「1万時間やれば一流」は語学にも当てはまる? 元の研究を追試したら…

読む前に予想してみよう!
練習時間の多さだけで、技能の個人差のほとんどが説明できる
88研究のメタ分析では、練習で説明できる成績の差はゲームで26%、音楽で21%、教育で4%。練習は大事だが、それだけでは決まらない。
- 対象
- 音楽家・スポーツ選手・学習者など
- 規模
- 88研究のメタ分析+追試
- 研究の種類
- メタ分析+追試研究
- 確かさ
- ★★★★☆
「1万時間の法則」の元になった研究は追試で再現されなかった。練習量は大事だが、成績の差のうち練習で説明できるのは分野により1%未満〜26%。語学は「時間×質」がカギ。
ひとことで言うと長くやれば上手になるのは本当。でも「時間」だけじゃなく「やり方」も大事!
「どんな分野でも、1万時間練習すれば一流になれる」
一度は聞いたことがある「1万時間の法則」。英語もそうだ、と言われると、「じゃあ1日3時間で約9年か……」と計算したくなりますよね。
でも実は、この法則の元になった研究は、のちの追試で再現されなかったのです。では、語学の「練習量」はどう考えればいいのでしょうか。
01元ネタは、ベルリンのバイオリン学生
この研究が、のちにベストセラー本で「1万時間の法則」として広まりました。ただ、エリクソン自身は「1万時間」を魔法の数字として扱うことには批判的でした。
02追試してみたら……
2019年、心理学者マクナマラとマイトラは、この有名な研究を、二重盲検化など一部を変えた同じ方法で追試しました。結果は、
- 「練習量が腕前のレベルにきれいに対応する」という中心的な結果は再現されなかった
- 練習の効果自体はそれなりに大きかったが、元の研究よりかなり小さかった
さらにその前、2014年には、88の研究をまとめたメタ分析も行われています。成績の個人差のうち意図的練習で説明できたのは、
- ゲーム(チェスなど):26%
- 音楽:21%
- スポーツ:18%
- 教育:4%
- 仕事:1%未満
練習は確かに大事。でも、それだけで決まるわけではないことがわかります。

03語学では「時間」と「練習の質」の掛け算
では、語学ではどうでしょう。英語の上達に膨大な時間が必要なのは事実です。日本語を母語とする人にとって英語は遠い言語で、何千時間単位の学習が必要だと考えられています。
ただし、時間を「ただ過ごす」だけでは足りません。応用言語学者の鈴木祐一、中田達也、デカイザーは2019年、第二言語の練習を最適化するカギとして「望ましい困難」という認知心理学の枠組みを紹介しました。
- 一度に詰め込むより、間隔をあけてくり返す
- 同じ種類の問題ばかりより、混ぜて練習する
- 見て覚えるより、思い出す練習をする
こうした、少し難しく感じる練習のほうが、長く身につきやすいというのです。
04まとめ
「1万時間の法則」は、元の研究が追試で再現されず、そのままの形では言いすぎでした。練習は大事、でもそれだけですべてが決まるわけではありません。
語学でも同じ。時間をかけることに加えて、弱点を狙い、思い出し、フィードバックを受ける。練習の「質」を上げれば、同じ1時間がもっと価値のある1時間になります。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe famous '10,000-hour rule' comes from a 1993 study by Ericsson and his colleagues.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
You may have heard of the '10,000-hour rule'. The rule says that if you practice for 10,000 hours, you will become an expert. It came from a 1993 study of violin students in Berlin.
But in 2019, other researchers repeated the study, and the main result did not appear again. Practice is important, but it does not explain everything. For language learning, how you practice is as important as how long you practice.
73 words ・ CEFR A2
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「1万時間の法則」を聞いたことがあるかもしれません。1万時間練習すれば専門家になれる、というものです。これは、ベルリンのバイオリンを学ぶ学生を対象にした1993年の研究から来ています。
しかし2019年、別の研究者たちがその研究をくり返したところ、中心的な結果は再び現れませんでした。練習は大切ですが、それですべてが説明できるわけではありません。言語学習では、どれだけ長く練習するかと同じくらい、どう練習するかが重要なのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「1万時間練習すれば専門家になれる」という法則が本当か、がテーマなので C。
Q2. Who were studied in the 1993 study?
a 1993 study of violin students in Berlin とあるので B。
Q3. In this passage, an "expert" is ...
expert は「専門家、熟達者」。1万時間練習した結果なる人なので D。反対は beginner / novice。
The famous '10,000-hour rule' comes from a 1993 study by Ericsson and his colleagues. They found that the best violin students at a music school in Berlin had practiced alone for about 10,000 hours by the age of 20.
However, when the researchers Macnamara and Maitra repeated the study in 2019, the main result was not replicated. A 2014 meta-analysis of 88 studies also showed that practice explained 26% of the differences in performance in games, 21% in music and 18% in sports, but only 4% in education. For language learners, researchers suggest 'desirable difficulties', such as spacing out reviews and practicing recall.
103 words ・ CEFR B1
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有名な「1万時間の法則」は、エリクソンらによる1993年の研究から来ています。彼らは、ベルリンの音楽学校の最も優秀なバイオリン専攻の学生が、20歳までに約1万時間ひとりで練習していたことを見いだしました。
しかし、2019年にマクナマラとマイトラがその研究をくり返したところ、中心的な結果は再現されませんでした。88の研究をまとめた2014年のメタ分析も、練習で説明できた成績の差は、ゲームで26%、音楽で21%、スポーツで18%でしたが、教育ではわずか4%だったことを示しました。言語学習者に対して、研究者たちは、復習の間隔をあけることや思い出す練習をすることなど、「望ましい困難」を提案しています。
4択リーディングクイズ
Q1. How much of the difference in performance did practice explain in education?
but only 4% in education とあるので A。26% はゲーム、21% は音楽、18% はスポーツ。
Q2. What happened when the 1993 study was repeated?
the main result was not replicated とあるので D。
Q3. Which learner follows the advice in the passage?
望ましい困難の例として、復習の間隔をあけることと思い出す練習が挙げられているので C。
The 10,000-hour rule goes back to a 1993 study. Ericsson and colleagues divided violin students at a Berlin music academy into three skill levels and asked them to estimate their past practice. The best violinists had built up around 10,000 hours of solitary practice by age 20, and the researchers concluded that deliberate practice, focused effort designed to improve performance, explained most individual differences.
A bestselling book made the figure famous, although Ericsson himself objected to treating it as a magic number. In 2019, Macnamara and Maitra repeated the study with a few changes to the method. The central finding, that practice neatly matched skill level, did not hold up. Practice still had a sizeable effect, but far smaller than first reported.
A 2014 meta-analysis of 88 studies had already found that deliberate practice explained 26 percent of performance differences in games, 21 percent in music, 18 in sports, 4 in education and under 1 percent in professions. The original study also relied on people recalling their past practice, and researchers disagree about its definition. For language learners, time is necessary but not sufficient. Spacing out study, mixing problem types and practicing retrieval can each make an hour count for more.
201 words ・ CEFR B2
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「1万時間の法則」は、1993年のある研究にさかのぼります。エリクソンらは、ベルリンの音楽学校のバイオリン専攻の学生を3つの技能レベルに分け、これまでの練習時間を見積もってもらいました。最も優秀なバイオリン奏者は20歳までに約1万時間のひとりでの練習を積み重ねており、研究者たちは、意図的練習、つまり上達のために工夫された集中的な努力が、個人差の大部分を説明すると結論づけました。
ベストセラー本がこの数字を有名にしましたが、エリクソン自身はそれを魔法の数字として扱うことに反対していました。2019年、マクナマラとマイトラは手法に一部変更を加えて、この研究をやり直しました。練習量が技能レベルにきれいに対応するという中心的な結果は、再現されませんでした。練習はなおかなりの効果を持っていましたが、最初の報告よりずっと小さいものでした。
88の研究をまとめた2014年のメタ分析はすでに、意図的練習で説明できる成績の差は、ゲームで26%、音楽で21%、スポーツで18%、教育で4%、仕事では1%未満だと示していました。また、元の研究は本人が自分の過去の練習を思い出すことに頼っており、その定義についても研究者の意見は分かれています。言語学習者にとって、時間は必要ですが、それだけでは十分ではありません。間隔をあけて勉強すること、問題の種類を混ぜること、思い出す練習をすることは、どれも1時間の価値を高めてくれます。
4択リーディングクイズ
Q1. What was Ericsson's own attitude toward the figure of 10,000 hours?
although Ericsson himself objected to treating it as a magic number とあるので B。数字を有名にしたのはベストセラー本。
Q2. According to the 2014 meta-analysis, in which area did practice explain the least?
仕事(professions)は under 1 percent で最も小さいので C。
Q3. What does the author mean by "time is necessary but not sufficient"?
直後の Spacing out study, mixing problem types and practicing retrieval can each make an hour count for more. から、時間は必要だが練習の質も重要という A。necessary / sufficient の区別は論理問題の頻出ポイント。
重要単語
- deliberate practiceC1名詞(句)意図的練習(弱点を狙ってフィードバックを受けながら行う練習)Deliberate practice is different from simple repetition.
deliberate は「意図的な、慎重な」。動詞(熟考する)では発音が /dɪˈlɪbəreɪt/ に変わる。 - expertiseC1名詞専門的な技能・熟達Expertise takes years to develop.
expert(専門家)の名詞形。アクセントは ex-per-TISE(最後)。 - varianceC1名詞ばらつき・分散Practice explained 21% of the variance in music.
vary(変わる)の名詞形。「説明できる分散の割合」は研究系長文の定番表現。 - replicateC1動詞追試する・再現するThe researchers failed to replicate the main result.
fail to replicate「再現できない」。replica(複製品)と同語源。 - automaticityC1名詞自動性(考えなくてもできる状態)Practice leads to automaticity in speaking.
automatic の名詞形。技能習得理論のゴールとなる状態。 - desirable difficultyC1名詞(句)望ましい困難(少し難しいほうが身につく練習)Spacing your reviews creates a desirable difficulty.
desirable(望ましい)と difficulty(困難)という逆説的な組み合わせ。学習科学の重要概念。 - accumulateC1動詞蓄積する、積み重ねるHe accumulated thousands of hours of practice.
名詞 accumulation。ac(~に)+cumul(積み上げる)。accumulated knowledge「蓄積された知識」。
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「1万時間練習すれば誰でも一流」。この法則の元になったバイオリン奏者の研究を追試したら、中心的な結果は再現されなかった。88研究のメタ分析でも、練習量で説明できる成績の差は音楽で21%、教育ではわずか4%だった。
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- Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993) The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance, Psychological Reviewdoi.org
- Macnamara, Hambrick & Oswald (2014) Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis, Psychological Sciencedoi.org
- Macnamara & Maitra (2019) The role of deliberate practice in expert performance: revisiting Ericsson, Krampe & Tesch-Römer (1993), Royal Society Open Sciencedoi.org
- Suzuki, Nakata & DeKeyser (2019) The Desirable Difficulty Framework as a Theoretical Foundation for Optimizing and Researching Second Language Practice, The Modern Language Journaldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













