偉人の勉強法No.F01
シュリーマンの「音読と作文」で、外国語は短期間で身につくって、ホント?

読む前に予想この常識、あなたはどう思う?
先に予想してから答えを見ると、記憶に残りやすくなります(予想の効果の記事)。
判定:半分ホント
「書いて、直してもらう」部分は研究と合います。でも「6週間でペラペラ」は、本人の話にすぎません。
半分ホントとは… 条件つきで正しい、または言い過ぎの部分がある常識です。
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論文での効果口頭での誤り訂正に、持続する効果(15研究・827人)
今日からできるやり方
- 興味のある話題で、短い作文を毎日書く
- 先生や詳しい人に、作文を直してもらう
- 直された文を覚え、次の回に声に出して言う
- 伸びは数週間でなく、数か月単位で確かめる
1842年、オランダのアムステルダム。ひとりの青年が、商社の下働きとして働いていました。仕事は、手形にハンコを押して町で換金し、郵便局へ手紙を運ぶこと。給料は年に800フラン。彼はその半分を、語学の勉強につぎ込みました。
住まいは、月8フランの、暖房もない屋根裏部屋。冬は凍え、夏は焼けるように暑い。朝食はライ麦のおかゆ。のちにトロイア遺跡を掘り当てて世界を驚かせる、ハインリッヒ・シュリーマンの若き日の姿です。
雨の日も、本を手に
シュリーマンは、1880年の著書『イリオス』の自伝の章で、自分の勉強法をくわしく書き残しています。たくさん音読する。ただし訳さない。毎日レッスンを受ける。興味のある話題で作文を書き、先生に直してもらう。直された文を暗記して、次のレッスンで言う。
発音を身につけるために、日曜日には2回イギリスの教会へ行き、牧師の説教を一語残らず小声でまねしました。使い走りの途中は、雨の日でさえ本を手に何かを暗記し、郵便局で待つ間も読んでいたといいます。
本人によると、3か月後には20ページの文章を3回読むだけで、先生の前で一語一語暗唱できるようになりました。英語は半年、フランス語もさらに半年。オランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語は、それぞれ6週間もかからずに書いて話せるようになったといいます。
ロシア語の「聞き役」を雇う
ロシア語を学んだときの話は、さらに変わっています。当時のアムステルダムには、ロシア語を教えてくれる先生が見つかりませんでした。そこで彼は、週4フランで貧しい男を雇い、毎晩2時間、自分のロシア語の暗唱を聞いてもらいました。その男は、ロシア語がひと言もわかりません。
オランダの家は天井が板1枚で、大声の暗唱は下の階まで筒抜け。ほかの住人から苦情が出て、ロシア語を学ぶ間に2回も引っ越すはめになりました。それでも6週間後には、ロシア語で最初の手紙を書いた、と彼は語っています。
研究と合う部分
この勉強法のうち「書いて、直してもらう」部分は、現代の研究とよく合います。ライスターとサイトウが15の研究、827人分をまとめた2010年の分析では、授業中に口頭で誤りを直してもらうことに、長く続く効果がありました。書いた文への添削も文法の正確さを高めることが、カンとハンの2015年の分析で報告されています。
ただ、ロシア語のときは、直してくれる人がいませんでした。本人も、そのころの作文は「間違いなくひどいものだった」と書いています。毎晩来てくれる聞き役の男には、誤りを直すことはできませんでした。
「6週間でペラペラ」は割り引いて
では「6週間で書いて話せた」は本当でしょうか。ここは慎重に聞く必要があります。古典学者のコールダーは1972年、シュリーマンの自伝に事実と違う記述がいくつもあることを示しました。彼が博士号を得たときの審査では、彼の書いた古代ギリシャ語について「文の組み立てを学んでいない」という評価も残っています。コールダーの結論は、外からの証拠がない限り、自伝の記述は疑ってかかるべきだ、というものでした。
偉人の体験談は、それだけでは証拠になりません。それでも、まねする価値のある部分はあります。屋根裏部屋の青年がやっていた「書いて、直してもらって、声に出して覚える」。その流れを、数週間ではなく数か月の単位で続けることです。
参考文献
Schliemann H. (1880). Ilios: The City and Country of the Trojans (Introduction: Autobiography of the Author, pp. 9-10). Harper & Brothers.
archive.org/details/ilioscitycountry1880schl✓ 実在と内容を確認済み
Lyster R., Saito K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32, 265-302.
doi.org/10.1017/S0272263109990520✓ 実在と内容を確認済み
Kang E., Han Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99, 1-18.
doi.org/10.1111/modl.12189✓ 実在と内容を確認済み
Calder W. M. III (1972). Schliemann on Schliemann: A study in the use of sources. Greek, Roman and Byzantine Studies, 13(3), 335-353.
grbs.library.duke.edu/index.php/grbs/article/view/9531✓ 実在と内容を確認済み
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