- この she は Japan のこと。昔の英語では、国や船を女性にたとえて she で受けることがあった
- 今は it が標準。アメリカの代表的な書き方の手引き『シカゴ・マニュアル』は「国に she は使わない」と明言、ケンブリッジ英英辞典も「古風」と表示
- 構文では as she is now=「今の状態の」にも注目。代名詞だけ今の言い方にすると Japan, as it is now, …
- 受験生は「読めればOK、書くなら it」。国の she は、古い英文を読むための知識として持っておけば十分
Xで何が話題になった?
きっかけは、受験生のアカウントが英語参考書のページを撮って「このsheってJapan?」と投稿したこと。例文は Japan, as she is now, is not yet fully democratic. 投稿画像に写っている訳は「日本は現状ではいまだに十分に民主化されていない」です(書名は投稿では示されていません)。投稿の表示回数は約174万回、いいねは8,000超(2026年10月21日夕方・日本時間の時点)。引用でさまざまな声が集まりました。
反応をざっくり分けると、次の3つです(実際の投稿を要約したもの)。
つまり論点は①この she は何?②なぜ国が「彼女」?③今の英語で使う?④受験で覚える意味ある?の4つ。順番に答えます。
答え:この she は Japan。文の構造を分解
骨組みは Japan / is / not yet fully democratic(日本は/まだ十分に民主的ではない)。コンマではさまれた as she is now は、その中に入った小さな文で、she が主語、is が動詞です。意味は「今そうであるとおりの日本は」=「今の状態の日本は」。「もし〜なら」という条件ではなく、その時点の日本の状態を補足しています。ここでの「今」は、この英文が書かれた時点のことで、2026年の日本のことではありません。
ちなみに she は主語の形。her には2つの役目があり、Britain and her allies の her は「その国の」(所有)で、it なら its。play her の her は「それを」(目的語)で、it なら it になります。訳すときも「彼女」とする必要はなく、「その国」「日本」で十分です。
| 英文 | |
|---|---|
| 参考書の例文(古風) | Japan, as she is now, is not yet fully democratic. |
| 代名詞だけ今の言い方に | Japan, as it is now, is not yet fully democratic. |
「名詞 + as + 主語 + be動詞」は今も使われる
今回の as she is now は、前の名詞が「その時点でどんな状態か」を補足しています。be動詞は主語と時制に合わせて変わります(as I am / as it was など)。as にはほかに「〜なので」などの意味もあるので、意味は文脈で決まります。
- Japan as it is now
- 今の(ありのままの)日本 ※この形で名詞のかたまり
次は、元の例文のようなコンマつきの挿入ではありませんが、「ありのまま」「そのまま」を表す関連表現です。
- Accept me as I am.
- ありのままの私を受け入れて
- Leave it as it is.
- そのままにしておいて
- the world as we know it
- 私たちが知っているような世界(関連表現。be動詞ではなく know を使う形)
この例文の古い所は、国を she で受けている点です。構文の材料としては今も使えます。
なぜ国を「彼女」と呼ぶの?

今の英語には、フランス語やドイツ語のように名詞を「男性名詞・女性名詞」に分ける仕組みはありません(古い時代の英語にはありました)。それでも国や船を she と呼んできたのは、ものを人にたとえる「擬人化」の習慣です。下の3つは、国を女性としてとらえる言葉や文化の例としてよく挙がるもので、これらが英語の she の使い方を生んだと決まっているわけではありません。
| よく挙がる話 | 中身 |
|---|---|
| ラテン語・フランス語 | ラテン語では Britannia, Germania, Italia などの地名が文法上の女性名詞。フランス語でも la France は女性名詞。ただし、これだけで英語の国名全体の she は説明できません |
| 「母なる国」のイメージ | mother country, motherland(母国)のように、国を自分を育てる母にたとえる言い方がある |
| 女性の姿の国のシンボル | イギリスのブリタニア、フランスのマリアンヌなど、国を女性像で表す文化がある |
「政治なら she、地理なら it」という昔の説明
辞書や文法書では、国を政治・経済・文化の主体として見るときは she、地理的な土地として見るときは it、と説明されてきました(英語史研究者・堀田隆一さんの「hellog〜英語史ブログ」でも紹介されています)。例文も日本の政治のあり方を述べた文なので、この説明に沿った例といえます。ただし今の英語では、どちらの場合も it がふつうです。
国だけじゃない! she と呼ばれてきたもの
She’ll be right.(なんとかなるさ)のように、オーストラリアやニュージーランドのくだけた英語では she が it の代わりに使われます。この she は女性にたとえているわけではなく、「状況」などを指す地域の言い方で、今も現役です。
ちなみに大西洋のハリケーンには、1953年から女性の名前だけが付けられ、1979年から男性の名前も使われるようになりました(代名詞とは別の、名前の歴史です)。台風の名前が今どう決まっているかは台風の名前チェッカーでまとめています。
データで見る「she 離れ」(本の中の言い方)
Google が集めた大量の本の文章(コーパス)から、言い方の多さを調べられる Google Books Ngram で、たとえば「Britain and her」と「Britain and its」を比べました。グラフは2つの言い方の合計のうち、her 側が占める割合です。
(1940年→2022年)
(1930年→2022年)
「Japan and her」の割合は1940年の約55%から2022年は約9%に、例文と同じ「Japan as she is」も「Japan as it is」と比べると約2%まで下がりました。一方、2022年の値でも「Britain and her」の組は約3割、「the ship and her」の組は約2割が her で、イギリスや船については her の形が本の中にまだ残っています。
今の英語ではどう扱われている?
「どう書くべきか」を決める書き方の手引き(スタイルガイド)と、「実際どう使われているか」を記録する辞書に分けて見ます。
書き方の手引き・新聞の方針
| 手引き・媒体 | 国や船の she について |
|---|---|
| シカゴ・マニュアル | 国に she は使わない。使えば「英語を知らない人か、1950年で勉強が止まった人」に聞こえる、とまで書く(公式Q&A、2024年の第18版準拠) |
| AP通信・NYタイムズ | 英語ブログ Grammarphobia(2007年)によると、両社の手引きは国や船を it で受けるよう勧めている |
| ロイズ・リスト | 1734年創刊の海運紙。2002年、同紙の方針として船を she から it に変更 |
辞書の記述
| 辞書 | 国や船の she について |
|---|---|
| ケンブリッジ英英辞典 | 国・船・乗り物を指す she に「old-fashioned(古風)」の表示 |
| メリアム・ウェブスター | 「擬人化などで女性とみなすものを指す」she を載せる(例:she was a fine ship) |
| オックスフォード現代英英辞典 | 国・船の擬人化は独立した意味としては載せず、オーストラリア・ニュージーランド英語の she(=it)を載せる(例:She’s a big country.) |
まとめると、国の she は古風な言い方で、船の she は海の世界の慣習として残り、愛車などの she は愛着をこめた会話で使われる、という状態です。辞書によって書き方が違うのも面白いところです。
じゃあ参考書は捨てるべき?受験生の答え
「捨てるべき」は言いすぎで、as she is now のような構文を学ぶ例文としては今も使えるというのが原田先生の考えです。ただ、古い例文を「今の英語」として覚えないよう、辞書の「古風」などの表示を確かめるクセをつけておきましょう。
as は使い方が多い単語です。今回とは別の用法の「疑似関係代名詞の as」は「as is often the case with」の記事で解説しています。
1分クイズ:この her / she は何を指す?
Q1. Britain and her allies won the war.
Q2. The ship lost her anchor in the storm.
Q3. Don’t worry, mate. She’ll be right.
Q4. France and her colonies
よくある質問
Q. 国を she で受けるのはまちがいですか?
Q. 「Japan, as she is now, is not yet fully democratic.」の意味は?
Q. 船は今も she と呼びますか?
Q. 入試の英作文で国を she にしたら減点されますか?
Q. 昔の「政治的には she、地理的には it」という説明は今も正しい?
あわせて読みたい
参考にした資料
- The Chicago Manual of Style Online「Should she or it be used as a pronoun for a country?」
- The Chicago Manual of Style Online(女性の代名詞をものに使うことについて)
- Cambridge Dictionary「she」
- Merriam-Webster「she」
- Oxford Learner’s Dictionaries「she」
- Grammarphobia「Is a country a she or an it?」
- Word Origins「Lloyd’s List, ‘She’ No More」
- 堀田隆一「hellog〜英語史ブログ」(2011年8月28日)
- NOAA National Hurricane Center「Tropical Cyclone Naming History」
- B.B. King Museum「Meet Lucille」
- Google Books Ngram Viewer
