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「バイリンガルは認知症が4年遅れる」は本当? 話題の研究とその後の反論

「バイリンガルは認知症が4年遅れる」は本当? 話題の研究とその後の反論

読む前に予想してみよう!

2つ以上の言語を話すと、認知症になるリスクそのものが下がることが確かめられている

研究カード(どんな研究?)
対象
認知症の患者・地域の高齢者
規模
184人〜5,500人超、複数のメタ分析
研究の種類
後ろ向き研究・前向きコホート・メタ分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

病院の記録では、2言語を話す人は認知症の症状が出る年齢が4年ほど遅かった。ただ、追跡調査では「なりにくい」とまでは言えず、議論が続いている。

ひとことで言うと2つの言葉を話すと脳にいいかも。でも「認知症を防ぐ」とはまだ言えない!

もくじ
  1. 2007年:症状が出るのが約4年遅かった
  2. 追跡研究では「なりにくさ」に差がない
  3. なぜ結果が分かれるのか
  4. まとめ

「2つの言語を話す人は、認知症になるのが4年以上遅い」。

2007年、カナダの研究チームが発表したこの結果は、世界中のニュースで取り上げられました。「英語を勉強すれば認知症予防になる!」と受け取った人もいたかもしれません。

でも、その後の研究を追っていくと、話はもう少し複雑でした。「発症が遅い」と「なりにくい」は、まったく別の話だったのです。

012007年:症状が出るのが約4年遅かった

インドのハイデラバードで行われた研究(アッラディら、2013年)でも、認知症患者648人の記録で、2言語以上を話す人の発症が4.5年遅かったと報告されました。この研究では、読み書きができない人の間でも同じ傾向が見られ、「教育のおかげ」だけでは説明しにくいとされました。

02追跡研究では「なりにくさ」に差がない

ところが、別のタイプの研究では違う結果が出ています。

上の2つは、すでに認知症と診断された人の記録をさかのぼる後ろ向き研究。一方、健康な人を何年も追いかけて、誰が認知症になるかを見る前向き研究では、結果が分かれました。

ロンドン大学のムカダムらは2017年、前向き研究をまとめたメタ分析を発表しました。約5,500人の参加者のデータで、認知症になるオッズ比は0.96(ほぼ差なし)。バイリンガルが認知症を防ぐという証拠は見られなかったのです。

2020年のブリーニらのメタ分析も、「発症は遅いが、なるリスクは下がらない」と結論しています。

「遅らせる」と「防ぐ」は別の話
「遅らせる」と「防ぐ」は別の話

03なぜ結果が分かれるのか

ひとつの考え方は認知予備力です。脳に変化が起きても、2言語を使い分けてきた経験などで症状が表に出るのを遅らせているのかもしれない、というもの。これなら「発症が遅い」と「なるリスクは同じ」は矛盾しません。

一方で、移民かどうか、教育、職業、受診のタイミングなど、言語以外の違いが結果をゆがめている可能性も指摘されています。後ろ向き研究では「いつ症状が始まったか」を家族の記憶などに頼ることが多く、その正確さにも限界があります。

さらに、「バイリンガルは注意や切り替えの力が高い」という脳の利点そのものについても、成人152研究をまとめたレトネンらのメタ分析(2018年)で、出版バイアスを補正すると利点は確認されなかったと報告されています。

04まとめ

「バイリンガルは認知症が遅れる」は、半分ホント。病院の記録では症状が出る年齢が遅いという結果がくり返し出ていますが、認知症になること自体を防ぐとは言えません。

英語を学ぶ理由は、脳のためだけでなくていい。世界が広がる楽しさそのものが、一番の価値です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCan speaking two languages protect the brain from dementia? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Can speaking two languages protect the brain from dementia? A 2007 study in Toronto examined the records of 184 dementia patients and found that lifelong bilinguals showed symptoms about four years later than monolinguals. A 2013 study in India found a similar delay of 4.5 years, even among people who could not read or write.

However, these studies looked back at patients who already had dementia. When researchers followed healthy people forward for years, the results were different. A 2017 meta-analysis found almost no difference in the risk of getting dementia. One explanation is cognitive reserve: bilingual experience may help the brain hide symptoms for longer without lowering the risk itself. Other factors, such as immigration and education, may also affect the results.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2つの言語を話すことは、脳を認知症から守ってくれるのでしょうか。トロントでの2007年の研究は、認知症患者184人の記録を調べ、生涯バイリンガルだった人は1言語だけの人より約4年遅れて症状が出ていたことを見つけました。インドでの2013年の研究も、読み書きができない人の間でさえ、4.5年という同様の遅れを見つけました。

しかし、これらの研究はすでに認知症になっていた患者をさかのぼって調べたものでした。研究者が健康な人を何年も前向きに追跡すると、結果は違いました。2017年のメタ分析では、認知症になるリスクにほとんど差がありませんでした。1つの説明は認知予備力です。バイリンガルの経験は、リスクそのものを下げることなく、脳が症状をより長く隠すのを助けているのかもしれません。移民であることや教育など、ほかの要因も結果に影響しているかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What was special about the 2013 study in India?

Q2. How were the 2007 and 2013 studies different from later studies?

Q3. According to the idea of cognitive reserve, what might bilingual experience do?

重要単語

  • dementiaC1
    名詞認知症Dementia affects memory and daily life. de-(離れる)+ment(心)が語源。医療・高齢化の長文で頻出。
  • onsetC1
    名詞発症・(よくないことの)始まりThe onset of symptoms was later in some groups. the onset of ~ の形で使う。病気や冬など、望ましくないものの始まりに使うことが多い。
  • cognitive reserveC1
    名詞(句)認知予備力(脳の損傷に耐える余力)Education may build cognitive reserve. reserve は「蓄え・予備」。脳に変化があっても症状が出にくい「余力」を指す仮説。
  • retrospectiveC1
    形容詞後ろ向きの(過去にさかのぼる)Retrospective studies rely on past records. retro-(後ろへ)+spect(見る)。反対は prospective(前向きの)。研究の信頼度を読むカギ。
  • prospectiveC1
    形容詞前向きの(これから追跡する)・見込みのあるProspective studies follow healthy people over time. 日常では prospective students「入学希望者」のように「見込みの」の意味。pro-(前へ)。
  • confoundingC2
    形容詞交絡する(別の要因が混ざる)Confounding factors can create false links. confound「混同させる」から。confounding factor / variable は「見かけの因果」を生む第三の要因。
  • delayB1
    動詞・名詞遅らせる・遅れExercise may delay some health problems. delay doing(~するのを遅らせる)で動名詞をとる。without delay「すぐに」も頻出。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「バイリンガルは認知症が4年遅れる」は本当? 話題の研究とその後の反論の4コマ漫画
2007年の研究で、バイリンガルの人は認知症の症状が出るのが約4年遅かったと報告され、世界中で話題になった。でも健康な人を何年も追跡した研究をまとめると「なりにくさ」に差は見られなかったらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Bialystok, Craik & Freedman (2007) Bilingualism as a protection against the onset of symptoms of dementia. Neuropsychologiadoi.org
  2. Alladi et al. (2013) Bilingualism delays age at onset of dementia, independent of education and immigration status. Neurologydoi.org
  3. Mukadam, Sommerlad & Livingston (2017) The relationship of bilingualism compared to monolingualism to the risk of cognitive decline or dementia. Journal of Alzheimer's Diseasedoi.org
  4. Brini et al. (2020) Bilingualism is associated with a delayed onset of dementia but not with a lower risk of developing it. Neuropsychology Reviewdoi.org
  5. Lehtonen et al. (2018) Is bilingualism associated with enhanced executive functioning in adults? A meta-analytic review. Psychological Bulletindoi.org