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脳と心理ホント

口をつけた食べ物を分け合う2人は「親しい仲」。生後4〜6か月の赤ちゃんも、そう見ているらしい

口をつけた食べ物を分け合う2人は「親しい仲」。生後4〜6か月の赤ちゃんも、そう見ているらしい

読む前に予想してみよう!

赤ちゃんが「口をつけた食べ物を分け合う2人は親しい仲」と見分けるのは、離乳食に慣れた1歳ごろから

研究カード(どんな研究?)
対象
アメリカの生後4〜6か月の赤ちゃん(ビデオ通話を使ったオンライン実験)
規模
132人(3つのグループの合計)
研究の種類
実験(真ん中の人形などが泣いた後、赤ちゃんが左右の2人のどちらを見るかを測った。事前登録あり)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

女の人が、オレンジのひと切れを自分の口に入れ、同じひと切れを人形の口にも入れる。この場面を見た生後4〜6か月の赤ちゃんは、あとで人形が泣くと、人形とボールで遊んだだけの別の女の人より、オレンジの女の人のほうを長く見た。口をつけた食べ物を分け合う2人を「困ったら助け合う親しい仲」と見ているらしい。

ひとことで言うと口をつけた食べ物を分け合う2人は「仲良し」。赤ちゃんもそう分かっているみたい!

もくじ
  1. なぜ「口をつけた食べ物を分け合う」なのか
  2. オレンジを分け合う人と、ボールで遊ぶだけの人を見せた
  3. 結果:人形が泣くと、オレンジを分け合った人を長く見た
  4. 「優しい人だから」ではなさそう
  5. ただし、赤ちゃんの頭の中は直接のぞけない
  6. まとめ

人形が泣き出しました。そばには女の人が2人。助けに来るのは、どっち?

大人なら「仲がいいほう」と答えるでしょう。では、生まれて4〜6か月の赤ちゃんは? アメリカの研究チームが試したところ、赤ちゃんが長く見たのは、ある女の人のほうでした。前に、自分の口に入れたオレンジのひと切れを、その人形の口にも入れた人です。

赤ちゃんは、口をつけた食べ物を分け合う2人を「困ったときに助け合う、親しい仲」と見ているらしいのです。2026年9月、専門誌『Evolution and Human Behavior』にオンラインで載った研究です。人間の行動を、進化の視点から調べる雑誌です。

01なぜ「口をつけた食べ物を分け合う」なのか

同じスプーンで食べる。ひと口ずつ分け合う。キスをする。どれも、つば(唾液)が相手と混ざる行動です。こうしたことを気にせずにできる相手は、普通、家族や恋人、親友くらいでしょう。

つまり、つばが混ざるようなことを平気でできる2人は、親しい仲だと分かる目印になります。研究者が注目したのは、まさにこの点です。赤ちゃんも、この目印を手がかりに「この2人は親しい」と見分けているのではないか、と考えたのです。

同じ研究グループは、2022年に科学誌『Science』で結果を発表しています。生後8〜10か月の赤ちゃんが、口をつけた食べ物を分け合った2人を「助け合う仲」と予想しているらしい、というものです。

ただ、8か月にもなると、ほとんどの赤ちゃんが離乳食を始めています。家族と食べ物を分け合う経験を、すでに何か月か積んでいるかもしれません。もっと経験の少ない、生後4〜6か月の赤ちゃんでも同じことが起きるのか。それを確かめたのが今回の研究です。

02オレンジを分け合う人と、ボールで遊ぶだけの人を見せた

実験のやり方は、2022年の研究と同じです。

  • オレンジの場面(つばが混ざる):女の人が、オレンジのひと切れを自分の口に入れる。その同じひと切れを、人形の口にも入れる
  • ボールの場面(つばは混ざらない):別の女の人が、同じ人形とボールを渡し合う

どちらも仲良く遊ぶ場面で、違うのは、つばが混ざるかどうかだけ。この2つを交互に何回か見せた後、人形が泣き出します。画面の左右には2人の女の人。赤ちゃんの目がどちらに向くかを調べました。

03結果:人形が泣くと、オレンジを分け合った人を長く見た

最初の実験(42人)では、人形が泣くと、42人中33人が、まずオレンジを分け合った人を見ました。泣いた後の7秒間に2人のどちらかを見ていた時間のうち、オレンジの人を見ていた時間の割合は平均62%。どちらでもよければ50%前後になるはずなので、オレンジの人のほうに目が向いていたことになります。

食べ物がなくても同じでした。2つ目の実験では、立場を入れ替えて、真ん中に女の人、左右に人形を1体ずつ置きました。女の人は、自分の口に入れた指を、片方の人形の口に入れます。もう片方の人形には、自分のおでこを触った指で、おでこを触ります。その後、女の人が困った様子を見せました。すると赤ちゃんは、2体を見ていた時間のうち平均68%、「指を口に入れてもらった人形」のほうを見ていました。

1つ目の実験で長く見られたのは、口に入れたものを「あげた側」。2つ目では「もらった側」です。どちらの向きでも、赤ちゃんは相手のほうを長く見ました。そこで著者たちは、赤ちゃんが「この2人はお互いに助け合う仲」と見ているらしい、と考えています。

人形が泣くと、赤ちゃんはオレンジを分け合った人のほうを長く見た(イメージ)
人形が泣くと、赤ちゃんはオレンジを分け合った人のほうを長く見た(イメージ)

04「優しい人だから」ではなさそう

「人形にオレンジを分けてあげた人は、誰にでも優しい人」と赤ちゃんが思っただけかもしれません。そこで研究チームは、条件を変えて比べる実験もしています。

  • 泣いたのが別の人形のとき(オレンジを分けてもらっていない人形):オレンジの人を長く見る傾向は出なかった(平均39%)
  • 人形が泣かずにボールを欲しがったとき:差はなかった(平均55%)
  • 指の実験で、女の人が困らずに「フープ、フープ」と声を出したとき:差はなかった(平均54%)

赤ちゃんの目が片方にかたよったのは、2つの条件がそろったときだけでした。困ったのが、つばが混ざるやりとりをした「その相手」であること。そして、本当に「困っている」こと。赤ちゃんは誰にでも優しい人と見たのではなく、特定の2人の関係を見ているらしいのです。

05ただし、赤ちゃんの頭の中は直接のぞけない

話せない赤ちゃんには、考えを聞いて確かめることができません。この実験で分かるのは、どちらを長く見たかです。「助けに来るのはこの人だろう」と予想したから見た、というのは研究者の読み取りです。

しかも「最初にどちらを見たか」は、いつもそろったわけではありません。指の実験では、最初に目を向けた相手にはっきりした差が出ませんでした。2025年には、別のチーム(中央ヨーロッパ大学など)が調べ直しました。8か月半〜10か月の赤ちゃんを研究室に招き、目の動きを測る装置も使った実験です。そのときも、「長く見る」結果は同じように出たのに、「最初に見る」結果は出なかったと報告しています。

「経験がなくても分かる」と言い切れるわけでもありません。論文が引用したアメリカの調査では、離乳食を始めた赤ちゃんの割合は、8〜10か月で9割以上、4〜6か月ではおよそ半数です。著者たち自身も、こう書いています。今回の赤ちゃんの多くは、すでに離乳食を口にしていたとみられる。食べ物を分け合った経験のある子もいたかもしれない。

2026年6月には、「経験で身につく」と考える立場の研究も出ました。ベントンさんとホックさんが、コンピューターのモデルで説明したものです。毎日の経験を重ねるうちに、「つばが混ざること」と「慰めてもらうこと」が頭の中で結びつく、という考え方です。

今回のチームは、月齢による違いも調べました。これまでの研究と合わせた、生後4〜19か月、のべ514人分のデータを使っています。19か月の子は、4か月の子の4.75倍の時間を生きています。それでも、オレンジの人(指の実験では、指を口に入れてもらった人形)を長く見る割合は、月齢でほとんど変わりませんでした。著者たちは「たくさんの経験を重ねて覚えたのではなさそう」と考えています。ただし、4〜6か月分の経験だけで身につくのかどうかは、まだ答えの出ていない問いだとしています。

06まとめ

生後4〜6か月の赤ちゃんは、口をつけた食べ物を分け合った2人を「親しい仲」と見ているらしい。片方が困ったら、もう片方が助けに来ると予想しているようです。2022年に8〜10か月の赤ちゃんで見つかった反応が、もっと小さな赤ちゃんでも出ました。

分かったのは「どちらを長く見たか」までです。それでも、人と人の近さを読む力は、言葉を覚えるよりずっと前から働き始めているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA woman puts a slice of orange in her mouth. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A woman puts a slice of orange in her mouth. Then she puts the same slice in a puppet's mouth. Another woman passes a ball back and forth with the puppet. A moment later, the puppet starts to cry.

Researchers in the United States showed scenes like these to babies aged four to six months over video calls. When the puppet cried, the babies spent more of their looking time on the woman who had shared the orange. They did not do this when a different puppet cried.

The team thinks even young babies treat shared saliva as a sign of a close relationship, like the bond between family members. Babies of eight to ten months showed the same pattern in a 2022 study by the same group.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

女の人がオレンジのひと切れを自分の口に入れる。それから同じひと切れを人形の口に入れる。別の女の人は、人形とボールを渡し合う。少しして、人形が泣きだす。

アメリカの研究者たちは、こうした場面を、ビデオ通話で生後4〜6か月の赤ちゃんに見せた。人形が泣くと、赤ちゃんは見ていた時間のうち、より多くをオレンジを分け合った女の人に向けた。別の人形が泣いたときは、そうしなかった。

研究チームは、小さな赤ちゃんでも、つばが混ざるやりとり(同じ食べ物を2人の口に入れるなど)を、家族どうしのような近い関係のしるしと受け取っていると考えている。2022年の同じグループの研究でも、生後8〜10か月の赤ちゃんが同じ反応を見せていた。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What happened when a different puppet cried?

Q3. Why did the researchers include the scene with the ball?

重要単語

  • salivaB2
    名詞つば、唾液Sharing a spoon means sharing saliva. 発音は「サライヴァ」で、li を強く読む。日常会話では spit(つば)のほうがくだけた言い方
  • infantB2
    名詞乳児、赤ちゃんThe infant watched the screen for seven seconds. ラテン語の「話せない者」が語源。toddler(よちよち歩きの幼児)と区別して使う。infancy は「乳児期」
  • intimacyC1
    名詞親しさ、親密さEating from the same plate can be a sign of intimacy. 形容詞は intimate(親しい)。an intimate friend は「とても親しい友人」
  • distressB2
    名詞苦しみ、困っている状態The puppet cried to show it was in distress. be in distress で「困っている、苦しんでいる」。a distress signal は「遭難信号」
  • anticipateB2
    動詞予想する、先回りして考えるThe baby seemed to anticipate who would help. ラテン語の ante-(前に)+ capere(取る)から「前もってつかむ」。expect より「先を読んで備える」感じが強い。入試頻出
  • comfortB1
    動詞なぐさめるA parent often comforts a crying child. 名詞では「快適さ、なぐさめ」。形容詞 comfortable(快適な)と同じ語の仲間
  • replicateC1
    動詞(実験の結果を)再現するAnother team tried to replicate the result in a lab. 名詞は replication(追試・再現)。科学の記事で「結果が再現された」と言うときの定番の語
自分の口に入れたオレンジを、人形の口にも入れた人。人形とボールで遊んだだけの人。人形が泣くと、生後4〜6か月の赤ちゃんはオレンジの人を長く見た。「助けに来るのはこっち」と予想しているらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Woo et al. (2026) Four- to 6-month-old infants use saliva-sharing interactions to infer social intimacy, Evolution and Human Behaviordoi.org
  2. Thomas et al. (2022) Early concepts of intimacy: Young humans use saliva sharing to infer close relationships, Sciencedoi.org
  3. Ciftci et al. (2025) Do infants use cues of saliva-sharing to infer close relationships? A replication of Thomas et al. (2022), Royal Society Open Sciencedoi.org
  4. Benton & Hoch (2026) An associative learning account of how saliva becomes a cue for comfort, Child Developmentdoi.org