ENGLISH TEACHER’S BRIEFING
📬 原田先生の英語教育ニュースレター
中高英語教師のための授業アイデア&最新情報
2026年7月31日(金) ISSUE No.162 / CHINGUETTI FOLIO EDITION
砂漠の町の家に、何百年前の手写本がある。今号は「写す・比べる・書き込む」を英語の教室へ。
MAKHTUT I / MAURITANIA
英検協会とIPAが連携協定 — 「英語力 × デジタル」が次の人材像に
TODAY’S HEADLINE
日本英語検定協会と情報処理推進機構(IPA)が「グローバルデジタル人材の育成に関する連携協定」を締結したと、7月29日に公表されました。締結日は7月1日。両団体は、英語力とデジタルスキルを兼ね備えた人材の育成に向けて、資格・検定・試験のあり方の検討/人材育成に関わる情報基盤の調査/若年層のデジタルリテラシー向上の共同施策などを協議していくとしています。
英検テストファミリーの年間志願者は約454万人(2025年度)、IPA側は情報処理技術者試験やデジタルスキル標準(DSS)、学習ポータル「マナビDX」を担う組織。「英語の試験」と「情報の試験」が同じテーブルに座った、という一点が今回のニュースの芯です。
▸ 教室への含意
生徒に必要なのは「英語ができること」ではなく、英語を使って何をするかになっていきます。夏休み明けの単元設計で、出口を一段ずらしてみてください。「本文を理解する」→「本文の主張を英語で要約し、根拠を1つ足して説明する」。同じ教材のまま、評価する行動だけを変えるのが一番軽い改造です。
catchword › 帯活動
MAKHTUT II / MAURITANIA
🎯 今日の帯活動アイデア(5分でできる)
🖌 Margin Gloss(余白グロス)
対象:中2〜高3 時間:5分 準備:教科書とノートだけ
① 教科書から1文を選び、ノートの中央に写す(左右の余白を広くとる)。
② 左の余白に「引っかかった語」、右の余白に「自分の言葉での言い換え(英語)」、下に「その文への疑問を英語で1つ」。
③ ペアでノートを交換。相手の右の余白だけを読んで、元の文を推測して口に出す。
④ 元の文を見せ合い、ズレた箇所に赤で丸をつけて終了。
💡 ポイント:「読めた/読めない」の二択を、書き込みという中間地帯に開く活動です。余白は理解のログになります。
🔗 Catchword Chain(キャッチワード連鎖)
対象:中1〜 時間:5分 準備:不要
写本には、次の紙葉の最初の語を前の葉の隅に書き添える catchword という習慣がありました。それを文でやります。
① A:“I forgot my umbrella.”
② B は最後の語を文頭に使う:“Umbrella? Take mine.”
③ C は mine から:“Mine is broken, sorry.” 以降も同じ要領で。
④ 3秒以内に言えなければ次の人へ。1周したら、つながりが一番きれいだった箇所をクラスで1つ選ぶ。
💡 ポイント:語彙ではなく「文と文のつなぎ目」を鍛えます。最後の語を意識すると、文末を言い切る癖がつきます。
catchword › AIツール
MAKHTUT III / MAURITANIA
🤖 AI × 英語指導(教師向け):fobizz
ドイツ発の教師専用プラットフォーム。授業計画・ワークシート・フィードバックまで、AIの入り口が最初から「教室の用事」の形で並んでいるのが特徴です。
✅ 150以上のAIアシスタントとプロンプト集(授業計画・課題づくり・添削の下書き)
✅ インタラクティブワークシート、デジタル黒板、投票、ワードクラウドが同じ場所にある
✅ 生徒は個別登録なしで配布コードから利用でき、データは設定期間後に自動削除
✅ 無料で試せるプラン。英語UIあり、GDPR準拠
🎓 活用例:教科書本文のPDFを読み込ませ、A2とB1の2段階に書き換えた読解プリントを同時に出力。本文は共通のまま、速く終わる生徒用の発展設問だけを1問足しておくと、机間指導が「待つ」から「聞く」に変わります。
catchword › 生徒向けAI
MAKHTUT IV / MAURITANIA
🎤 AI × 英語学習(生徒向け):Orai
会話練習アプリではなく、話し方を採点するAIコーチ。録音すると、フィラー(um, you know…)の回数、話す速さ、声の張り、明瞭さが数値と文字起こしで返ってきます。
✅ Script mode:原稿を貼り付けて、本番と同じ内容で練習
✅ Freestyle mode:その場で話して即フィードバック
✅ 記録が残るので「前回よりフィラーが3つ減った」が見える
✅ iOS / Android、45万人以上が利用(無料で使える範囲あり)
🎓 活用例:スピーチ発表の前日課題を「原稿を暗記する」から「フィラーを3個以内にする」に変える。評価軸が努力ではなく直せる行動になるので、当日の声が変わります。
catchword › ニュース
MAKHTUT V / MAURITANIA
📰 英語教育ニュース FLASH
🇯🇧 JAPAN — EVENT
IBディプロマプログラム フォーラム in 東京、8月29日に都立国際高校で開催(参加無料)
国際バカロレア機構の主催。東京都教育庁の講演のほか、東京都立国際・ぐんま国際アカデミー中高等部・さいたま市立大宮国際・横浜インターナショナルスクールのDPコーディネーターによるパネル、DP履修生によるパネル、授業見学が予定されています(10:00〜16:00、日本語進行・英語セッションには通訳、事前申込制)。DPは日本語以外の科目を英語で学ぶプログラム。「英語で教科を学ぶ」教室の言葉づかいを、生徒の口から直接聞ける機会です。
🇯🇧 JAPAN — MATERIALS
AI発音コーチ「ELSA」とマンガ多読アプリ「Langaku」、学校向けプログラムを共同開発
「発音への即時フィードバック」と「読みたくなる素材での多読」を1本の学習線につなぐ設計。発音と多読は普段は別の時間に置かれがちですが、同じ教材の中で音と量を往復させるという発想は、自作の帯活動にもそのまま持ち込めます。音読の宿題を「読む量」ではなく「同じ1ページを3回、音を直しながら」に切り替えるだけでも近い効果が出ます。
🌎 GLOBAL — ONE YEAR TO GO
Duolingo for Schools、終了は2027年7月31日 — ちょうど1年前の今日
教師用ダッシュボード(クラス管理・課題配信・進捗確認)は2027年7月31日で終了。新規のクラス作成はすでにできません。学習アプリ自体は今後も無料で使えます。宿題管理をここに寄せている場合、この1年でやることは2つだけです。① 残したい進捗記録を書き出す。② 代わりの管理手段を1つだけ試す。慌てて全面移行する必要はありませんが、「アプリは残るがダッシュボードは消える」という区別は、夏休み中に確認しておく価値があります。
catchword › 学習ツール
MAKHTUT VI / MAURITANIA
🛠 超絶使える!英語学習ツール
今号は「レベル別の練習」「音で浴びる」「絵から入る語彙」の3方向から、無料で使えるものを4つ。いずれも過去号未掲載です。
📝 Test-English
A1〜B2のレベル別に、文法・語彙・リスニング・リーディングの練習と小テストが並ぶサイト。単元末の確認プリントの代わりに、レベルを指定して1セットだけ配るのに向きます。
🎧 ESL Bits
短編小説・ニュース・ラジオドラマを、再生速度を選んで音声と本文で追える老舗サイト。中上級の多聴に強く、同じ素材を「速い→等倍」で往復させる練習が作りやすい。
🍫 Learning Chocolate
絵と音声でテーマ別に語彙を練習。写真から入るので、和訳を経由せずに語と物を結びつけたい導入場面に向きます。中1の語彙単元と相性がよい。
🖼 Language Guide
音声つきの絵辞典。身体・食べ物・道具など、名詞のかたまりにまとめて触れられるので、教科書の単元語彙を面で押さえたいときに便利です。
catchword › 世界の教室
MAKHTUT VII / MAURITANIA
🌎 世界の教室から学ぶ
🇲🇷 モーリタニア — 家に写本がある国の、読み方
サハラ西端のモーリタニアは、アラビア語を公用語とし、プラール語・ソニンケ語・ウォロフ語が国語として並ぶ多言語国家です。学校と行政では長くフランス語が使われてきましたが、近年は大西洋沖のガス開発や国際的な労働市場を背景に、英語への需要が上がっています。
この国を英語教師の目で面白くするのは、砂漠の交易都市シンゲッティ(Chinguetti)に残る「家族図書館」です。何百年も前の手写本が民家に受け継がれ、写字生たちは本を読む前に写すことで学びました。手で写せば必ず誤差が出る。だから後の読み手は複数の写本を並べ、異読(variant)を比べて「どちらが元の文か」を議論しました。読解が、はじめから複数形だったということです。
🔑 明日から使えるテクニック:Variant Reading(異本照合・3分)
① 教師が1文を2回音読する(テキストは見せない)。
② 3人の生徒が黒板の3か所に同時に書き取る。
③ 3つを消さずに残し、全員で違う箇所に丸をつける。
④ “Why did this happen?” と問い、英語で理由を言わせる(“Maybe he heard a instead of the.” など)。
誤りを「個人の失点」ではなく「クラスの資料」として扱えるのが、この形の利点です。3枚の異本が並ぶと、生徒は正解ではなく根拠を話し始めます。
catchword › 名言
MAKHTUT VIII / TODAY’S QUOTE FOR TEACHERS
“Literacy is a social practice, not simply a technical and neutral skill.”
リテラシーとは社会的な営みであり、単なる技術的で中立的なスキルではない。
Brian V. Street (1943–2017)
社会人類学者/New Literacy Studies の提唱者。Literacy in Theory and Practice ほか
MAKHTUT IX / MAURITANIA
📆 Friday Marginalia(金曜の余白書き)
今週の授業ノートの余白に、3行だけ書いて帰ります。ノートを新しく作らないのが続けるコツです。
MATN — 本文
今週いちばん手応えのあった3分は、どの場面だったか。
HĀMISH — 余白
そのとき書き留めたかった一言は、何だったか。
NASKH — 写し
来週そのまま写して使いたい手順を、1つだけ。
💡 今日の1分ティップス:Golden Line(金の一行)
読解の最後に、本文から1文だけ「今日の金の一行」を選ばせ、理由を英語1文で書かせます。全訳より短く、感想文より具体的。選ぶという行為が、本文の読み直しを強制します。黒板の隅に日付とその1文を残していくと、学期末には「クラスが選んだ文の帯」ができます。
catchword › 参考リンク
📎 COLOPHON / 今号の参考リンク
ニュース
ツール
📬 原田先生のニュースレター Vol.162 / f.162 r
haradaeigo.com
写しは必ず少しずれる。そのずれが、次の読み手の手がかりになります。よい週末を。
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