「本を貸して」で反対した議員が親友に? フランクリンの作戦を日米の実験で検証

読む前に予想してみよう!
人に手伝いを頼むと、相手に迷惑がられて嫌われることが多い
日米の大学生の実験では、手伝いを頼まれた人は、頼んだ相手への好意が実験前より上がった。ただし負担の大きい頼みや、親しくない人からの頼みでは、うれしさや親しみが下がることもある。
- 対象
- 日本とアメリカの大学生
- 規模
- 日本41人・アメリカ42人(研究費の報告書より)
- 研究の種類
- 実験(頼まれる条件と指示される条件をランダムに分けた)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
自分に反対した議員に本を借りて親友になったフランクリン。日米の実験では、手伝いを頼まれた人だけ相手への好意が上がった。ただし負担が大きすぎる頼みや、親しくない人の頼みは逆効果のことも。
ひとことで言うと小さな「手伝って」で、相手との距離が近づくことがある!
もくじ
自分に反対している人と仲よくなりたい。そんなとき、相手に何かをしてあげるのではなく、相手に頼みごとをする。のちにアメリカ独立にかかわるベンジャミン・フランクリンは、この方法で自分に反対した議員と親友になったと、自伝に書いています。
1730年代、アメリカがまだイギリスの植民地だったころの、ペンシルベニアの議会での話です。この「お願い作戦」を、日本とアメリカの大学生で確かめた実験があります。パズルを手伝ってほしいと頼まれた人は、頼んだ相手を実験の前より好きになりました。
ただし、研究者に言われて手伝った人では、好意は上がりませんでした。カギは「手伝ったこと」より「頼まれたこと」にあったようです。一方で、どんな頼みでもよいわけではない、という研究も出ています。
01フランクリンは、本を1冊借りただけだった
フランクリンは1736年、議会の書記に選ばれました。翌年、選び直しのときに、新しく入った議員が長い演説をして反対しました。財産も教養もある、力を持ちそうな人でした。
フランクリンは、相手にへつらうことはしませんでした。代わりに、相手の書庫にとても珍しい本があると聞き、「数日貸してほしい」と手紙で頼みました。
本はすぐに届きました。フランクリンは約1週間で返し、お礼の手紙を添えました。次に議会で会うと、その議員は初めて自分から、丁寧に話しかけてきました。2人は親友になり、その友情は議員が亡くなるまで続いたといいます。
フランクリンは、この出来事を古いことわざの例として書いています。
「一度あなたに親切にした人は、あなたが親切にした相手よりも、また親切にしてくれやすい」(フランクリン自伝より。訳は編集部)
この話にちなんで、頼みごとをした相手から好かれることを「ベンジャミン・フランクリン効果」と呼ぶことがあります。ただし自伝の記述は本人の思い出で、実験ではありません。
021969年、心理学の論文でも調べられた
1969年、ジェッカー(Jecker)さんとランディ(Landy)さんが、「頼みごとを聞いてあげたことで、その人を好きになるか」を調べた論文を発表しました。論文の参考文献には、「認知的不協和」の研究が並んでいます。認知的不協和とは、自分の行動と気持ちが食い違うと落ち着かなくなることです。人はそのとき、気持ちのほうを行動に合わせることがある、という理論です。この理論に沿って考えると、「わざわざ助けたのだから、自分はこの人が好きなのだろう」となるわけです。
この考え方については、1ドルの報酬で「楽しかった」と答えた実験の記事でくわしく紹介しています。なお、1969年の論文は本文を今回は読めなかったため、人数などの数字はここでは書きません。
03日米の実験:頼まれた人だけ、好意が上がった
この効果を日本とアメリカで比べたのが、法政大学の新谷優(にいや・ゆう)さんです。2016年に学術誌『The Journal of Social Psychology』で発表しました。
論文の要旨によると、結果はどちらの国でも同じ向きでした。サクラに頼まれた人は、次の3つが実験の前より上がりました。サクラへの好意、「人づきあいのよい人だ」という印象、「2人の仲が近い」という感じ方です。一方、サクラから直接頼まれずに、実験者に指示されて手伝った人では、こうした上がり方は見られませんでした。
新谷さんは2020年に、これまでの研究をまとめた論文(総説)を書いています。その中で、相手を好きになったのは「手伝ったから」ではなく「助けを求められたから」だと言える、とまとめています。
報告書では、好意の上がり方に日本とアメリカの差は見られませんでした。ただし、好意の上がり方と結びついていたものは、国によって違いました。日本では「相手の印象がよくなったこと」、アメリカでは「相手も自分を好きだと感じたこと」が、好意の上がり方と結びついていました。

04どんでん返し:重すぎる頼みや、親しくない人の頼みは逆効果
では、どんどん頼めば好かれるのでしょうか。新谷さんとエルズワース(Ellsworth)さんは、日本とアメリカで、頼みの大きさを変えて調べています(2010年にオンラインで公開、2012年に学術誌に掲載)。
すると、とくに日本では、小さな頼みより少し大きめの頼みのほうが、頼まれた人はうれしく感じていました。ただし、それには限度がありました。新谷さんの総説によると、負担が大きい頼みや、親しくない人からの頼みでは、うれしさも、頼んだ人への親しみも下がりました。
パズルの実験にも、限界があります。人数は報告書によると日米合わせて83人で、頼む役はどちらの国でも女性のサクラでした。頼みごとも、その場で終わる小さなパズルの手伝いです。恋人や友達の関係が、何か月もかけてどう変わるかは調べていません。
05「頼んだら迷惑」は、思い込みかもしれない
それでも、人は頼みごとをためらいがちです。2022年、スタンフォード大学のチャオ(Zhao)さんとシカゴ大学のエプリー(Epley)さんは、この「ためらい」を調べました。
舞台は、アメリカの大きな都市にある無料の植物園です。無料のインスタント写真を欲しがる来園者に、条件を1つ出しました。知らない人に「撮ってください」と頼むことです。頼む側は事前に、相手がどう感じるかを0〜10点で予想しました。頼んだ人と頼まれた人の50組を調べると、相手の「わずらわしさ」の予想は平均3.21点でした。実際に頼まれた人の答えは0.51点でした。「手伝いたい気持ち」も、予想は7.45点、実際は8.87点でした。
ほかの実験も合わせたアメリカの合計2118人でも、頼む側は相手のやる気と、手伝ったあとのうれしさを低く見積もっていました。
06まとめ
18世紀のフランクリンの「本を貸して」作戦は、小さな実験では、ある程度裏付けられました。日米どちらでも、手伝いを頼まれた人は、頼んだ相手を前より好きになりました。カギは、手伝ったことより「頼まれたこと」にあったようです。
一方で、負担が大きすぎる頼みや、親しくない人からの頼みは逆効果になりえます。好きな人との関係でも同じなのか、何か月も続く関係ではどうなのかは、まだ調べられていません。次の研究が待たれるところです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn his autobiography, Benjamin Franklin describes how he won over a lawmaker who had spoken against him.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In the 1730s, Benjamin Franklin had a problem. A new lawmaker spoke against him. So Franklin asked to borrow a rare book from him. Soon they became good friends. Was this just luck?
A researcher in Japan tested the idea with students in Japan and the United States. Some students were asked for help with a puzzle. After that, they liked the person who asked more than before.
68 words ・ CEFR A2
和訳を見る
1730年代、ベンジャミン・フランクリンには困ったことがあった。新しく入った議員が、彼に反対する演説をしたのだ。そこでフランクリンは、その人から珍しい本を借りたいと頼んだ。まもなく2人はよい友達になった。これはただの運だったのだろうか。
日本のある研究者が、日本とアメリカの学生でこの考えを試した。何人かの学生は、パズルを手伝ってほしいと頼まれた。そのあと、彼らは頼んだ人を前より好きになった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フランクリンの話と、手伝いを頼まれた学生が頼んだ人を好きになった実験の話なので、正解は C。
Q2. What did Franklin ask the man for?
「Franklin asked to borrow a rare book from him」とあるので、正解は B。
Q3. In the passage, "borrow" is closest in meaning to ___.
borrow は「借りる」。あとで返すつもりで受け取ることなので、正解は A。
In his autobiography, Benjamin Franklin describes how he won over a lawmaker who had spoken against him. He asked to borrow a rare book, returned it about a week later with a thank-you note, and the two became lifelong friends. Yu Niiya, a psychologist at Hosei University, tested this idea with Japanese and American students.
Each student worked on a puzzle with a woman who seemed to be another participant but was actually helping the researchers. In one condition, the woman asked the student to help with her harder puzzle. In the other, the researcher told the student to help her. Only the students who were asked by the woman liked her more afterward.
114 words ・ CEFR B1
和訳を見る
ベンジャミン・フランクリンは自伝の中で、自分に反対する演説をした議員をどうやって味方にしたかを書いている。珍しい本を借りたいと頼み、約1週間後にお礼の手紙をつけて返すと、2人は生涯の友になったという。法政大学の心理学者、新谷優さんは、この考えを日本とアメリカの学生で試した。
学生はそれぞれ、別の参加者に見えるが実は研究者の協力者である女性と一緒に、パズルに取り組んだ。一方の条件では、女性が学生に、自分の難しいパズルを手伝ってほしいと頼んだ。もう一方では、研究者が学生に、彼女を手伝うよう指示した。あとで女性をより好きになったのは、女性から頼まれた学生だけだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
フランクリンの逸話と、頼みごとが好意にどう影響するかを調べた実験の話なので、正解は A。
Q2. Who was the woman next to each student?
「a woman who seemed to be another participant but was actually helping the researchers」とあるので、正解は C。
Q3. What can we infer from the result?
どちらの条件でも学生は手伝ったが、好意が上がったのは女性から頼まれた学生だけだった。手伝ったことより頼まれたことが大事だったと考えられるので、正解は B。
Benjamin Franklin claimed he turned a hostile lawmaker into a friend by asking to borrow one of his rare books. The idea that people come to like those who ask them for favors is often called the Ben Franklin effect. In a 2016 study, Yu Niiya of Hosei University put it to the test in Japan and the U.S. Students finished an easy puzzle while a woman, secretly working with the researchers, struggled with a hard one.
Students were randomly assigned either to be asked by the woman for help or to be told by the researcher to help her. In both countries, liking for the woman rose only in the first group, though everyone helped. A related study by Niiya and a colleague suggests limits. Very costly favors, or requests from people who are not close, can lower good feelings and closeness toward the person asking.
In the puzzle study, the task was brief, and the requester was always a woman. People may also worry too much about asking. In a field study at a U.S. botanical garden, published in 2022, people asking strangers to take their photo expected far more annoyance than the helpers reported.
197 words ・ CEFR B2
和訳を見る
ベンジャミン・フランクリンは、自分に敵意を持つ議員から珍しい本を借りたいと頼むことで、相手を友人に変えたと述べている。人は頼みごとをしてくる相手に好意を持つようになるという考えは、よく「ベンジャミン・フランクリン効果」と呼ばれる。2016年に発表された研究で、法政大学の新谷優さんは、これを日本とアメリカで試した。学生がやさしいパズルを終える一方で、ある女性は難しいパズルに苦労していた。
この女性は参加者のふりをして、ひそかに研究者に協力していた。学生はランダムに2つのグループに分けられ、一方はその女性から手伝いを頼まれ、もう一方は研究者から彼女を手伝うよう言われた。全員が手伝ったにもかかわらず、どちらの国でも、女性への好意が上がったのは前者のグループだけだった。新谷さんと共同研究者による関連研究は、限界も示している。
負担がとても大きい頼みや、親しくない人からの頼みは、よい気持ちや、頼んだ人への親しみを下げることがある。パズルの研究では、作業は短く、頼む側はいつも女性だった。人は頼むことを心配しすぎているのかもしれない。2022年に発表された、アメリカの植物園での現場の研究では、知らない人に写真の撮影を頼んだ人は、手伝った人が実際に答えたよりもずっと大きないら立ちを予想していた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
頼みごとで好意が上がるかを試した実験と、その限界について述べているので、正解は A。
Q2. In the experiment, what was different between the two groups?
「Students were randomly assigned either to be asked by the woman for help or to be told by the researcher to help her.」とあるので、正解は B。全員が手伝っている。
Q3. Why does the writer mention the 2022 study at a botanical garden?
直前の「People may also worry too much about asking.」の例として、頼んだ人が予想したいら立ちは、実際より大きかったと述べている。正解は B。
重要単語
- favorB1名詞頼みごと、親切な行為Could you do me a favor and close the window?
ask a favor of ~ / ask ~ for a favor で「~に頼みごとをする」。イギリス式つづりは favour - borrowA2動詞借りるCan I borrow your pen for a minute?
lend(貸す)と混同しやすい。borrow A from B / lend B A の形で覚える - autobiographyB2名詞自伝She wrote about her childhood in her autobiography.
auto-(自分)+ bio(生命)+ graph(書く)。biography は他人が書く「伝記」 - hostileB2形容詞敵意のある、反対のThe crowd was hostile to the new plan.
名詞は hostility(敵意)。be hostile to ~ で「~に反対だ」 - underestimateB2動詞低く見積もる、過小評価するDon't underestimate how much your friends want to help.
反対は overestimate(多く見積もりすぎる)。入試頻出 - requestB1名詞・動詞お願い、頼むShe made a polite request for help.
動詞は request + 名詞(request help)の形で、for は不要
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
- フランクリン自伝 英語原文(Project Gutenberg)gutenberg.org
- 大人の甘えを好ましく感じる要因の解明と甘えの関係性向上効果の日米韓比較(科学研究費助成事業データベース KAKEN)kaken.nii.ac.jp
このネタ、誰かに教えたくなった?
フランクリンは、自分に反対した議員に「本を貸して」と頼み、親友になったと自伝に書いた。日本とアメリカの実験では、手伝いを頼まれた人だけが相手を前より好きになり、研究者に言われて手伝った人は変わらなかった。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Niiya (2016) Does a favor request increase liking toward the requester?, The Journal of Social Psychologydoi.org
- 新谷 (2020) 助け合いの文化心理学, 心理学評論doi.org
- Niiya & Ellsworth (2010) Acceptability of favor requests in the United States and Japan, Journal of Cross-Cultural Psychologydoi.org
- Jecker & Landy (1969) Liking a person as a function of doing him a favour, Human Relationsdoi.org
- Zhao & Epley (2022) Surprisingly happy to have helped: Underestimating prosociality creates a misplaced barrier to asking for help, Psychological Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







