英語の常識No.E17
話す言語によって、時間の捉え方が変わるって、ホント?

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判定:まだ決着していない
中国語を話す人は時間を「縦」に考える、という有名な研究は、何度も追試で再現されませんでした。それでも議論は続いています。
まだ決着していないとは… 研究結果が割れていて、まだ結論が出ていない常識です。
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中国語では、「先月」を「上个月」、「来月」を「下个月」と言います。直訳すれば「上の月」と「下の月」。時間を上下、つまり縦の向きで表すのです。
英語はどうでしょう。the good days ahead of us(この先のよい日々)のように、英語は時間を前後、つまり横の向きで表すことが多い言葉です。
では、時間を縦で言う言葉を話す人は、頭の中でも時間を縦に並べて考えているのでしょうか。
3月は、4月より前?
2001年、心理学者のボロディツキーは、この問いを実験で調べました。参加者は、中国語(北京語)を母語とする人と、英語を母語とする人です。
実験では、まず画面に、物が縦に並んだ絵か、横に並んだ絵を見せます。そのあと、「3月は4月より前に来る」のような、時間についての文が正しいかどうかを、できるだけ速く答えてもらいました。
中国語を話す人は、縦に並んだ絵を見た直後のほうが、横に並んだ絵を見た直後より、速く答えられました。英語を話す人は、その逆でした。しかも、中国語を話す人は、英語で答えているときでも、縦の傾向を見せました。
ボロディツキーは、ほかにも2つの結果を報告しています。中国語と英語を話す人の中では、英語を学び始めた年齢によって、縦に考える傾向の強さが違っていました。また、英語を母語とする人に、中国語のように時間を縦で言う言い方を教えると、その人たちにも縦の傾向が現れました。
結論は、母語は時間のような抽象的なものの考え方に大きな影響を与えるが、考え方をすべて決めるわけではない、というものでした。
6回と4回、再現できず
この研究は、言葉が考え方を形づくる例として、大きな注目を集めました。ところが、ほかの研究者たちが同じ実験をしても、同じ結果が出ませんでした。
2007年、ジャニュアリーとケイコは、この実験を6回くり返しましたが、一度も元の結果を再現できなかったと報告しました。元の研究の理論的な問題も指摘し、この研究は「言葉が考え方を決める」という仮説を支持していない、と結論しています。
同じ年、チェンも反論を発表しました。チェンは、中国語で時間を表すときに、縦と横の言い方がどのくらい使われているかを調べました。すると、中国語を話す人は、縦の言い方より横の言い方を多く使っていたのです。これでは、言い方の違いを理由に、考え方の違いを説明することはできません。チェンは4回の実験でも、元の結果を再現できませんでした。
まだ終わっていない
では、中国語を話す人と英語を話す人の時間の考え方に、違いはないのでしょうか。話はそれほど単純ではありません。
2011年、ボロディツキーらは、それまでの賛成と反対の証拠を見直したうえで、新しい実験の結果を報告しました。そこでは、中国語を話す人は英語を話す人より、早い時点を上に、遅い時点を下に置いて、時間を縦に考えることが多かったのです。
最初の実験そのものは何度も再現されなかった。でも、別のやり方では違いが見つかった、という報告もある。判定が「まだ決着していない」なのは、このためです。
言葉が考え方を完全に決めてしまう、という強い主張は、今ではほとんど支持されていません。議論されているのは、言葉が考え方にどのくらい、どんな場面で影響するのか、という点です。
表現の違いを、まずは楽しむ
「英語を学ぶと、英語のように考えられるようになる」。魅力的な話ですが、それを強く言い切れるだけの証拠は、まだありません。ひとつの研究の結果だけで、結論を急がないようにしましょう。
それでも、言葉ごとに表し方が違うのは本当です。日本語にも「上旬」「下旬」のように、時間を縦で表す言葉があります。英語で時間がどう表されているか、ahead や behind、before や after に気をつけて読んでみる。そうした表現の違いに気づくことは、それだけで英語の勉強を少しおもしろくしてくれます。
参考文献
Boroditsky L. (2001). Does Language Shape Thought?: Mandarin and English Speakers' Conceptions of Time. Cognitive Psychology, 43, 1-22.
doi.org/10.1006/cogp.2001.0748✓ 実在と内容を確認済み
Chen J. (2007). Do Chinese and English speakers think about time differently? Failure of replicating Boroditsky (2001). Cognition, 104, 427-436.
doi.org/10.1016/j.cognition.2006.09.012✓ 実在と内容を確認済み
January D., Kako E. (2007). Re-evaluating evidence for linguistic relativity: Reply to Boroditsky (2001). Cognition, 104(2), 417-426.
doi.org/10.1016/j.cognition.2006.07.008✓ 実在と内容を確認済み
Boroditsky L., Fuhrman O., McCormick K. (2011). Do English and Mandarin speakers think about time differently? Cognition, 118(1), 123-129.
doi.org/10.1016/j.cognition.2010.09.010✓ 実在と内容を確認済み
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