教科別の常識No.K16
数学ができる人は、覚えながら考えるのが得意だって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:ホント
110の研究で、数学の成績と「覚えながら考える力」には中くらいの結びつきがありました。ただ、この力を訓練して数学が伸びる証拠はありません。
ホントとは… 複数の研究でおおむね支持されている常識です。
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論文での効果数学の成績とワーキングメモリの相関は0.35(110研究)
今日からできるやり方
- 途中の式を省かず、紙に書いて頭の負担を減らす
- 文章題は、わかっている数を先に書き出す
- 長い計算は区切って、ひとつずつ確かめる
紙を使わずに、47×6を頭の中で計算してみてください。
まず7×6で42。2を覚えておき、4をくり上げる。次に4×6で24、くり上げた4を足して28。最後に、覚えておいた2を思い出して、282。
答えにたどりつくまでに、途中の数字をいくつも頭に置いておく必要があります。置いておきながら、次の計算も進めなければなりません。途中で「あれ、最初は何だっけ」となった人もいるでしょう。
頭の中の作業台
このように、情報を一時的に覚えながら、頭の中で作業する力を、心理学では「ワーキングメモリ」と呼びます。台所の作業台にたとえられることがあります。広い作業台なら、材料をたくさん並べたまま料理ができます。狭いと、置ききれずに何かを落としてしまいます。
数学は、この作業台をよく使う教科です。では、数学ができる人は、作業台が広いのでしょうか。
110の研究が示した結びつき
2016年、ペンらは、数学とワーキングメモリの関係を調べた110の研究、829の結果をまとめました。両者のあいだには、中くらいの相関がありました。相関係数は0.35です。数学ができる人ほど、ワーキングメモリの力も高い傾向がある、ということです。
ワーキングメモリには、言葉を覚えておくもの、数を覚えておくもの、形や位置を覚えておくものなどがあります。数学との結びつきは、そのどれでも同じくらいでした。
結びつきの強さは、数学の分野によって違いました。もっとも強かったのは、文章題と整数の計算です。文章題では、問題文の情報を覚えながら式を考えます。整数の計算では、冒頭の暗算のように途中の数を覚えておきます。いっぽう、図形の問題では、結びつきがいちばん弱くなりました。
また、数学の苦手がほかの発達の困りごとと重なっている人では、結びつきがより強く出ていました。
鍛えれば、数学も伸びるのか
ここまで聞くと、ワーキングメモリを鍛えれば数学ができるようになる、と考えたくなります。実際、そうした訓練用のパソコンのプログラムもあります。
2016年、メルビー=レルヴォーグらは、ワーキングメモリの訓練の効果を調べた87本の論文、145の比較をまとめました。訓練の直後には、ワーキングメモリの課題そのものは上達していました。ところが、算数や読解、推理する力など、訓練とは別の力は違いました。きちんと比べる相手を置いた研究では、はっきりした伸びは確かめられなかったのです。
さらに、ワーキングメモリの課題がどれだけ伸びたかと、ほかの力がどれだけ伸びたかのあいだにも、関係は見られませんでした。著者らは、訓練の効果は短期間で、訓練した課題に限られると結論しています。
数学とワーキングメモリには結びつきがある。でも、ワーキングメモリを訓練しても、数学が伸びたという証拠はなかった。結びつきがあることと、片方を動かせばもう片方も動くことは、別の話なのです。
作業台を、紙に広げる
では、どうすればいいのでしょうか。作業台を広げるのが難しいなら、作業台の外に物を置けばいいのです。その置き場所が、紙です。
途中の式を省かずに書く。文章題では、わかっている数を最初に書き出す。長い計算は区切って、ひとつずつ確かめる。こうすれば、頭の中に抱えておく量が減り、考えることに力を回せます。
途中式を書くのは、計算が苦手な人のためだけのものではありません。頭の作業台を、考えるために空けておく工夫です。
参考文献
Peng P., Namkung J., Barnes M., Sun C. (2016). A meta-analysis of mathematics and working memory: Moderating effects of working memory domain, type of mathematics skill, and sample characteristics. Journal of Educational Psychology, 108, 455-473.
doi.org/10.1037/edu0000079✓ 実在と内容を確認済み
Melby-Lervåg M., Redick T., Hulme C. (2016). Working Memory Training Does Not Improve Performance on Measures of Intelligence or Other Measures of "Far Transfer". Perspectives on Psychological Science, 11, 512-534.
doi.org/10.1177/1745691616635612✓ 実在と内容を確認済み
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