食べ物と頭No.D07
テスト前にブドウ糖をとると、記憶力が上がるって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
出来事の記憶を助けた実験はあります。でも効く場面は限られ、「甘いもので意志力が回復する」説は根拠が弱いです。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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論文での効果ブドウ糖25gで、出来事の記憶は向上。知識を思い出す課題はほぼ変化なし
試験会場で、ブドウ糖のタブレットを口に入れる人を見かけたことはありませんか。脳は、ブドウ糖を主な燃料にして働いています。だから、テストの前にブドウ糖を補えば、頭がよく回るはず。理屈としては、もっともらしく聞こえます。
この話には、2つの別々の主張がまざっています。1つは「ブドウ糖で記憶が良くなる」。もう1つは「甘いもので、すり減った意志力が回復する」。研究を調べると、この2つの評価は、かなり違います。
血液中のブドウ糖と、記憶
血液中のブドウ糖が増えると、記憶などの頭の働きが良くなる。人と動物の研究から、そうした現象が報告されてきました。研究者たちは、これを「ブドウ糖による記憶の促進効果」と呼んでいます。
2011年にスミスらがまとめたレビューでは、その仕組みとして、脳の海馬に注目する説が多く紹介されています。海馬は、新しいことを覚えるのに深く関わる場所です。
効いたのは、どんな記憶か
では、どんな記憶にでも効くのでしょうか。2006年、ライビーらは、若い人と高齢者で確かめました。
参加者は、ブドウ糖25gを溶かした飲み物と、人工甘味料のサッカリンで甘くした飲み物を、日を変えて飲みます。どちらも甘いので、参加者にも研究者にも、どちらの飲み物かはわからないようにしてありました。
そのうえで、2種類の記憶を調べました。1つは、単語のペアを覚えるような、出来事の記憶です。もう1つは、すでに持っている知識を引き出す記憶です。たとえば、ある言葉が、ある仲間に入るかどうかを判断するような課題です。さらに、それぞれの課題を、易しい条件と難しい条件で行いました。
結果、ブドウ糖は出来事の記憶を助けていました。ただし、課題を難しくしても、その助けが大きくなることはありませんでした。
知識を引き出す記憶では、ブドウ糖の効果はほとんど見られませんでした。例外は、決まった種類の言葉をできるだけたくさん挙げる、難しい課題だけでした。著者らは、ブドウ糖は主に海馬に働きかけ、だから出来事の記憶に効きやすいのだろう、と考えています。
甘いもので、意志力は戻るか
もう一つの主張は、さらに分が悪くなっています。
心理学には、「自我消耗」という考え方がありました。意志力は限りのある資源で、一度我慢に使うと、次の我慢がききにくくなる、という説です。そして一部の研究者は、その資源の正体がブドウ糖ではないかと考えました。
2016年、バディージョらは、このブドウ糖説を確かめた実験を、新しい統計の手法で点検しました。はっきりした結果が出た研究を集めて、その結果の出方が、本物の効果があるときの形になっているかを調べる方法です。すると、報告された効果の大きさは、都合のよい結果ばかりが論文になる「公表の偏り」の影響を受けている可能性がありました。はっきりした結果が出た研究に限っても、証拠としての価値は弱いものでした。著者らは、ブドウ糖が自制心に果たす役割について、今は結論を出すべきではない、としています。
同じ2016年、さらに根本からの検証も発表されました。ハガーらは、23の研究室で、合わせて2141人を対象に、同じ手順で自我消耗の実験をやり直しました。出てきた効果の大きさは0.04で、ほぼゼロでした。意志力がすり減るという現象そのものが、この大規模な追試では、ほとんど見つからなかったのです。
試験前の一粒は、お守りに
まとめると、ブドウ糖が出来事の記憶を少し助ける場面はありそうです。ここまでが、ホントの半分です。ただ、知識を引き出す記憶にはほとんど効かず、実際の試験の点数が上がるかは確かめられていません。意志力を回復させる、という話には、しっかりした根拠がありません。
試験前にブドウ糖のタブレットをひとつ口に入れて落ち着くなら、お守りとしてはよいでしょう。でも、本当に頼りになる準備は、前の日までに済ませておくものです。
覚えたことを何も見ずに思い出してみる練習と、前の晩によく眠ること。原田英語なら、甘い一粒より、こちらに時間を使います。
この記事に出てくる用語
- 追試
- 同じ実験をもう一度行い、同じ結果が出るかを確かめること。
- 想起練習(思い出す練習)
- 教科書を閉じて、自分で答えを思い出す勉強。小テストや問題を解くことも、これにあたる。
参考文献
Smith M., Riby L., van Eekelen J., Foster J. (2011). Glucose enhancement of human memory: A comprehensive research review of the glucose memory facilitation effect. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 35, 770-783.
doi.org/10.1016/j.neubiorev.2010.09.008✓ 実在と内容を確認済み
Riby L., McMurtrie H., Smallwood J., Ballantyne C., Meikle A., Smith E. (2006). The facilitative effects of glucose ingestion on memory retrieval in younger and older adults: is task difficulty or task domain critical? British Journal of Nutrition, 95, 414-420.
doi.org/10.1079/BJN20051649✓ 実在と内容を確認済み
Vadillo M., Gold N., Osman M. (2016). The Bitter Truth About Sugar and Willpower: The Limited Evidential Value of the Glucose Model of Ego Depletion. Psychological Science, 27, 1207-1214.
doi.org/10.1177/0956797616654911✓ 実在と内容を確認済み
Hagger M., Chatzisarantis N., Alberts H., Anggono C., Batailler C., Birt A. et al. (2016). A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science, 11, 546-573.
doi.org/10.1177/1745691616652873✓ 実在と内容を確認済み
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