🔍
🎓 大学院で学ぶこと📐理論中学校高校大学・院📖 約16分

英語教育を変えた古典的研究15 ― 何がわかって、いまどう評価されているか

Krashen、Long、Swain、Schmidt、Lyster & Ranta、Norris & Ortega……研修や論文で名前だけ聞く「あの研究」は、実際に何をして、何がわかり、その後どう評価されたのか。15本を、追試や批判まで含めて読み解きます。

エビデンスの強さ:個々の研究の効果を判定するページではなく、古典的研究の内容とその後の評価の案内。各研究の内容は要旨・本文、その後の評価はメタ分析・追試・総説の要旨で確かめた。

🛡️
このページのウラ取り 出典 44 件 ― 原田英語.comが集めて読んだ論文・専門書・公的資料。DOI・ISBN・公式ページは書誌データベースとも照合済み 原田英語.comと校閲担当が、主張と出典を1つずつ照合・AI(Codex)による独立チェック済み(2026-10-18) ウラ取りの仕組み →
英語教育を変えた古典的研究15 ― 何がわかって、いまどう評価されているかのイメージ
💡3行まとめ
  • 古典的研究は「答え」ではなく「問いの出発点」。その後の追試・メタ分析で、多くが条件つきの結論に書きかえられています。
  • インプット・やり取り・アウトプット・気づき、年齢、不安・動機・WTC、誤り訂正、語彙のしきい値など、いまの授業の常識の多くがこの15本から始まりました。
  • 古典を読むときは、「何人を・どこで・どう測ったか」と「その後どうなったか」をセットで確かめましょう。

古典的研究ってなに? なぜ今さら読むの?

ひとことで言うと、古典的研究は「その後の研究の出発点になった、有名な研究」で、正しい答えというより「その後の研究が受け継ぐ大事な問いを示した研究」です。

英語教育の本や研修では、「Krashen によると」「Lyster & Ranta の分類では」のように、説明なしで研究者の名前が出てきます。古典的研究とは、こうしたその後の研究の出発点になった研究のことです。

つまり実際には、古典は「正しいから有名」なのではなく、「その後の研究が受け継ぐ問いや調べ方を示したから有名」なことが多いのです。たとえば、読解に必要な既知語率を「98%」と示した研究は、その後の追試で完全には再現されていません 1。それでも、「知らない単語の割合と読解はどう関係するか」という問いの立て方は、いまも語彙研究の中心にあります。

🎈たとえるなら

古典的研究は、山の登山口の案内板です。案内板が立った時点の地図は、その後の調査で書きかえられているかもしれません。でも、どこから登り始めたのかを知っていると、今の地図(最新の研究)がなぜその形をしているのかが、ぐっとわかりやすくなります。大事なのは、案内板だけを見て山頂の様子を決めつけないことです。

似たものとのちがい

古典的研究 その後の追試 メタ分析
役わり その後の研究が受け継ぐ問いを示した 同じ問いを、別の人・別の場所で確かめ直す たくさんの研究の結果をまとめて、全体の傾向を見る
このページでの例 Hu & Nation (2000):十分な理解には既知語約98%が必要と推定 2 98%の結果は完全には再現されなかった 1 Norris & Ortega (2000):指導の効果をまとめた 3
読むときの注意 「何人を・どこで・どう測ったか」を確かめる 古典と条件がどうちがうかを見る どんな研究を集めたかを見る(論文の読み方)

このページでわかること3つ

  1. 15本の古典的研究が、それぞれ何をして、何がわかったのか(早見表と1本ずつの解説)
  2. その後の追試や、研究をまとめた論文・批判で、いまどう評価されているか
  3. 古典の知識を、研修や授業づくりでどう使うか

15本の早見表

# 研究 ひとことで その後の評価
1 Krashen (1982) 理解できるインプットが習得の土台 強く批判されたが、考え方は形を変えて生きている
2 Long (1983) やり取りでの「調整」が理解を助ける 実験で、やり取りと文法の発達の関係が支持された
3 Swain & Lapkin (1995) アウトプットが「気づき」を起こす 実験・教室研究で発展
4 Schmidt (1990) 気づかなければ学べない 強い批判あり。視線計測などで検証中
5 Johnson & Newport (1989) 移住年齢と文法力:臨界期 追試で再現。学校の英語への当てはめには慎重論
6 Horwitz ほか (1986) 外国語の教室に特有の不安 メタ分析で成績との負の関係を確認
7 Gardner の研究群 統合的動機づけ 動機づけそのものの方が成績と強く関係
8 VanPatten & Cadierno (1993) インプットの処理を教える 短期・対象が狭いとの指摘
9 Munro & Derwing (1995) なまりと「通じやすさ」は別 発音指導の目標を変えた
10 Truscott (1996) 作文の添削は廃止すべき その後の研究で反証が増えた
11 Lyster & Ranta (1997) 6種類の訂正と生徒の反応 メタ分析でプロンプトの効果を確認
12 Yashima (2002) 国際的志向性と WTC 日本発のモデルとして広く引用
13 Norris & Ortega (2000) 指導の効果のメタ分析 再分析で明示の優位は確認。別のメタ分析では差は小さい
14 Hu & Nation (2000) 十分な理解には既知語約98%が必要と推定 追試で完全には再現されず
15 Laufer & Hulstijn (2001) 関与負荷仮説 メタ分析で一部(評価)が強く支持

1つずつ読み解く

① Krashen (1982):インプット仮説

言語学者の Stephen D. Krashen 氏は5つの仮説を示しました。中心は、意識して学んだ知識(learning)と自然に身についた知識(acquisition)を分ける考え方と、「今の力より少し上(i+1)を含むインプットを、意味に注意して理解すること」が習得の条件だとするインプット仮説です 4。英語の文法形態素には、学習者に共通の習得順序がある(自然順序仮説)とも主張しました。

その後:「理論として満たすべき条件を満たしていない」と強く批判され、一度は退けられました。しかし2021年の再評価論文は、考え方の多くが今の研究に生きていると論じています。たとえば、暗示的・明示的学習の区別、決まった順序での発達、インプットの中心的な役割です 5。習得順序については、12研究・924人のデータをまとめたメタ分析が、目立ちやすさ・頻度など5つの要因の組み合わせで順序の大部分を説明できると報告しました 6。

② Long (1983):やり取りの調整

母語話者と学習者の会話を分析し、インプットそのものを簡単にするより、聞き返し・確認・言い直しといった会話のやり取りの調整のほうが広く一貫して見られ、理解を助けると論じました 7。

その後:成人学習者34人の実験で、タスクでのやり取りが疑問文の発達を助け、とくに能動的に参加することが大切だと示されました 8。

③ Swain & Lapkin (1995):アウトプット仮説

話したり書いたりするとき、学習者は「言いたいことが言えない」という問題に気づき(例:「昨日〜へ行った」と言おうとして、went が出てこない)、それが自分の言い方を直すきっかけになる。そのあいだに起きている頭の中の処理こそが学習の一部だ、と論じました 9。

その後:関係節の実験では、アウトプットをした学習者のほうが、同じ英文を理解のために読んだだけの学習者より伸びました 10。中学2年のフランス語イマージョンの生徒ペアの分析では、対話そのものが言語学習の道具になる様子が示されています 11。

④ Schmidt (1990):気づき仮説

心理学の研究をもとに、インプットが取り込まれる(intake)には、意識的に「気づく」ことが必要かつ十分な条件だと論じました 12。

その後:第二言語教育の研究者 John Truscott 氏は、心理学的な基礎が弱く、検証できる予測が立てにくいと批判し、「気づきは文法の説明的知識には必要だが、使える力には必要ない」と仮説を絞り直すべきだと主張しました 13。一方、上級学習者28人の視線計測の研究では、未知語を長く見た学習者ほど、予告なしの単語テストで認識できていました 14。

⑤ Johnson & Newport (1989):臨界期

3〜39歳でアメリカに移住した46人の英語の文法力を調べ、思春期までは到着年齢が早いほど成績が高く、思春期以降は低くばらつきが大きいことを示しました 15。

その後:第二言語の習得と練習を研究する Robert M. DeKeyser 氏はハンガリー語話者57人で結果を再現し、大人で始めて高得点だった少数の人は言語分析能力が高かったと報告しました 16。約67万人のデータからは、文法を学ぶ力が17.4歳ごろまで保たれると推定されています 17。ただし、学校で外国語を学ぶ環境では、開始年齢より英語にふれる量と質のほうが成績をよく予測した研究もあります 18。

⑥ Horwitz, Horwitz & Cope (1986):外国語の教室の不安

外国語の授業で感じる不安を、人前で話すときのあがりやテスト不安と同じように、その場面に特有の不安として捉える考え方を打ち出しました 1920。それ以前の研究では「不安」の定義がばらばらで、成績との関係もはっきりしなかったと、外国語不安を研究してきた Elaine K. Horwitz 氏自身がのちの総説で振り返っています 20。

その後:97報告・105サンプル(19,933人)のメタ分析で、不安と成績の相関は平均 r = −.36 でした 21。不安と成績が共有するばらつきは約13%(r の2乗)に当たり、無視できない関係です。ただし相関なので、不安が成績を下げるのか、成績が低いから不安になるのかは、この数字だけでは区別できません。

⑦ Gardner の研究群:統合的動機づけ

第二言語学習の動機づけを研究した Robert C. Gardner 氏らは、統合性(その言語を話す人々や文化への関心)などの態度と動機づけが第二言語の成績にどう関係するかを、社会教育モデルとして理論化し、質問紙(AMTB)で測る研究を重ねました 22。

その後:Gardner 氏らの75サンプル(10,489人)のメタ分析では、成績と最も強く関係したのは統合性や学ぶ理由(統合的・道具的な志向)ではなく、動機づけそのものでした 22。その後、動機づけ研究の中心は「理想の英語を使う自分」を軸にする L2 動機づけ自己システムに移ります 23。ただし、そのメタ分析(32,078人)では、理想の L2 自己は「努力するつもり」とは強く関係する(r = .61)一方、実際の成績との関係は弱いものでした(r = .20) 24。

⑧ VanPatten & Cadierno (1993):処理指導

文法を説明して書かせる・言わせる従来の指導と、インプットの正しい処理のしかたを練習させる指導(処理指導)を比べました。処理指導を受けた群は理解と産出の両方で伸び、従来の指導の群は産出だけが伸びました 25。

その後:レビューは、処理指導の研究のほとんどが短期間で、対象の文法項目や学習者(多くはアメリカの大学生)が狭いため、「説明も産出練習も不要」という結論を一般化するのはまだ早いと指摘しています 26。

⑨ Munro & Derwing (1995):なまりと通じやすさ

中国語母語話者の英語を英語母語話者18人が聞き、なまりの強さ・わかりやすさ・実際に聞き取れたか(書き取り)を別々に測りました。発話の多くは聞き取りやすかった一方、なまりの判定は幅広く、なまりが強くても通じにくいとは限らないことを示しました 27。

その後:この区別をもとに、発音指導は「相手に通じること」を第一の目標にすべきだという提案が広がりました 28。

⑩ Truscott (1996):添削廃止論

作文の文法添削は、効果を示す研究がなく、理論的にも効果が期待できず、害もあるので廃止すべきだと主張しました 29。

その後:268人の研究で、包括的な添削が新しい作文の正確さも高めました 30。21研究のメタ分析も、添削は正確さを高めうるが、効果は習熟度や環境に左右されると結論しています 31。

⑪ Lyster & Ranta (1997):6種類の訂正と生徒の反応

カナダの小学校のイマージョン教室4クラス(18.3時間)の授業を記録し、先生の訂正を6種類に分類しました。最も多いリキャスト(正しく言い直す)は、生徒自身の修正をほとんど引き出さず、ヒントを出す・ルールに気づかせる・聞き返す・くり返すといった訂正のほうが、生徒自身の修正につながっていました 32。

その後:教室研究15本のメタ分析で、訂正の効果は持続し、プロンプト(自分で直させる訂正)がリキャストより効果的でした 33。ただし、訂正への直後の反応(uptake)や、その中の正しい言い直し(repair)が多いことと、長期的に身につくことは同じではありません 34。

⑫ Yashima (2002):国際的志向性と WTC

日本の英語教育学者で WTC 研究で知られる八島智子氏が、日本の大学生297人のデータを、構造方程式モデリング(いくつもの要因のつながり方をまとめて調べる統計の方法)で分析しました。その結果、「国際的志向性」(国際社会への関心や態度)は、動機づけを通して英語力につながっていました。また、動機づけは自信を通して話そうとする気持ち(WTC)につながり、国際的志向性から WTC への直接の道筋もあることを示しました 35。

その後:日本の10代の学習者160人の研究で、WTC が実際のコミュニケーションの頻度につながるモデルが確かめられました 36。WTC の考え方の土台は、第二言語のコミュニケーションを研究する Peter D. MacIntyre 氏らのピラミッド型モデルです 37。

⑬ Norris & Ortega (2000):指導の効果のメタ分析

1980〜1998年の実験・準実験49研究をまとめ、焦点を絞った指導は大きな効果があり、明示的な指導が暗示的な指導より効果的で、効果は長続きすることを示しました 3。研究を統合するメタ分析の手順そのものを詳しく報告した論文でもあります 3。

その後:新しい研究を加えた再分析でも明示的な指導の優位は確認されましたが 38、54研究の別のメタ分析では明示と暗示の差は小さく、テストの形式などのほうが効果を左右していました 39。

⑭ Hu & Nation (2000):既知語98%

知らない語の割合を変えた英文を読ませ、辞書なしで十分に理解するには既知語が約98%必要だと結論しました。この研究はニュージーランドの大学生66人の回帰分析にもとづいています 21。

その後:スリランカの成人学習者104人での追試では、元の結果は完全には再現されませんでした 1。別の研究は、最低ライン95%・理想98%という2段階のしきい値を提案しています 40。

⑮ Laufer & Hulstijn (2001):関与負荷仮説

単語がどれだけ残るかは、課題が生む「必要(need)」「検索(search)」「評価(evaluation)」の3つの関与の度合いに左右される、と予測する関与負荷仮説を提案しました 41。

その後:42研究(4,628人)のメタ分析で、仮説は語彙学習を有意に予測しましたが、説明できたのは効果のばらつきの一部(直後テストで15.0%、遅延テストで5.1%)でした。最も効いたのは「評価」、次が「必要」で、「検索」は学習に寄与していませんでした 42。

明日の授業でこうする

✏️古典を授業と研修に生かす5ステップ
  1. 気になる1本を選ぶ:早見表から、自分の悩みに近い研究を1本。訂正に悩むなら⑪、単語なら⑭⑮。
  2. 原典の要旨を読む:英語の要旨は1段落ほどです。「誰を・何人・どこで・何を測ったか」に線を引きます(読み方は 論文の読み方)。
  3. 「その後」を1本読む:このページの「その後」に挙げた追試や、研究をまとめた論文の要旨を読み、結論がどう変わったかを確かめます。
  4. 授業で小さく試す:たとえば⑪なら、1週間だけ「言い直し」を「ヒント→自分で直す」に変えてみる(例:生徒が I go to Kyoto yesterday. と言ったら、正しい文を言ってあげる代わりに Think about the past tense. と声をかけ、生徒に言い直してもらう)。
  5. 研修で5分紹介する:「古典の主張→その後の評価→うちのクラスへの示唆」の3枚のスライドにまとめると、同僚にも伝わります。
🗣️先生の英語(そのまま使える)
TCan you say that again? I didn't catch it.
TAlmost! Think about the past tense. Try again.
TYou don't need to understand every word. Just get the main idea.
TMistakes are OK. They show me you are trying.
TLet's choose the best word together. Which one sounds better here?
🏫実例
  • 中学校:⑪をもとに、スピーキング活動での訂正を「What's the past form of go?」のようなヒント型に変え、生徒が自分で言い直せた回数を記録した。
  • 高校:⑭⑮を研修で紹介し、多読用の本は「本文の100語あたり知らない語がおよそ2語」を目安にしつつ数ページ試し読みして選び、単語の練習は「文脈に合う語を自分で選ぶ(評価)」課題を増やすことにした。
  • 小学校:⑥と⑫をもとに、人前でいきなり英語を言わせず、ペア→小グループ→全体の順に話す場を広げて、不安を下げる工夫をした。
⚠️よくある失敗
  • 古典の結論を「最新の答え」として紹介する:98%も臨界期も、その後の研究で条件がついています 118。「その後」とセットで。
  • 研究の対象を確かめない:⑤は移住した人、⑪はカナダのイマージョン教室、⑭はニュージーランドの大学生。日本の中高にそのまま当てはまるとは限りません。
  • 名前だけで引用する:本や研修で見た説明だけで「Krashen によると」と言うのは危険です。最低でも要旨を読みましょう。
  • 相関を因果と読む:⑥の不安と成績、⑦の動機づけと成績は相関の研究です。「不安を下げれば成績が上がる」とまでは、これらの数字だけでは言えません。

❓ よくある質問

Q. 「既知語98%で読める」は今も正しいですか?

目安として扱うのが安全です。Hu & Nation (2000) はニュージーランドの大学生66人の回帰分析から、既知語が約98%必要だと結論しましたが、スリランカの成人学習者104人での追試では完全には再現されませんでした 21。最低ライン95%・理想98%という2段階のしきい値の提案もあります 40。

Q. Lyster & Ranta (1997) では何がわかりましたか?

カナダの小学校のイマージョン教室の授業を記録し、先生の訂正を6種類に分類しました。最も多いリキャストは生徒自身の修正をほとんど引き出さず、ヒントを出す・聞き返すなどの訂正のほうが修正につながっていました 32。その後のメタ分析では、プロンプトがリキャストより効果的でした 33。

Q. Krashen のインプット仮説は否定されたのですか?

強く批判され、一度は退けられました。しかし2021年の再評価論文は、考え方の多くが今の研究に生きていると論じています。たとえば、暗示的・明示的学習の区別、決まった順序での発達、インプットの中心的な役割です 5。

Q. 外国語の授業の不安は成績と関係がありますか?

外国語不安を研究してきた Elaine K. Horwitz 氏らは、外国語の授業で感じる不安を、その場面に特有の不安として捉えました 19。その後の105サンプル(19,933人)のメタ分析では、不安と成績の相関は平均 r = −.36 でした 21。ただし相関なので、どちらが原因かはこの数字だけでは区別できません。

Q. 古典的研究を読むときの注意は?

「何人を・どこで・どう測ったか」と「その後の追試でどうなったか」をセットで確かめます。臨界期の研究は移住した人、Lyster & Ranta はカナダのイマージョン教室、Hu & Nation はニュージーランドの大学生が対象で、日本の中高にそのまま当てはまるとは限りません。第二言語研究では、追試として発表される研究は約400本に1本しかありません 43。

🎓 もう一歩深く(大学院レベル)

🎓院生モード古典が「書きかえられる」3つのパターン

15本の「その後」を並べると、古典の評価が変わるパターンは大きく3つに分けられます。

  1. 条件がつく:⑤の臨界期は、移住した学習者の到達度の研究から出発しましたが、学校の外国語学習ではインプットの量と質の影響が大きいことがわかってきました 18。DeKeyser 氏の追試は、臨界期の対象を暗示的学習のしくみに限定して捉え直しています 16。
  2. 構成概念が分解される:⑦の動機づけ研究では、統合性よりも動機づけそのものが成績と強く関係するという結果から 22、理想の自己を軸にする枠組みへの転換が起きました 23。
  3. 数字が追試でゆらぐ:⑭の98%は、66人の回帰分析にもとづく推定であり、異なる集団での追試では完全には再現されませんでした 1。

第二言語研究の追試を調べたレビューでも、26誌で「追試」と名乗る67本を集めて推定したところ、追試は約400本に1本で、その67本の中に元の研究と同じ条件で行う直接追試はありませんでした 43。古典の「数字」を授業の絶対的な基準として扱うのではなく、目安として扱う態度が必要です。

🎓院生モード「訂正への反応(uptake)」は習得の証拠か

⑪の研究をした第二言語習得研究者の Roy Lyster 氏と Leila Ranta 氏は、訂正への直後の反応(uptake)を、誤りが修正された反応(repair)と、なお修正が必要な反応(needs-repair)に分けて分析しました。repair には、先生が示した正しい形の繰り返しも含まれます 32。しかし、その場で言い直せることと、後で自分から使えるようになることは同じではありません。Lyster 氏ほかの総説は、uptake の役割や、訂正の目的が「新しい知識を作ること」なのか「すでにある知識を固めること」なのかを、論争の続く論点として整理しています 34。

さらに、どの訂正が効くかは教室の性格で変わるかもしれません。フランス語イマージョンでは生徒の修正をいちばん多く引き出したのがプロンプトだったのに対し、日本語イマージョンではリキャストでした。この比較から、教室のふだんの傾向と逆向きのフィードバックが効きやすいという counterbalance 仮説が提案されています 44。古典の分類は、いまも新しい問いを生み続けています。

🎓院生モード古典を自分で読むための入手ルート

15本のうち、Krashen (1982) は著者のサイトで全文が公開されています 4。Hu & Nation (2000) は、オープンアクセスの学術誌 Reading in a Foreign Language に掲載されています 2。ほかの多くは学術誌の有料論文ですが、要旨は誰でも読めます。

古典に当たるときは、①原典の要旨、②その研究を引用している新しいまとめの論文(総説など)、③追試の順に読むと、その研究が「どこから登った登山口で、今の地図ではどう見えるか」がわかります。どの論争の出発点になった研究なのかは、英語教育学の10大論争 でも整理しています。論文の探し方は 論文の探し方・読み方の実践 を参考にしてください。

🎁 玉手箱で使えるツール

原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。

📑 出典(44件)

本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。

  1. Kremmel, B., Indrarathne, B., Kormos, J., & Suzuki, S. (2023). Unknown vocabulary density and reading comprehension: Replicating Hu and Nation (2000). Language Learning, 73(4), 1127-1163. doi:10.1111/lang.12622 ✔ DOI照合済Hu & Nation (2000) の「既知語98%」の研究を、スリランカの成人学習者104人で追試。元の結果は完全には再現されなかった
  2. Hu, M. H.-C., & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403-430. doi:10.64152/10125/66973 ✔ DOI照合済知っている語が98%ほどないと、助けなしで物語を十分に理解するのは難しいと示した研究
  3. Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417-528. doi:10.1111/0023-8333.00136 ✔ DOI照合済第二言語の指導効果をまとめた最初の本格的メタ分析(49研究)。明示的な指導が暗示的な指導より効果的
  4. Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済インプット仮説・情意フィルター仮説など、クラッシェンの5つの仮説をまとめた本(著者サイトで全文公開)
  5. Lichtman, K., & VanPatten, B. (2021). Was Krashen right? Forty years later. Foreign Language Annals, 54(2), 283-305. doi:10.1111/flan.12552 ✔ DOI照合済クラッシェンの仮説の多くが、名前を変えて今のSLA研究に生きていると論じた再評価論文
  6. Goldschneider, J. M., & DeKeyser, R. M. (2001). Explaining the "natural order of L2 morpheme acquisition" in English: A meta-analysis of multiple determinants. Language Learning, 51(1), 1-50. doi:10.1111/1467-9922.00147 ✔ DOI照合済英語の文法形態素の「習得順序」を、目立ちやすさ・頻度など5要因で説明したメタ分析
  7. Long, M. H. (1983). Native speaker/non-native speaker conversation and the negotiation of comprehensible input. Applied Linguistics, 4(2), 126-141. doi:10.1093/applin/4.2.126 ✔ DOI照合済会話の「やり取りの調整」でインプットが理解可能になると論じた、インタラクション仮説の出発点の論文
  8. Mackey, A. (1999). Input, interaction, and second language development: An empirical study of question formation in ESL. Studies in Second Language Acquisition, 21(4), 557-587. doi:10.1017/S0272263199004027 ✔ DOI照合済やり取り(インタラクション)が疑問文の発達を助けるかを調べた実験。自分からやり取りに参加することの大切さを示した
  9. Swain, M., & Lapkin, S. (1995). Problems in output and the cognitive processes they generate: A step towards second language learning. Applied Linguistics, 16(3), 371-391. doi:10.1093/applin/16.3.371 ✔ DOI照合済話す・書く(アウトプット)ときに自分の言えなさに気づき、表現を修正することが学習につながると論じた論文
  10. Izumi, S. (2002). Output, input enhancement, and the noticing hypothesis: An experimental study on ESL relativization. Studies in Second Language Acquisition, 24(4), 541-577. doi:10.1017/S0272263102004023 ✔ DOI照合済アウトプット課題と文字の強調を比べた実験。アウトプットをした群の方が関係節の学習が進んだ
  11. Swain, M., & Lapkin, S. (1998). Interaction and second language learning: Two adolescent French immersion students working together. The Modern Language Journal, 82(3), 320-337. doi:10.1111/j.1540-4781.1998.tb01209.x ✔ DOI照合済ジグソー課題で話を書き上げる中学生ペアの会話から、対話が言語学習の道具になることを示した研究
  12. Schmidt, R. W. (1990). The role of consciousness in second language learning. Applied Linguistics, 11(2), 129-158. doi:10.1093/applin/11.2.129 ✔ DOI照合済インプットの中の形に「気づく」ことが学習に必要だとする気づき仮説の論文
  13. Truscott, J. (1998). Noticing in second language acquisition: A critical review. Second Language Research, 14(2), 103-135. doi:10.1191/026765898674803209 ✔ DOI照合済気づき仮説への批判。気づきが必要なのはメタ言語知識についてだけではないかと主張
  14. Godfroid, A., Boers, F., & Housen, A. (2013). An eye for words: Gauging the role of attention in incidental L2 vocabulary acquisition by means of eye-tracking. Studies in Second Language Acquisition, 35(3), 483-517. doi:10.1017/S0272263113000119 ✔ DOI照合済視線計測で、未知語を長く見た学習者ほど後で覚えていたことを示した研究
  15. Johnson, J. S., & Newport, E. L. (1989). Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language. Cognitive Psychology, 21(1), 60-99. doi:10.1016/0010-0285(89)90003-0 ✔ DOI照合済アメリカに移住した年齢と英語の文法力の関係を調べ、臨界期を支持した古典的研究(46人)
  16. DeKeyser, R. M. (2000). The robustness of critical period effects in second language acquisition. Studies in Second Language Acquisition, 22(4), 499-533. doi:10.1017/S0272263100004022 ✔ DOI照合済大人で母語話者並みに近づけたのは言語分析能力の高い人だけだった、というハンガリー系移民57人の研究
  17. Hartshorne, J. K., Tenenbaum, J. B., & Pinker, S. (2018). A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers. Cognition, 177, 263-277. doi:10.1016/j.cognition.2018.04.007 ✔ DOI照合済約67万人のオンライン文法テストから、文法を学ぶ力は17歳ごろまで保たれその後下がると推定した研究
  18. Munoz, C. (2014). Contrasting effects of starting age and input on the oral performance of foreign language learners. Applied Linguistics, 35(4), 463-482. doi:10.1093/applin/amu024 ✔ DOI照合済開始年齢より、触れた英語の量と質(とくに質の高いインプットとの接触)の方が話す力をよく予測した研究
  19. Horwitz, E. K., Horwitz, M. B., & Cope, J. (1986). Foreign language classroom anxiety. The Modern Language Journal, 70(2), 125-132. doi:10.1111/j.1540-4781.1986.tb05256.x ✔ DOI照合済外国語の授業に特有の不安(外国語不安)を提唱し、測定尺度 FLCAS を示した論文
  20. Horwitz, E. K. (2010). Foreign and second language anxiety. Language Teaching, 43(2), 154-167. doi:10.1017/S026144480999036X ✔ DOI照合済外国語不安の研究史を年表形式でたどった Horwitz 自身による総説。1980年代半ばに「外国語の場面に特有の不安」が見いだされた経緯をまとめる
  21. Teimouri, Y., Goetze, J., & Plonsky, L. (2019). Second language anxiety and achievement: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 41(2), 363-387. doi:10.1017/S0272263118000311 ✔ DOI照合済外国語不安と成績の関係をまとめたメタ分析(105サンプル・約2万人)
  22. Masgoret, A.-M., & Gardner, R. C. (2003). Attitudes, motivation, and second language learning: A meta-analysis of studies conducted by Gardner and associates. Language Learning, 53(1), 123-163. doi:10.1111/1467-9922.00212 ✔ DOI照合済ガードナーらの研究(75サンプル・10,489人)のメタ分析。成績と最も強く関係したのは「動機づけ」そのもの
  23. Dörnyei, Z., & Ushioda, E. (2009). Motivation, Language Identity and the L2 Self. Multilingual Matters doi:10.21832/9781847691293 ✔ DOI照合済「理想の L2 自己」を中心とする L2 動機づけ自己システムを打ち出した論文集
  24. Al-Hoorie, A. H. (2018). The L2 motivational self system: A meta-analysis. Studies in Second Language Learning and Teaching, 8(4), 721-754. doi:10.14746/ssllt.2018.8.4.2 ✔ DOI照合済「理想の L2 自己」などの動機づけ理論と、努力・成績の関係をまとめたメタ分析(約3万2千人)
  25. VanPatten, B., & Cadierno, T. (1993). Explicit instruction and input processing. Studies in Second Language Acquisition, 15(2), 225-243. doi:10.1017/S0272263100011979 ✔ DOI照合済インプットの処理のしかたを練習させる「処理指導(PI)」を従来の文法指導と比べた実験
  26. DeKeyser, R., & Prieto Botana, G. (2015). The effectiveness of processing instruction in L2 grammar acquisition: A narrative review. Applied Linguistics, 36(3), 290-305. doi:10.1093/applin/amu071 ✔ DOI照合済処理指導の研究を批判的にふり返ったレビュー
  27. Munro, M. J., & Derwing, T. M. (1995). Foreign accent, comprehensibility, and intelligibility in the speech of second language learners. Language Learning, 45(1), 73-97. doi:10.1111/j.1467-1770.1995.tb00963.x ✔ DOI照合済なまりが強くても、話が伝わる(明瞭性が高い)ことは多いと示した研究
  28. Derwing, T. M., & Munro, M. J. (2005). Second language accent and pronunciation teaching: A research-based approach. TESOL Quarterly, 39(3), 379-397. doi:10.2307/3588486 ✔ DOI照合済なまり・わかりやすさ・明瞭性を区別して、発音指導の優先順位を考えるよう提案した論文
  29. Truscott, J. (1996). The case against grammar correction in L2 writing classes. Language Learning, 46(2), 327-369. doi:10.1111/j.1467-1770.1996.tb01238.x ✔ DOI照合済作文の文法訂正は効果がなく有害なのでやめるべきだと主張し、大論争を起こした論文
  30. van Beuningen, C. G., de Jong, N. H., & Kuiken, F. (2012). Evidence on the effectiveness of comprehensive error correction in second language writing. Language Learning, 62(1), 1-41. doi:10.1111/j.1467-9922.2011.00674.x ✔ DOI照合済第二言語を学ぶ生徒268人。全部の誤りへの訂正でも新しい作文の正確さが伸び、文が単純化することもなかった
  31. Kang, E., & Han, Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99(1), 1-18. doi:10.1111/modl.12189 ✔ DOI照合済英作文の添削(筆記の誤り訂正)が正確さを高めるかを調べたメタ分析(21研究)
  32. Lyster, R., & Ranta, L. (1997). Corrective feedback and learner uptake: Negotiation of form in communicative classrooms. Studies in Second Language Acquisition, 19(1), 37-66. doi:10.1017/S0272263197001034 ✔ DOI照合済教室の誤り訂正を6種類に分類し、生徒の反応(アップテイク)を調べた古典的研究
  33. Lyster, R., & Saito, K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32(2), 265-302. doi:10.1017/S0272263109990520 ✔ DOI照合済教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)。リキャストよりプロンプトの効果が大きい
  34. Lyster, R., Saito, K., & Sato, M. (2013). Oral corrective feedback in second language classrooms. Language Teaching, 46(1), 1-40. doi:10.1017/S0261444812000365 ✔ DOI照合済口頭の誤り訂正研究の総説。学習者は先生が思うより訂正を望んでいる傾向がある
  35. Yashima, T. (2002). Willingness to communicate in a second language: The Japanese EFL context. The Modern Language Journal, 86(1), 54-66. doi:10.1111/1540-4781.00136 ✔ DOI照合済日本の大学生297人で WTC を調べ、「国際的志向性」が動機づけと WTC につながることを示した研究
  36. Yashima, T., Zenuk-Nishide, L., & Shimizu, K. (2004). The influence of attitudes and affect on willingness to communicate and second language communication. Language Learning, 54(1), 119-152. doi:10.1111/j.1467-9922.2004.00250.x ✔ DOI照合済日本の高校生を対象に、国際的志向性→WTC→実際のコミュニケーション頻度の流れを確かめた研究
  37. MacIntyre, P. D., Clément, R., Dörnyei, Z., & Noels, K. A. (1998). Conceptualizing willingness to communicate in a L2: A situational model of L2 confidence and affiliation. The Modern Language Journal, 82(4), 545-562. doi:10.1111/j.1540-4781.1998.tb05543.x ✔ DOI照合済第二言語の WTC(話そうとする気持ち)をピラミッド型のモデルで示した論文
  38. Goo, J., Granena, G., Yilmaz, Y., & Novella, M. (2015). Implicit and explicit instruction in L2 learning: Norris & Ortega (2000) revisited and updated. In Rebuschat, P. (Eds.), Implicit and Explicit Learning of Languages (pp. 443-482). John Benjamins doi:10.1075/sibil.48.18goo ✔ DOI照合済Norris & Ortega(2000)を34研究で更新したメタ分析。明示的指導の方が効果が大きかった
  39. Kang, E. Y., Sok, S., & Han, Z. (2019). Thirty-five years of ISLA on form-focused instruction: A meta-analysis. Language Teaching Research, 23(4), 428-453. doi:10.1177/1362168818776671 ✔ DOI照合済35年分(1980〜2015)の形式重視の指導研究54本・約5,000人をまとめたメタ分析
  40. Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners' vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15-30. doi:10.64152/10125/66648 ✔ DOI照合済読解に必要な既知語率を、最低ライン95%・理想98%と整理した研究
  41. Laufer, B., & Hulstijn, J. (2001). Incidental vocabulary acquisition in a second language: The construct of task-induced involvement. Applied Linguistics, 22(1), 1-26. doi:10.1093/applin/22.1.1 ✔ DOI照合済課題の「必要・検索・評価」の度合い(関与負荷)が語の定着を左右するという関与負荷仮説の論文
  42. Yanagisawa, A., & Webb, S. (2021). To what extent does the involvement load hypothesis predict incidental L2 vocabulary learning? A meta-analysis. Language Learning, 71(2), 487-536. doi:10.1111/lang.12444 ✔ DOI照合済関与負荷仮説(必要・検索・評価)が語彙学習をどこまで予測するかを調べたメタ分析(42研究)
  43. Marsden, E., Morgan-Short, K., Thompson, S., & Abugaber, D. (2018). Replication in second language research: Narrative and systematic reviews and recommendations for the field. Language Learning, 68(2), 321-391. doi:10.1111/lang.12286 ✔ DOI照合済第二言語研究の追試(再現研究)の実態を調べたレビュー。追試は約400本に1本と少ない
  44. Lyster, R., & Mori, H. (2006). Interactional feedback and instructional counterbalance. Studies in Second Language Acquisition, 28(2), 269-300. doi:10.1017/S0272263106060128 ✔ DOI照合済日本語イマージョンとフランス語イマージョンの教室を比べ、授業の性格によって効くフィードバックが違うと論じた研究

最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら