完璧な人の「ドジ」は好かれる? 有名な48人の実験を読み直すと、答えは人による

読む前に予想してみよう!
優秀な人がちょっとしたドジをすると、だれから見ても好感度が上がる
1966年の実験で好感度が上がった差は、偶然の範囲を出なかった。1970年の研究では、「自分には価値がある」と思う気持ちが強い人や弱い人は、ドジをしない優秀な人のほうを好んだ。
- 対象
- 男子大学生(1966年はアメリカのミネソタ大学)
- 規模
- 48人(1966年)/120人(1970年)
- 研究の種類
- 実験(1966年は録音を聞かせて好感度を答えてもらう)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
優秀な人がコーヒーをこぼすと好かれる「しくじり効果」。1966年の48人の実験を読み直すと、はっきりしたのは平凡な人の好感度が下がったことだった。
ひとことで言うとできる人のドジで好かれるかは、見る人しだい。1966年の実験では、平凡な人のドジは逆効果だった!
頭がよくて何でもできる人が、うっかりコーヒーをこぼす。それを見た人は、その人をかえって好きになる。「しくじり効果(プラットフォール効果)」として、雑学や恋愛のテクニックでよく紹介される話です。
元になったのは、1966年にアメリカの大学で男子学生48人が録音を聞いた実験です。ところが論文を開くと、「優秀な人がこぼした場合」と「こぼさなかった場合」の好感度の差は、偶然でも起こりうる範囲を出ていませんでした。
この実験ではっきり差が出ていたのは、別のところです。平凡な人がこぼすと、好感度は大きく下がっていました。さらにその後の研究で、評価する人によっては、優秀な人のドジでかえって好感度が下がることも分かってきました。
01録音の中で、コーヒーがこぼれた
論文を書いたのは、テキサス大学のアロンソン(Aronson)さんたちです。実験はミネソタ大学で行われました。
8つの答えの合計点の平均は、次のとおりでした。
- 優秀な人+コーヒー:30.2点(いちばん好かれた)
- 優秀な人だけ:20.8点
- 平凡な人だけ:17.8点
- 平凡な人+コーヒー:−2.5点(いちばん好かれなかった)
著者たちは、完璧すぎる人は近寄りがたく、ドジで人間らしく見えて近づきやすくなる、と考えました。

02どんでん返し1:ドジで好かれる差は、偶然の範囲だった
数字だけ見ると、優秀な人は、コーヒーをこぼした録音のほうが好感度が高くなっています。しかし論文の中で、この2つを直接比べた差は、統計で確かめると「偶然の範囲」を出ませんでした。48人を4種類の録音に振り分けた小さな実験なので、1つの録音を聞いたのは平均すると12人ほどです。
ドジについて統計ではっきりしたのは2つでした。1つは、平凡な人がこぼすと好感度が下がったこと。もう1つは、「こぼす」ことの効き方が、優秀な人と平凡な人で違っていたことです。平凡な人では下がり、優秀な人では数字の上では上がっていました。「優秀な人のドジで好感度が上がる」の部分は、この実験だけでは言い切れません。
03どんでん返し2:評価する人によって、逆にもなる
1970年、ヘルムライク(Helmreich)さんとアロンソンさんたちは、男子大学生120人で、もう一度確かめました。今度は、評価する側が「自分には価値がある」とどれくらい思っているか(自尊心)も測りました。
- 優秀な人は、こぼしてもこぼさなくても、平凡な人より好かれた
- この気持ちが中くらいの人では、優秀な人がこぼすと好感度がはっきり上がった
- この気持ちが強い人・弱い人では、こぼさない優秀な人のほうが好かれた
- 平凡な人がこぼしても、好感度ははっきりとは変わらなかった(1966年とは違う結果)
1972年には、評価する側の学生が「自分の能力は相手に近い」と思うかどうかと、ドジの関係を調べた研究も出ました。題名は「似ていることが『痛い』とき」。能力が近いことが、好感度にマイナスに働く場合があったことを示す題名です。ただし、細かな結果までは、この記事では確かめられていません。
どの研究も、実験のために用意した見知らぬ人物について、その場で好感度を答えてもらう方法で、対象は大学生でした。1966年と1970年は男子学生だけです。実際の友達や恋人どうしで確かめたものではありません。
04今の研究:ロボットと「弱みを見せること」
最近は、意外なところでこの考え方が試されています。2017年、オーストリアのザルツブルク大学を中心とするチームは、45人に、人の形をした小型ロボットと会話や作業をしてもらいました。
約半分の人の前では、ロボットがわざと失敗するようにしておきました。15秒も黙りこむ、話の途中で割りこむ、物をつかみそこねる、といった失敗です。すると、失敗するロボットのほうが「好感が持てる」と評価されました。ただし、多くの人はロボットを使うのが初めてで、物めずらしさが影響した可能性があると、著者たちは書いています。
2018年の論文では、「弱みを見せること」が7つの研究で調べられました。好きだと打ち明ける、体の気になるところを見せる、助けを求める、といった場面です。自分がそうする場面を想像すると、人はそれを悪く評価しがちでした。ところが、他人が同じことをする場面では、もっと好意的に評価していました。
05まとめ
「完璧な人がコーヒーをこぼすと好かれる」は、半分だけ本当でした。1966年の元の実験ではっきりしたのは、平凡な人のドジで好感度が下がったことです。ただ、これも1970年の研究でははっきりとは出ませんでした。優秀な人のドジがプラスになるかは、見る人によって変わりました。
その一方で、弱みを見せる行動は、本人が想像するより好意的に受け取られるという研究もあります。人どうしで、しくじり効果を大人数で確かめ直す研究が増えれば、話の残り半分もはっきりするはずです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA 1966 experiment at the University of Minnesota is often used to show that a small mistake can make a…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In 1966, 48 male students in the United States listened to a tape. On the tape, a student answered quiz questions. Some listeners heard a very smart person. Others heard an average person. On some tapes, the person spilled coffee on his new suit.
The listeners liked the average person much less when he spilled coffee. The smart person got a higher liking score when he spilled coffee, but the difference was small and could be just chance.
78 words ・ CEFR A2
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1966年、アメリカの48人の男子学生が録音を聞いた。録音の中では、1人の学生がクイズの問題に答えていた。とても頭のいい人の録音を聞いた人もいれば、平凡な人の録音を聞いた人もいた。いくつかの録音では、その人が新しいスーツにコーヒーをこぼした。
聞いた人たちは、平凡な人がコーヒーをこぼすと、その人をずっと好きではなくなった。頭のいい人は、コーヒーをこぼしたほうが好感度の点数が高かったが、その差は小さく、ただの偶然かもしれなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
コーヒーをこぼすという失敗で、相手への好感度がどう変わるかを調べた実験の話なので、正解は B。
Q2. What happened when the average person spilled coffee?
「The listeners liked the average person much less when he spilled coffee.」とあるので、正解は A。
Q3. In the passage, "chance" in "could be just chance" is closest in meaning to ___.
「その差は小さく、ただの偶然かもしれない」という意味で、chance は「たまたま起きること・偶然」。正解は B。
A 1966 experiment at the University of Minnesota is often used to show that a small mistake can make a talented person more likable. Forty-eight male students heard a tape of a student trying out for a college quiz team. In one version, he answered 92 percent of 50 hard questions correctly. In another, he answered only 30 percent.
Near the end of some tapes, he spilled coffee all over his new suit. The talented student who spilled coffee got the highest average score. But when the researchers compared him with the talented student who did not spill anything, the gap was too small to be sure. One clear result was that the average student became less likable after the spill.
121 words ・ CEFR B1
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1966年にミネソタ大学で行われた実験は、ちょっとした失敗が才能のある人をもっと好かれやすくすることを示すものとして、よく使われる。48人の男子学生が、大学のクイズチームの選考を受ける学生の録音を聞いた。ある録音では、彼は難しい50問のうち92%に正解した。別の録音では、30%しか正解しなかった。
いくつかの録音の最後のほうで、彼は新しいスーツにコーヒーをこぼした。コーヒーをこぼした才能のある学生が、平均点がいちばん高かった。しかし、研究者たちが、何もこぼさなかった才能のある学生と比べると、その差は確かだと言えるほど大きくなかった。はっきりした結果の1つは、平凡な学生がこぼすと好かれにくくなったことだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
失敗で才能のある人が好かれるという有名な実験だが、その差は確かだと言えなかったと述べているので、正解は B。
Q2. How did the talented student do on the quiz?
「he answered 92 percent of 50 hard questions correctly」とあるので、正解は C。30% は平凡な学生の数字。
Q3. What does the writer suggest about the idea that a small mistake makes a talented person more likable?
才能のある学生どうしを比べた差は「too small to be sure」とあり、1966年のデータだけでは確かとは言えないので、正解は C。
The story that a brilliant person becomes more likable after spilling coffee comes from a 1966 study of 48 male students. On the tape, the top contestant who spilled coffee did receive the highest average rating. His advantage over the top contestant who stayed tidy, though, did not pass the usual statistical test. What did pass was the drop for an average contestant who made the same mess.
Later work made the story more complicated. In 1970, a study of 120 male students found that only students with average self-esteem warmed to the clumsy expert, while those with high or low self-esteem preferred the expert who made no mistake. In 1972, another study, titled When Similarity Hurts, looked at whether judges felt close to the person in ability.
Recent research has moved in other directions. In Austria, 45 people worked with a small human-shaped robot, and those whose robot made errors liked it more, although most of them had never used a robot before. And a set of seven studies found that people judge their own act of confessing love or asking for help more harshly than they judge others doing the same thing.
194 words ・ CEFR B2
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優秀な人がコーヒーをこぼすと好かれやすくなるという話は、48人の男子学生を対象にした1966年の研究から来ている。録音の中で、コーヒーをこぼした優秀な出場者は、たしかに平均の評価がいちばん高かった。しかし、こぼさなかった優秀な出場者に対するその差は、ふつう使われる統計の基準を満たさなかった。基準を満たしたのは、平凡な出場者が同じ失敗をしたときの評価の下がり方だった。
その後の研究で、話はもっと複雑になった。1970年、120人の男子学生を対象にした研究では、ドジな優秀な人に好感を持ったのは自尊心がふつうの学生だけで、自尊心が高い人や低い人は、失敗しない優秀な人のほうを好んだ。1972年には、「似ていることが痛いとき」という題名の別の研究が、評価する人が相手と能力が近いと感じているかどうかに注目した。最近の研究は別の方向に進んでいる。
オーストリアでは、45人が人の形をした小型ロボットといっしょに作業をし、ロボットが失敗した人たちのほうが、そのロボットに好感を持った。ただし、ほとんどの人はロボットを使ったことがなかった。また、7つの研究をまとめた論文では、人は、好きだと打ち明けたり助けを求めたりする自分の行動を、他人が同じことをする場合より厳しく評価することが分かった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
1966年の有名な結果の弱さと、その後の研究で聞き手によって結果が変わることを述べているので、正解は B。
Q2. According to the 1970 study, which students preferred the expert who made no mistake?
「those with high or low self-esteem preferred the expert who made no mistake」とあるので、正解は B。
Q3. Why does the writer mention that most people in the robot study had never used a robot before?
「although most of them had never used a robot before」と、結果に条件をつけている。ロボットが物めずらしかったことが影響したかもしれない、という含みなので、正解は B。
重要単語
- blunderC1名詞・動詞(うっかりした)へま、失敗(する)Spilling coffee in an interview is a classic blunder.
mistake より「不注意で恥ずかしい失敗」の感じが強い。make a blunder(へまをする) - pratfallC2名詞(人前での)ぶざまな失敗、しりもちThe actor's pratfall made the audience laugh.
もとは喜劇の「しりもち」。the pratfall effect(しくじり効果)として心理学で使われる - competentB2形容詞有能な、能力のあるShe is a competent swimmer.
名詞は competence(能力)。反対は incompetent(無能な) - likableB1形容詞好感の持てる、感じのいいHe is smart, honest, and likable.
like+-able。likeable というつづりもある - self-esteemB2名詞自尊心、自分を価値ある人だと思う気持ちPraise can raise a child's self-esteem.
esteem は「尊重する」。high / low self-esteem(自尊心が高い・低い)の形でよく使う - vulnerabilityC1名詞弱さ、傷つきやすさ、弱みを見せることShowing vulnerability can build trust.
形容詞は vulnerable(弱い、傷つきやすい)。be vulnerable to ~ で「~に弱い」 - approachableB2形容詞近づきやすい、話しかけやすいOur new teacher is friendly and approachable.
approach(近づく)+-able。反対は unapproachable(近寄りがたい)
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「完璧な人がコーヒーをこぼすと好かれる」で有名な1966年の実験(男子学生48人)。優秀な人で好感度が上がった差は、偶然の範囲だった。この実験ではっきりしたのは、平凡な人がこぼすと好感度が下がったこと。優秀な人のドジで好感度が下がった研究もある。
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- Aronson, Willerman & Floyd (1966) The effect of a pratfall on increasing interpersonal attractiveness, Psychonomic Sciencedoi.org
- Helmreich, Aronson & LeFan (1970) To err is humanizing sometimes: Effects of self-esteem, competence, and a pratfall on interpersonal attraction, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Mettee & Wilkins (1972) When similarity "hurts": Effects of perceived ability and a humorous blunder on interpersonal attractiveness, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Mirnig, Stollnberger, Miksch, Stadler, Giuliani & Tscheligi (2017) To Err Is Robot: How Humans Assess and Act toward an Erroneous Social Robot, Frontiers in Robotics and AIdoi.org
- Bruk, Scholl & Bless (2018) Beautiful mess effect: Self–other differences in evaluation of showing vulnerability, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







