外国語の上達が早い人と遅い人がいるのはなぜか――そのヒントとして、音のわずかな違いを聞き分ける「耳の良さ」に注目した研究が話題です。東北大学とイギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、早稲田大学の研究チームが、英語の母音の聞き分けと耳の精度、脳の働きの関係を調べました。何がわかったのか、どこまで言えるのか、英語学習にどう生かすのかを短くまとめました。

30秒でわかる要点
  • 言葉ではない人工の音のわずかな違いを聞き分ける力(聴覚の精度。この記事では「耳の精度」)が高い人ほど、英語の母音の聞き分けも得意だった
  • 脳を調べると、耳の精度が高い人は日本語にない英語の音をすぐ「言葉」として処理せず、音そのものとして分析している可能性が見えた(研究チームの解釈)
  • 耳の精度が低い人ほど、発音の動きなどに関わる脳のネットワークが強く働いていた。研究チームは日本語の発音のクセに頼って聞いている可能性があるとみている
  • ただし、わかったのは関係(相関)。脳の結果は著者ら自身が「探索的」と位置づけていて、耳を鍛えれば上達が早まるかはこれから確かめる段階

どんな研究?東北大学・UCLの「聴覚の精度」研究

東北大学・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL、イギリス)・早稲田大学の国際共同研究チームによる研究で、2026年10月13日に心理学の国際学術誌 Journal of Experimental Psychology: General に載りました。東北大学などが10月21日に発表し、日本経済新聞なども報じています。

同じように練習しても、外国語の発音や聞き取りの上達の速さには大きな個人差があります。研究チームは「耳の良い人は、母語にない外国語の音を母語のフィルターに通さず、まず音として細かく分析しているのでは?」と考え、次のように調べました。STEP 1・2 は東京周辺の140人と仙台の大学生67人の2つのグループで、STEP 3 は仙台の67人で行われています。

STEP 1🔊人工音のテスト言葉ではない人工の音を3つ聞き、1つだけ違う音を当てる(報道による)。人工音のごくわずかな違いに気づけるかで「聴覚の精度」を測る。英語力そのものではなく、土台の耳の力を見るテスト
STEP 2🐱英語の母音テスト英語の2つの母音、/æ/(cat の a)と /ʌ/(cut の u)を聞き分ける。mad と mud のような単語の組み合わせで、どちらか聞き分ける
STEP 3🧠脳の測定(fMRI)日本語を母語とする大学生67人が、装置の中で英語の母音のペアが同じか違うかを判断するときと、同じような違いを持つ人工音のペアで判断するときの脳の働きを比べた
日本語の母音には /æ/ と /ʌ/ に当たる区別がなく、日本語を母語とする人には聞き分けがむずかしい場合があります(どちらも日本語の「ア」に近く聞こえることがある)。そのため、日本語にない音の聞き分けにどれくらい個人差があるかを調べるのに向いた組み合わせです。

わかったこと:耳が良い人の脳は英語の音をどう聞く?

2人の学習者の比較イラスト。左の学習者には2種類の音の波がふるいのようなフィルターを通って1つの同じ波になって届き、右の学習者には2種類の波が違う形のまま届いて虫めがねで分析されている
イメージ図:左は母語の「ふるい」を通して、違う母音が同じような音として処理されやすいイメージ。右は違う音のまま細かく分析するイメージ
耳の精度が高い人英語の母音の聞き分けが得意。脳の働きは、人工音を聞くときに近いパターンになる傾向。研究チームは、英語の音をすぐ「言葉」として処理せず、まず音の特徴そのものを分析している可能性があるとみている
耳の精度が低い人英語の母音を聞くとき、発音の動きなどに関わる左半球の感覚運動ネットワーク(左中心前回・左島など)が強く働く。すでに身についた日本語の発音のパターンに頼って聞いている可能性がある
67人脳の働きを測った
日本語母語の大学生
0.545「耳の精度が低い人ほど
左の感覚運動ネットワークが
強く働く」関係の強さ(r)
約41%英語の母音テストの
成績の差のうち
耳の精度で説明できた割合

東北大学の発表によると、耳の精度と脳の働きの関係は相関係数 r=0.545、また耳の精度の違いは、英語の母音テストの成績の個人差の約41%(40.6%)を説明していました。これは調べた人たちのデータでの統計上の「説明できた割合」で、一人ひとりの成績の4割が耳で決まるという意味ではありません。

アメリカの一般向け科学雑誌 Discover の紹介記事によれば、耳の精度と母音の聞き分けの関係は、東京周辺の140人と仙台の67人という2つのグループで同じように見られ、授業・旅行・発音練習といった学習経験の差を考えに入れても残ったそうです(脳の測定は仙台の67人のみ)。

研究チームはこの結果について、外国語学習の成功のカギは「どれだけ多く触れるか」だけでなく、一回一回のインプットで脳が音をどう処理するかにもあることを示している、と解釈しています。

英語が聞き取れないのは耳のせい?ここは言い過ぎ注意

「耳の精度が低いと英語は伸びない」という話ではありません。押さえておきたいのは次の5つです。

  1. 著者ら自身が、脳の測定の結果は「探索的」なものだと位置づけている
  2. わかったのは関係(相関)で、「耳の精度が原因で上達が決まる」とまでは示されていない
  3. 耳の精度が低い人の脳の活動が強かったのは、単に課題がむずかしくて頑張っていたからという可能性も残る
  4. 調べたのは主に聞き分けで、話すときの発音そのものではない。言語も「日本語を母語とする人が英語を学ぶ」場合だけ
  5. 耳を鍛えれば外国語が伸びるかはまだ確かめられていない。研究チームはこれから「言語・聴覚トレーニング」を作り、英語力・耳・脳の3つの面から効果を調べる予定

研究を率いた教授は、耳の精度が高い人は比較的少ないインプットでも大きく伸びる一方、ほかの人は新しい音が定着するまでにもっと多くの経験が必要かもしれない、という見通しを語っています。これも今後確かめる仮説の段階ですが、「才能がないからムリ」ではなく、人によって必要な量ややり方が違うかもしれないと受け止めるのがよさそうです。

Xで出た声をチェック:周波数・音楽経験・語学の才能

このニュースはXでも共有され、自分の体験と重ねる投稿が見られました。目についた意見の趣旨を、研究の中身と照らし合わせてみます(X全体の反応を代表するものではありません)。

韓国語は日本語より英語に周波数が近いから、上達が早いのでは?研究とは別の話今回測ったのは一人ひとりの聞き分けの細かさで、「言語ごとの周波数」ではありません。比べたのも日本語を母語とする人どうしだけです。「言語ごとに決まった周波数帯があり、その違いだけで聞き取れない」という説明は根拠が乏しいとされています(詳しくはこちらの記事)。
ピアノや歌の経験が、発音に役立った気がする今回は未検証今回の研究は音楽経験を調べていません。同じ研究グループの別の研究(中国語を母語とする48人)は、楽器などの経験ではなく音楽の素質をテストで測ったもので、発音との関係は抑揚など一部で弱く見られただけ。より強く関係したのは聴覚の処理能力でした。音楽経験の効果を直接確かめた研究ではない点に注意です。
語学の上達が早かった知人は、鳥の声まで聞き分けていた体験談鳥の声を聞き分ける力と、今回測った「人工音のわずかな違いを聞き分ける精度」の関係は調べられていません。一つの体験談なので、研究を裏づけるとも否定するとも言えません。
自分は明らかに遅いグループだ…自己判定は不要上達が遅いと感じても、それだけで耳の精度が低いとは言えませんし、今回の研究から一人ひとりの将来の伸びを予測することもできません。

英語耳を育てる?今日からできる「耳トレ」3つ

ここからは、研究の結果やこれまでの音声学習の研究から考えたヒントです。今回の研究で効果が確かめられた方法ではありません。音は辞書アプリやオンライン辞書の発音ボタンで確認してください。

① 似た音のペアで聞き分ける研究で使われた /æ/ と /ʌ/ のように、日本語では同じに聞こえやすい音のペア(ミニマルペア)を聞き比べ、どちらか当てる練習をします。

cat / cutcap / cupbag / bughat / hutmad / mud
② すぐカタカナに直さない新しい単語を聞いたら、すぐ「キャット」「カット」と置き換えず、母音の響きの違いに注意して何度か聞きます。研究チームの「耳の精度が高い人は、まず音そのものを分析しているのでは」という解釈をヒントにした練習案で、同じ脳の働きが起こるかはわかっていません。
③ いろいろな人の声で聞く同じ単語を、男性・女性など複数の話し手の声で聞き分けます。日本語を母語とする人の英語の /r/ と /l/ の聞き分けでは、6人の話し手の声を使った練習のあとに成績が伸びたという古典的な研究(1991年)があり、その後のいろいろな話し手の声で練習する方法のもとになりました(/æ/ と /ʌ/ でも同じように効くかは別に確かめる必要があります)。

AIでミニマルペアの練習問題を作るなら カタカナ英語を卒業する発音プロンプト、自分の発音を確かめるなら原田英語の無料ツール はつおんカルテくん も使えます。

よくある質問

Q. 「聴覚の精度」とは何ですか?
言葉ではない人工の音を聞いて、ごくわずかな音の違いに気づける力のことです。英語力そのものではなく、外国語の音を学ぶ土台になる耳の力として測られました。
Q. 耳の精度が低いと英語は上達しませんか?語学の才能で決まるのですか?
そうとは言えません。研究が示したのは関係(相関)です。研究チームは、耳の精度が低い人は新しい音が定着するまでにより多くの経験が必要かもしれないとみていますが、これも今後確かめる段階です。
Q. この研究は何人を調べたのですか?
脳の測定(fMRI)を受けたのは、日本語を母語とする大学生67人です。紹介記事によると、耳の精度と英語の母音の聞き分けの関係は、東京周辺の140人と仙台の67人の2つのグループのどちらでも見られました。
Q. 英語の /æ/ と /ʌ/ はどう違うのですか?
/æ/ は cat の a の音で、舌を前寄りの低い位置に置き、あごを大きめに開けて出す「エ」と「ア」の間のような音です。/ʌ/ は cut の u の音で、舌を口の中ほどに置いて出す、日本語の「ア」に比較的近い音です。日本語ではどちらも「ア」に聞こえやすいので、cat と cut、cap と cup のようなペアで聞き比べると違いがつかみやすくなります。
Q. 英語耳は何歳までに育てないといけませんか?
今回の研究は大学生を対象にしたもので、年齢による違いは調べていません。日本語を母語とする大人6人を対象にした古典的な小規模研究(1991年)では、練習のあとに英語の /r/ と /l/ の聞き分けの成績が少し伸びており、「大人になったら手遅れ」と決めつけることはできません。
Q. 英語が聞き取れないのは周波数のせいですか?
「言語ごとに決まった周波数帯があり、その違いだけで聞き取れない」という説明は根拠が乏しいとされています。今回の研究が注目したのは言語ごとの周波数ではなく、一人ひとりの音の聞き分けの細かさです。
Q. 耳を鍛えれば英語は伸びますか?
まだわかっていません。研究チームは今後、音の細かい違いを聞き取る力を直接鍛える「言語・聴覚トレーニング」を作り、その効果を調べる予定です。

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