脳と心理ホント

パパのTシャツを置くだけで、赤ちゃんの脳は知らない人と「同期」しやすくなった

パパのTシャツを置くだけで、赤ちゃんの脳は知らない人と「同期」しやすくなった

読む前に予想してみよう!

赤ちゃんが親のにおいに反応する研究は、これまで母親についてしか行われていなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
生後5〜12か月の赤ちゃんと父親
規模
55組(主要解析は約40人)
研究の種類
実験研究(二者同時脳波)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

父親が2晩着たTシャツを近くに置くと、赤ちゃんと見知らぬ男性の脳波の同期が強まった。赤ちゃんはパパのにおいを感じ取っているらしい。

ひとことで言うと赤ちゃんは、パパのにおいがあると知らない人ともなかよくなりやすい!

もくじ
  1. 2つの脳を同時に測る「ハイパースキャニング」
  2. パパのにおいが「知らない人」との壁を下げた
  3. ママは「安心」、パパは「冒険」?
  4. 昔の人は、パパのにおいの力を知っていた?
  5. まとめ

赤ちゃんは、ママのにおいで安心する。これはよく知られた話です。では、パパのにおいは?

2026年7月、科学誌『Science Advances』に、イスラエルのライヒマン大学のエンデヴェルト=シャピラ(Endevelt-Shapira)さん、フェルドマン(Feldman)さんらの研究が発表されました(9月末に海外の心理学ニュースで紹介され、話題に)。

生後5〜12か月の赤ちゃんと父親55組が実験に参加。その結果、パパが着たTシャツがそばにあるだけで、赤ちゃんと見知らぬ男性の「脳のシンクロ」が強まることが分かりました。

012つの脳を同時に測る「ハイパースキャニング」

人と人が気持ちを通わせているとき、2人の脳波のリズムがそろう現象が知られています。これが脳間同期(interbrain synchrony)です。

Tシャツは、父親が実験前に2晩続けて着て寝たもの。においを邪魔しないよう、父親はその間、石けんやデオドラントを使わないよう頼まれていました。

02パパのにおいが「知らない人」との壁を下げた

結果は3つ。

  • 赤ちゃんは、見知らぬ男性よりパパと脳がよくシンクロした
  • 見知らぬ男性と遊ぶとき、パパのTシャツがあるとシンクロが強くなった
  • パパのにおいがあると、赤ちゃんの「わくわく」した前向きな反応も増えた

研究チームは、赤ちゃんがパパのにおいから「パパがいる感じ」を思い出していると考えています。においは、その人がいなくても残せる、ほぼ唯一の手がかりなのです。

においは「その人がいない時」にも残せる、数少ない手がかり
においは「その人がいない時」にも残せる、数少ない手がかり

03ママは「安心」、パパは「冒険」?

チームは2021年に、母親のにおいでも同じような実験をしています。そのときは、ママのにおいが赤ちゃんの安心感や顔への注意を高め、見知らぬ女性とのシンクロを強めました。

今回のパパ版では、においが前向きな興奮(ポジティブな覚醒)を高め、注意を保つのに関わるアルファ波の領域で脳の左右のつながりを強めていました。

ママは「安心の基地」、パパは「外の世界へ連れ出す役」。昔から言われてきた役割の違いが、脳のレベルでも見えてきたのかもしれません。

04昔の人は、パパのにおいの力を知っていた?

論文では、ちょっと意外な記録も紹介されています。オーストラリア北部の先住民ウィク・モンカンの人々について、1936年に書かれた人類学の報告です。

そこには、生まれた赤ちゃんを初めて抱いた父親が、自分のわきの下の汗(=におい)を手に取って、赤ちゃんの頭にこすりつける儀式があったと記されています。赤ちゃんに「これがお父さんのにおいだよ」と教えるような習わしです。

パパのにおいは、ママのにおいと違って、生まれてから初めて出会うもの。だからこそ、意識して覚えてもらうことに意味があるのかもしれない、と研究チームは考えています。実際、これまでの研究では、育児によく関わる父親ほど、子どもとの脳の同期が強いことが報告されています。今回の研究でも、関わりの多い父親ほど、においによる同期の高まりが大きい傾向がみられました(探索的な分析)。

05まとめ

赤ちゃんは、目や耳だけでなく鼻でも家族を感じている。そして、パパのにおいは、赤ちゃんが知らない人と通じ合うための「お守り」のように働くのかもしれません。

もしパパが出張で留守にするなら、パパが着たTシャツを1枚置いていく……そんな昔ながらの知恵にも、案外ちゃんと意味があるのかも。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMost research on babies and smell has focused on mothers, but a new study looked at fathers. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Most research on babies and smell has focused on mothers, but a new study looked at fathers. Researchers at Reichman University in Israel recorded the brain waves of babies aged five to twelve months and of adults at the same time while they played together. Before the experiment, each father slept in the same T-shirt for two nights without using soap or deodorant. Babies' brain rhythms matched their fathers' more than a stranger's.

However, when the father's T-shirt was placed nearby, the match between the baby and an unfamiliar man became stronger. The babies also showed more positive excitement. The researchers think that the father's smell helps babies feel that he is present, even when he is not in the room.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

赤ちゃんとにおいに関する研究のほとんどは母親に注目してきましたが、新しい研究は父親に目を向けました。イスラエルのライヒマン大学の研究者たちは、生後5〜12か月の赤ちゃんと大人が一緒に遊んでいる間、両者の脳波を同時に記録しました。実験の前、父親はそれぞれ石けんやデオドラントを使わずに、同じTシャツで2晩眠りました。赤ちゃんの脳のリズムは、見知らぬ人より父親とよく一致しました。

しかし、父親のTシャツが近くに置かれると、赤ちゃんと見知らぬ男性の一致が強くなりました。赤ちゃんは前向きな興奮もより多く示しました。研究者たちは、父親のにおいは、父親が部屋にいないときでも、そこにいると赤ちゃんが感じる助けになると考えています。

4択リーディングクイズ

Q1. What was new about this study?

Q2. What were the fathers asked not to do?

Q3. What do the researchers suggest?

重要単語

  • body odorB2
    名詞(句)体臭Body odor can carry information about a person. odor は米つづり(英は odour)。略して BO とも言う。scent は「(よい)香り」寄りの語。
  • infantB2
    名詞乳児、赤ちゃんInfants sleep for many hours a day. ラテン語で「話せない者」が語源。baby より硬く、研究・医療の文章で使う。infancy「幼年期」。
  • synchronyC1
    名詞同期、同時に起こることThe dancers moved in perfect synchrony. syn-(共に)+chron(時間)。動詞 synchronize、口語の sync も同じ仲間。
  • unfamiliarB1
    形容詞なじみのない、見知らぬThe baby looked at the unfamiliar face. un-(否定)+familiar。be unfamiliar with ~「~をよく知らない」の形で頻出。
  • simultaneouslyB2
    副詞同時にTwo cameras recorded the game simultaneously. at the same time の硬い言い方。形容詞は simultaneous(simultaneous interpretation「同時通訳」)。
  • presenceB1
    名詞存在、いることThe dog calmed down in the presence of its owner. in the presence of ~「~のいる前で」。反対は absence「不在」。
  • arousalC1
    名詞覚醒、(感情の)高ぶりMusic can increase emotional arousal. 動詞 arouse「(感情を)呼び起こす」。心理学では「興奮・活性化の度合い」の意味で使う。
パパが2晩着たTシャツを赤ちゃんのそばに置いておくと、知らない男性と遊ぶときの「脳と脳のシンクロ」が強くなったらしい。赤ちゃんはパパのにおいで「パパがいる感じ」を作り出しているのかも。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Endevelt-Shapira, Schwartz & Feldman (2026) Scent of a father: Paternal body odors boost interbrain synchrony, Science Advancesdoi.org
  2. Endevelt-Shapira et al. (2021) Maternal chemosignals enhance infant-adult brain-to-brain synchrony, Science Advancesdoi.org
  3. Feldman (2003) Infant–mother and infant–father synchrony: The coregulation of positive arousal, Infant Mental Health Journaldoi.org