勉強法の常識No.S66
「頭が良くなる薬」を飲めば、健康な学生でも頭がぐんと良くなるって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:ウソ
一部の力に小さな効果はあっても、「ぐんと賢くなる」証拠はありません。効果より、期待と実感のほうが大きいのです。
ウソとは… 研究の結果、この常識は支持されません。逆効果のこともあります。
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見た目がそっくりな、2つのカプセルがあります。片方は、アメリカで処方薬として使われている刺激薬。もう片方は、薬の入っていないニセの薬です。
2013年、アメリカのイリエヴァらは、健康な若い大人に、この2つを時期をずらして両方飲んでもらいました。どちらが本物かは、飲む人にも、実験をする人にも知らされません。そのうえで、記憶、衝動を抑える力、創造性、知能、学力など、13の項目を測りました。
結果、参加者全体で見ると、本物の薬はどの力も高めませんでした。ところが参加者たちは、本物のカプセルのほうが、ニセの薬より自分の成績を上げたと信じていたのです。
細かく見ると、もともとの成績が低めの人では、単語を思い出す課題や、図形の課題など、一部で効果がうかがえました。それでも著者らの結論は、健康な若い大人の頭の働きへの効果は、あっても小さい、というものでした。
期待のほうが、効果より大きい
健康な人が、勉強や仕事のために処方薬を飲む。研究者たちによれば、こうした薬は、病気の治療以外の目的でも広く使われていると考えられています。
2010年、ドイツのレパンティスらは、メチルフェニデートとモダフィニルという2つの薬について、健康な人を対象にした実験をまとめました。くじ引きで本物とニセの薬に分け、飲む人が中身を知らないようにした実験だけを集めています。
結論は、これらの薬への期待は、実際の効果を上回っている、というものでした。メチルフェニデートでは記憶の改善が見られましたが、ほかの面で効くという一貫した証拠はありませんでした。モダフィニルは、十分に眠っている人の注意力を高めました。
モダフィニルは、眠っていない人では、目を覚ましておく力や記憶などを、ニセの薬よりよく保ちました。ただ、睡眠不足が長く続くと、くり返し飲んでも、頭の働きが落ちていくのは防げませんでした。目は覚めているため、自分の出来を実際より高く見積もってしまう可能性もある、と著者らは書いています。
48の研究をまとめると「控えめ」
2015年、イリエヴァらは、健康な人が刺激薬を飲んだ48の研究、合わせて1,409人分をメタ分析でまとめました。調べたのは、勉強や仕事に欠かせない力です。衝動を抑える力、作業記憶、短い時間の記憶、そして時間をおいた記憶でした。
衝動を抑える力と、短い時間の記憶には、小さいながら、はっきりした効果がありました。時間をおいた記憶への効果は、中くらいの大きさでした。しかし、記憶や作業記憶の結果には、効果の出た研究ほど発表されやすい偏りの跡が見られました。そのため著者らは、全体としての効果は「おそらく控えめ」と結論しています。
著者らは、場面によっては小さな上乗せでも価値があるかもしれない、とも書いています。一方で、健康な人がこうした薬を使うのは、頭の働きよりも、やる気や元気を高めるためかもしれない、とも指摘しています。
「効いた気がする」に注意
3つの研究に共通するのは、効果そのものより、効くという期待や実感のほうが大きいことです。2013年の実験では、テストの成績が上がっていないのに、参加者は効いたと信じていました。
なお、ここで見た研究が測ったのは、実験室でのテストの成績です。実際の学校の成績が上がるかどうかは、確かめられていません。そして、これらはどれも医師の処方が必要な薬です。勉強のために、自己判断で使うものではありません。
睡眠不足を薬でしのいでも、不足が長く続けば頭の働きは落ちていく。これがレパンティスらのまとめた結果でした。眠る時間を削って薬で補う、という発想そのものが、研究と合っていません。
「飲めば賢くなる薬」を探す時間があるなら、十分に眠ることや、覚えたことを小テストで思い出す練習に使いましょう。地味ですが、確かめられた方法を積み重ねるほうが近道です。
この記事に出てくる用語
- メタ分析
- たくさんの研究の結果をまとめて、全体として効果があるかを計算する方法。1つの研究より信頼できる。
- 想起練習(思い出す練習)
- 教科書を閉じて、自分で答えを思い出す勉強。小テストや問題を解くことも、これにあたる。
参考文献
Repantis D., Schlattmann P., Laisney O., Heuser I. (2010). Modafinil and methylphenidate for neuroenhancement in healthy individuals: A systematic review. Pharmacological Research, 62, 187-206.
doi.org/10.1016/j.phrs.2010.04.002✓ 実在と内容を確認済み
Ilieva I., Hook C., Farah M. (2015). Prescription Stimulants' Effects on Healthy Inhibitory Control, Working Memory, and Episodic Memory: A Meta-analysis. Journal of Cognitive Neuroscience, 27, 1069-1089.
doi.org/10.1162/jocn_a_00776✓ 実在と内容を確認済み
Ilieva I., Boland J., Farah M. (2013). Objective and subjective cognitive enhancing effects of mixed amphetamine salts in healthy people. Neuropharmacology, 64, 496-505.
doi.org/10.1016/j.neuropharm.2012.07.021✓ 実在と内容を確認済み
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