勉強法の常識No.S35
読みにくいフォントで書くと、記憶に残りやすいって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:まだ決着していない
読みにくい字のほうが覚えられた、という研究があります。ただ、確かめ直した研究では、効果が出なかった報告も相次いでいます。
まだ決着していないとは… 研究結果が割れていて、まだ結論が出ていない常識です。
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論文のタイトルには、ときどき研究者の遊び心が出ます。
2011年に発表されたある論文のタイトルは、「幸運は大胆な者に味方する(そして斜体の者にも)」でした。ことわざをもじって、読みにくい字体には良いことがある、と主張したのです。
その5年後、この主張を確かめ直した別の論文が出ました。タイトルは「幸運は気まぐれ」。こちらは、効果がなかったという報告でした。
読みにくい字が、深く読ませる?
最初の論文を書いたのは、ディーマンド=ヨーマン、オッペンハイマーらです。
それまでの研究で、読みにくい、わかりにくいといった「すらすら進まない感覚」は、人に情報をより深く処理させることが示されていました。それなら、教材をわざと読みにくい字体にすれば、内容をよく覚えるのではないか。そう考えたのです。
1つ目の研究は、実験室で行われました。読みにくい字体で示した情報は、読みやすい字体の情報より、よく覚えられていました。2つ目の研究では、舞台を高校の教室に移しました。ここでも同じように良い結果が出ました。
研究チームは、教材の見た目を少し変えるだけで、学習の成果がはっきり改善するかもしれない、とまとめています。もし本当なら、とても手軽な方法です。
覚えやすいフォントの登場
この考えをさらに進めたのが、Sans Forgetica(サンズ・フォーゲティカ)というフォントです。わざと読みにくくデザインされたフォントです。作った人たちは、このフォントで書くと記憶に残りやすくなると主張しました。
2020年、テイラー、ギャリーらは、これを4つの実験で確かめました。参加者は、Sans Forgetica か、ごくふつうのフォントである Arial で書かれた情報を読みます。
たしかに参加者は、Sans Forgetica を読みにくいと感じていました。ところが記憶のテストの成績は、Arial と変わりませんでした。実験によっては、むしろ下がることさえありました。
勉強をわざと少し難しくすると学習が進む、という考え方があり、こうした難しさは「望ましい困難」と呼ばれます。テイラーらの結論は、Sans Forgetica は読みにくさの感覚は生むけれど、望ましい困難にはならない、というものでした。
「目立った」だけではないか
「幸運は気まぐれ」の論文を書いたのは、ルマー、シュヴェッペらです。2016年に発表されました。
彼らは、最初の研究に一つの問題点を見つけていました。読みにくい教材は、読みにくいだけでなく、見慣れない珍しいものでもあります。そのため単に目立って注意を引いただけで、読みにくさそのものの効果ではないのかもしれません。
そこで、最初の研究の1つ目の実験を少し変えた形で、3つの実験を行いました。単語のリストを5つ用意し、読みやすいリストと読みにくいリストの数を入れかえて、どちらが目立つかを変えたのです。結果は、3つの実験のどれでも、学習の成績に違いは出ませんでした。
まだ決着していない理由
読みにくさの効果を示した研究は、たしかにあります。高校の教室での結果も出ています。一方で、確かめ直した研究の結果はまちまちで、ここで紹介した2つでは効果が出ませんでした。そのため、このサイトでは「まだ決着していない」と判定しました。
ただ、少なくとも「このフォントを使えば記憶力が上がる」という話には、慎重になったほうがよさそうです。
原田英語のおすすめは、フォント選びに時間を使うより、効果が確かめられている勉強の工夫に時間を回すことです。本を閉じて思い出す、日をあけてくり返す。こうした方法のほうが、ずっと頼りになります。
参考文献
Diemand-Yauman C., Oppenheimer D., Vaughan E. (2011). Fortune favors the bold (and the italicized): Effects of disfluency on educational outcomes. Cognition, 118, 111-115.
doi.org/10.1016/j.cognition.2010.09.012✓ 実在と内容を確認済み
Taylor A., Sanson M., Burnell R., Wade K., Garry M. (2020). Disfluent difficulties are not desirable difficulties: the (lack of) effect of Sans Forgetica on memory. Memory, 28, 850-857.
doi.org/10.1080/09658211.2020.1758726✓ 実在と内容を確認済み
Rummer R., Schweppe J., Schwede A. (2016). Fortune is fickle: null-effects of disfluency on learning outcomes. Metacognition and Learning, 11(1), 57-70.
doi.org/10.1007/s11409-015-9151-5✓ 実在と内容を確認済み
文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。





