勉強法の常識No.S58
初心者は難しい問題をたくさん解くほど伸びるって、ホント?

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判定:半分ホント
演習は大切です。でも初心者のうちは、難問に挑むより、解き方の例をよく学ぶほうが速く伸びることがあります。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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数学の新しい単元に入った日を想像してください。教科書には、解き方が一行ずつ書かれた例題が載っています。でも、例題は読み飛ばして、いきなり練習問題に挑む。わからなくても、うんうん考えるほうが力がつく気がする。そんな人は少なくないはずです。
たしかに、自分で解く練習は大切です。ただ、それがいつでもいちばんの近道とは限りません。とくに、まだ慣れていない初心者にとっては。
頭の作業台は狭い
1988年、心理学者スウェラーは、「問題を解くこと」と「解き方を身につけること」は、同じ作業ではないと論じました。
得意な人と苦手な人を分けているのは、主に「スキーマ」の量だと考えられています。スキーマとは、「この形の問題は、こう解く」という解き方のパターンを、ひとまとまりにして頭にしまったものです。
初心者は、そのパターンを持っていません。そこで、ゴールといまの状態を見比べて、差を縮める手をひとつずつ探します。これを「手段目標分析」といいます。スウェラーによると、このやり方は頭の処理の力を大量に使います。その結果、パターンを身につけるための余力が残らない、というのです。スウェラーは、計算機のモデルと実験の結果も、この考えを支えると報告しています。
頭の中の作業台を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。台の上が「どうやって解こう」で埋まっていると、「この問題の型は何か」を覚える場所がなくなります。
例題で学ぶと、速くて正確になった
スウェラーは、その3年前の1985年に、クーパーと一緒に例題の力を実験で確かめていました。
最初の実験では、9年生、11年生、そして大学で数学を学ぶ学生を比べました。経験のある学生ほど、式を正確に覚えていました。見た目が似ている式でも、解き方の違いで見分けることができました。
続く4つの実験では、代数の式を変形する問題で、例題を使った学び方を試しました。ここでいう例題とは、問題と一緒に、答えにたどり着くまでの途中の式がすべて書いてあるものです。例題は、ふつうの問題を解くより、学ぶのにかかる時間がずっと短くて済みました。しかも、そのあとで似た問題を解かせると、例題で学んだ人のほうが速く解き、計算の間違いも少なかったのです。
ただし、この効果は、例題と同じ形の問題に限られていました。初心者の頭の中では、一般的なルールが、まだ少しの型としてしか身についていません。広く使えるルールを引き出すには、かなりの練習と、いろいろな型に触れることが必要だ、と2人は結論しています。
慣れた人には、例題が逆効果になることも
では、例題をずっと読んでいればいいのでしょうか。ここが「半分ホント」の理由です。
2003年、カリューガ、スウェラーらは、学習者の経験によって、教え方の効果が逆転することを、それまでの研究からまとめました。初心者によく効くやり方が、経験を積んだ学習者には効かなくなり、ときには逆効果にさえなるのです。彼らはこれを「熟達の逆転効果」と名づけました。
すでに解き方の型を持っている人にとって、丁寧な例題は、知っていることをもう一度たどる手間になると考えられます。そうなれば、自分で解く練習に時間を使うほうが得です。
例題から、だんだん手を離す
まとめると、「難しい問題をたくさん解くほど伸びる」は、慣れてきた人には当てはまりやすく、初心者には当てはまりにくい、ということになります。
原田英語のおすすめは、次の順番です。新しい単元では、まず例題を1問、一行ごとに「なぜこうするのか」を確かめながら読みます。次に、例題を隠して、同じ問題を自分で再現します。それができたら、形の少し違う問題へ進みます。例題を見なくても、同じ型の問題がすらすら解けるようになったら、それが自力の演習に切りかえる合図です。そこからは、難しい問題で頭をひねる時間が、きちんと力に変わっていきます。
最初は補助輪をつけて走り、慣れたら外す。難問に挑むのは、そのあとで十分に間に合います。
参考文献
Sweller J. (1988). Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning. Cognitive Science, 12, 257-285.
doi.org/10.1207/s15516709cog1202_4✓ 実在と内容を確認済み
Sweller J., Cooper G. A. (1985). The use of worked examples as a substitute for problem solving in learning algebra. Cognition and Instruction, 2(1), 59-89.
doi.org/10.1207/s1532690xci0201_3✓ 実在と内容を確認済み
Kalyuga S., Ayres P., Chandler P., Sweller J. (2003). The expertise reversal effect. Educational Psychologist, 38(1), 23-31.
doi.org/10.1207/S15326985EP3801_4✓ 実在と内容を確認済み
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