英語の常識No.E03
赤ちゃんは世界中の言語の音を聞き分けられるって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
生後半年ごろは外国語の音も聞き分けられます。でも1歳を前に、その力は母語に合わせて絞り込まれていきます。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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カナダ西部のブリティッシュコロンビア州で話される先住民の言葉、トンプソン語には、英語にも日本語にもない2つの音があります。どちらも喉の奥で出す「キ」に近い音ですが、舌を当てる位置が少しだけ違います。トンプソン語を話す人にとっては、まったく別の音です。
この2つの音を、英語を話す大人10人に聞かせたところ、聞き分けられたのは3人でした。トンプソン語を話す大人は、5人全員が聞き分けました。
では、英語の家庭で育つ生後6〜8か月の赤ちゃんはどうだったか。10人のうち8人が、この音を聞き分けました。
音が変わったら、振り向く
1984年、カナダの心理学者ワーカーとティーズが報告した実験です。まだ話せない赤ちゃんに、聞き分けられたかどうかをどう尋ねたのでしょうか。
赤ちゃんは親のひざに座り、前にいる実験者のほうを向いています。スピーカーからは同じ種類の音がくり返し流れ、ときどき別の種類の音に切り替わります。切り替わってすぐに赤ちゃんがスピーカーのほうへ振り向くと、そばの箱の中でおもちゃの動物が光って動きます。
これをくり返すうちに、赤ちゃんは「音が変わったら振り向く」ことを覚えます。10回の切り替えのうち8回振り向ければ、聞き分けられたと判定しました。親と実験者はヘッドホンで音楽を聞いていて、赤ちゃんに合図を送れないようにしてありました。
1歳を前に、聞こえにくくなる
ワーカーらは次に、月齢の違う赤ちゃんを比べました。使ったのは、トンプソン語の音と、インドのヒンディー語にある2つの「タ」です。ヒンディー語では、舌先を歯の裏に当てる「タ」と、舌先を後ろに反らせて出す「タ」を、別の音として区別します。
ヒンディー語の2つの「タ」を聞き分けられた赤ちゃんは、6〜8か月では12人中11人でした。8〜10か月では12人中8人、10〜12か月では10人中2人まで減りました。トンプソン語の音では、10〜12か月で聞き分けられたのは10人中1人です。
同じ6人の赤ちゃんを、成長に合わせて3回テストする実験もありました。6〜8か月のときは、6人全員が両方の音を聞き分けました。10〜12か月になると、どちらの音も、1人も聞き分けられなくなっていました。英語の「バ」と「ダ」は、そのときも聞き分けられていたのにです。
一方、ヒンディー語やトンプソン語を話す家庭で育つ11〜12か月の赤ちゃん3人は、自分の言葉の音を全員が聞き分けました。人数は少ないものの、聞き分けにくくなる原因は月齢そのものより、その音をふだん耳にしないことにあると考えられます。
なくすだけではない
この変化は、力が落ちていくだけの話ではありません。2006年、クールらはアメリカと日本の赤ちゃんで、英語のLとRを調べました。6〜8か月から10〜12か月にかけて、日本の赤ちゃんの聞き分けは下がりましたが、アメリカの赤ちゃんの聞き分けは上がっていました。
自分の言葉で大切な音の区別は、よりはっきり聞こえるようになるのです。クールらは、脳が母語の音の特徴に合わせて調整されていくことで、生まれて1年目のこの変化を説明できると考えています。
「世界中の音」は言いすぎ
では、タイトルの常識はどうでしょうか。生後半年ごろの赤ちゃんが、聞いたことのない外国語の音を聞き分けられるのは確かです。ただ、実験で確かめられたのは、研究で使われたいくつかの音の組み合わせだけです。ワーカーら自身も、赤ちゃんが区別できるのは世界の言葉で使われる区別の「多く」だと書いています。
しかも、その力は1歳になるころには、母語に合わせて絞り込まれます。世界中の音を、いつまでも聞き分けられるわけではありません。判定が「半分ホント」なのは、このためです。
日本人の大人がLとRを苦手なのも、日本語の中で育つうちに、耳が日本語に合わせて調整された結果です。能力が劣っているわけではありません。そして、「日本人はLとRを聞き分けられない」の話で紹介したように、大人でも、いろいろな人の声で聞き分ける練習を重ねれば、聞き分けは伸びていきます。
赤ちゃんは、音が変わったら振り向き、おもちゃが動くのを見て学びました。大人も同じように、聞いて答えて、すぐに正解を確かめる練習ができます。生後半年のころのあなたも、トンプソン語の音を聞き分けられたかもしれません。その耳は、なくなったのではなく、日本語に合わせて調整されただけです。
参考文献
Werker J., Tees R. (1984). Cross-language speech perception: Evidence for perceptual reorganization during the first year of life. Infant Behavior and Development, 7, 49-63.
doi.org/10.1016/S0163-6383(84)80022-3✓ 実在と内容を確認済み
Kuhl P., Stevens E., Hayashi A., Deguchi T., Kiritani S., Iverson P. (2006). Infants show a facilitation effect for native language phonetic perception between 6 and 12 months. Developmental Science, 9.
doi.org/10.1111/j.1467-7687.2006.00468.x✓ 実在と内容を確認済み
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