怖いとき手を握ると脳の反応が弱まった。恋人だけでなく「友達」の手でも? 110人で実験

読む前に予想してみよう!
怖い場面で手を握ってもらうなら、知らない人の手でも、脳の反応はよく知っている人と同じくらい弱まる
2017年の110人の実験では、知らない人の手では脳の反応は弱まらず、気分はむしろ悪いほうに評価された。弱まったのは、恋人や友達など、よく知っている人の手のときだった。
- 対象
- アメリカの23〜26歳の男女(異性の相手と2人1組)
- 規模
- 110人
- 研究の種類
- 実験(同じ人が3つの条件を体験・脳の画像を測定)
- 確かさ
- ★★★☆☆
電気ショックの予告を受けながら手を握ると、脳の反応が弱まった。110人の実験では恋人でも友達でもはっきりした差は見られず、知らない人の手では弱まらなかった。
ひとことで言うと怖い場面でよく知っている人の手を握ると、脳の反応が少し弱まった!
もくじ
注射の前や歯医者のいすで、だれかの手を握りたくなったことはありませんか。2006年、手を握ったときの脳の変化が画像でとらえられました。夫の手を握った妻は、電気ショックの予告に対する脳の反応が小さくなったのです。
11年後、同じコーアンさんが中心になって110人で実験をやり直しました。手を握る相手が夫や妻でも、付き合っている恋人でも、異性の友達でも、脳の反応の弱まり方にはっきりした差は見られませんでした。一方、知らない人の手では、反応は弱まりませんでした。
「夫婦の絆」の話として知られた実験は、やり直してみると「よく知っている人の手」の話になりました。そして「知らない人の手でも少しは効く」という最初の結果は、確かめられませんでした。
012006年:夫の手を握ると、脳の反応が小さくなった
実験したのは、アメリカのコーアン(Coan)さんらのチームです。参加したのは、ウィスコンシン州マディソンの既婚女性16人。夫婦仲がとてもよいと答えた人たちでした。
女性たちは、fMRI(脳の血流の変化から、どこがよく働いているかを調べる装置)の中に入り、ときどき「電気ショックが来るかもしれない」と予告されました。その待ち時間に、次の3つを比べました。
- 夫の手を握る
- 知らない男性の研究スタッフの手を握る
- だれの手も握らない
夫の手を握っているとき、危険に備えて働く脳の場所の活動が、広い範囲で下がりました。知らない男性の手でも、下がり方は小さいものの、一部で下がりました。
夫婦仲の点数が高い人ほど、夫の手を握ったときに、脳の一部(右の島皮質の前の部分、視床下部など)の反応が小さくなりました。この関係は、知らない男性の手では見られませんでした。
ただし、参加者は16人だけでした。
02110人でやり直したら、相手の「種類」による差は見えなかった
2017年、コーアンさんらは人数を増やしたやり直しの実験(追試)を発表しました。
結果は3つです。
1つ目。連れてきた相手の手を握ると、ひとりのときと比べて、脳のいくつかの場所の活動が下がりました。危険に気づいて身構えたり、自分の気持ちをおさえたりする働きにかかわる場所です。2006年に下がった場所の一部と重なっていました。
2つ目。下がり方は、相手が夫婦・同居の恋人・恋人・友達のどれでも、はっきりした差がありませんでした。著者たちは、夫婦がいちばん、と予想していました。ただし、どのグループも30人足らずです。著者たちも「差がない」と言い切れるほどの自信はない、と書いています。
3つ目。困ったときに家族や友達、大切な人が支えてくれると感じている人ほど、相手の手を握ったときに、脳の一部の活動がより小さくなりました。

03どんでん返し:知らない人の手は「効かなかった」
2006年には、知らない男性の手でも少し効果がありました。ところが2017年の追試では、知らない人の手を握っても、ひとりのときと脳の反応がほぼ変わりませんでした。論文は、むしろ反応が強まった可能性もある、と書いています。
気分の点数にも差が出ました。9段階で答える「いやな気分」の点数(大きいほどいや)は、相手の手のとき平均5.0、ひとりのとき5.3、知らない人の手のとき5.9でした。知らない人の手が、いちばんいやだったのです。
著者たちは、ちがいの理由として参加者のちがいを挙げています。2006年はほぼ白人の、夫婦仲がとてもよい夫婦だけでした。2017年は、さまざまな背景の人が参加していました。
脳の中の仕組みにも、予想外の結果が出ています。同じ110人のデータを2020年に分析し直した研究です。感情をおさえるときに働く、おでこの奥の場所(腹内側前頭前野)が、手を握った効果を生んでいるという説がありました。調べると、その証拠は見つかりませんでした。それどころか、この場所と、危険に反応する場所との連絡のしかたは、説から予想されるのとは逆の向きでした。
コーアンさんたちは別の考え方をとっています。頼れる人がそばにいると、脳は「自分だけで警戒し、自分で気持ちをおさえる」努力を減らせる、という仮説です。ただし、これはまだ確かめられた仕組みではありません。
04恋人と手をつなぐと、痛みの点数も下がった
2018年には、イスラエルのハイファ大学などのチームが「痛み」で調べました。参加したのは、付き合っている男女22組です(記録の問題で2組を除き、分析は20組。23〜32歳、交際は平均約3年半)。女性の左の前腕に、熱による痛みを与えました。強さは、1人ずつ「100点満点で60点の痛み」になるように合わせました。
女性がつけた痛みの点数(平均)は、次のとおりでした。
- 恋人が別の部屋にいるとき:52.4点
- 恋人が同じ部屋にいるが、手は握らないとき:37.7点
- 恋人と手をつないでいるとき:25.0点
2人とも脳波を測っていました。痛みを受けながら手をつなぐと、2人の脳波(8〜12ヘルツの波)のそろい方が強まりました。そろい方が強い2人ほど、痛みの下がり方が大きい関係も見られました。
ただし、痛みを受けたのは女性だけで、20組の結果です。脳波がそろったから痛みが減ったのか、その逆なのかは、この実験では分かりません。
ぶつけた所をさすると痛みがやわらぐ理由は、痛い場所の近くに触れる刺激そのものの話でした。こちらは「だれと手をつなぐか」が加わった実験です。
05「だれの手か」はどこまで大事?
2024年には、触れるケアの研究137本を合わせて分析したメタ分析(たくさんの研究をまとめて見直す方法)が出ました。大人では、身近な人が触れても、医療スタッフが触れても、健康への効果に差は見られませんでした。一方で、人ではなく物やロボットで触れると、心の面への効果が小さくなっていました。
こちらは手を握る実験ではなく、「ケアとして触れる」研究のまとめで、2017年の実験とは場面も相手もちがいます。医療スタッフは、初めて会う人でも「助けてくれる人」だと分かっている、という見方もできます。だれの手が効くのかは、まだ答えが出ていません。
ハグと体の関係については、ハグが多い人ほど風邪の症状が軽かった研究も紹介しています。
06まとめ
怖いときに手を握ると、脳の反応は小さくなりました。この結果は、16人の実験から110人の追試へと引きつがれています。ただ、効いたのは「恋人だから」ではなく、「よく知っている人だから」なのかもしれません。知らない人の手では、効果は見られませんでした。
次に知りたいのは、何がその人を「頼れる相手」にしているのかです。付き合いの長さか、信頼か、それとも支えてもらった経験か。その答えは、まだ出ていません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2006, a small study in the United States found something many people had felt.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
You are waiting for a small electric shock. Would holding a hand help? Scientists in the US tested this with 110 young adults.
Each person lay in a brain scanner. Sometimes they held the hand of a person they knew well. Sometimes they held a stranger's hand, and sometimes they were alone.
With a familiar hand, some parts of the brain were less active. Friends and partners showed no clear difference. A stranger's hand did not help.
77 words ・ CEFR A2
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あなたは小さな電気ショックを待っている。手を握ると助けになるでしょうか。アメリカの科学者たちは、110人の若い大人でこれを調べた。
一人ひとりが脳を調べる装置の中に横になった。よく知っている人の手を握るときもあれば、知らない人の手を握るときも、ひとりのときもあった。
よく知っている人の手だと、脳のいくつかの部分の活動が下がった。友達と恋人で、はっきりした差はなかった。知らない人の手は助けにならなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
手を握ると、待っているあいだの脳の活動がどう変わったかを調べた話なので、正解は B。
Q2. Whose hand did NOT help?
最後の文に「A stranger's hand did not help.」とあるので、正解は C。
Q3. In the passage, "familiar" is closest in meaning to ___.
前の文の「a person they knew well(よく知っている人)」を言いかえた語なので、「よく知られた」の A が正解。
In 2006, a small study in the United States found something many people had felt. Sixteen married women waited for possible electric shocks inside a brain scanner. When they held their husband's hand, brain areas that react to danger became less active. Eleven years later, the lead scientist of that study repeated the test with 110 young adults.
Each one brought a friend, a boyfriend or girlfriend, a partner they lived with, or a husband or wife. Holding that person's hand again lowered activity in parts of the brain, and the type of relationship made no clear difference. But a stranger's hand did not reduce brain activity, and people said they felt worse while holding it.
116 words ・ CEFR B1
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2006年、アメリカの小さな研究が、多くの人が感じてきたことを見つけた。既婚女性16人が、脳を調べる装置の中で電気ショックが来るかもしれない状態で待った。夫の手を握ると、危険に反応する脳の場所の活動が下がった。11年後、その研究の中心だった科学者が110人の若い大人で実験をやり直した。
一人ひとりが、友達、恋人、一緒に住む恋人、夫か妻のだれかを連れてきた。その人の手を握ると、やはり脳の一部の活動が下がり、関係の種類によるはっきりした差はなかった。しかし、知らない人の手では脳の活動は下がらず、握っているあいだのほうが気分が悪いと答えた。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 2017 study mainly show?
連れてきた相手の手でも脳の活動が下がり、「関係の種類によるはっきりした差はなかった」とあるので、正解は B。
Q2. How many people took part in the first study in 2006?
「Sixteen married women」とあるので、正解は B(16人)。
Q3. What can we infer about holding a stranger's hand in the 2017 study?
最後の文に、知らない人の手では脳の活動が下がらず「気分が悪いと答えた」とあるので、心地よい体験ではなかったと考えられる。正解は C。
Sixteen women took part in a 2006 study that linked hand-holding to calmer brain activity. All of them were happily married, and they lay in a scanner while they were warned that a shock might come. Their husband's hand reduced activity in many threat-related areas, and a stranger's hand had a smaller effect.
To see whether this would hold up, the team ran a larger version in 2017 with 110 adults aged 23 to 26 from a range of racial and economic backgrounds. Holding a familiar person's hand again lowered activity in several regions. Friends and spouses showed no clear difference, and the stranger's hand made no difference compared with being alone. The authors admit that with fewer than 30 pairs in each relationship group, they could have missed real differences.
A separate study of 20 couples in 2018 looked at pain. Women rated heat on their arm at about 52 out of 100 when their partner sat in another room, and at about 25 when he held her hand. The couples' brain waves became more closely matched. Only the women received pain, though, so nobody knows if the same thing happens when men are the ones in pain.
199 words ・ CEFR B2
和訳を見る
手を握ることと脳の活動が落ち着くことを結びつけた2006年の研究には、16人の女性が参加した。全員が幸せな結婚をしていて、電気ショックが来るかもしれないと知らされながら、装置の中に横になった。夫の手は、脅威にかかわる多くの場所の活動を下げ、知らない人の手の効果はそれより小さかった。
これが本当に成り立つかを確かめるため、チームは2017年に、人種や経済状況がさまざまな23〜26歳の110人で、より大きな実験を行った。よく知っている人の手を握ると、やはりいくつかの場所の活動が下がった。友達と夫婦ではっきりした差はなく、知らない人の手はひとりのときと比べて差がなかった。著者たちは、関係の種類ごとのグループが30組に満たないため、本当の差を見落とした可能性があると認めている。
2018年の別の研究は、20組のカップルで痛みを調べた。女性が腕の熱の痛みにつけた点数は、恋人が別の部屋にいるとき100点中約52点、恋人が手を握っているとき約25点だった。2人の脳波は、よりそろうようになった。ただし痛みを受けたのは女性だけなので、男性が痛みを受ける側のときに同じことが起きるかは、まだだれにも分からない。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
16人の研究を110人でやり直し、友達でも効く・知らない人の手は効かないなど一部の結果が変わった話なので、正解は A。
Q2. In the 2018 study, about how did women rate the pain when their partner held their hand?
「at about 25 when he held her hand」とあるので、正解は B。
Q3. Why are the authors of the 2017 study careful about the lack of difference between relationship types?
「with fewer than 30 pairs in each relationship group, they could have missed real differences」とあり、グループが小さいことが理由なので、正解は B。
重要単語
- hold handsA2動詞句手をつなぐ、手を握り合うThey held hands while they waited for the results.
hands と複数形にするのがポイント。hold someone's hand(〜の手を握る)もよく使う。 - threatB1名詞脅威、危険がせまっていることThe red X was a sign of threat.
動詞は threaten(おどす)。th は舌を軽くかむ音で「スレット」。 - familiarB1形容詞よく知っている、なじみのあるA familiar voice made her feel calm.
be familiar with 〜(〜をよく知っている)は入試頻出。family と同じ語源。 - strangerA2名詞知らない人He did not want to hold a stranger's hand.
strange(見慣れない)+-er。I'm a stranger here.(このあたりは不案内です)という言い方も。 - replicateC1動詞(実験を)やり直して同じ結果を確かめるOther teams tried to replicate the result.
名詞は replication(追試)。科学の記事でよく出る。 - pain reliefB2名詞痛みがやわらぐことHolding hands gave some pain relief.
relief は「ほっとすること」。What a relief!(ああ、よかった)も覚えておこう。
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「電気ショックが来るかも」という場面で手を握ると、脳の反応が弱まった。110人で確かめ直すと、相手が夫婦でも恋人でも異性の友達でもはっきりした差は見られず、知らない人の手では弱まらなかった。2006年の有名な実験の、その後の話。
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- Coan, Schaefer & Davidson (2006) Lending a Hand: Social Regulation of the Neural Response to Threat, Psychological Sciencedoi.org
- Coan, Beckes, Gonzalez, Maresh, Brown & Hasselmo (2017) Relationship status and perceived support in the social regulation of neural responses to threat, Social Cognitive and Affective Neurosciencedoi.org
- Beckes, Medina-DeVilliers & Coan (2020) The social regulation of emotion: Inconsistencies suggest no mediation through ventromedial prefrontal cortex, Social Neurosciencedoi.org
- Goldstein, Weissman-Fogel, Dumas & Shamay-Tsoory (2018) Brain-to-brain coupling during handholding is associated with pain reduction, PNASdoi.org
- Packheiser, Hartmann, Fredriksen, Gazzola, Keysers & Michon (2024) A systematic review and multivariate meta-analysis of the physical and mental health benefits of touch interventions, Nature Human Behaviourdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







