勉強法の常識No.S46
成功のカギは才能より「やり抜く力(グリット)」って、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
粘り強さは大切です。でも、グリットと成績の関係は小さめで、昔からある「まじめさ」とほとんど区別がつかないこともわかってきました。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
この記事を音声で聞くGoogle Cloud TTS(Chirp 3 HD)
0:00 / 4:41
「グリットの得点が平均より1段階高い士官候補生は、夏の訓練をやり終える見込みが99パーセント高かった」。
アメリカの陸軍士官学校、ウェストポイントでの調査について、グリットの研究者たちが2009年の論文で書いた一文です。99パーセント。ほぼ2倍です。やり抜く力さえあれば、厳しい訓練も乗り越えられる。そう読みたくなる数字です。
ところが、この読み方には落とし穴がありました。
「99パーセント」のからくり
2017年、心理学者のクレデらは、グリットの研究をまとめて分析した論文の中で、この一文を取り上げました。彼らの指摘はこうです。この夏の訓練は、もともと士官候補生のおよそ94パーセントがやり終えている。そんな状況で「見込みが2倍」と言っても、実際の差はわずかになる。
たとえば、やり終える割合が95パーセントから97.5パーセントに上がっただけでも、統計の数字の上では「見込みが2倍」になりえます。この場合、やり終える確率の増え方は3パーセントにも届きません。統計の専門用語でいう「オッズ」と、ふつうの意味の「確率」を取りちがえると、こういうことが起きるのです。
6万6,000人分のデータが示したこと
グリットという考え方は、2007年にダックワースらが発表しました。長い目標に向けた、粘り強さと情熱のことです。最初の論文では、グリットでいろいろな成功を予測できると報告されました。ウェストポイントの士官候補生が訓練を続けられるか。英単語のつづりを競う全米スペリング大会で、どこまで勝ち進むか。ただし、その論文でもグリットが説明できたのは、成功の違いのうち平均4パーセントほどでした。
クレデらは、88のグループ、合わせて6万6,807人のデータを集めて分析しました。グリットと学業成績の関係を表す数字(相関)は0.18。研究によって0.2前後と報告されてきた性格の「誠実性」と、大きくは変わりません。勉強のやり方や習慣と成績の関係は、およそ0.4と報告されています。グリットとの関係は、その半分以下です。
名前を変えた「まじめさ」?
もっと大きな問題もありました。グリットと誠実性の関係が、0.84と非常に強かったのです。誠実性とは、まじめで、計画的で、こつこつ取り組む性格のことで、心理学では昔から調べられてきました。
0.84という強さは、別々の誠実性のテストどうしの一致よりも高いほどでした。クレデらは、いまのグリットの測り方は、誠実性を新しい名前で包み直しただけかもしれない、と述べています。実際、誠実性の影響を取り除くと、グリット全体では、成績の違いをほとんど説明できませんでした。
ただし、グリットのすべてがだめだったわけではありません。グリットには「粘り強さ」と「興味が続くこと」の2つの面があります。このうち粘り強さのほうは、成績との関係が0.26とやや強く、誠実性の影響を取り除いても成績を説明する力が残っていました。
粘り強さは、やり方とセットで
つまり、「最後までやり抜く」ことに価値がないわけではありません。ただ、それだけで成功が決まるという話は大げさです。クレデらは、学校が限られた予算を何に使うかについても書いています。グリットを伸ばす取り組みより、勉強のやり方や習慣を身につける支援や、授業への出席を促すことを優先してはどうか。こちらのほうが成績との関係もはっきりしていて、効果も確かめられているからです。
原田英語のおすすめは、根性を振り絞る前に、やり方を見直すことです。効果の確かめられた勉強法を選び、毎日の記録をつけて続けやすい仕組みを作る。粘り強さは、正しい方向を向いたときにいちばん生きます。
参考文献
Credé M., Tynan M., Harms P. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature.. Journal of Personality and Social Psychology, 113, 492-511.
doi.org/10.1037/pspp0000102✓ 実在と内容を確認済み
Duckworth A. L., Peterson C., Matthews M. D., Kelly D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087-1101.
doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087✓ 実在と内容を確認済み
文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。





