
Songkran
ソンクラーン(タイの水かけ祭り)の由来と歴史(詳しく)
いつから?なぜ?名前の意味は? ソンクラーン(タイの水かけ祭り)の本当の話を、確かな資料でたどります。
1ソンクラーンの由来:太陽が「おひつじ座」に引っ越す日
4月のバンコクは、平均の最高気温が35.7度。1年でいちばん暑い月です。田んぼの稲刈りも終わり、雨季が来る前のひと休みの時期。この季節に、タイの人たちは新しい年を迎えてきました。
なぜ4月なのでしょう。カギは空にあります。古代インドから伝わった天文学(星うらない)では、1年は太陽が星座の帯をひと回りする時間です。太陽がうお座を出ておひつじ座に入る瞬間が、1年の始まりとされました。その瞬間がちょうど4月の中ごろにあたるのです。
この考え方は、インドから仏教や文化とともに東南アジアへ伝わりました。だからタイだけでなく、ミャンマー、ラオス、カンボジア、スリランカでも、4月の中ごろにお正月を祝います。お隣の国どうしが同じ時期に新年を迎えるのは、同じ「空のこよみ」を受けついできたからです。
そして、なぜ水なのか。ユネスコの説明では、水を注ぐことは清め・敬い・幸運のしるしです。古い年の悪いことを洗い流し、まっさらな気持ちで新しい年を始める。いちばん暑い季節の水は、体を冷やすごほうびでもありました。こうして「水」と「新年」が、しっかり結びついたのです。

2「ソンクラーン」の意味:サンスクリット語で「移ること」
ソンクラーン(สงกรานต์)は、古代インドの言葉サンスクリット語の「サンクラーンティ(saṃkrānti)」から来ています。意味は「移ること・通り過ぎること」。太陽がひとつの星座から次の星座へ移ることを指します。
実は太陽は、毎月ひとつずつ星座を移っていきます。その中でも、おひつじ座へ移るいちばん大事な瞬間を、タイでは「マハー・ソンクラーン(大ソンクラーン)」と呼びます。4月の祭りの正式な名前は、この「大きな移り変わり」なのです。
3日間には、それぞれ名前があります。4月13日は「マハー・ソンクラーンの日」、14日は古い年と新しい年のあいだの「ワン・ナオ」、15日は新しい年が始まる「ワン・タルーン・ソック」。
地方による呼び名もあります。東部のパタヤやバーンセーンでは、祭りのあとにもう一度水かけをする「ワン・ライ(流れる日)」があり、4月16日から19日ごろまで続く場所もあります。
あいさつは「サワッディー・ピー・マイ(新年おめでとう)」。英語では Happy Songkran! や Happy Thai New Year! と言えば通じます。
3ソンクラーンの歴史:タイのお正月は2回引っ越した
タイの国の「元日」は、これまでに2回引っ越しています。
もともとタイでは、ソンクラーンの日がそのまま新年でした。やがて暦の改革で、新年は4月1日に決められます。そして1940年9月6日、首相ピブーンソンクラームが「1941年1月1日から、新しい年を始める」と決めました。おかげでタイの仏暦2483年は、4月1日から12月31日までの9か月しかない年になったのです。
国の元日は1月1日になりました。それでもタイの人にとって、ソンクラーンは「本当のお正月」であり続けました。家族が集まり、ふるさとへ帰る、1年でいちばん大きな休みです。
祝日の日付も、少しずつ動いてきました。1989年、政府は祝日を4月12〜14日に決めます。その後1日ずらして、今の4月13〜15日になりました。
2023年12月、ソンクラーンはユネスコの無形文化遺産に登録されました。翌2024年には、4月1日から21日までを祭りの期間とする大きなイベントが国じゅうで開かれました。ミャンマーの水かけ祭り「ティンジャン」も、2024年12月に同じ無形文化遺産に登録されています。
🕰️ ソンクラーン(タイの水かけ祭り)の年表
- 古代インドの天文学で、太陽がおひつじ座に入る時を1年の始まりとする考えが生まれ、東南アジアに伝わる。
- 1600年天文学的なマハー・ソンクラーンの日は4月7日(その後、少しずつ後ろへずれていく)。
- 19世紀末〜20世紀初め暦の改革で、タイの新年が4月1日に定められる。
- 1940年9月6日、ピブーンソンクラーム首相が「1941年1月1日から新しい年」と決める。仏暦2483年は9か月だけの年に。
- 1989年政府がソンクラーンの祝日を4月12〜14日に定める(のちに今の13〜15日へ)。
- 2000年東京・代々木公園で、駐日タイ王国大使館による「タイフェスティバル」が始まる。
- 2023年12月、「タイのソンクラーン」がユネスコの無形文化遺産に登録される。
- 2024年4月1日〜21日を祭りの期間とする大型イベントが開かれる。12月、ミャンマーのティンジャンも無形文化遺産に。
4ソンクラーンの伝説:なぞなぞに負けた神さまと7人の娘
ソンクラーンには、ちょっとこわい伝説があります。バンコクのお寺ワット・ポーに伝わる話です。
昔、とてもかしこい少年タンマバーンがいました。うわさを聞いた神さまカピラ・プラフマーは、少年になぞなぞを出します。「人の輝きは、朝・昼・夕方に、それぞれ体のどこにあるか」。負けたほうが首を差し出す、という命がけの勝負でした。
少年は6日たっても答えがわかりません。ところがある日、2羽のワシの話し声をたまたま耳にします。「朝は顔にある。だから人は朝に顔を洗う。昼は胸、夕方は足だ」。少年はこの答えで勝ち、神さまは約束どおり首を落としました。
でも、この首はたいへん危険でした。地面に落ちれば大火事になり、空に投げれば雨が降らなくなり、海に落とせば海が干上がってしまう。そこで神さまの7人の娘が、首を台の上にのせて大切に守ることにしました。
毎年1人ずつ交代で、首を運んで聖なる山のまわりを行列します。この娘が「ナーン・ソンクラーン(ソンクラーンの女神)」です。その年のソンクラーンが何曜日かで、女神の名前も変わります。
おもしろいことに、カンボジアのお正月の初日には、朝は顔、昼は胸、夕方は足を聖なる水で洗う習わしがあります。なぞなぞの答えと、そっくりです。
5タイのソンクラーンの過ごし方:朝はお寺、昼からは水かけ合戦
ソンクラーンの朝は、意外なほど静かです。家族そろってお寺へ行き、お坊さんに食べ物をささげます。仏像には、ジャスミンの香りをつけた水「ナム・オップ」をそっとかけます。お寺の庭では、砂を小さな塔の形に積み上げる人も。これも「徳を積む」行いです。鳥や魚を放してあげる人もいます。
いちばん大切なのが「ロット・ナーム・ダム・フア」。若い人が、両親や祖父母の手に香りのよい水を注ぎます。年長者はお返しに、新しい年の幸せを祈ってくれます。昔の水かけは、こんなにやさしいものでした。
昼が近づくと、町の空気が変わります。バンコクのカオサン通りやシーロム通りは車が通行止めになり、水鉄砲、バケツ、ホースを持った人であふれます。荷台に大きな水のタンクを積んだピックアップトラックが走り、通りがかりの人に水を浴びせていきます。知らない人に水をかけられても、怒る人はいません。顔に白い粘土の粉「ディン・ソー・ポーン」をぬられることもあります。
暑さをしのぐ料理もあります。中部の名物「カオ・チェー」は、ジャスミンの香りの冷たい水にご飯をひたして食べる料理。ラーマ2世の時代にモン族の料理から伝わり、はじめは王宮でしか食べられないごちそうでした。氷がなかったころは、日かげに置いた素焼きのつぼで水を冷やしたそうです。
北部のチェンマイでは、古い城壁を囲むお堀ぞいが水かけの中心です。中部のペッチャブリーでは、牛車に乗って水をかけ合う珍しい行事もあります。
ただし、楽しいことばかりではありません。帰省で車が増え、飲酒運転も起きるため、ソンクラーンの時期は地元で「危険な7日間」と呼ばれます。2009〜2013年の平均では、交通事故で亡くなる人が、ふだんの1日約27人から約52人に増えました。
🎁 シンボルと小物
今のソンクラーンの主役。屋台で色とりどりの水鉄砲が売られ、子どもも大人も持ち歩く。
通りぞいに水を張ったバケツやドラム缶を置き、おけでくんでかける。
ジャスミンなどの花の香りをつけた水。仏像を清めたり、年長者の手に注いだりするのに使う。
お寺の庭に砂を運んで、小さな仏塔の形に積み上げる。徳を積む行いとされる。
伝説の神さまの7人の娘。毎年1人ずつ交代で父の首を運ぶ。祭りのパレードやミス・コンテストにも登場する。
白い粘土の粉を水でといたもの。顔や体にぬり、暑さや日ざしから身を守るためにも使われてきた。
生き物を自由にしてあげることで徳を積む。ラオスやミャンマーのお正月にも同じ習慣がある。
🍽️ この日の食べ物
ジャスミンの香りの冷たい水にご飯をひたし、甘辛いおかずと食べる暑い季節の料理。ラーマ2世の時代にモン族の料理から伝わり、はじめは王宮だけの料理だった。
ココナッツミルクで甘くしたもち米に、熟したマンゴーをそえる。マンゴーがいちばんおいしい4〜5月の定番。
ミャンマーのティンジャンで作る、黒砂糖を包んだもち米の団子。ゆでて浮いてきたら食べごろ。
もち米・豆・ココナッツを竹筒につめて焼いたお菓子。カンボジアのお正月に作る。
ココナッツミルクで炊いたご飯。スリランカのお正月に、縁起のよい時刻に合わせて作る。
6ソンクラーンと日本:花まつりの「甘茶」とそっくり?
ソンクラーンでタイの人が仏像に香りの水をかける姿を見て、「あれ、どこかで見たことがある」と思った人もいるかもしれません。
日本では毎年4月8日に「灌仏会(かんぶつえ)」、またの名を「花まつり」が行われます。お寺に花で飾った小さなお堂を置き、生まれたばかりのお釈迦さまの像に、ひしゃくで甘茶をかけます。伝説では、お釈迦さまが生まれたとき、9頭の竜が空から清らかな水を注いで体を洗ったといいます。
タイの「仏像に水をかける」習慣と、日本の「お釈迦さまに甘茶をかける」習慣。日にちも4月で、わずか数日違いです。どちらも、水で清めて祈るという同じ発想から生まれています。
日本でもタイの文化にふれる機会は増えています。2000年からは、駐日タイ王国大使館が主催する「タイフェスティバル」が東京の代々木公園で毎年開かれ、大阪・名古屋・福岡などでも行われています。
もし4月にタイを旅行するなら、スマホは防水ケースに入れ、ぬれてもいい服で出かけましょう。そして水をかけられたら、怒らずに笑顔で「サワッディー・ピー・マイ!」。それがソンクラーンのいちばんの楽しみ方です。
7ソンクラーンのよくある誤解とホント
誤解1:「ソンクラーンは、ただの水かけ合戦」
水かけ合戦は、祭りのほんの一部です。中心にあるのは、年長者の手に水を注いで祝福を受けること、仏像を清めること、家族で集まること。ユネスコも、水を注ぐことを「清め・敬い・幸運」のしるしと説明しています。
誤解2:「タイの正月は今も4月」
国の正式な元日は、1941年から1月1日です。ソンクラーンは「伝統的なお正月」として、今も国の祝日になっています。タイの人は、1月と4月の2回お正月を祝うとも言えます。
誤解3:「誰にでも水をかけていい」
お坊さんに水をかけないのがマナーです。年長者には、いきなりバケツの水を浴びせるのではなく、手にそっと注ぐのが本来の形です。
誤解4:「太陽がおひつじ座に入るのは、ずっと4月13日」
実際の天文学的な瞬間は、少しずつずれていきます。星座を基準にした1年と、季節を基準にしたふだんのカレンダーの1年に、わずかな差があるためです。1600年には4月7日、1900年には4月12日、2000年には4月13日でした。祝日の日付は、今は4月13〜15日に固定されています。
誤解5:「水かけ祭りはタイだけ」
ミャンマーの「ティンジャン」、ラオスの「ピー・マイ」、カンボジアの「チョール・チュナム・トマイ」、中国雲南省のタイ族の「水かけ祭り」など、4月なかばに水で新年を祝う地域はたくさんあります。
💡Fun Factsソンクラーン(タイの水かけ祭り)の豆知識 10連発
伝説のなぞなぞの答えは「人の輝きは朝は顔、昼は胸、夕方は足にある」。カンボジアでは今も、お正月の初日に朝は顔、昼は胸、夕方は足を聖なる水で洗います。
In an old story, the answer to a riddle was face, chest, and feet. In Cambodia, people still wash these parts on New Year's Day.
タイの仏暦2483年(1940年)は、4月1日から12月31日までの9か月しかありませんでした。翌年から元日が1月1日になったためです。
One year in the Thai calendar was only 9 months long. It began on April 1, 1940, and ended on December 31.
太陽がおひつじ座に入る本当の瞬間は少しずつずれています。1600年には4月7日、1900年には4月12日、2000年には4月13日でした。
The real Songkran moment moves slowly. It was on April 7 in 1600 and April 13 in 2000.
バンコクの4月の平均最高気温は35.7度。1年でいちばん暑い月に、町じゅうが水かけをするのです。
April is the hottest month in Bangkok. The average high is almost 36 degrees.
冷たい香り水のご飯「カオ・チェー」は、氷がなかった時代、日かげに置いた素焼きのつぼで水を冷やして作りました。
Before people had ice, they kept water cool in clay pots for khao chae.
中国雲南省のタイ族の水かけ祭りにも、7人の妻が交代で危険な首を持ち、水で清めたという伝説があります。国をこえて、よく似た話が伝わっています。
The Dai people in China have a similar story. Seven women take turns holding a dangerous head.
タイ東部では、ソンクラーンのあとにもう一度「ワン・ライ(流れる日)」の水かけがあります。バーンセーンは16〜17日、パタヤは18〜19日ごろです。
In eastern Thailand, the water fights start again after Songkran. In Pattaya, they happen around April 18 and 19.
ペッチャブリー県では、牛車に乗って水をかけ合う行事があり、2026年には最大50台の牛車が参加しました。
In one Thai province, people splash water from bullock carts. In 2026, up to 50 carts joined.
ソンクラーンの時期は「危険な7日間」とも呼ばれます。2009〜2013年の平均で、交通事故の死者がふだんの約2倍になりました。
Songkran is also called the seven dangerous days. More people die in road accidents during the holiday.
顔にぬる白い粘土「ディン・ソー・ポーン」は、もともと暑さや日ざしから身を守るためのもの。今は水かけのときに、相手の顔にぬるいたずらにも使われます。
People put white clay on their faces. It was first used to stay cool in the hot sun.
▶️Videos & Linksソンクラーン(タイの水かけ祭り)の動画とリンク集
Songkran in Thailand, traditional Thai New Year festivalUNESCO
Thailand’s annual Songkran water festival kicks off with a splash in BangkokGlobal News
▶ YouTubeで「Songkran festival Thailand for kids」をもっと見る
Songkran (Thailand) - Wikipedia英語版ウィキペディア。日付の変遷、伝説、各地の祝い方、交通安全の統計が詳しい。
ソンクラーン - Wikipedia日本語版ウィキペディア。語源や人気の都市について。
Songkran in Thailand, traditional Thai New Year festival(UNESCO)ユネスコ無形文化遺産の公式ページ。2023年登録。写真や動画もある。
Thingyan - Wikipediaミャンマーの水かけ祭りティンジャン。2024年にユネスコ無形文化遺産に。
Cambodian New Year - Wikipediaカンボジアのお正月。3日間の名前と、朝は顔・夕方は足を洗う習わし。
Water-Sprinkling Festival - Wikipedia中国雲南省のタイ族の水かけ祭り。7人の妻の伝説。
灌仏会 - Wikipedia日本の花まつり。仏像に甘茶をかける由来。