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「本を貸して」で反対した議員が親友に? フランクリンの作戦を日米の実験で検証

「本を貸して」で反対した議員が親友に? フランクリンの作戦を日米の実験で検証

読む前に予想してみよう!

人に手伝いを頼むと、相手に迷惑がられて嫌われることが多い

研究カード(どんな研究?)
対象
日本とアメリカの大学生
規模
日本41人・アメリカ42人(研究費の報告書より)
研究の種類
実験(頼まれる条件と指示される条件をランダムに分けた)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

自分に反対した議員に本を借りて親友になったフランクリン。日米の実験では、手伝いを頼まれた人だけ相手への好意が上がった。ただし負担が大きすぎる頼みや、親しくない人の頼みは逆効果のことも。

ひとことで言うと小さな「手伝って」で、相手との距離が近づくことがある!

もくじ
  1. フランクリンは、本を1冊借りただけだった
  2. 1969年、心理学の論文でも調べられた
  3. 日米の実験:頼まれた人だけ、好意が上がった
  4. どんでん返し:重すぎる頼みや、親しくない人の頼みは逆効果
  5. 「頼んだら迷惑」は、思い込みかもしれない
  6. まとめ

自分に反対している人と仲よくなりたい。そんなとき、相手に何かをしてあげるのではなく、相手に頼みごとをする。のちにアメリカ独立にかかわるベンジャミン・フランクリンは、この方法で自分に反対した議員と親友になったと、自伝に書いています。

1730年代、アメリカがまだイギリスの植民地だったころの、ペンシルベニアの議会での話です。この「お願い作戦」を、日本とアメリカの大学生で確かめた実験があります。パズルを手伝ってほしいと頼まれた人は、頼んだ相手を実験の前より好きになりました。

ただし、研究者に言われて手伝った人では、好意は上がりませんでした。カギは「手伝ったこと」より「頼まれたこと」にあったようです。一方で、どんな頼みでもよいわけではない、という研究も出ています。

01フランクリンは、本を1冊借りただけだった

フランクリンは1736年、議会の書記に選ばれました。翌年、選び直しのときに、新しく入った議員が長い演説をして反対しました。財産も教養もある、力を持ちそうな人でした。

フランクリンは、相手にへつらうことはしませんでした。代わりに、相手の書庫にとても珍しい本があると聞き、「数日貸してほしい」と手紙で頼みました。

本はすぐに届きました。フランクリンは約1週間で返し、お礼の手紙を添えました。次に議会で会うと、その議員は初めて自分から、丁寧に話しかけてきました。2人は親友になり、その友情は議員が亡くなるまで続いたといいます。

フランクリンは、この出来事を古いことわざの例として書いています。

「一度あなたに親切にした人は、あなたが親切にした相手よりも、また親切にしてくれやすい」(フランクリン自伝より。訳は編集部)

この話にちなんで、頼みごとをした相手から好かれることを「ベンジャミン・フランクリン効果」と呼ぶことがあります。ただし自伝の記述は本人の思い出で、実験ではありません。

021969年、心理学の論文でも調べられた

1969年、ジェッカー(Jecker)さんとランディ(Landy)さんが、「頼みごとを聞いてあげたことで、その人を好きになるか」を調べた論文を発表しました。論文の参考文献には、「認知的不協和」の研究が並んでいます。認知的不協和とは、自分の行動と気持ちが食い違うと落ち着かなくなることです。人はそのとき、気持ちのほうを行動に合わせることがある、という理論です。この理論に沿って考えると、「わざわざ助けたのだから、自分はこの人が好きなのだろう」となるわけです。

この考え方については、1ドルの報酬で「楽しかった」と答えた実験の記事でくわしく紹介しています。なお、1969年の論文は本文を今回は読めなかったため、人数などの数字はここでは書きません。

03日米の実験:頼まれた人だけ、好意が上がった

この効果を日本とアメリカで比べたのが、法政大学の新谷優(にいや・ゆう)さんです。2016年に学術誌『The Journal of Social Psychology』で発表しました。

論文の要旨によると、結果はどちらの国でも同じ向きでした。サクラに頼まれた人は、次の3つが実験の前より上がりました。サクラへの好意、「人づきあいのよい人だ」という印象、「2人の仲が近い」という感じ方です。一方、サクラから直接頼まれずに、実験者に指示されて手伝った人では、こうした上がり方は見られませんでした。

新谷さんは2020年に、これまでの研究をまとめた論文(総説)を書いています。その中で、相手を好きになったのは「手伝ったから」ではなく「助けを求められたから」だと言える、とまとめています。

報告書では、好意の上がり方に日本とアメリカの差は見られませんでした。ただし、好意の上がり方と結びついていたものは、国によって違いました。日本では「相手の印象がよくなったこと」、アメリカでは「相手も自分を好きだと感じたこと」が、好意の上がり方と結びついていました。

パズルが終わらない相手から「手伝って」と頼まれる場面(イメージ)
パズルが終わらない相手から「手伝って」と頼まれる場面(イメージ)

04どんでん返し:重すぎる頼みや、親しくない人の頼みは逆効果

では、どんどん頼めば好かれるのでしょうか。新谷さんとエルズワース(Ellsworth)さんは、日本とアメリカで、頼みの大きさを変えて調べています(2010年にオンラインで公開、2012年に学術誌に掲載)。

すると、とくに日本では、小さな頼みより少し大きめの頼みのほうが、頼まれた人はうれしく感じていました。ただし、それには限度がありました。新谷さんの総説によると、負担が大きい頼みや、親しくない人からの頼みでは、うれしさも、頼んだ人への親しみも下がりました。

パズルの実験にも、限界があります。人数は報告書によると日米合わせて83人で、頼む役はどちらの国でも女性のサクラでした。頼みごとも、その場で終わる小さなパズルの手伝いです。恋人や友達の関係が、何か月もかけてどう変わるかは調べていません。

05「頼んだら迷惑」は、思い込みかもしれない

それでも、人は頼みごとをためらいがちです。2022年、スタンフォード大学のチャオ(Zhao)さんとシカゴ大学のエプリー(Epley)さんは、この「ためらい」を調べました。

舞台は、アメリカの大きな都市にある無料の植物園です。無料のインスタント写真を欲しがる来園者に、条件を1つ出しました。知らない人に「撮ってください」と頼むことです。頼む側は事前に、相手がどう感じるかを0〜10点で予想しました。頼んだ人と頼まれた人の50組を調べると、相手の「わずらわしさ」の予想は平均3.21点でした。実際に頼まれた人の答えは0.51点でした。「手伝いたい気持ち」も、予想は7.45点、実際は8.87点でした。

ほかの実験も合わせたアメリカの合計2118人でも、頼む側は相手のやる気と、手伝ったあとのうれしさを低く見積もっていました。

06まとめ

18世紀のフランクリンの「本を貸して」作戦は、小さな実験では、ある程度裏付けられました。日米どちらでも、手伝いを頼まれた人は、頼んだ相手を前より好きになりました。カギは、手伝ったことより「頼まれたこと」にあったようです。

一方で、負担が大きすぎる頼みや、親しくない人からの頼みは逆効果になりえます。好きな人との関係でも同じなのか、何か月も続く関係ではどうなのかは、まだ調べられていません。次の研究が待たれるところです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn his autobiography, Benjamin Franklin describes how he won over a lawmaker who had spoken against him. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In his autobiography, Benjamin Franklin describes how he won over a lawmaker who had spoken against him. He asked to borrow a rare book, returned it about a week later with a thank-you note, and the two became lifelong friends. Yu Niiya, a psychologist at Hosei University, tested this idea with Japanese and American students.

Each student worked on a puzzle with a woman who seemed to be another participant but was actually helping the researchers. In one condition, the woman asked the student to help with her harder puzzle. In the other, the researcher told the student to help her. Only the students who were asked by the woman liked her more afterward.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ベンジャミン・フランクリンは自伝の中で、自分に反対する演説をした議員をどうやって味方にしたかを書いている。珍しい本を借りたいと頼み、約1週間後にお礼の手紙をつけて返すと、2人は生涯の友になったという。法政大学の心理学者、新谷優さんは、この考えを日本とアメリカの学生で試した。

学生はそれぞれ、別の参加者に見えるが実は研究者の協力者である女性と一緒に、パズルに取り組んだ。一方の条件では、女性が学生に、自分の難しいパズルを手伝ってほしいと頼んだ。もう一方では、研究者が学生に、彼女を手伝うよう指示した。あとで女性をより好きになったのは、女性から頼まれた学生だけだった。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Who was the woman next to each student?

Q3. What can we infer from the result?

重要単語

  • favorB1
    名詞頼みごと、親切な行為Could you do me a favor and close the window? ask a favor of ~ / ask ~ for a favor で「~に頼みごとをする」。イギリス式つづりは favour
  • borrowA2
    動詞借りるCan I borrow your pen for a minute? lend(貸す)と混同しやすい。borrow A from B / lend B A の形で覚える
  • autobiographyB2
    名詞自伝She wrote about her childhood in her autobiography. auto-(自分)+ bio(生命)+ graph(書く)。biography は他人が書く「伝記」
  • hostileB2
    形容詞敵意のある、反対のThe crowd was hostile to the new plan. 名詞は hostility(敵意)。be hostile to ~ で「~に反対だ」
  • underestimateB2
    動詞低く見積もる、過小評価するDon't underestimate how much your friends want to help. 反対は overestimate(多く見積もりすぎる)。入試頻出
  • requestB1
    名詞・動詞お願い、頼むShe made a polite request for help. 動詞は request + 名詞(request help)の形で、for は不要
フランクリンは、自分に反対した議員に「本を貸して」と頼み、親友になったと自伝に書いた。日本とアメリカの実験では、手伝いを頼まれた人だけが相手を前より好きになり、研究者に言われて手伝った人は変わらなかった。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Niiya (2016) Does a favor request increase liking toward the requester?, The Journal of Social Psychologydoi.org
  2. 新谷 (2020) 助け合いの文化心理学, 心理学評論doi.org
  3. Niiya & Ellsworth (2010) Acceptability of favor requests in the United States and Japan, Journal of Cross-Cultural Psychologydoi.org
  4. Jecker & Landy (1969) Liking a person as a function of doing him a favour, Human Relationsdoi.org
  5. Zhao & Epley (2022) Surprisingly happy to have helped: Underestimating prosociality creates a misplaced barrier to asking for help, Psychological Sciencedoi.org