教科別の常識No.K17

チェスを習うと、数学の成績が上がるって、ホント?

判定日 読了 約3分音声 4:33文献 3件

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読む前に予想この常識、あなたはどう思う?

先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。

判定:まだ決着していない

効果を示した研究の多くには方法の弱点があり、厳しく比べた実験では差が出ませんでした。成績が上がるとは、まだ言えません。

まだ決着していないとは… 研究結果が割れていて、まだ結論が出ていない常識です。

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論文での効果233人の実験で、チェスを習った群とほかの群に差なし

小学3年生と4年生、あわせて233人。この子どもたちが、3つの組に分けられました。

1つめの組は、チェスを25時間習います。2つめの組は、チェッカーという別のボードゲームを習います。3つめの組は、特に何もしません。そして最後に、全員が同じ数学の問題に取り組みます。

なぜ、わざわざチェッカーの組まで作ったのでしょうか。そこには、チェスと数学の関係を調べてきた研究の、ある弱点が関わっています。

24の研究は「効く」と言っていた

チェスを習うと、数学や読む力、さらには知能まで伸びる。そんな期待から、学校でチェスを教える取り組みが各地で行われてきました。

2016年、心理学者のサラとゴベは、学校でのチェス指導の効果を調べた研究を集めました。条件に合ったのは24の研究で、チェスを習った子は2788人、比べた子は2433人です。

結果だけを見ると、チェスには効果がありそうでした。全体の効果量は0.338で、数学では0.382と、読む力の0.248より大きめでした。習った期間が長いほど、効果が大きい傾向もありました。

足りなかった「比べる相手」

ところが、サラとゴベは同時に、大きな問題も指摘しています。24の研究の中に、理想的な方法で行われたものが、ひとつもなかったのです。

とくに欠けていたのが、別の活動をする組と、何もしない組の両方を用意することでした。何もしない組とだけ比べると、チェスの効果なのか、「新しいことを習って、先生にかまってもらえた」効果なのか、区別がつきません。チェスと同じくらい新鮮で楽しい別の活動をする組を置けば、その区別ができます。

冒頭のチェッカーの組は、この弱点をふさぐために用意されたのです。

2017年、サラとゴベは、自分たちでこの実験を行いました。それが冒頭の233人の実験です。

結果は、3つの組のあいだで、数学の問題を解く力に意味のある差はありませんでした。自分の考え方をふり返る力にも、差はありませんでした。

52人で行った2つめの実験では、チェッカーのかわりに囲碁を比べる相手にしました。チェスの組と何もしない組は、囲碁の組よりわずかに成績がよかったものの、はっきりした差とは言えませんでした。

著者らは、厳しく調べたときのチェスの効果は、あったとしても控えめだと述べています。そして、チェスで数学の授業を置き換えるべきではない、としています。

4000人の大規模実験でも

小学生数百人の実験だけでは、まだ足りないかもしれません。イギリスでは、もっと大きな試みも行われました。2016年に報告されたジェリムらの評価です。

イングランドの100校、4009人の小学生が参加し、くじで2つの組に分けられました。チェスを習う学校では、子どもたちが1年間で30時間のチェスの授業を受けました。

その後の全国テストの成績を調べると、チェスの授業が数学の成績を上げたという証拠は見られませんでした。理科や読む力でも同じでした。ただ、参加した子どもの半数は、チェスの授業がとても好きだったと答えています。

チェスは、チェスとして楽しむ

どの研究も小学生が対象で、期間も長くはありません。何年もチェスを続けた場合の効果は、まだわかっていません。判定が「まだ決着していない」なのはそのためです。

ただ、少なくとも今の段階で、チェスが数学の成績を上げると言える確かな証拠はありません。数学の力を伸ばしたいなら、数学の練習に時間を使うのがいちばん確実です。

チェスは、それ自体が楽しく奥の深いゲームです。数学のためではなく、チェスのためにチェスを楽しむ。それで十分ではないでしょうか。

この記事に出てくる用語
効果量
効果の大きさを表す数字。目安は0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きい。

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参考文献

  1. Sala G., Gobet F. (2016). Do the benefits of chess instruction transfer to academic and cognitive skills? A meta-analysis. Educational Research Review, 18, 46-57.

  2. Sala G., Gobet F. (2017). Does chess instruction improve mathematical problem-solving ability? Two experimental studies with an active control group. Learning & Behavior, 45, 414-421.

  3. Jerrim J., Macmillan L., Micklewright J., Sawtell M., Wiggins M. (2016). Chess in Schools: Evaluation Report and Executive Summary. Education Endowment Foundation.

文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。

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