偉人の勉強法No.F05
イーロン・マスク流「まず全体の骨組みから学ぶ」と、細かいことも覚えやすいって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
全体の骨組みを先につかむのは有効です。ただ「基礎さえあれば、あとは必ず伸びる」とまでは言えません。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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論文での効果事前知識と事後の成績の相関は0.53、伸びとの相関はほぼ0
今日からできるやり方
- 新しい分野は、まず入門書で全体の地図をつかむ
- 目次を使い、幹と枝の関係を図に書き出す
- 細かい用語は、どの枝につくか確かめて覚える
- 基礎に誤解がないか、自分でテストして確かめる
「どうやって、そんなに速くたくさんのことを学べるんですか」。
2015年1月、ネット掲示板Redditで、イーロン・マスクが読者の質問に答える会が開かれました。ある参加者が、こう尋ねます。航空宇宙、機械、電気、ソフトウェア。あなたはほとんどすべての技術分野に、とても詳しいように見える。誰よりもたくさんの知識を頭に詰め込む方法を見つけたとしか思えない。学び方について何か助言はありませんか。
マスクの答えは、冗談から始まりました。「確かに、頭がいっぱいな気はしているよ」。そのうえで、こう続けます。多くの人は、自分で思っているよりずっと多くのことを学べる。試しもしないで、自分を安く見積もっているのだ、と。
幹と枝と葉
そして、ひとつの助言を添えました。知識を「意味の木」のようなものとして見ることが大切だ。まず基本原理、つまり木の幹と大きな枝をしっかり理解する。細かいこと、つまり葉に取りかかるのはそのあとだ。そうしないと、葉がくっつく場所がない。
たとえば生物の授業で、細胞の部品の名前を次々に覚えるとします。「細胞は、エネルギーを作り、設計図を守り、物を運ぶ」という幹と枝が先に頭に入っていれば、新しい部品の名前は、どれかの枝にぶら下げることができます。枝がなければ、名前はばらばらの葉っぱのまま、散っていきやすいでしょう。
もっとも、これはマスク本人の経験からの助言で、研究で確かめた話ではありません。では、研究はこの「木」をどう見ているのでしょうか。
55年前の「木」
似た考えは、教育心理学では古くからあります。1960年、心理学者のオーズベルは、知識は頭の中で階層のように整理されている、と考えました。広い概念の下に、もっと狭い概念や細かい情報がぶら下がっている。だから、新しいことを学ぶ前に、それを受け止める広い概念を先に示しておけば、学習も記憶も助けられるはずだ。この仮説を確かめるために、彼は実験を行いました。
学ぶ前に示すこの「受け皿」は、「先行オーガナイザー」と呼ばれます。1980年、ルイテンらは、先行オーガナイザーの効果を調べた135の研究をまとめました。その結果、先行オーガナイザーには、学習と記憶の保持の両方を助ける効果がありました。学年や教科、示し方などの違いも調べられています。
マスクの「意味の木」は、55年前の心理学者の考えとよく似ていたのです。
「基礎があれば伸びる」は単純すぎる
ただし、「幹さえあれば、あとは何でも身につく」とまでは言えません。
2022年、ジモンスマイヤーらは、学ぶ前の知識と学習の関係を調べた研究から、8,776の効果量を集めて分析しました。学ぶ前のテストと学んだあとのテストの成績の相関は0.53と高めでした。もともと知っている人は、学んだあとも知っている、ということです。
ところが、学ぶ前の知識と「どれだけ伸びたか」の相関は、ほぼ0でした。しかも、研究によって、大きくプラスになることもあれば、大きくマイナスになることもありました。前もって持っている知識は、学習を助ける場合もあれば、邪魔をする場合もあるのです。著者たちは、この結果から、2つの言い方がどちらも一般論としては成り立たないと述べています。「知識は力なり」と、「前の知識の影響はわずか」です。
地図を先に、葉は枝に
幹から学ぶのは、よい出発点です。ただし、幹そのものが間違っていたら、葉はおかしな所にぶら下がります。
原田英語のおすすめは、新しい分野に入るとき、まず薄い入門書で全体の地図をつかむことです。教科書の目次を使って、幹と枝の関係を1枚の図に書き出す。細かい用語は、どの枝につくのかを確かめながら覚える。そして、基礎を本当にわかっているか、ときどき自分にテストして確かめます。
頭がいっぱいだと冗談を言った人の助言は、たくさん詰め込むことではなく、詰め込む前に棚を作ることでした。
この記事に出てくる用語
- 効果量
- 効果の大きさを表す数字。目安は0.2で小さい、0.5で中くらい、0.8で大きい。
- 相関
- 2つのことが一緒に増えたり減ったりする度合い。−1から1の数字で、0に近いほど関係は弱い。原因と結果を示すものではない。
参考文献
Musk E. (2015, January 5). I am Elon Musk, CEO/CTO of a rocket company, AMA! [Reddit r/IAmA, answer by u/ElonMuskOfficial].
www.reddit.com/r/IAmA/comments/2rgsan/i_am_elon_musk_ceocto_of_a_rocket_company_ama/cnfre0a/✓ 実在と内容を確認済み
Luiten J., Ames W., Ackerson G. (1980). A meta-analysis of the effects of advance organizers on learning and retention. American Educational Research Journal, 17, 211-218.
doi.org/10.3102/00028312017002211✓ 実在と内容を確認済み
Simonsmeier B., Flaig M., Deiglmayr A., Schalk L., Schneider M. (2022). Domain-specific prior knowledge and learning: A meta-analysis. Educational Psychologist, 57, 31-54.
doi.org/10.1080/00461520.2021.1939700✓ 実在と内容を確認済み
Ausubel D. P. (1960). The use of advance organizers in the learning and retention of meaningful verbal material. Journal of Educational Psychology, 51, 267-272.
doi.org/10.1037/h0046669✓ 実在と内容を確認済み
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