夫婦がケンカの話し合いをしたあと、腕の「傷の治り」が1日遅かった

読む前に予想してみよう!
夫婦の実験で傷の治りがいちばん遅かったのは、2回の会話のどちらでも批判やとげのある言い方が多かった夫婦だった
治るまでの日数の真ん中の値は、そうした言動が少ない夫婦の5日に対して7日で、治るペースはそうでない夫婦の約6割だった。ただし42組の小さな実験で、ほかの研究チームによる確かめ直しは見つかっていない。
- 対象
- アメリカの健康な夫婦(22〜77歳)
- 規模
- 42組(84人)
- 研究の種類
- 実験(同じ夫婦が病院に2回泊まり、支え合う会話の回とケンカの話し合いの回を比べた。順番は固定)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
健康な夫婦42組が病院に2回泊まり、腕に小さな水ぶくれを作って会話した。ケンカの話し合いの回は、支え合う会話の回より、傷が治るまでが1日長かった(日数の真ん中の値)。ただし会話の順番は全員同じだった。
ひとことで言うと夫婦ゲンカの話し合いのあとは、腕の小さな傷の治りが少し遅かった!
もくじ
夫婦でケンカの話し合いをしたあと、腕の小さな傷が治るまでに1日長くかかった。そんな実験があります。調べたのは、夫婦の会話と、皮膚の小さな傷の治り方の関係です。
アメリカのオハイオ州立大学のチームは、健康な夫婦42組に、病院の研究用の部屋へ24時間泊まってもらいました。これを2回行いました。1回目は支え合う会話、2回目はケンカになりやすい話題の話し合いです。治るまでの日数の真ん中の値は、支え合う会話の回が5日、ケンカの話し合いの回は6日でした。
この実験では、夫婦の腕に同じ大きさの傷を作り、会話のあとの治り方を機械で毎日測りました。ただし、会話の順番がいつも同じだったなど、弱いところもあります。それも後で見ていきます。
01夫婦の腕に8個の水ぶくれを作り、そのあとで話し合ってもらった
研究を率いたのは、心理学者のキーコルト=グレイザー(Kiecolt-Glaser)さんです。夫婦は朝7時に病院の研究用の部屋に入りました。看護師が、利き手でない腕の内側に器具をあて、弱い力で1〜1.5時間吸い続けます。こうして、直径8mmの小さな水ぶくれを8個作りました。水ぶくれを作るこの方法は、傷の治りを調べる研究でよく使われます。論文によると、参加者が感じる不快感は小さめでした。
傷を作ったあとで、夫婦は向かい合って話します。1回目は、それぞれが「自分の直したいところ」を相談する会話です。相手には「話に加わり、好きなように応じてください」と伝えました。10分ずつ役を交代しました。研究ではこれを「支え合う会話」と呼んでいます。2回目は、平均2か月あまりあとです。研究者が夫婦に聞き取りをして、お金や義理の家族との付き合いなど、意見が分かれる話題を1〜2個選びました。夫婦はそれを話し合って解決を目指しました。
会話はすべて記録し、批判、とげのある声、大げさにあきれた目つき、相手を見下す態度などの言動を数えました。
02ケンカの回は、傷が治るまでが1日長かった
皮膚から逃げる水分の量で見て、傷が9割がた回復した最初の日を「治った日」としました。治るまでの日数を早い順に並べたときの真ん中の値は、支え合う会話の回が5日、ケンカの話し合いの回が6日でした。論文の計算では、ケンカの回の治るペースは、支え合いの回の約7割でした。
夫婦ごとの言動で分けると、差はもっと大きくなりました。2回の会話のどちらでも、とげとげしい言動の数が全体の真ん中の値を上回った夫婦が、全体の約3割(28.6%)いました。この夫婦たちは、治るまでの真ん中の値が7日でした。そうでない夫婦は5日です。治るペースは、そうでない夫婦の約6割でした。男女で治り方の差ははっきりしませんでした。

03ケンカの回は、傷を治すための「炎症の合図」が少なかった
チームは、水ぶくれの中にたまる液も4・7・22時間後に取って調べました。調べたのは、細胞どうしが出し合う「炎症の合図」の物質です。IL-6 などの物質がこれにあたります。
傷が治るには、まず傷の場所で炎症が起き、傷を治す細胞が集まる必要があります。ケンカの回は、この合図の物質が傷の場所で少なめでした。
一方、血液の中では逆のことが起きていました。とげとげしい夫婦では、血液中の IL-6 が1日で増えた割合が、支え合いの回は45%、ケンカの回は113%でした。そうでない夫婦は65%と70%で、ほとんど変わりませんでした。著者たちは、血液の中でこうした増え方がくり返されると、年をとると増える病気につながるかもしれないと考えています。ただし、この実験でそこまで確かめたわけではありません。
04どんでん返し:ケンカの話し合いは、いつも2回目だった
この実験の大きな弱点は、支え合う会話がいつも1回目、ケンカの話し合いがいつも2回目だったことです。2回目の傷は、腕の少し外側に作りました。季節や慣れなど、2回目に何かが違えば、それだけで治り方が変わるかもしれません。順番を入れ替えた夫婦がいないので、この影響を分けられません。同じ研究グループも、2023年の論文で「順番を入れ替えられたら理想だった」と書いています。順番を固定したのは、初回からケンカの話し合いをすると、不安になって参加をやめる人が増えるのを心配したためでした。
「とげとげしい夫婦ほど治りが遅い」という比べ方は、どの夫婦も順番が同じなので、順番の影響を受けにくいものです。ただ、この夫婦たちは、もともとの性格や暮らし方が違った可能性があります。人数も42組と少なめです。一方で著者たちは、本当の影響はもっと大きいかもしれない、とも書いています。理由は、家のケンカは実験室より激しく長いこと、仲の悪い夫婦は研究に参加したがらないこと、の2つです。
その後の研究も見ておきます。
- 2023年、同じ42組のデータを分析し直した研究では、「ふだんから、問題の話し合いをお互いに避けている」と答えた夫婦ほど、傷の治りが遅い傾向でした。ただし同じデータなので、確かめ直しにはなりません。
- 別の研究チームが同じ方法で「ケンカ→治りが遅い」を確かめ直した研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。
- スイスの80組の実験(2025年発表)は、逆に「仲の良さ」を調べました。愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの鼻スプレー(または偽の薬)と、感謝を伝え合う10分の会話を組み合わせました。どちらか一つだけでは治りは変わりませんでした。両方を組み合わせた組は治りが良い傾向でしたが、計算の条件を変えると差ははっきりしなくなりました。オキシトシンを使った人のうち、ふだんのスキンシップが多かった人は、傷を作った翌日から1週間後にかけての治りが良い傾向でした。このスキンシップは実験で決めたものではなく、本人が1日6回記録したものです。オキシトシンの鼻スプレーには、有名な研究が再現されなかった話もあります。
ストレスと傷の関係そのものは、ほかでも報告があります。歯学部の学生11人の実験では、口の中の小さな傷が、夏休みより試験の3日前に作ったときのほうが、治るのに平均で3日長くかかりました。22本の研究をまとめた2009年の論文でも、17本が、ストレスがあると治りが悪い、または治りに関わる体の物質が乱れるという結果でした。
05治りがいちばん遅かったのは、とげとげしい言い方が多い夫婦
この実験では、どの夫婦も話し合いはしています。治りの差がより大きかったのは、批判やあきれた目つきが多い夫婦とそうでない夫婦の間でした。ただしこの分け方は、夫婦の言動を見て後から分けたもので、言い方そのものが原因だとまでは言い切れません。睡眠とケンカの関係は眠れなかった次の日のケンカの研究で、会話から離婚を当てる話は「離婚が9割当たる」の検証で紹介しています。
06まとめ
ケンカの話し合いのあと、腕の小さな傷は治るまでが1日長くかかりました。2回ともとげとげしかった夫婦では、治るペースがほかの夫婦の約6割でした。ただし会話の順番は全員同じで、42組の一つの実験です。順番を入れ替え、恋人どうしや、もっと多くの夫婦で確かめたらどうなるか。その答えは、まだ出ていません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers at Ohio State University wanted to know if an argument with a partner could affect the body.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Can an argument slow down healing? American scientists asked 42 married couples to stay in a hospital twice. Each time, nurses made eight small blisters on one arm. On the first visit, each person talked about a change they wanted to make.
On the second visit, they talked about a problem, like money. After the problem talk, the blisters took about one more day to heal. Couples who were often unkind in both talks healed more slowly than other couples.
80 words ・ CEFR A2
和訳を見る
言い争いは、傷の治りを遅くするのだろうか。アメリカの科学者たちは、結婚している42組の夫婦に、病院に2回泊まってもらった。そのたびに、看護師が片方の腕に小さな水ぶくれを8個作った。1回目の訪問では、それぞれが、自分の変えたいところについて話した。
2回目の訪問では、お金のような問題について話し合った。問題の話し合いのあとは、水ぶくれが治るのに1日ほど多くかかった。2回の話し合いのどちらでもよく不親切な態度をとった夫婦は、ほかの夫婦よりゆっくりしか治らなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
夫婦の会話のあとで水ぶくれの治り方がどう違ったかを説明しているので、正解は C。
Q2. How many small blisters were made on one arm each time?
「nurses made eight small blisters on one arm」とあるので、正解は B。
Q3. In the passage, "unkind" is closest in meaning to ___.
unkind は kind(親切な)の反対で「不親切な、思いやりのない」という意味。正解は A。
Researchers at Ohio State University wanted to know if an argument with a partner could affect the body. They invited 42 healthy married couples to spend 24 hours in a hospital research unit on two separate visits. Each time, a gentle suction device raised eight small blisters on the inside of one forearm.
During the first stay, each person asked the other for help with something they wanted to change about themselves. During the second, they tried to settle a real disagreement, such as money or problems with relatives. The typical wound healed in six days after the disagreement, but in five days after the first talk. Couples who were hostile in both talks healed at about 60 percent of the rate of calmer couples.
125 words ・ CEFR B1
和訳を見る
オハイオ州立大学の研究者たちは、パートナーとの言い争いが体に影響するのかを知りたいと考えた。彼らは健康な夫婦42組を招き、別々の2回の訪問で、病院の研究用の部屋に24時間泊まってもらった。そのたびに、弱い力で吸う器具を使って、片方の前腕の内側に小さな水ぶくれを8個作った。
1回目の滞在では、それぞれが、自分について変えたいことについて相手に助けを求めた。2回目では、お金や親せきの問題など、実際の意見の対立を解決しようとした。典型的な傷は、意見の対立の話し合いのあとは6日で治ったが、1回目の会話のあとは5日で治った。2回の会話のどちらでも敵意を見せた夫婦は、穏やかな夫婦の約60%のペースでしか治らなかった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
1回目の会話と意見の対立の話し合いのあとで、傷の治り方を比べた研究の話なので、正解は A。
Q2. How long did the typical wound take to heal after the disagreement?
「The typical wound healed in six days after the disagreement」とあるので、正解は B。
Q3. What can we guess about couples who were hostile in both talks?
最後の文で、穏やかな夫婦の約60%のペースでしか治らなかったとあるので、治りが遅かったと分かる。正解は C。
In 2005, a team led by Janice Kiecolt-Glaser at Ohio State University tested whether a marital argument could slow skin healing. Forty-two healthy couples spent two separate 24-hour stays in a hospital unit. Each time, gentle suction raised eight small blisters on one forearm, and a device later tracked how much water escaped through the healing skin.
On the first stay, each partner talked about something they wanted to change about themselves, and the other could respond in any way they liked. On the second, an interviewer picked one or two topics the couple disagreed about and asked them to work them out. The typical wound reached the study's healing point a day later after the conflict. Couples who were more hostile than most in both sessions healed at roughly 60 percent of the rate of calmer couples.
But the supportive talk always came first, so the visit order could explain part of the gap, and only 42 couples took part. A Swiss trial with 80 couples later looked at the kinder side of love. People who used an oxytocin nasal spray and reported more affectionate touch tended to show more improvement in their wounds over the following week.
199 words ・ CEFR B2
和訳を見る
2005年、オハイオ州立大学のジャニス・キーコルト=グレイザーが率いるチームは、夫婦の言い争いが皮膚の治りを遅くするかどうかを調べた。健康な夫婦42組が、別々に2回、病院の部屋で24時間を過ごした。そのたびに、弱い力で吸って片方の前腕に小さな水ぶくれを8個作り、その後、治りかけの皮膚からどのくらい水分が逃げるかを機械で追った。
1回目の滞在では、それぞれが自分について変えたいことを話し、もう一方は好きなように応じてよかった。2回目では、聞き取り役が、夫婦の意見が分かれる話題を1〜2個選び、それを解決するよう求めた。典型的な傷は、対立の話し合いのあとのほうが、研究で決めた「治った」の基準に1日遅く届いた。2回の話し合いのどちらでも、ほかの多くの夫婦よりとげとげしかった夫婦は、穏やかな夫婦のおよそ60%のペースでしか治らなかった。
ただし、支え合う会話がいつも先だったので、訪問の順番が差の一部を説明しているかもしれず、参加したのは42組だけだった。のちに、80組が参加したスイスの試験が、愛情の穏やかな面を調べた。オキシトシンの鼻スプレーを使い、スキンシップが多かったと報告した人は、その後の1週間で傷がよりよくなる傾向があった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
夫婦の言い争いと傷の治りの遅さを結びつけた実験と、その設計の弱点を述べているので、正解は B。
Q2. According to the passage, how was healing measured?
「a device later tracked how much water escaped through the healing skin」とあるので、正解は C。
Q3. Why does the writer say that the visit order could explain part of the gap?
支え合う会話がいつも先だったため、言い争いではなく2回目の訪問であること自体が差を生んだ可能性がある、という意味なので、正解は A。
重要単語
- woundB1名詞傷、けがThe small wound on her arm closed in a week.
発音は「ウーンド」。wind(巻く)の過去形 wound(ワウンド)と同じつづりなので注意 - healB1動詞(傷が)治る、治すCuts on the skin usually heal in a few days.
名詞は healing(治ること)。health(健康)と同じ語源で、もとは「完全にする」という意味 - hostileB2形容詞敵意のある、とげとげしいHe answered the question in a hostile voice.
名詞は hostility(敵意)。be hostile to ~ で「~に敵意を持っている」 - conflictB1名詞対立、争いThey tried to resolve the conflict by talking it through.
名詞はアクセントが前(CONflict)、動詞「対立する」は後ろ(conFLICT) - blisterB2名詞水ぶくれNew shoes gave me a blister on my heel.
靴ずれの水ぶくれにも使う。get a blister で「水ぶくれができる」 - inflammationC1名詞炎症Inflammation is part of how the body repairs damage.
形容詞は inflammatory(炎症の)。flame(炎)と同じ語源で「燃えるように赤くなる」イメージ - supportiveB2形容詞支えになる、協力的なMy friends were very supportive when I was sick.
動詞 support(支える)+-ive。be supportive of ~ で「~を応援している」
このネタ、誰かに教えたくなった?
健康な夫婦42組が病院に泊まり、腕に小さな水ぶくれを作ってから会話。ケンカの話し合いの回は、支え合う会話の回より治るまでが1日長かった。2回ともとげとげしかった夫婦は、治るペースがほかの夫婦の約6割。ただし会話の順番は全員同じで、42組の小さな実験。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(5件)タップで表示
- Kiecolt-Glaser et al. (2005) Hostile Marital Interactions, Proinflammatory Cytokine Production, and Wound Healing, Archives of General Psychiatrydoi.org
- Shrout et al. (2023) Marital negativity's festering wounds: The emotional, immunological, and relational toll of couples' negative communication patterns, Psychoneuroendocrinologydoi.org
- Schneider et al. (2025) Intranasal Oxytocin and Physical Intimacy for Dermatological Wound Healing and Neuroendocrine Stress, JAMA Psychiatrydoi.org
- Marucha, Kiecolt-Glaser & Favagehi (1998) Mucosal Wound Healing Is Impaired by Examination Stress, Psychosomatic Medicinedoi.org
- Walburn et al. (2009) Psychological stress and wound healing in humans: A systematic review and meta-analysis, Journal of Psychosomatic Researchdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。





