英語の常識No.E16
外国語で考えると、冷静な判断ができるって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
外国語で考えると、言い方に左右される判断のかたよりが小さくなった実験があります。ただ、いつも良い判断になるとは限りません。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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同じ中身の話でも、言い方を変えるだけで、人の選び方は変わります。心理学では、よく知られた現象です。
たとえば、こんな問題があります。危険な病気が広がっていて、このままでは60万人が亡くなる。薬Aを選べば、20万人が確実に助かる。薬Bを選べば、3分の1の確率で60万人全員が助かるが、3分の2の確率で誰も助からない。
同じ問題を、「亡くなる」の側から言い直すこともできます。薬Aなら、40万人が確実に亡くなる。薬Bなら、3分の1の確率で誰も亡くならないが、3分の2の確率で60万人が亡くなる。
2つの問題は、中身はまったく同じです。それなのに、「助かる」で聞かれると確実な薬Aを選ぶ人が多く、「亡くなる」で聞かれると、賭けに出る薬Bを選ぶ人が増えます。言い方の枠組みで判断が変わるこの現象を、「フレーミング効果」といいます。
外国語で読むと、差が消えた
2012年、シカゴ大学の心理学者ケイサー、ハヤカワ、アンの3人は、この問題を外国語で解いてもらったらどうなるかを調べました。
母語で答えた場合は、いつものフレーミング効果が出ました。ある実験では、「助かる」で聞かれた人の77%が確実な薬Aを選んだのに、「亡くなる」で聞かれると、薬Aを選んだのは47%でした。
ところが、外国語で答えた人たちでは、この差が消えました。英語や韓国語を母語とする人が、日本語、英語、フランス語といった外国語で答えるという組み合わせで、何度か実験をくり返しても、結果は同じでした。外国語で読むと、言い方にまどわされにくくなったのです。
外国語だと内容をよく読まずに、でたらめに選んでいるだけではないか、という疑いも確かめられています。片方の選択肢をはっきり有利にした問題を外国語で出すと、ほとんどの人が有利なほうを選びました。問題はちゃんと読まれていたのです。
本物のお金を賭けても
人には、得をする喜びより、損をするつらさを大きく感じる傾向があります。そのため、平均すれば得をする賭けでも、断ってしまうことがよくあります。
3人は、本物のお金を使った実験もしました。参加者は1ドル札を15枚もらい、15回の賭けをします。毎回、1ドルをそのまま持っておくか、コイン投げに賭けるかを選びます。当たれば1ドルが戻ったうえに1.5ドルがもらえ、外れれば1ドルを失います。平均すれば、賭けたほうが得になる仕組みです。
英語を母語とする参加者のうち、英語で説明を受けた人が賭けに乗ったのは54%。外国語のスペイン語で説明を受けた人は、71%が賭けに乗りました。韓国語と英語を使った、仮のお金での実験でも、外国語のほうが損を恐れる傾向が弱くなりました。
3人は、外国語は母語より、考えることにも感情にも距離を生むため、こうしたかたよりが小さくなると考えています。
「冷静」とは言い切れない
では、外国語で考えれば、いつも冷静で良い判断ができるのでしょうか。
2021年、チルチらは、外国語効果を調べた17の研究、47の実験をまとめて分析しました。外国語で考えると判断が変わることは、この分析でも確かめられました。損を恐れる傾向は弱まり、道徳的なジレンマの問題では、より多くの人を救うためなら誰かを犠牲にしてもよい、と答えやすくなっていました。
後者が「良い判断」かどうかは、意見が分かれるところです。外国語は、判断を「冷静」にするというより、判断を「変える」と言ったほうが正確でしょう。この分析では、外国語がどれだけ上手かは効果の大きさと関係がなく、母語と外国語がどれだけ似ているかが関係していました。
また、これらはどれも実験室で出された問題への答えです。人生の大きな決断でも同じことが起きるかは、わかっていません。判定が「半分ホント」なのはこのためです。
大事な判断は、わかる言葉で
英語で考えると、いつもと違う見方ができる場面はあるかもしれません。けれども、契約や進路のように大事な判断は、内容を十分に理解できる言葉で行うのが基本です。
この研究から持ち帰れるのは、別のことです。人の判断は、言い方ひとつで揺れる。そう知っておけば、「助かる」と言われたら「亡くなる」の側からも言い直してみる、という使い方ができます。言葉を変えて見直すことは、英語に頼らなくても、今日からできます。
参考文献
Keysar B., Hayakawa S., An S. (2012). The Foreign-Language Effect. Psychological Science, 23, 661-668.
doi.org/10.1177/0956797611432178✓ 実在と内容を確認済み
Circi R., Gatti D., Russo V., Vecchi T. (2021). The foreign language effect on decision-making: A meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 28(4), 1131-1141.
doi.org/10.3758/s13423-020-01871-z✓ 実在と内容を確認済み
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