偉人の勉強法No.F08

南方熊楠のように本を書き写せば、知識が身につくって、ホント?

判定日 読了 約3分音声 5:35文献 5件

「南方熊楠のように本を書き写せば、知識が身につく」のイメージイラスト

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?

先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。

判定:半分ホント

ただ丸写しするだけでは、浅い処理になりがちです。熊楠の「抜書」は、膨大な本から選んで写す作業でした。

半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。

この記事を音声で聞くGoogle Cloud TTS(Chirp 3 HD)

0:00 / 5:35

論文での効果ノートを取って見直す学習の効果は大きい(33研究)

今日からできるやり方

  1. 写す前に、本当に必要な部分だけを選ぶ
  2. 写したあと、自分の言葉で一行まとめを書く
  3. テーマ別に整理し、あとで見返せるようにする
  4. 見返すときは、閉じて思い出してから確認する

1895年5月2日、ロンドン。27歳の日本人が、1冊のノートの最初のページに筆を下ろしました。

南方熊楠です。アメリカを放浪したあとロンドンに着いて、2年半がたっていました。彼は毎日5時間から7時間を大英博物館で過ごし、その多くを本の書き写しに使ったと考えられています。英語、フランス語、ドイツ語で書かれた民俗学や博物学の本、世界各地の旅行記。5年かけて書き写したノートは、全52冊になりました。今「ロンドン抜書」と呼ばれる記録です。

和歌山県田辺市の南方熊楠顕彰館は、熊楠が巨大な博識と幅広い文明観を持つに至ったのは、この抜書の作業を通してだった、と説明しています。では、本を書き写せば、私たちも知識を身につけられるのでしょうか。

和歌山の少年の書き写し

熊楠の書き写しは、子どものころから始まっていました。南方熊楠記念館の展示案内によると、1867年、和歌山の金物商の家に生まれた熊楠は、幼いころから並外れた記憶力を見せました。知り合いの家で本を読んで覚えては、家に帰って書き写したといいます。

8歳ごろからは、絵入りの百科事典『和漢三才図会』の書き写しを始め、17歳まで続けました。辞書や博物学の本、地理の本なども書き写しています。

東京大学予備門に入ったころは、同級生に夏目漱石や正岡子規がいました。けれども熊楠は学校にあまり通わず、上野の図書館で和漢洋の本を次々に読み、書き写し続けました。結局、苦手な代数の試験で落第し、和歌山に帰ります。学校の勉強には向かなかったこの人が、のちにロンドンで、科学誌『ネイチャー』に次々と論文を載せる学者になります。

丸写しは、浅くなりやすい

とはいえ、書き写せば誰でも熊楠のようになれる、という話ではありません。

2014年、ミューラーとオッペンハイマーは、講義のノートを手書きで取る学生と、ノートパソコンで取る学生を比べました。3つの研究で、パソコンでノートを取った学生は、理解を問う問題で成績が低くなりました。パソコンの学生は、講義をそのまま一字一句打ち込みがちで、自分の言葉に言い換えて整理することが少なかったためと考えられています。

ただし、この研究には続きがあります。2019年、モアヘッドらが同じ実験をくり返したところ、手書きのほうが良さそうな傾向はあったものの、グループの間の差ははっきりしませんでした。ノートを取らないグループとも、はっきりした差が出ませんでした。手書きとパソコンのどちらが良いかを決めるのは、まだ早いというのが彼らの結論です。

一方、ノートを取って、それを見直すこと自体の効果ははっきりしています。2006年、コバヤシは33の研究をまとめ、ノートを取って見直す学習の効果は、そうしない場合に比べてかなり大きいと報告しました。

熊楠の抜書は「選ぶ」作業だった

ここで、熊楠の抜書をもう一度見てみます。大英博物館の膨大な本の中から、自分の研究に必要な部分を選び、言語の違う本から書き抜いたノート。顕彰館は、その52冊を、世界の民俗や風習の大事典になっていると説明しています。手当たり次第に丸写ししたものではなく、テーマを決めて集めた知識の記録でした。

子どものころの書き写しにも、見逃せない点があります。記念館の説明どおりなら、少年の熊楠は、本を読んで覚え、家に帰ってから書いていました。それは、本を見ながら写すのではなく、記憶から思い出して書く作業です。

原田英語のおすすめは、書き写すなら、まず本当に必要な部分だけを選ぶことです。写したら、その下に自分の言葉で一行のまとめを書く。テーマ別に整理して、あとで見返せるようにする。そして見返すときは、すぐノートを開かず、まず何が書いてあったかを思い出してから確かめます。

52冊の抜書は、写した量よりも、選んで、まとめて、何度も使った知識の記録だったのでしょう。

参考文献

  1. 南方熊楠記念館. 展示案内「幼少期~青年期」「読書と筆写に明け暮れた少年」「海外での活躍」.

  2. 南方熊楠顕彰館. 所蔵品「ロンドン抜書(1895~1900)」.

  3. Mueller P., Oppenheimer D. (2014). The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking. Psychological Science, 25, 1159-1168.

  4. Morehead K., Dunlosky J., Rawson K. (2019). How much mightier is the pen than the keyboard for note-taking? A replication and extension of Mueller and Oppenheimer (2014). Educational Psychology Review, 31, 753-780.

  5. Kobayashi K. (2006). Combined effects of note-taking/-reviewing on learning and the enhancement through interventions: A meta-analytic review. Educational Psychology, 26, 459-477.

文献はCrossrefで書誌を確認し、記事の内容は要旨などと照合しています(判定の方法)。

あわせて読みたい関連する常識

20問・約2分あなたの勉強法は、科学的に何点?科学度診断をはじめる → 10問・ランダム出題ウソかホントか、見抜けるか?判定チャレンジに挑戦 →