英語の常識No.E13
バイリンガルの「良い結果」は、論文になりやすいって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:ホント
学会で発表された研究のその後を追うと、バイリンガルの有利さを支持する研究ほど、論文として出版されていました。
ホントとは… 複数の研究でおおむね支持されている常識です。
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研究室の机の引き出しには、論文にならなかった研究が眠っている。1979年、心理学者のローゼンソールは、これを「引き出し問題」と名づけました。
ローゼンソールは、極端に考えるとこうなる、と書いています。学術雑誌には、たまたま「効果あり」と出てしまった5%の研究が並び、研究室の引き出しには、「効果なし」と出た残り95%の研究がしまいこまれている。もちろん、これは極端な場合の話です。それでも、雑誌に載った研究だけを読んでいると、実際に行われた研究全体とは違う姿を見ている可能性がある、という警告でした。
この引き出しの中身を、実際にのぞいてみた研究があります。テーマは、「バイリンガルは頭の切り替えが得意」という説でした。
論文になる前の姿を追う
引き出しの中身は、ふつうは外から見えません。そこで、ド・ブリュインら3人の研究者は、学会での発表に目をつけました。研究者は、論文を書く前に、学会で研究の要旨を発表することがよくあります。要旨の記録は残るので、そのあと論文になったかどうかを追いかけられます。
2015年に発表されたこの研究で、3人は1999年から2012年までの学会で発表された、バイリンガルと実行機能についての要旨104本を集めました。実行機能とは、じゃまな情報をおさえたり、作業を切り替えたりする頭の働きのことです。
104本の結果を分けると、バイリンガルの有利さを支持するものが38%、結果が混ざっているが支持に傾くものが13%でした。一方、結果が混ざっているが否定に傾くものが32%、有利さが見つからなかったものが16%です。発表の段階では、支持と否定がおよそ半々だったのです。
63%と36%
2014年2月までに、このうち52本が論文として出版されていました。
内訳を見ると、偏りがはっきりします。有利さを全面的に、あるいは部分的に支持する研究は63%が出版されていました。一方、有利さを主に、あるいはまったく支持しない研究で、出版されたのは36%でした。完全に支持する研究がいちばん出版されやすく、次が結果の混ざった研究で、有利さに否定的な研究がいちばん出版されにくかったのです。
この差は、参加者の人数や、使ったテスト、統計で差を見つける力の違いでは説明できませんでした。研究の質が低いから落とされた、というわけではなさそうです。研究の規模と結果を並べて偏りを調べる方法でも、出版バイアスがあることが裏づけられました。
論文だけ読むと、効果が大きく見える
つまり、発表の段階では半々だった研究が、雑誌に載る段階では、有利さを支持する側に大きく傾いていたことになります。
これが「出版バイアス」です。効果が出た研究は論文になりやすく、効果が出なかった研究は引き出しに残りやすい。その結果、論文だけを集めて判断すると、実際よりも効果が大きく見えてしまいます。研究者が「効果なし」の結果を論文にしようとしないことも、雑誌がそうした論文を載せたがらないことも、どちらも原因になりえます。
これはバイリンガル研究だけの問題ではありません。どの分野でも起こりうることで、だからこそ、研究をまとめる人たちは、論文になっていないデータまで探し、出版バイアスを補正する方法を工夫しています。判定は「ホント」です。
「研究によると」を読むときに
この話は、勉強法を選ぶときにも役に立ちます。「〇〇勉強法の効果が研究で示された」という記事を見たら、原田英語のおすすめは、次の2つを確かめることです。
ひとつは、それが1つの研究なのか、たくさんの研究をまとめた分析なのか。もうひとつは、まとめた分析なら、出版バイアスまで考えに入れているかどうかです。1つの研究の「効果あり」は、引き出しの中の「効果なし」と比べられていないかもしれません。
派手な結果ほど、雑誌にも、ニュースにも載りやすいものです。目に入ってくる研究の向こうには、見えない引き出しがある。そう思っておくだけで、研究のニュースとのつきあい方が変わります。
この記事に出てくる用語
- メタ分析
- たくさんの研究の結果をまとめて、全体として効果があるかを計算する方法。1つの研究より信頼できる。
- 出版バイアス
- 効果が出た研究ほど論文になりやすく、効果がなかった研究が埋もれてしまう偏り。
参考文献
de Bruin A., Treccani B., Della Sala S. (2015). Cognitive Advantage in Bilingualism. Psychological Science, 26, 99-107.
doi.org/10.1177/0956797614557866✓ 実在と内容を確認済み
Rosenthal R. (1979). The file drawer problem and tolerance for null results. Psychological Bulletin, 86(3), 638-641.
doi.org/10.1037/0033-2909.86.3.638✓ 実在と内容を確認済み
Association for Psychological Science (2014). Evidence for 'bilingual advantage' may be less conclusive than previously thought [press release on de Bruin, Treccani & Della Sala, Psychological Science].
文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。





