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音読は何に効くのか『音読で脳が活性化』は英語力の証拠ではなかった。本当に効くのはここ

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件第9章の1/5節

音読は何に効くのかのイメージ

「声に出して読むと脳が活性化する」。音読のよさとして、よく語られる一文です。もとになった研究の一つでは、日本人の大人23人が fMRI という装置の中で文を読み、声に出したときは黙読より脳の広い範囲が働いていました。ところが、そのとき読んでいたのは英語ではなく日本語です。外国語の力が伸びたかどうかも、調べてはいません。では、英語の音読は、いったい何に効いているのでしょうか。

この節の目次(5項目)
  1. 『音読で脳が活性化』は何を測った話か
  2. 頭の中の『約2秒の録音テープ』
  3. 日本の音読研究で分かってきたこと
  4. 黙読と音読、それぞれの得意分野
  5. 結論:『わかった英文』を自動化する練習

01『音読で脳が活性化』は何を測った話か

音読の効果を語るとき、よく出てくるのが「声に出して読むと脳が活性化する」という話です。もとになっているのは、東北大学の川島隆太らのグループの研究です。中身を正確に見てみます。

2003年の研究(Miura ら)では、日本人の大人23人に、fMRI という装置の中で日本語の文を読んでもらいました。比べたのは「意味のある文を黙って読む」「意味のない文を黙って読む」「意味のある文を声に出して読む」の3つです。声に出して読むときは、黙読のときより、左右の前頭葉と側頭葉の広い範囲が働いていました。さらに、速く音読できる人ほど、その働きが大きいという関係も見られました。

2005年の研究(Kawashima ら)は、アルツハイマー型認知症と診断された高齢者が対象です。16人が音読と計算の学習を週2〜6日続け、年齢や症状の似た16人と比べました。6か月後、前頭葉の働きを調べる簡単な検査(FAB)の点数は、学習したグループで上がり、比べたグループではやや下がっていました。

どちらもきちんとした研究です。ただし、英語学習に当てはめるときは次の点に注意が必要です。

  • 読んだのは日本語で、英語ではない
  • 測ったのは「読んでいる最中の脳の働き」や「認知症の方の認知機能」で、外国語の力が伸びたかどうかは調べていない
  • 脳が広く働くことと、学習が進むことは、別の問題である

ポイント:「音読で脳が活性化する」は、英語の音読が効く理由の説明にはなりません。英語の音読の効果は、英語学習の研究で確かめる必要があります。

02頭の中の『約2秒の録音テープ』

英語の音読を説明するのに役立つのが、心理学者のバドリーとヒッチが1974年に示した「ワーキングメモリ(作業記憶)」のモデルです。ワーキングメモリは、情報を少しの間だけ頭に置いて作業する場所です。その中に、ことばの音を一時的にためておく音韻ループという部品があると考えられています。

音韻ループには2つの働きがあります。

  1. 音をためる場所:聞いた音や、文字から変換した音を短い時間だけ置いておく
  2. 頭の中でくり返す働き(内的リハーサル):声に出さずに頭の中でつぶやき、消えかけた音を保つ

1975年の研究(バドリーら)では、覚えていられる単語の量は、その人が約2秒で読み上げられる量でおおむね予測できました。短い単語のリストほど、たくさん覚えていられたのです。なお、この「単語の長さの効果」の説明には、のちに異論も出ています。

1998年には、バドリーらが大人や子ども、脳に損傷のある患者さんなどの単語学習の研究をまとめ、音韻ループは新しい単語の音の形を覚えるのに重要な役割を果たすと論じました。

これを英語学習に当てはめると、次のように考えられます。

  • 英語をゆっくり、カタカナ読みでしか言えないと、頭に置いておける英語が少ない
  • すらすら言えるようになると、同じ時間でより長いかたまりを頭に置ける
  • 頭に置ける量が増えると、文の前の部分を忘れずに、最後まで読める・聞ける

音読は、この「英語をすらすら言う力」を直接きたえる練習です。ただしこれは理論からの推測です。「音読をすると音韻ループの容量が増える」と直接示した研究ではありません。

03日本の音読研究で分かってきたこと

音読は、日本の英語教育で特に大切にされてきた練習です。「只管朗読(しかんろうどく)」のように、同じ英文をひたすら声に出して読む学び方も昔から語られてきました。研究者たちは、その効果を少しずつ確かめてきました。

代表的なのが、宮迫靖靜(みやさこ のぶよし)の研究です。

  • 2004年(高塚成信との共同研究):高校生を対象に、書かれた単語をどれだけ速く声にできるか(音韻符号化の効率)を測りました。その速さと読解力のあいだには、意味のある関係が見つかりました。一方、単語の意味をすばやく引き出す力(語彙アクセスの効率)と読解力の関係は見つかりませんでした。
  • 2008年:高校生を対象に2つの調査をしました。1つめでは、読む力が低めの生徒が、音読練習で読解力を伸ばしていました。2つめでは、音読を中心にした授業のクラスが、ふつうの授業のクラスより読解力を伸ばしていました。ただし著者自身、「音読練習で読解力が伸びる」という仮説は部分的に支持されたとまとめています。

門田修平は、音読とシャドーイングを第二言語習得の理論から説明してきた研究者です。門田は、音読には「インプットの処理」「プラクティス(くり返しで無意識に身につく)」「アウトプット」「モニタリング(自分のことばを点検する)」の4つの要素がそろっていると論じています。同時に、ただ読むだけでは効果がなく、やり方が大事だとも強調しています。

教育現場での実践データをもとに音読指導を論じてきた鈴木寿一は、門田と『英語音読指導ハンドブック』(2012年)を編んでいます。日本の音読は、現場の経験と研究の両方から育ってきた練習です。

ポイント:日本の研究は「音読は読解の土台(文字を音に変える速さ)をきたえる」という方向で、一定の裏づけを積み上げてきました。ただし、効果の大きさは条件によって変わり、今も調べられ続けています。

04黙読と音読、それぞれの得意分野

では、黙読より音読のほうが「えらい」のでしょうか。そうではありません。役割がちがいます。

黙読音読
速さ速くできる。大量に読める声の速さが上限になる
意味の理解内容に集中しやすい発音に気をとられると理解が落ちることがある
文字と音の結びつき確かめにくい自分の口で確かめられる
リズム・抑揚練習できない練習できる
記憶ふつう声に出した部分は思い出しやすい
自分の弱点見えにくいつっかえる所として見える

記憶については、プロダクション効果という現象が知られています。カナダのマクラウドらの2010年の研究では、単語のリストの一部を声に出して読み、残りを黙読すると、声に出した単語のほうがよく思い出せました。ただし、この効果は「同じリストの中で、声に出したものと出さないものが混ざっている」ときに見られ、全部を声に出すと差は見られませんでした。声に出した語が目立つことで思い出しやすくなる、と説明されています。つまり、英文を全部音読すれば全部が記憶に残る、という話ではありません。

イギリスのギブソン(2008年)は、英語教授法の一般的な解説では音読があまりすすめられてこなかったことを指摘しつつ、文字と音の対応を強める、英語の抑揚を身につける、書いた文を声に出して点検する、といった使い道を挙げています。

黙読も、実は「無音」ではありません。黙読中にも、声を聞くときに働く脳の部分が反応していることが報告されています(Perrone-Bertolotti ら 2012)。英語を黙読するときも、頭の中では何らかの「声」が鳴っています。その声が正しい英語の音になっているかを確かめ、直せるのが音読の強みです。

逆に、音読で理解が落ちやすい場面もあります。日本人の英語学習者を対象にした近畿大学のグループの研究(2019〜2021年度の科研費研究)では、音読しながらの理解は、読む前の指示(速さや注意の向け方)、英語力、求められる理解の種類によって変わる可能性が示されました。

05結論:『わかった英文』を自動化する練習

ここまでをまとめると、音読について言えることは次のとおりです。

かなり確か

  • 声に出した情報は、黙って読んだ情報より思い出しやすい(ただし条件つき)
  • 音韻ループは、新しい単語の音を覚えるのに大切な役割を持つ
  • 文字をすばやく音にできる高校生ほど、読解力が高い傾向がある

ある程度の裏づけがある

  • 音読練習で読解力が伸びることがある(特に読む力が低めの学習者。条件で差がある)

言い過ぎ

  • 「音読で脳が活性化するから英語が伸びる」(脳活動の研究は英語力を測っていない)
  • 「音読だけで話せるようになる」(音読は話す練習の一部にはなるが、相手とのやりとりや、自分で文を組み立てる練習の代わりにはならない)

音読がいちばん力を発揮するのは、意味がわかった英文を何度も声に出し、文字→音→意味の処理を自動化するときです。意味のわからない英文を声に出しても、口が動くだけになりがちです。20世紀前半から英語教育にたずさわったマイケル・ウェストも、意味を1つも分からないまま、それらしく音読できてしまうことに注意をうながしています。

次の節では、効く音読のやり方を5つのステップで具体的に見ていきます。

この節の答え

音読は『文字→音→意味』の回路を速くする練習

今日からのやり方

  1. 今日読む英文を1つ決め、まず黙読と辞書で意味を全部わかる状態にする
  2. お手本の音声を聞いてから、意味を思い浮かべながら3回音読する
  3. つっかえた所に印をつけ、そこだけ5回言い直す
  4. 最後に1回録音し、明日の音読と聞き比べられるようにする

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

教科書の本文など、意味が完全にわかる短い英文(50語ほど)を選び、音声をまねて読むことから始めます。1語ずつ区切らず、かたまりで言えたら合格です。

中級 B1

英検2級レベルの長文から1段落を選び、精読してから音読します。お手本と同じくらいの速さで、意味を思い浮かべながら言えるかを基準にしましょう。

上級 B2〜

音読は苦手な音やリズムの点検に使います。ニュースやスピーチの音読を録音して比べ、黙読の量(多読)と組み合わせて、音読だけに時間をかけすぎないようにします。

よくある失敗と対策

意味がわからないまま声に出す

口だけが動く「オウム読み」になります。先に精読して、全文の意味がわかってから音読しましょう。

『脳トレ』のつもりで量だけこなす

大切なのは回数より中身です。意味を思い浮かべているか、お手本の音に近いかを毎回確かめましょう。

黙読をやめて音読だけにする

音読は声の速さが上限なので、読める量が限られます。大量に読む黙読(多読)と、深く練習する音読を組み合わせるのが基本です。

TODAY
1 MIN

教科書か問題集の英文を1段落選び、意味を確かめてから3回声に出す

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

9-1『音読で脳が活性化』の研究は何を測った?

日本語の文を読むとき、黙読より声に出して読むときのほうが、左右の前頭葉・側頭葉の広い範囲が働くことを fMRI で示した研究です(Miura ら 2003)。測ったのは読んでいる最中の脳の働きで、英語力が伸びるかどうかは調べていません。

X で出題する

9-1単語は黙読より声に出したほうが覚えやすいって本当?

本当です。ただし条件つきです。黙読した単語より声に出した単語のほうが思い出しやすい「プロダクション効果」は、同じリストの中で一部だけを声に出したときに出ました。全部を声に出すと、差は見られなくなりました(MacLeod ら 2010)。

X で出題する

9-1英語の音読は、読解力とどう関係する?

日本の高校生の研究では、書かれた単語をすばやく声にできる生徒ほど、読解力が高い傾向がありました(宮迫・高塚 2004)。文字を音に変える処理が速いと、意味を考える余裕が生まれる、と考えられています。

X で出題する

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この節の根拠(研究・公式情報)

日本人23人が日本語の文を読む課題で、声に出して読むときは黙読より左右の前頭葉・側頭葉が広く働き、その働きは音読の速さとも関係した。外国語の力の伸びは測っていない。

Miura, N., Iwata, K., Watanabe, J., Sugiura, M., Akitsuki, Y., Sassa, Y., Ikuta, N., Okamoto, H., Watanabe, Y., Riera, J., Maeda, Y., Matsue, Y., & Kawashima, R. (2003). Cortical activation during reading aloud of long sentences: fMRI study. NeuroReport, 14(12), 1563–1566.出典を開く ↗

認知症の高齢者16人が音読と計算の学習を6か月続けると、前頭葉機能の検査(FAB)の点数が比較群より有意に上がった。英語学習の研究ではない。

Kawashima, R., Okita, K., Yamazaki, R., Tajima, N., Yoshida, H., Taira, M., Iwata, K., Sasaki, T., Maeyama, K., Usui, N., & Sugimoto, K. (2005). Reading aloud and arithmetic calculation improve frontal function of people with dementia. The Journals of Gerontology Series A, 60(3), 380–384.出典を開く ↗

大人・子ども・患者などの単語学習の研究をまとめ、音韻ループは新しい単語の音の形を覚えるのに重要な役割を果たすと論じた。

Baddeley, A., Gathercole, S., & Papagno, C. (1998). The phonological loop as a language learning device. Psychological Review, 105(1), 158–173.出典を開く ↗

単語の一部を声に出して読むと、黙読した単語より思い出しやすかった(プロダクション効果)。効果は声に出す語と出さない語が混ざるリストで見られた。

MacLeod, C. M., Gopie, N., Hourihan, K. L., Neary, K. R., & Ozubko, J. D. (2010). The production effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(3), 671–685.出典を開く ↗

日本の高校生で、読む力が低めの生徒が音読練習で読解力を伸ばし、音読中心の授業が通常の授業より効果的だった。著者は仮説を「部分的に支持」とまとめた。

Miyasako, N. (2008). Is the oral reading hypothesis valid? 外国語教育メディア学会機関誌, 45, 15–34.出典を開く ↗

よくある質問

音読と黙読、どちらが読解に効きますか?

役割がちがいます。黙読は量と速さ、音読は文字を音にする力や英語のリズムの練習に向いています。日本の高校生の研究では、音読練習で読解力が伸びた例がありますが、条件によって効果に差があります。両方を組み合わせましょう。

小さな声やつぶやきでも効果はありますか?

声を出さずに口の形だけ作っても、記憶には効果があったという実験があります(MacLeod ら 2010)。ただ、ふつうに声に出すほうが効果は大きく、発音やリズムを確かめるにも聞こえる声のほうが確実です。周りに人がいるときは小声でもかまいません。

大人でも音読は効果がありますか?

音韻ループやプロダクション効果は、大人を対象にした実験でも確かめられています。年齢よりも、意味のわかる英文を選び、正しい手順で読むことのほうが大切です。