「恋人の写真」で中くらいの熱の痛みが4割前後軽く。ただ、言葉を考える課題でも同じくらい

読む前に予想してみよう!
恋人の写真を見ても、痛みの感じ方は変わらない
実験室で手や腕に熱を当てた実験では、恋人の写真を見ると痛みの点数が下がった。ただし強い痛みでは下がり方が小さく、病気やけがの痛みで確かめた研究ではない。
- 対象
- アメリカの学生(付き合い始めて9か月以内の19〜21歳の男女)
- 規模
- 15人
- 研究の種類
- 実験(同じ人が3つの課題をし、脳の画像も測定)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
付き合って9か月以内の学生15人で、恋人の写真を見ると、知人の写真のときより中くらいの熱の痛みが4割前後軽くなった。言葉を考える課題でも同じくらいだが、脳で主に働く場所が違った。
ひとことで言うと好きな人の写真を見ていると、熱の痛みが軽く感じられた!
もくじ
注射や歯医者の前に、好きな人の顔を思い浮かべたことはありませんか。写真を見るだけで、体の痛みは本当に変わるのでしょうか。アメリカのスタンフォード大学のチームが、恋をしたばかりの学生15人の手に熱を当てて確かめました。
恋人の写真を見ているあいだは、知人の写真を見ていたときより、中くらいの熱の痛みが軽くなりました。1人ずつの軽くなり方を割合にして平均すると、約45%です。ただし、言葉のお題に答えを考える課題に集中しているときも、痛みは同じくらい軽くなりました。
違いは脳の中にありました。恋人の写真で痛みがよく軽くなった人ほど、「うれしいこと」や「欲しいもの」に反応する場所がよく働いていました。言葉の課題で痛みが軽くなったときには、その場所はほとんど関わっていませんでした。痛みが軽くなった量は同じでも、脳の中で起きていたことは大きく違っていました。
01恋人の写真と知人の写真を見ながら、手に熱を当てた
研究したのは、スタンフォード大学医学部のヤンガー(Younger)さんらです。参加したのは19〜21歳の学生15人(女性8人・男性7人)。全員が付き合い始めて9か月以内で、恋の気持ちの強さを測るアンケートで高い点を取った人たちでした。
参加者は、恋人の写真3枚と、知人の写真3枚を持ってきました。知人は恋人と同じ性別で、知り合ってからの長さもほぼ同じ、恋愛の気持ちはない人です。研究に関係のない8人が顔の魅力を0〜10点でつけると、恋人と知人で差はありませんでした。写真は顔だけに切り取りました。
知人の写真を使ったのは、「見慣れた、魅力的な顔」を見るだけで起きる反応と区別するためです。
熱は、左手の親指のつけ根のふくらみに当てました。温度は1人ずつ決め、10点満点で4点(中くらい)と7点(強い)の痛みになる温度を使いました。課題は次の3つです。
- 恋人の写真を見て、その人のことを考える
- 知人の写真を見て、同じようにその人のことを考える
- 「ボールを使わないスポーツ」のようなお題に、頭の中で答えをできるだけたくさん考える(痛みから気をそらす効果が、以前の研究で確かめられていた課題)
それぞれを、熱なし・中くらい・強い熱と組み合わせて6回ずつ、合わせて54回をばらばらの順で行いました。1回ごとに痛みを点数で答えました。そのあと、4けたの数から7ずつ引いていく計算を13秒しました。前の回の気持ちを引きずらないようにするためです。
02恋人の写真で、中くらいの痛みは知人の写真より4割前後軽かった
知人の写真を見ていたときの痛みは、平均で中くらいの熱が3.7点、強い熱が7.2点でした。恋人の写真では、それぞれ2.4点と6.2点に下がりました。1人ずつの下がり方を割合にして平均すると、中くらいの熱で44.7%、強い熱で12.1%です。平均点どうしで比べると、中くらいの熱は3.7点から2.4点で、約35%の減少です。強い痛みでは、割合で見た下がり方はずっと小さくなりました。ただし、下がった点数そのもの(1人ずつの平均)は、中くらいの熱で1.4点、強い熱で1.0点です。痛みの強さによって効き方が違うとまでは、統計でははっきりしませんでした。
言葉の課題では、平均は2.4点と6.2点で、恋人の写真とまったく同じでした。割合では36.0%と12.9%です。統計で比べても、恋人の写真と言葉の課題に差はありませんでした。
ここまでなら、「恋人の写真も、ただ気をそらしているだけでは?」と考えられます。
03恋人の写真では、うれしいことに反応する脳の場所が働いた
答えはMRIの画像にありました。恋人の写真で痛みがよく軽くなった人ほど、脳の奥にある「尾状核」や「側坐核」などがよく働いていました。どちらも、うれしいことや欲しいものに反応する仕組み(報酬系)の一部です。言葉の課題で痛みが軽くなったときには、こうした場所はほとんど関わっていませんでした。主に働いていたのは、脳の表面に近い別の場所です。ただし、目の上あたりにある脳の1か所は、両方の痛みの軽減と結びついていました。報酬系にも数えられる場所です。著者たちは、2つの仕組みは「大部分は別で、一部は重なる」とまとめています。
恋人の写真を見ているあいだは、知人の写真や言葉の課題のときと比べて、痛みの感覚を受け取る場所(島皮質の後ろ側など)の働きが弱まっていました。
動物の実験では、報酬系を薬で働かせると痛みが大きく減ることが知られていました。チームは、恋人の写真が薬を使わずに報酬系を働かせ、それが痛みを抑える方向に働いたのではないかと考えています。

04恋人の写真は、恋人の手を握るのと同じくらい効いた
この1年前、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマスター(Master)さんらが、似た実験を発表していました。参加したのは、6か月以上付き合っている女性25人です。
カーテンの向こうから腕に熱を当て、7つの場面で痛みの「いやな感じ」を0〜20点で答えてもらいました。カーテン越しに恋人の手を握る。知らない男性の手を握る。ボールを握る。恋人の写真を見る。知らない男性の写真を見る。いすの写真を見る。何もせずに画面の十字を見る。この7つです。
十字を見ていたときと比べると、恋人の写真では痛みが平均1.01点、恋人の手では0.48点下がりました。知らない男性の写真やいすの写真よりも、はっきり低い点でした。写真のほうが手よりやや低めでしたが、統計ではっきり差があると言えるほどではありません。知らない男性の手を握ったときは、平均で十字のときより1.55点高めでした。
実験中にときどき鳴るビープ音にどれだけ早く反応できるかも測りましたが、7つの場面で差はありませんでした。恋人の写真のときだけ特に気がそれていた、という様子は見られなかったということです。
別の女性11人に「この実験に参加したと想像して」と聞くと、手を握るほうが写真より痛みは減るだろうと予想しました。実際の結果は、その予想どおりにはなりませんでした。
05どんでん返し:恋人がそばにいると、かえって痛む人も
UCLAのチームは2011年、長く付き合っている女性たちでMRIの実験をしました。恋人の写真を見ると、痛みの点数も、痛みにかかわる脳の働きも下がりました。安心と関係するとされる脳の場所がよく働いた人ほど、痛みは軽くなっていました。
ところが、写真ではなく本人がそばにいる場合は単純ではありません。2015年、イギリスのチームが女性39人にレーザーで短い痛みの刺激を与え、恋人が部屋にいるときといないときを比べました。人と親しくなりすぎたり頼ったりするのを避けがちな人ほど、恋人がいるときのほうが痛みの点数が高くなっていました。
2018年には、21の研究をまとめた分析(メタ分析)が出ました。だれかがただそばにいるだけでは、痛みの感じ方は変わっていませんでした。一方、恋人に触れる・恋人(の写真など)を見る・励ましの言葉をかけてもらうと、痛みは下がっていました。大切な人がそばにいると、痛そうな表情はむしろ多く出ていました。
手を握ったときの脳の反応については、怖いとき手を握ると脳の反応が弱まったという記事もあります。
06痛み止めのかわりになるとは言えない
- 人数が少ない:スタンフォードの実験は15人、UCLAの実験は25人。男女の違いは調べられていない。
- 実験室の短い熱の痛み:病気やけがのように長く続く痛みで確かめた研究ではない。強い痛みでは約12%と、下がり方は小さかった。
- 目的に気づいた人がいた:スタンフォードの15人のうち6人が、実験の目的を言い当てていた。痛みの答え方に影響した可能性がある。
- 魅力は完全にはそろわない:第三者の点数をそろえても、本人には恋人のほうが魅力的に見えていた可能性が高いと、著者たち自身が書いている。
- 個人差が大きい:よく効く人と、あまり効かない人がいた。
UCLAのチームは、つらい処置のときに大切な人の写真を持っていくと役立つかもしれないと書いています。ただし、それを病院で確かめた研究ではありません。
07まとめ
好きな人の写真を見ると、実験室の熱の痛みは軽く感じられました。中くらいの痛みは4割前後軽くなり、気をそらす課題と同じくらいでした。違ったのは脳の中で、恋人の写真では主にうれしいことに反応する場所が働いていました。
ただし、相手がそばにいれば必ず痛みが減るわけではありませんでした。病院での痛みや、何か月も続く痛みでも同じことが起きるのか。そこはまだ確かめられていません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFifteen students who had started dating within the last nine months took part in a study at Stanford…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Can a loved one's photo make pain hurt less? Stanford scientists tested 15 students in new relationships. While a spot on their left hand was heated, they looked at photos of their partner or of someone they knew, or did a word task.
Compared with the other photos, the partner's photos reduced moderate pain by about 40 percent. The word task worked about as well. But the brain's reward areas played a bigger role with the partner's photos.
78 words ・ CEFR A2
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愛する人の写真で、痛みは軽くなるのだろうか。スタンフォード大学の科学者たちが、付き合い始めたばかりの学生15人で確かめた。左手の一部に熱を当てているあいだ、学生たちは恋人の写真か知っている別の人の写真を見るか、言葉の課題をした。
ほかの写真と比べると、恋人の写真で中くらいの痛みがおよそ40%下がった。言葉の課題も、ほぼ同じくらい効いた。しかし、ごほうびに反応する脳の場所は、恋人の写真のときのほうが大きな役割を果たしていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文で「愛する人の写真で痛みは軽くなるか」と問い、その実験を説明しているので、正解は C。
Q2. How much did moderate pain go down with the partner's photos?
「the partner's photos reduced moderate pain by about 40 percent」とあるので、正解は B。
Q3. In the passage, "reduced" in "reduced moderate pain" is closest in meaning to ___.
reduce は「減らす」。痛みを減らしたという意味なので、正解は B の lowered(下げた)。
Fifteen students who had started dating within the last nine months took part in a study at Stanford University. A small device heated a spot at the base of each student's left thumb. During the heat, they looked at photos of their partner or of an equally attractive person they knew, or did a word task, silently listing answers such as sports without a ball.
Compared with the other person's photos, the partner's photos reduced moderate pain by around 40 percent. High pain fell by only about 12 percent. The word task reduced pain just as much. But the brain scans were different. Relief from the partner's photos went along with activity in reward areas, but relief from the word task mostly did not.
124 words ・ CEFR B1
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付き合い始めて9か月以内の学生15人が、スタンフォード大学の研究に参加した。小さな装置が、それぞれの学生の左手の親指のつけ根の一部を温めた。熱が当たっているあいだ、学生たちは恋人の写真か、同じくらい魅力的な知っている人の写真を見るか、言葉の課題として、たとえば「ボールを使わないスポーツ」の答えを声に出さずに挙げていった。
もう1人の写真と比べると、恋人の写真は中くらいの痛みをおよそ4割下げた。強い痛みは、およそ12%しか下がらなかった。言葉の課題も、ちょうど同じくらい痛みを下げた。しかし、脳の画像は違っていた。恋人の写真による痛みの軽減は、ごほうびに反応する場所の活動と一緒に起きていたが、言葉の課題による軽減は、ほとんどそうではなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
恋人の写真と言葉の課題が痛みにどう影響したかを比べた研究の話なので、正解は A。
Q2. How much did high pain drop with the partner's photos?
「High pain fell by only about 12 percent.」とあるので、正解は C。
Q3. What can we infer from the passage?
痛みの下がり方は同じくらいだったが、脳の画像は違っていたと書かれている。痛みが軽くなる仕組みが違う可能性があるので、正解は B。
Fifteen Stanford students, each within nine months of starting a relationship, lay in a brain scanner while a heating device on the left palm caused moderate or high pain. They viewed photos of their partner or of an equally attractive acquaintance, or did a word task meant to distract them. Compared with the acquaintance's photos, the partner's photos lowered each student's moderate pain rating by an average of about 45 percent, and high pain by about 12 percent. The word task did just as well.
But in the scans, students who got more relief from the photos had more activity in reward areas such as the nucleus accumbens. Relief from the word task relied mainly on other parts of the brain, though one area above the eyes was linked to both. Six of the students guessed the study's purpose, which may have colored their ratings.
In 2009, a UCLA study of 25 women found that a partner's photo eased pain about as well as holding his hand. In a 2015 study, though, the more a woman tended to avoid closeness, the more pain she reported with her partner in the room than without him.
194 words ・ CEFR B2
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付き合い始めて9か月以内のスタンフォード大学の学生15人が、脳を調べる装置の中に横たわり、そのあいだ左の手のひらに付けた加熱装置が、中くらいか強い痛みを生じさせた。彼らは恋人か同じくらい魅力的な知人の写真を見るか、気をそらすための言葉の課題に取り組んだ。知人の写真と比べると、恋人の写真で、中くらいの痛みの点数は1人ずつ平均しておよそ45%、強い痛みはおよそ12%下がった。言葉の課題も、ちょうど同じくらいの効果だった。
しかし脳の画像では、写真で痛みがより軽くなった学生ほど、側坐核などのごほうびに反応する場所の活動が大きかった。言葉の課題による痛みの軽減は主に脳の別の場所に頼っていたが、目の上にある1か所は両方と結びついていた。学生のうち6人は研究の目的を言い当てており、そのことが痛みの答え方に影響したかもしれない。
2009年、UCLAが25人の女性で行った研究では、恋人の写真が彼の手を握るのとほぼ同じくらい痛みをやわらげた。ただし2015年の研究では、親しくなりすぎるのを避けがちな女性ほど、恋人が部屋にいないときより、いるときのほうが痛みを強く答えていた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
恋人の写真が痛みに与える影響、脳の中で起きたこと、そして研究の限界や別の結果まで述べているので、正解は A。
Q2. According to the passage, what did the UCLA team find?
「a partner's photo eased pain about as well as holding his hand」とあるので、正解は C。
Q3. Why does the writer mention that six students guessed the purpose of the study?
目的に気づいたことが「may have colored their ratings(答え方に影響したかもしれない)」と書かれており、研究の弱点を示しているので、正解は B。
重要単語
- romantic partnerB1名詞恋人She keeps a photo of her romantic partner on her desk.
partner だけでも「恋人・配偶者」の意味で使う。romantic は「恋愛の」 - reliefB1名詞(痛み・不安が)やわらぐこと、安心The cool water brought quick relief.
pain relief で「痛みの軽減」。動詞は relieve(やわらげる)。What a relief!(ああ、ほっとした)は会話の定番 - rewardB1名詞・動詞ごほうび、報酬(を与える)The brain responds to rewards such as sweet food.
re-(強く)+ward(見張る)が語源。as a reward for ~ で「~のごほうびとして」 - distractionB2名詞気をそらすもの、気が散ることMusic can be a useful distraction during a long trip.
動詞は distract(気をそらす)。dis-(離れて)+tract(引く)で「注意を引き離す」 - acquaintanceB2名詞知り合い、知人He is just an acquaintance from my class.
friend ほど親しくない「顔見知り」。make the acquaintance of ~ で「~と知り合いになる」。つづりの c を忘れやすい - attractiveB1形容詞魅力的なBoth faces were rated as equally attractive.
attract(引きつける)+-ive。名詞は attraction(魅力、観光名所) - moderateB2形容詞中くらいの、ほどほどのModerate exercise is good for your health.
moderate pain で「中くらいの痛み」。反対の意味では severe(ひどい)がよく使われる
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付き合って9か月以内の学生15人が、手に熱を受けながら恋人の写真を見ると、知人の写真のときより中くらいの痛みが4割前後軽くなった。言葉を考える課題でも同じくらい軽くなったが、脳で主に働いていた場所は違った。
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- Younger, Aron, Parke, Chatterjee & Mackey (2010) Viewing pictures of a romantic partner reduces experimental pain: involvement of neural reward systems, PLoS ONEdoi.org
- Master, Eisenberger, Taylor, Naliboff, Shirinyan & Lieberman (2009) A picture's worth: Partner photographs reduce experimentally induced pain, Psychological Sciencedoi.org
- Eisenberger, Master, Inagaki, Taylor, Shirinyan, Lieberman & Naliboff (2011) Attachment figures activate a safety signal-related neural region and reduce pain experience, PNASdoi.org
- Che, Cash, Chung, Fitzgerald & Fitzgibbon (2018) Investigating the influence of social support on experimental pain and related physiological arousal: A systematic review and meta-analysis, Neuroscience & Biobehavioral Reviewsdoi.org
- Krahé, Paloyelis, Condon, Jenkinson, Williams & Fotopoulou (2015) Attachment style moderates partner presence effects on pain: a laser-evoked potentials study, Social Cognitive and Affective Neurosciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







