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試験の英語と『使える英語』IELTS対策に絞ったコース、点の伸びで優位に立てなかった

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件第14章の10/10節

試験の英語と『使える英語』のイメージ

「試験の点は上がったのに、話せない」。だから試験の英語と使える英語は別物だ、とよく言われます。ところが、英国の大学に進む留学生の3種類のコースを比べた研究では、IELTS対策に絞ったコースが、IELTSのライティングの点の伸びでさえ、はっきり優位に立てませんでした。試験のための勉強が、試験の点にいちばん効くとは限らない。では、点と本物の力の両方を動かしていたのは何だったのか。

この節の目次(7項目)
  1. 試験が勉強を変える「波及効果」
  2. 対策コースより「使う量」が効く
  3. 解いた問題を「使える英語」に変える
  4. テストは「学ぶ道具」にもなる
  5. スコアとの上手な付き合い方
  6. 試験は「測りたい力」から選ぶ
  7. 1週間の「試験」と「本物」の配分

01試験が勉強を変える「波及効果」

試験が、先生や学習者の行動に影響することを波及効果(washback)と言います。よい方向に働けば「プラスの波及効果」、悪い方向なら「マイナスの波及効果」です。

  • プラスの例:英検にEメールや要約が入り、書く練習が増える
  • マイナスの例:選択式の試験に向けて、解き方のテクニックだけを覚える

ところが、Alderson と Wall(1993)は「波及効果は本当にあるのか」と問いかけました。それまでの主張の多くは、教室の観察ではなく先生の証言に頼っていたからです。2人は波及効果をいくつかの仮説に分け、実際に確かめる研究が必要だと論じました。

その後の研究で分かってきたのは、試験の影響は、試験の形式だけでは決まらないということです。日本の大学入試と高校の授業を調べた研究では、先生の考え方や経験の影響の方が大きい場合がありました(第14章の大学入試の節を参照)。

ポイント:試験がどう効くかは、試験と向き合う人しだい。

02対策コースより「使う量」が効く

試験対策と英語力の関係を、点の伸びで調べた研究があります。

試験対策中心のコースは有利だったか
Green(2007)は、英国の大学に進む留学生のコースを3種類(IELTS対策中心、大学のアカデミック・ライティング中心、その組み合わせ)に分け、IELTSのライティングの点の伸びを比べました。結果は、試験対策に絞ったコースにはっきりした優位はなかった、というものでした。

試験が「使う練習」を増やしたとき
日本の大学でIELTSを2回受けた190人を調べたAllen(2016)では、2回目に向けて学生が話す・書く練習を増やし、スピーキングの力が有意に伸びました。熱心に準備した人ほど、スピーキングとリスニングの伸びが大きくなりました。

2つの研究から見えるのは、点を上げるのも、使える力を上げるのも、実際に英語を聞き・読み・話し・書く量だということです。解き方のコツは、その量の上に乗せるものです。

Messick(1996)は、よい波及効果を生むには、実際の言語使用に近い直接的な評価で、測るべき力を取りこぼさないことが大切だと論じています。話す・書くを測る試験が増えたのは、この考え方の流れの中にあります。

03解いた問題を「使える英語」に変える

試験の問題は、プロが作った質の高い英文です。解いて答え合わせをして終わりにするのは、もったいない使い方です。

リスニングの問題で

  1. 解いて答え合わせ
  2. スクリプトで意味を確認
  3. 同じ音声でシャドーイング3回
  4. 会話の一方の役になって、相手のセリフに自分の言葉で答える

長文の問題で

  1. 解いて答え合わせ
  2. 本文を音読2回
  3. 本を閉じて、内容を英語で3文にまとめて言う
  4. 「自分はどう思うか」を英語で2文言う

英作文・面接の問題で

同じ質問に、1週間後にもう一度答えます。前の答えより、理由や具体例を1つ増やせたかを確かめます。

  • 1回目:I think online classes are good because they save time.(オンライン授業は時間の節約になるのでよいと思う)
  • 2回目:I think online classes are useful, especially for students who live far from school, because they can use the travel time for studying.(特に遠くに住む生徒にとっては、移動時間を勉強に使えるので役に立つと思う)

ポイント:試験の英文を「口から出せる英語」にするまでが1セット。

04テストは「学ぶ道具」にもなる

テストというと、力を測るものと考えがちです。でも記憶の研究では、テストそのものが学習を強くすることが分かっています。

Roediger と Karpicke(2006)の実験では、文章を読んだあと、読み直したグループと、思い出して書き出すテストをしたグループを比べました。5分後のテストでは読み直した方が少しよかったのに、2日後と1週間後では、テストをしたグループの方がずっとよく覚えていました。しかも、読み直したグループの方が「覚えている」という自信は高かったのです。

これを試験勉強に使うと、次のようになります。

  • 単語帳は、見て確認するより、隠して思い出す
  • 過去問の復習は、解説を読み直すより、1週間後にもう一度解く
  • 英作文の表現は、ノートを見るより、白紙に書き出してみる

試験の点のためにする「思い出す練習」は、そのまま使える英語の記憶も強くします。ここで試験の勉強と本物の力は、同じ方向を向きます。

05スコアとの上手な付き合い方

スコアは便利な目安ですが、英語力のすべてではありません。

TOEICの4技能のテストを受けた約2300人の自己評価を使った研究(Powers & Powers, 2015)では、ある技能の力(たとえば話す力)は、その技能のテストの点だけより、ほかの技能(たとえば聞く力)の点も合わせた方がよく予測できました。技能はつながっていて、1つの点だけで力を判断すると見落としが出る、ということです。

スコアとうまく付き合うコツを3つ挙げます。

  1. CEFRに置きかえる:英検のCSEスコアやTOEFLの1〜6はCEFRとの対応が公表されています。試験が変わっても、自分の位置をCEFRで比べられます
  2. 伸びは2〜3か月単位で見る:1回ごとの点は、問題との相性や体調でも上下します
  3. 点が止まったら、使う量を増やす:解き方の工夫で伸びる分には限りがあります

ポイント:スコアは体重計。毎日乗っても体は変わらない。変えるのは毎日の練習。

06試験は「測りたい力」から選ぶ

どの試験を受けるかで、勉強の中身は変わります。試験の形式が、そのまま練習の形式になるからです。だからこそ、試験は「何の力を測りたいか」から選びます。

測りたい力向いている試験の例
読む・聞くの処理速度TOEIC L&R、共通テスト
4技能をまとめて英検(二次試験まで)、IELTS、TOEFL iBT
話す・書くを仕事の場面でTOEIC S&W

ここで大事なのは、自分が伸ばしたい力を測る試験を目標にすると、波及効果がよい方向に働きやすいということです。話せるようになりたいのに、読む・聞くだけの試験を目標にすると、勉強も読む・聞くに偏りがちです。

もう1つは、同じ試験を受け続ける期間を決めておくことです。1つの試験の形式に慣れすぎると、点は上がっても、その形式の外では力を出しにくくなることがあります。目標のスコアに届いたら、別の技能を測る試験に切りかえる、試験から離れて使う場面を増やす、といった「次の一歩」を決めておきます。

ポイント:目標にする試験が、毎日の勉強の形を決める。

071週間の「試験」と「本物」の配分

試験までの残り時間によって、配分を変えます。

時期試験形式の練習本物の英語(多読・多聴・会話・日記)
試験まで3か月以上3割7割
試験まで1〜3か月5割5割
試験まで1か月以内7割3割

試験まで3か月以上ある人の1週間(1日60分)の例

  • 月・水・金:過去問1セット20分+その英文の音読・シャドーイング15分+好きな英語の動画や記事25分
  • 火・木:多読25分+英語日記10分+単語のテスト25分
  • 土:オンライン英会話や英語での会話練習、または試験の面接・スピーキング練習
  • 日:1週間で覚えた表現を思い出すテスト

試験が終わったら、そこで英語をやめないこと。次の目標は、試験より「使う場面」に置くと続きやすくなります。旅行、仕事のメール、好きな分野の動画。試験で鍛えた力を、すぐに使う場所を用意しておきます。

この節の答え

試験は解いて終わりにせず、使って終える

今日からのやり方

  1. 次の試験日までの残り期間を確かめ、試験形式と本物の英語の配分を決める
  2. 解いた問題の英文を、必ず音読かシャドーイングしてから次へ進む
  3. 長文を読んだら、本を閉じて内容を英語で3文にまとめて言う
  4. 英作文・面接の答えは、1週間後に同じ質問でもう一度答える
  5. 試験が終わったら、次は「使う場面」を目標にする

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

初級のうちは、試験の英文こそ最高の教材です。過去問の音声と本文を、意味を確かめてから音読・シャドーイングし、口から出せる文を増やします。

中級 B1

中級は、過去問の長文を読んだあと、内容を英語で3文にまとめて言う練習を習慣に。英作文は1週間後に書き直し、理由や例を増やします。

上級 B2〜

上級は、試験形式の練習を全体の3割ほどにとどめ、ニュースや講義などの本物の英語を中心に。試験は数か月ごとの「健康診断」として使います。

よくある失敗と対策

過去問を解いて答え合わせで終わる

解いた英文は質の高い教材です。音読・シャドーイング・英語でのまとめまでを1セットにし、口から出せる英語に変えます。

点が止まると、テクニック本を買い足す

解き方の工夫で伸びる分には限りがあります。点が止まったら、読む・聞く・話す・書く量そのものを増やします。

試験に受かったら英語をやめる

使わない英語は少しずつ抜けていきます。合格前から、旅行や仕事、趣味など、試験後に英語を使う場面を決めておきます。

TODAY
1 MIN

最近解いた長文を1つ開き、内容を英語で3文にまとめて声に出す

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

14-10「試験が授業を変える」は昔から証明されていた?

意外にも、されていませんでした。1993年の論文は、試験が授業に強く影響するという主張の多くが、観察ではなく先生の証言に基づいていたと指摘し、波及効果そのものを検証する研究を呼びかけました。

X で出題する

14-10テストを受けること自体に学習効果はある?

あります。文章を読んだあと、読み直すより思い出すテストをした方が、2日後・1週間後によく覚えていました。テストは測るだけでなく、記憶を強くする道具にもなります。

X で出題する

14-10授業によい影響を与える語学試験とは、どんな試験?

Messick(1996)は、よい波及効果は、実際の言語使用に近い直接的な評価と結びつき、測るべき力の取りこぼしや、関係ない難しさを減らすことが土台になると論じました。

X で出題する

X でポストLINEB!

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この節の実践キット

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特集クジラ構文は役に立たない? Xで話題の論争を決着Xで話題の論争を、オバマ大統領の演説と1つの理屈で決着

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言語テストと評価の入門講義Glenn Fulcher|Introduction to Language Testing and Assessment
言語テスティングの基本を専門家に聞くTESOLacademic|Professor Fulcher on Language Testing
根拠に基づく試験勉強の講義Ali Abdaal|How to Study for Exams - An Evidence-Based Masterclass

もっと詳しく(コラム)

この節の根拠(研究・公式情報)

試験が授業に影響するという主張の多くは、観察ではなく先生の証言に基づいていたと指摘。波及効果をいくつかの仮説に分け、実証研究の必要性を論じた。

Alderson, J. C., & Wall, D. (1993). Does washback exist? Applied Linguistics, 14(2), 115–129.出典を開く ↗

波及効果を妥当性の「結果」の側面として位置づけ、よい波及効果は実際の言語使用に近い直接的な評価と、測るべき力の取りこぼしや無関係な難しさを減らすことに結びつくと論じた。

Messick, S. (1996). Validity and washback in language testing. Language Testing, 13(3), 241–256.出典を開く ↗

IELTS対策中心のコースは、大学向けのライティングを学ぶコースなどに比べ、IELTSライティングの点の伸びにはっきりした優位を示さなかった。

Green, A. (2007). Washback to learning outcomes: A comparative study of IELTS preparation and university pre-sessional language courses. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice, 14(1), 75–97.出典を開く ↗

読み直しより思い出すテストをした方が、2日後・1週間後の記憶がよかった。5分後では読み直しが上で、読み直した人の方が自信は高かった。

Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.出典を開く ↗

ある技能の実際の力は、その技能のテストの点に、ほかの技能の点を加えるとさらによく予測できた。技能は互いにつながっている。

Powers, D. E., & Powers, A. (2015). The incremental contribution of TOEIC Listening, Reading, Speaking, and Writing tests to predicting performance on real-life English language tasks. Language Testing, 32(2), 151–167.出典を開く ↗

よくある質問

試験勉強と英会話、どちらを優先する?

試験まで3か月以上あるなら、英会話などの「使う練習」を多めにしても点は落ちにくく、むしろ土台が育ちます。1か月を切ったら試験形式の練習を7割に増やします。どちらか一方ではなく、時期で比率を変えるのがおすすめです。

どの試験を受ければ実力が分かる?

測りたい技能を決めるのが先です。話す・書く力も知りたいなら、4技能を測る試験(英検の二次まで、IELTS、TOEFL、TOEIC S&Wなど)を選びます。結果をCEFRに置きかえると、試験が違っても比べられます。

点は高いのに話せないのはなぜ?

読む・聞く試験の点は、知識と理解の力を示しますが、口から出す速さは別に練習が要ります。解いた問題の英文を音読し、内容を英語でまとめて言う練習を足すと、知っている英語が使える英語に変わっていきます。