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同時通訳者の脳は「厚くなって」「減って」いた? 語学で脳が変わる研究の正しい読み方

同時通訳者の脳は「厚くなって」「減って」いた? 語学で脳が変わる研究の正しい読み方

読む前に予想してみよう!

語学の訓練で脳の灰白質が増えたら、それは頭がよくなった証拠だ

研究カード(どんな研究?)
対象
同時通訳の訓練生・プロ通訳者と比較群
規模
小規模(MRI研究)
研究の種類
縦断・横断の脳画像研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

通訳の訓練で脳の一部が厚くなった研究がある一方、プロ通訳者では灰白質が少ない部位も。脳は変わるが「大きい=賢い」ではなかった。

ひとことで言うと語学で脳は変わる。でも「大きくなる=頭がよくなる」じゃない!

もくじ
  1. 通訳の訓練で、脳の一部が「厚く」なった
  2. ところが、プロの通訳者では「少ない」部位が
  3. 「増えて、そして整う」脳のモデル
  4. もう一つの注意:「変わった脳」=「できるようになった」ではない
  5. まとめ

「英語を学ぶと脳が育つ!」。子ども向け英語教室の広告で、こんなフレーズを見たことはありませんか。

語学で脳が変わるのか。それを調べるのに、研究者が注目してきたのが同時通訳者です。相手の話を聞きながら、ほぼ同時に別の言語で話す。言語の切り替えと記憶と注意を、極限まで使う仕事です。

調べてみると、通訳の訓練で脳はたしかに変わっていました。ところが、その変わり方は「大きくなる」だけではなかったのです。

01通訳の訓練で、脳の一部が「厚く」なった

通訳に必要な力と、変化した場所がよく対応しています。「使った場所が鍛えられた」と考えると、とてもわかりやすい結果です。

02ところが、プロの通訳者では「少ない」部位が

ここでどんでん返しです。

スイス・チューリッヒ大学のエルマーらが2014年、プロの同時通訳者と、通訳はしない多言語話者の脳を比べると、通訳者のほうが灰白質の体積が少ない部位が複数見つかりました。言語の切り替えや発話にかかわる部位です。

しかも一部の部位では、通訳の経験時間が長い人ほど、灰白質が少ないという関係まで見られました。

訓練で「増えた」のに、プロでは「少ない」。矛盾しているように見えますが、元からの違いもありえるうえ、研究者は「効率化」で説明できると考えています。

最初は道が広がり、慣れると細く効率的な道に整う――脳の変化もこれに似ているという考え方
最初は道が広がり、慣れると細く効率的な道に整う――脳の変化もこれに似ているという考え方

03「増えて、そして整う」脳のモデル

イギリスの研究者プリアツィカスは、バイリンガルの脳研究を整理し、脳の変化は経験の量と時期によって形を変えるというモデル(動的再構築モデル)を提案しました(2020年)。

ざっくり言えば、新しい言語を使い始めた時期には灰白質が増え、経験を積むと、より効率的なつながりへと整理され、増えた部分が元に戻ったり減ったりすることもある、という考え方です。だから研究によって「増えた」「減った」の両方が報告されるのです。

04もう一つの注意:「変わった脳」=「できるようになった」ではない

ベルギーのファン・デ・プッテらは、通訳を学ぶ学生と翻訳を学ぶ学生を9か月追跡しました(2018年)。通訳の学生では脳の活動やつながりに変化が出たのに、注意や切り替えのテストの成績の変化には、両グループで差が出ませんでした。

さらにイタリアの研究(2024年)では、通訳の学生は訓練を始める前から、抑制の力や記憶の一部で翻訳の学生より優れていました。もともと向いている人が通訳の道を選ぶ、自己選択の可能性です。

05まとめ

語学の集中的な訓練で、大人の脳はたしかに変わります。でもその変化は、使い方に合わせた作り替えであって、「大きいほど賢い」という単純な話ではありませんでした。

子どもの英語でも同じです。大切なのは脳の画像ではなく、英語で何ができるようになったか。脳の変化は、その結果としてついてくるものです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerLearning languages is often said to "grow the brain," and simultaneous interpreters are a good group for… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Learning languages is often said to "grow the brain," and simultaneous interpreters are a good group for testing this idea. In a study published in 2017, researchers scanned trainee interpreters before and after a master's program and compared them with multilingual people who did not train. Only the trainees showed thicker cortex in areas linked to hearing speech sounds, planning speech and controlling attention.

However, a 2014 study found that professional interpreters had less gray matter than other multilingual people in several language-related areas, and those with more interpreting hours tended to have less in some of them. One explanation is that the brain first expands and then becomes more efficient. Brain changes, therefore, do not simply mean better abilities.

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

語学は「脳を育てる」とよく言われ、同時通訳者はこの考えを確かめるのに適したグループです。2017年に発表された研究で、研究者たちは修士課程の前後に通訳の訓練生の脳を撮影し、訓練を受けていない多言語話者と比べました。言葉の音を聞き取る、話を組み立てる、注意をコントロールすることに関係する領域で皮質が厚くなったのは、訓練生だけでした。

しかし2014年の研究では、プロの通訳者は他の多言語話者より、言語に関わるいくつかの領域で灰白質が少なく、一部の領域では通訳の時間が長い人ほど少ない傾向がありました。一つの説明は、脳はまず拡大し、その後より効率的になるというものです。したがって、脳の変化は単純によりよい能力を意味するわけではありません。

4択リーディングクイズ

Q1. Who showed thicker cortex in the 2017 study?

Q2. What did the 2014 study find about interpreting hours?

Q3. What is the writer's main message?

重要単語

  • simultaneous interpretingC1
    名詞(句)同時通訳Simultaneous interpreting requires listening and speaking at the same time. consecutive interpreting(逐次通訳)と対。simultaneously「同時に」は入試頻出。
  • plasticityC1
    名詞可塑性(経験によって変化する性質)Brain plasticity continues into adulthood. plastic(形を変えられる)から。neuroplasticity(神経可塑性)とも言う。
  • cortical thicknessC1
    名詞(句)皮質の厚さCortical thickness increased after training. cortex(大脳皮質)の形容詞形 cortical。MRI研究でよく使われる指標。
  • gray matterB2
    名詞(句)灰白質Gray matter can increase or decrease with experience. white matter(白質)と対。口語で gray matter は「頭脳・知能」の意味にもなる。
  • longitudinalC1
    形容詞縦断的な(同じ人を時間をおいて追跡する)A longitudinal study scans the same people twice. cross-sectional(横断的な=一時点で比べる)と対。因果を考えるうえで重要な区別。
  • self-selectionC1
    名詞自己選択(もともと向いている人がその道を選ぶこと)Self-selection may explain why interpreters seem different. 研究の交絡要因の代表例。「〜をした人は優れている」は「優れた人が〜を選んだ」かもしれない。
  • efficientB2
    形容詞効率的なWith practice, the brain may become more efficient. 名詞 efficiency。effective(効果的な)との区別は入試でも狙われる。
同時通訳の訓練を受けると、脳の一部の皮質が厚くなっていたらしい。ところがプロの通訳者では、逆に灰白質が少ない部位も見つかり、一部では通訳時間が長い人ほど少ない傾向まで。脳は語学で変わる、でも「大きい=賢い」とは限らなかった。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Hervais-Adelman, Moser-Mercer, Murray et al. (2017) Cortical thickness increases after simultaneous interpretation training, Neuropsychologiadoi.org
  2. Elmer, Hänggi & Jäncke (2014) Processing demands upon cognitive, linguistic, and articulatory functions promote grey matter plasticity in the adult multilingual brain: Insights from simultaneous interpreters, Cortexdoi.org
  3. Van de Putte, De Baene, García-Pentón et al. (2018) Anatomical and functional changes in the brain after simultaneous interpreting training: A longitudinal study, Cortexdoi.org
  4. Pliatsikas (2020) Understanding structural plasticity in the bilingual brain: The Dynamic Restructuring Model, Bilingualism: Language and Cognitiondoi.org
  5. Ghiselli, Russo & Tomasetto (2024) The effects of interpreting training on executive functions: A longitudinal study, Metadoi.org