序章|英語学習の地図序-3何から・どの順でやるか単語より先に『音』。英語力を積み上げる5段の順番

日本語を母語とする大人が、/r/ と /l/ を聞き分ける訓練だけを続けました。発音の練習はしていません。それなのに訓練のあと、その人たちの発音は、英語の母語話者に正しく聞き取られやすくなっていました。耳が口を引っぱったのです。単語、文法、リスニング、スピーキング。何から積むかで、ほかの練習の効き方まで変わります。では、最初の一段は何で、その上には何を積むのか。
01英語力は5段の積み木
英語の力を積み木にたとえると、次の5段になります。下から順に積み上げていきます。
| 段 | 何を作るか | 主な練習 |
|---|---|---|
| 5 自動化 | 考えなくても口と手が動く | 同じ内容のくり返し、瞬間英作文、速読 |
| 4 アウトプット | 自分の言いたいことを伝える | 英語日記、独り言、オンライン英会話 |
| 3 大量インプット | わかる英語にたくさん触れる | 多読、多聴、英語字幕の動画 |
| 2 語彙・文法 | 意味をつくる部品と組み立て方 | 単語帳とSRS、文法書、例文の音読 |
| 1 音 | 英語の音を聞き分け、まねできる | フォニックス、発音練習、シャドーイング |
大事なのは、下の段を完璧にしてから上へ進むのではないことです。1段目を少し作ったら2段目、2段目が少しできたら3段目へ、というように、全部の段を少しずつ同時に積み上げます。変えるのは、時期ごとの時間の配分です。始めたばかりの人は1段目と2段目を厚めに、中級に入ったら3段目と4段目を厚くしていきます。
この5段は、ネーション(Nation, 2007)の「4つの柱」とも重なります。
- 言語に焦点を当てた学習 → 1段目・2段目
- 意味中心のインプット → 3段目
- 意味中心のアウトプット → 4段目
- 流暢さの練習 → 5段目
ネーションは、よく設計された授業では4つの柱におよそ同じ時間をかけるべきだとしています。5段の積み木は「どの順で始めるか」、4つの柱は「全体として偏っていないか」を確かめる地図です。2つを重ねて使ってください。
021段目:音を最初に作る理由
音を最初に作る理由は3つあります。
- 単語を音で覚えられる:音のルールが分かると、新しい単語も正しい音で覚えられ、あとで聞いたときに気づけます。
- 聞き取りの土台になる:知っている単語でも、音のつながりに慣れていないと聞き取れません。
- 耳が口を引っぱる:正しく聞き分けられる音は、まねもしやすくなります。
3つ目には研究の裏づけがあります。日本語話者が苦手な /r/ と /l/ について、Bradlow ら(1997)は、日本語を母語とする大人に、いろいろな話し手・いろいろな単語の /r/ /l/ を聞き分ける訓練を続けてもらいました。聞き分けは上達し、訓練で使っていない単語や初めての話し手にも広がりました。さらに、発音の練習はしていないのに、訓練後の発音は英語の母語話者に正しく聞き取られやすくなっていました。
一方で、目指すのは「ネイティブそっくり」の発音ではありません。Munro と Derwing(1995)の研究では、聞き手が「訛りが強い」と判定した発話でも、多くは正確に書き取られ、分かりやすいと評価されていました。目標は通じる発音、つまり相手が苦労せずに分かる発音です。
1段目でやることの例です。
- フォニックス(つづりと音のルール)をひと通り知る
- 苦手な音のペアを聞き分ける:light / right(光/右)、sink / think(沈む/考える)
- 中学1年レベルの短い文を、音声どおりのリズムでまねする
最初から完璧を目指す必要はありません。1日5〜10分、音に意識を向ける時間を作るだけで、2段目以降の効き方が変わります。
032段目:語彙と文法は部品と設計図
単語は部品、文法は組み立ての設計図です。どちらが欠けても文は作れません。
英語の設計図の中心は語順です。日本語は「私は 毎週日曜日に テニスを します」のように、動詞が最後に来ます。英語では、だれが・どうする・何を、の順が骨組みになります。
- I play tennis every Sunday.(私は毎週日曜日にテニスをします)
- My sister plays the piano after dinner.(妹は夕食のあとにピアノを弾きます)
文法は、意識して学ぶことに効果があります。Norris と Ortega(2000)は、1980〜1998年に発表された49の研究をまとめ、文法などに焦点を当てた指導で大きな伸びがあり、はっきり説明する明示的な指導のほうが暗示的な指導より効果が大きく、その効果が持続していたと報告しています。「文法をやると話せなくなる」わけではありません。
ただし、ここで手に入るのは、まだ「考えれば分かる」知識です。「英語が伸びない本当の理由」の節で見たように、とっさに使える力は、使う練習で別に育てる必要があります。
2段目のコツは3つです。
- 単語は音声つきで覚え、声に出して確認する(1段目とつなげる)
- 文法は例文ごと覚え、その例文を音読する
- 完璧を待たずに、中学レベルの文法がひと通り分かったら3段目のインプットを始める
単語の数の目安や覚え方は第5章「単語」、文法の考え方と練習法は第6章「文法」で詳しく扱います。
043段目:大量インプットで『わかる』を増やす
部品と設計図が少しそろってきたら、わかる英語を大量に聞き、読む段階です。ここで、覚えた単語や文法に、いろいろな文脈で何度も出会い直します。
この段で一番大切なのは、教材のやさしさです。知らない単語が20語に1語ほどまでの、ほとんど分かる英語を選びます。難しすぎる英語は、量をこなしても理解が成り立ちません。
4技能のつながりも、この段で見えてきます。
| つながり | 中身 |
|---|---|
| 読む → 聞く | 文字で意味を確かめた英語は、音で聞いても分かりやすい |
| 聞く → 話す | まねできるほど聞いた英語は、口からも出しやすい |
| 読む → 書く | 読んで見慣れた表現は、書くときのお手本として使える |
| 書く ↔ 話す | 書くのは「ゆっくり話す」練習、話すのは「速く書く」練習 |
おすすめは、同じ素材を「読んで、聞く」ことです。
- 短い英文(1〜2分の音声つき)を読み、意味を確かめる
- 音声を聞いて、文字の英語と音を結びつける
- 慣れてきたら、先に音声だけで聞き、あとで文字で確かめる
学習者向けにレベル分けされた読み物(Graded Readers)や、学習者向けのポッドキャスト、同じニュースをやさしさ別に読めるサイトは、この段の強い味方です。量の目安や選び方は、第7章「リスニング」と第8章「リーディング」で扱います。
054段目・5段目:出して、速くする
4段目:アウトプット
インプットだけでは、言いたいことを英語にする力は育ちにくいものです。「英語が伸びない本当の理由」の節で紹介した DeKeyser(1997)の実験でも、理解の練習の効果は理解に、産出の練習の効果は産出に現れました。話せるようになりたければ、話す練習が要ります。
最初は、準備できるアウトプットから始めます。
- 読んだ内容を英語で3文にまとめて言う
- 今日あったことを英語日記に3行書く
- 一人で、目の前のことを英語でつぶやく(独り言)
慣れてきたら、オンライン英会話など、相手のいる練習に広げます。
5段目:自動化
最後の段は、知っている英語を速く、楽に使えるようにする練習です。新しいことを覚えるのではなく、知っていることを速くするのがポイントです。
- 同じ話を、時間を短くしながら3回くり返す(例:2分→1分半→1分)
- 中学レベルの文型を、日本語を見て2〜3秒で英語にする(瞬間英作文)
- すでに読んだやさしい本を、もう一度速く読む
段階別の1週間の配分(例)
| 段階 | 1・2段目 | 3段目 | 4・5段目 |
|---|---|---|---|
| 初級 | 多め(半分ほど) | 少し | 少し(音読・まね) |
| 中級 | 少し(弱点の補強) | 多め | 毎日少し |
| 上級 | 必要なときだけ | 多め | 多め |
これは英語大全としての目安です。どの段もゼロにしないことと、自分の弱い段に時間を足すことを優先してください。
下から順に:音→語彙・文法→大量インプット→アウトプット→自動化
今日からのやり方
- 毎日5分、教材の音声をまねして音読し、音の土台を作る
- 単語は音声つきで覚え、例文ごと声に出して確認する
- 知らない単語が20語に1語ほどのやさしい英語を、毎日10分以上聞くか読む
- その日に読んだ・聞いた内容を、英語で3文、声に出すか書く
- 同じ内容を2回目・3回目は短い時間で言い直し、速く使えるようにする
レベル別:あなたならこうする
時間の多くを1段目(音)と2段目(中学レベルの単語・文法)に使います。ただし毎日少しだけ、やさしい英語の動画や絵本など3段目も混ぜて、英語が『わかる』楽しさを早めに味わいましょう。
3段目の大量インプットを学習の中心にします。多読・多聴の時間を増やしながら、読んだ内容を話す・書く4段目を毎日少し。苦手な音や文法が見つかったら、1・2段目に戻って補います。
4段目と5段目の比重を上げます。要約、意見、プレゼンなど、内容の濃いアウトプットを時間を区切って行い、同じテーマを何度も扱うことで、速さと正確さを両立させましょう。
よくある失敗と対策
文字だけで覚えた単語は、音で流れてきたときに気づけません。単語は最初から音声つきで覚え、声に出して確認しましょう。
文法書を完璧に終えるまでインプットを始めない、では時間がかかりすぎます。全部の段を少しずつ同時に積み上げ、配分だけを段階で変えましょう。
知っている英語が少ないうちに会話へ飛びこむと、何も言えずに終わりがちです。まず要約や独り言など、準備できるアウトプットから始めましょう。
1 MIN
教材の1文を音声で聞き、まねして3回声に出してみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
序-3英語の r と l、聞き分けの練習だけで発音も良くなる?
日本語話者に英語の /r/ と /l/ を聞き分ける訓練をした Bradlow ら(1997)の研究では、聞き分けの訓練だけで、発音も英語の母語話者に正しく聞き取られやすくなりました。耳を作ることは、口を作ることにもつながります。
序-3訛りが強いと英語は通じない?
Munro と Derwing(1995)の研究では、訛りが強いと判定された発話でも、多くは聞き手に正確に書き取られ、分かりやすいと評価されていました。訛りの強さと通じやすさは、同じものではありません。
序-3英語の文法は、意識して学ぶと効果がある?
Norris と Ortega(2000)は49の研究をまとめ、文法などに焦点を当てた指導には大きな効果があり、明示的に教えるほうが効果が大きく、その効果は持続すると報告しました。ただし、使える力に変える練習は別に要ります。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
語学の活動を「意味中心のインプット」「意味中心のアウトプット」「言語に焦点を当てた学習」「流暢さの練習」の4つに分け、よく設計された授業では4つにおよそ同じ時間を割くべきだと提案した。
Nation, I. S. P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2–13.出典を開く ↗日本語話者に、多様な話し手の /r/ /l/ を聞き分ける訓練をすると、聞き分けが上達して新しい単語・話し手にも広がった。発音も英語母語話者に正しく聞き取られやすくなった。
Bradlow, A. R., Pisoni, D. B., Akahane-Yamada, R., & Tohkura, Y. (1997). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: IV. Some effects of perceptual learning on speech production. The Journal of the Acoustical Society of America, 101(4), 2299–2310.出典を開く ↗訛りが強いと判定された発話でも、多くは聞き手に正確に書き取られ、分かりやすいと評価された。訛りの強さは、通じやすさを必ずしも下げないと結論している。
Munro, M. J., & Derwing, T. M. (1995). Foreign accent, comprehensibility, and intelligibility in the speech of second language learners. Language Learning, 45(1), 73–97.出典を開く ↗49の研究をまとめ、言語形式に焦点を当てた指導には大きな効果があり、明示的な指導は暗示的な指導より効果が大きく、その効果は持続することを示した。
Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417–528.出典を開く ↗61人に人工言語の文法規則を教えて8週間練習させると、理解の練習と産出の練習の効果は技能ごとに分かれ、上達はほかの認知技能と同じくゆるやかな学習曲線をたどった。
DeKeyser, R. M. (1997). Beyond explicit rule learning: Automatizing second language morphosyntax. Studies in Second Language Acquisition, 19(2), 195–221.出典を開く ↗よくある質問
リスニングとリーディング、どちらが先?
どちらか一方ではなく、同じ素材を『読んで、聞く』のが効率的です。文字で意味を確かめてから音声で聞くと、知っている単語が音と結びつきます。慣れたら音声を先に聞き、あとで文字で確かめる順にします。
話す練習はいつから始めればいい?
最初の日からで構いません。ただし最初は、教材の文をまねて言う、自分のことを1文で言うなど、準備できる練習からにします。自由な会話は、インプットがある程度たまってから増やすと、挫折しにくくなります。
4技能はバランスよくやるべき?
最終的にはバランスが大切ですが、時期によって配分は変えて構いません。ネーション(2007)の4つの柱は、どの柱もゼロにしないための点検表として役立ちます。




