勉強法の常識No.S39

意志力は使うと減っていく(自我消耗)って、ホント?

判定日 読了 約4分音声 5:02文献 4件

「意志力は使うと減っていく(自我消耗)」のイメージイラスト

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?

先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。

判定:まだ決着していない

「意志力はガソリンのように減る」という有名な説。大規模な追試を2回しても、効果はほとんど見つかっていません。

まだ決着していないとは… 研究結果が割れていて、まだ結論が出ていない常識です。

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テーブルの上に、2つの皿が置いてあります。片方にはチョコレート、もう片方にはラディッシュ(はつか大根)。あなたは、ラディッシュだけを食べるように言われます。チョコレートには手を出してはいけません。

そのあと、別の部屋でパズルを渡されます。どうやっても解けないように作られたパズルです。さて、あなたは何分で投げ出すでしょうか。

ラディッシュを食べさせられた人たち

1998年、アメリカの心理学者バウマイスターらは、この実験を行いました。チョコレートをがまんしてラディッシュを食べた人は、がまんをしなかった人よりも早く、解けないパズルをあきらめました。

ほかの実験でも、同じような結果が出ました。感情をおさえるよう求められた人は、そのあとの文字の並べかえ問題の成績が下がりました。バウマイスターらは、こう考えました。がまんする、選ぶ、感情をおさえる。こうした働きは、どれも同じひとつの「資源」を使っている。そして、その資源には限りがある。使えば減り、減ると次のがまんがきかなくなる。

この考えは「自我消耗」と名づけられ、心理学の中でも広く知られる理論になりました。意志力は筋肉やガソリンのようなもの、というたとえは、自己啓発の本でもくり返し紹介されてきました。

23の研究室で、同じ実験を

ところが、やがて疑問の声が上がり始めます。それまでの実験をまとめた分析では中くらいの効果が出ていましたが、その後の分析では、効果の大きさそのものが疑われました。うまくいった実験ばかりが発表されていた可能性も指摘されました。

そこで2016年、ハガーらは大がかりな確かめ直しを行いました。23の研究室が、前もって決めたまったく同じ手順で実験をします。結果の分析方法も、実験の前に登録しておきます。あとから都合のいい分析を選べないようにするためです。参加者は合わせて2,141人でした。

結果は、効果量0.04。ほぼゼロです。誤差を考えると、効果がまったくない可能性も否定できませんでした。

3,500人でも、もう一度

これで決着したかというと、そうではありません。ハガーらが使ったのは、ひとつの決まった実験手順だけでした。その手順がたまたま合わなかっただけだ、という反論が出ました。

2021年、ヴォースらは、さらに大きな確かめ直しを行いました。今度は36の研究室、3,531人です。手順も2種類用意しました。研究者の中には、1998年の論文の著者のひとりであるムラヴェンも加わっていました。

前もって決めた分析では、効果量は0.06で、意味のある差は見つかりませんでした。データは、効果がないという考えのほうに、4倍ほど合っていました。ただ、決めていた除外の条件を外して全員を分析すると、小さな効果が出ました。また、「疲れた」と強く感じていた人ほど、効果が大きい傾向もありました。この判定を「まだ決着していない」としているのは、そのためです。少なくとも、意志力が減るのだとしても、教科書に載るほどはっきりした現象ではありません。

「もう限界」は、思い込みかもしれない

もうひとつ、考えさせられる研究があります。2010年、ジョブ、ドゥエック、ウォルトンは、「意志力には限りがある」と信じているかどうかで結果が変わるかを調べました。意志力は限られていないと考える人は、がまんの課題のあとでも、自己制御の力が落ちませんでした。長い期間にわたる調査でも、意志力は減ると信じている人ほど、忙しい時期に先のばしや食べすぎが増えていました。

ただし、2021年のヴォースらの大規模な実験では、こうした信念による違いは確かめられませんでした。ここもまた、決着はついていません。

それでも、勉強する人に言えることはあります。夜になって「今日はもう意志力が残っていない」と感じても、それは燃料計がゼロを指しているのとは違うかもしれません。原田英語のおすすめは、まず5分だけ机に向かってみることです。そして、がまんの回数そのものを減らすこと。スマホを別の部屋に置いておけば、がまんする場面はそもそも生まれません。

この記事に出てくる用語
効果量
効果の大きさを表す数字。目安は0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きい。
追試
同じ実験をもう一度行い、同じ結果が出るかを確かめること。

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参考文献

  1. Baumeister R., Bratslavsky E., Muraven M., Tice D. (1998). Ego depletion: Is the active self a limited resource?. Journal of Personality and Social Psychology, 74, 1252-1265.

  2. Hagger M., Chatzisarantis N., Alberts H., Anggono C., Batailler C., Birt A. et al. (2016). A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science, 11, 546-573.

  3. Vohs K. D., Schmeichel B. J., Lohmann S., Gronau Q. F., Finley A. J., Ainsworth S. E. et al. (2021). A Multisite Preregistered Paradigmatic Test of the Ego-Depletion Effect. Psychological Science, 32(10), 1566-1581.

  4. Job V., Dweck C. S., Walton G. M. (2010). Ego Depletion—Is It All in Your Head? Implicit Theories About Willpower Affect Self-Regulation. Psychological Science, 21(11), 1686-1693.

文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。

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