勉強法の常識No.S20
睡眠は記憶の定着に関係ない。寝る間を惜しんで勉強すべきって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:ウソ
眠っているあいだも、脳は昼間に覚えたことを固めています。睡眠を削ると、その作業の時間も削られます。
ウソとは… 研究の結果、この常識は支持されません。逆効果のこともあります。
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眠っているあいだ、脳は何をしているのでしょうか。100年ほど前の研究者たちの答えは、記憶に対しては特に何もしていない、というものでした。
眠ると忘れにくくなることは、当時から知られていました。ただ、その理由は「眠っているあいだは新しい情報が入ってこないから」と考えられていました。眠りは、記憶をじゃまから守る盾のようなもので、記憶そのものには手を加えていない、という見方です。
理屈としては筋が通っています。起きていれば、テレビの音も友だちとの会話も次々に頭に入ってきて、前に覚えたことと混ざってしまいます。眠っていれば、それがありません。だから忘れにくい、というわけです。
この見方は、いまでは大きく変わっています。
80ページを超える総まとめ
2013年、睡眠研究者のラッシュとボルンは、「睡眠と記憶」の研究をひとつにまとめた総説を発表しました。総説とは、たくさんの研究を集めて、全体像を描く論文のことです。生理学の専門誌に載ったこの論文は、80ページを超える大作です。
要旨は、「1世紀以上の研究によって、睡眠が記憶の保持に役立つことは事実として確立された」という一文で始まります。眠ると記憶が残りやすい。ここには、もう議論の余地がありません。
変わったのは、その理由の説明です。昔の理論は、眠りの役割を受け身のもの、つまり記憶をじゃまから守るだけのものと考えていました。いまの理論では、眠りはもっと積極的に記憶を作り変えていると考えます。
眠っている脳の夜勤
総説によると、脳には役割分担があります。起きている脳は、新しいことを取り込むのに向いた状態です。眠っている脳は、取り込んだものを固めるのに向いた状態です。
固める作業の中心になるのが、深いノンレム睡眠です。脳波がゆっくり大きく波打つので、徐波睡眠とも呼ばれます。昔の研究は、夢をよく見るレム睡眠に注目していました。それが最近の研究で、深いノンレム睡眠の大切さがわかってきたのです。
この深い眠りのあいだ、その日に覚えたばかりの記憶が、脳の中で何度も呼び起こされます。そのたびに記憶は形を変え、長く残る記憶の中に組み込まれていきます。そのあとに来るレム睡眠が、作り変えた記憶を安定させるのかもしれない、とも書かれています。
たとえるなら、昼間とりあえず机に積んだプリントを、夜のうちに整理して本棚へしまう作業です。机にあたるのが海馬などの一時的な置き場所、本棚にあたるのが長く保存する場所です。著者たちはさらに、眠りながら記憶を固めるこのしくみは、脳以外にも共通する原理かもしれないと述べています。たとえば、免疫が病原体を覚えるしくみです。
削っているのは、整理の時間
こう考えると、「寝る間を惜しんで勉強する」ことの問題が見えてきます。夜中まで単語を詰め込んでも、本棚にしまう時間がなければ、プリントは机の上に積まれたままです。
翌日になって覚えていない単語が多いと、私たちは「もっと時間をかけなければ」と考えがちです。そして、さらに睡眠を削ります。総説の考え方に立つと、足りなかったのは勉強の時間ではなく、固める時間のほうだったのかもしれません。
もちろん、この総説は「何時間寝れば何パーセント覚えている」といった数字を出したものではありません。睡眠をどこまで削るとどれだけ損をするかは、人や条件によっても変わるはずです。それでも、眠りが記憶を固める大事な時間だということは、1世紀分の研究が支えています。
原田英語のおすすめは、試験が近づくほど、先に睡眠時間を確保してから、残りの時間で勉強の計画を立てることです。そして夜に覚えたことは、翌朝、教科書を閉じたまま軽く思い出してみましょう。夜のあいだに本棚へしまえたかどうかの確認になります。
眠っている時間も、勉強のうちです。
参考文献
Rasch B., Born J. (2013). About Sleep's Role in Memory. Physiological Reviews, 93, 681-766.
doi.org/10.1152/physrev.00032.2012✓ 実在と内容を確認済み
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