。
Burns 氏の入門書の書評では、教師が研究に取り組まない最大の理由である時間不足について、職場でどう条件を整えるかの議論がもっと必要だと指摘されています 2。方法論だけでなく、学校の仕組み(時間・同僚・管理職の理解)が研究の成否を左右する、という論点です 6。
🎓院生モード「厳密さ」をどう考えるか
アクションリサーチには、「対照群がない」「自分の授業を自分で評価するので偏る」という批判がつきものです。これは論文の読み方で見た「事前・事後だけの研究」の弱点そのものです。対策としては、①変える前と同じ方法で記録する、②数字(小テスト・発話の長さ)と言葉(振り返り・インタビュー)の両方を集める、③同僚など第三者に記録を読んでもらう、などがあります。探究的アクションリサーチの手引きも、同じ記録方法を前後で使えば比べやすいと述べています 3。
ただし、アクションリサーチの目的は「一般化できる法則」ではなく、その教室にとっての理解と改善です。外部の研究と同じものさしだけで評価すると、その価値を見落とします。逆に、自分の結果を他校の先生に伝えるときは、「この生徒・この条件で」という限定をはっきり書くのが誠実な書き方です。
🎓院生モード日本語で読める手引き
🎁 玉手箱で使えるツール
原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。
📑 出典(12件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Burns, A. (2010). Doing Action Research in English Language Teaching. Routledge doi:10.4324/9780203863466 ✔ DOI照合済英語教師のためのアクションリサーチ入門書
- Borg, S. (2011). Doing action research in English language teaching. A guide for practitioners. ELT Journal, 65(4), 485-487. doi:10.1093/elt/ccr052 ✔ DOI照合済Burns(2010)の書評。計画・実行・観察・省察のサイクルと、教師の時間不足という課題を紹介
- Smith, R., & Rebolledo, P. (2018). A Handbook for Exploratory Action Research. British Council 本の紹介ページ ✔ リンク確認済「まず現状を探ってから手を打つ」探究的アクションリサーチの手引き(無料公開。日本語訳あり)
- Allwright, D. (2003). Exploratory Practice: Rethinking practitioner research in language teaching. Language Teaching Research, 7(2), 113-141. doi:10.1191/1362168803lr118oa ✔ DOI照合済先生と生徒が教室の「なぜ?」を一緒に探る実践者研究(探究的実践)を紹介した論文
- Borg, S. (2009). English language teachers' conceptions of research. Applied Linguistics, 30(3), 358-388. doi:10.1093/applin/amp007 ✔ DOI照合済13か国505人の英語教師に「研究」についての考えと実態を聞いた調査
- Borg, S. (2010). Language teacher research engagement. Language Teaching, 43(4), 391-429. doi:10.1017/S0261444810000170 ✔ DOI照合済語学教師が研究を「する」「読む」ことの利点と難しさ、それを支える条件をまとめた総説
- Sato, K., Mutoh, N., & Kleinsasser, R. C. (2019). Longitudinal research on EFL teacher professional development in (Japanese) contexts: Collaborative action research projects. Language Teaching Research, 26(3), 477-503. doi:10.1177/1362168819893814 ✔ DOI照合済日本の中学・高校の英語教師が協働的アクションリサーチで4年間にどう変わったかを追った研究
- Kondo, T. (2020). Transforming critical and participative teacher research into communicative action: A possible direction for teacher professional learning. Educational Action Research, 28(2), 159-174. doi:10.1080/09650792.2019.1667256 ✔ DOI照合済日本の英語教師グループが、自分たちの実践を問い直すアクションリサーチを通して学び合った過程の報告
- Burns, A. (1999). Collaborative Action Research for English Language Teachers. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済同僚と一緒に進める協働的アクションリサーチの手引き(データの集め方・分析・発信)
- 佐野正之 (2000). アクション・リサーチのすすめ:新しい英語授業研究. 大修館書店 本の紹介ページ ✔ リンク確認済アクションリサーチを「新しい英語授業研究」として日本の英語の先生向けに紹介した本
- 浦野研, 亘理陽一, 田中武夫, 藤田卓郎, 髙木亜希子・酒井英樹 (2016). はじめての英語教育研究:押さえておきたいコツとポイント. 研究社 本の紹介ページ ✔ リンク確認済英語の先生が自分で研究を始めるときの手順とコツをまとめた入門書
- Wallace, M. J. (1998). Action Research for Language Teachers. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済語学教師向けのアクションリサーチの手引き
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







