心理学

高い所で「飛び降りたら…」とふと思うのはなぜ? 約6割が経験する“高所衝動”の正体

高い所で「飛び降りたら…」とふと思うのはなぜ? 約6割が経験する“高所衝動”の正体

読む前に予想してみよう!

高い所で「飛び降りたら」と頭をよぎるのは、心の奥で死にたいと思っている証拠だ

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・一般成人・患者
規模
431人/370人
研究の種類
横断調査
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

高い所で「飛んだら…」とよぎる現象は「高所現象」と呼ばれ、ドイツの調査では約6割が経験。死にたい気持ちがない人にも多く、安全反応の読み違い説がある。

ひとことで言うと高い所でヘンな考えがよぎるのは、脳の「あぶない!」の読みちがいかも。

もくじ
  1. アメリカの大学生431人に聞いてみた
  2. 「一歩下がった」理由を、脳が読み違える
  3. ドイツでは約6割が「知っている」
  4. まとめ

展望台やマンションのベランダ、駅のホームの端。ふと「今ここから飛び降りたら…」という考えが頭をよぎり、ゾッとして思わず一歩下がる。

「自分、大丈夫かな?」と不安になった人もいるかもしれません。でも、答えを先に言うと、これはとてもよくある現象です。心理学では「高所現象(High Place Phenomenon)」、フランス語由来で「虚空の呼び声(コール・オブ・ザ・ボイド)」とも呼ばれます。死にたい気持ちがまったくない人にもよく起き、脳の安全装置の“読み違い”ではないか、という説があります。

01アメリカの大学生431人に聞いてみた

論文のタイトルは「飛び降りたい衝動は、生きたい衝動を裏づける(An urge to jump affirms the urge to live)」。なかなか印象的です。

02「一歩下がった」理由を、脳が読み違える

ヘイムズさんらが提案した仮説は、こんな流れです。

  1. 高い所の端に立つと、脳の古い安全システムが危険を察知し、考えるより先に体を後ろへ引かせる
  2. 一瞬遅れて、意識のほうが「なぜ今、自分は後ずさりしたんだ?」と理由を探す
  3. 目の前には崖。そこで「もしかして、飛び降りたかったから…?」と間違った説明をこじつけてしまう

つまり衝動の正体は、「落ちたくない」という生存本能の裏返しかもしれない、というわけです。不安感受性の高い人は体のサインに敏感なぶん、この読み違いが起きやすいのでは、と考えられています。

先に体が「下がる」→ あとから心が理由を探して読み違える?
先に体が「下がる」→ あとから心が理由を探して読み違える?

03ドイツでは約6割が「知っている」

この現象は、アメリカの大学生だけの話ではありません。

ドイツのタイスマン(Teismann)さんらが2020年に行った調査では、オンラインで参加した一般の人276人のうち約6割、飛行機恐怖症の患者94人のうち45%が高所現象を経験していました。研究チームは、高所現象は死にたい気持ちを持ったことがある人に多いものの、持ったことがない人にもありふれた体験なので、それだけで危険なサインと解釈しないよう注意を促しています。

さらに2025年には、同じグループが、高い所以外の場面(車の運転中や駅のホームなど)でふと似た考えがよぎる体験もまとめて測る尺度を作り、476人で検証しています。こうした考えが本人にとって「自分らしくない、いやな考え」と感じられる度合いや、それを抑えるための行動も、尺度で測る要素に含まれています。

04まとめ

高い所で「飛び降りたら…」とよぎるのは、多くの人が経験する、ありふれた現象でした。有力な仮説は、生き延びるための「一歩下がる」反応を、心があとから読み違えているというもの。

ゾッとしたら、それはあなたの脳が「落ちるな!」と全力で守ってくれた証拠かもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerStanding on a high balcony, some people suddenly imagine jumping and quickly step back. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Standing on a high balcony, some people suddenly imagine jumping and quickly step back. Psychologists call this the high place phenomenon. In 2012, researchers in Florida surveyed 431 college students online. They found that the experience was common even among students who had never thought about ending their lives. It was more common in people with high anxiety sensitivity, meaning they are easily frightened by physical signs of anxiety, such as a racing heart.

The researchers suggested that the brain's safety system makes the body step back first. A moment later, the mind tries to explain this movement and wrongly decides, "I must have wanted to jump." In other words, the urge may actually reflect a desire to stay alive.

120 words ・ CEFR B1

和訳を見る

高いベランダに立つと、ふと飛び降りることを想像して、すぐに後ずさりする人がいます。心理学者はこれを「高所現象」と呼びます。2012年、フロリダの研究者たちは大学生431人にオンライン調査を行いました。その結果、この体験は、命を絶つことを考えたことが一度もない学生の間でもよく見られることがわかりました。また、不安感受性が高い人、つまり心臓がドキドキするなどの不安の体のサインにおびえやすい人に、より多く見られました。

研究者たちは、脳の安全システムがまず体を後ろへ下がらせるのだと考えました。一瞬後、心はこの動きを説明しようとして、「きっと飛び降りたかったんだ」と誤って結論づけてしまうのです。言いかえれば、この衝動は実は「生きていたい」という気持ちの表れなのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. Who took part in the 2012 survey?

Q3. What can we infer from the phrase "the urge may actually reflect a desire to stay alive"?

重要単語

  • urgeB2
    名詞衝動I felt a sudden urge to jump. have / feel an urge to do「~したい衝動にかられる」。動詞 urge A to do は「Aに~するよう強く勧める」。
  • phenomenonB2
    名詞現象(複数形 phenomena)This phenomenon is surprisingly common. 複数形 phenomena は入試の文法・語法問題で狙われる。a social phenomenon「社会現象」。
  • misinterpretC1
    動詞誤って解釈するThe brain may misinterpret a safety signal. mis-(誤って)+interpret(解釈する)。misunderstand, mislead と同じ mis-。
  • anxiety sensitivityC1
    名詞(句)不安感受性(不安の体のサインを怖がりやすい傾向)People with high anxiety sensitivity notice their heartbeat more. anxiety の形容詞は anxious。be anxious about ~「~を心配する」/be anxious to do「しきりに~したがる」。
  • intrusive thoughtC1
    名詞(句)侵入思考(勝手に浮かぶ考え)Intrusive thoughts are common and usually harmless. intrude(押し入る)の形容詞形。intruder は「侵入者」。
  • surveyB1
    名詞・動詞調査(する)The researchers surveyed 431 students online. 名詞は第1音節、動詞は第2音節にアクセント。conduct a survey「調査を行う」。
高い所でふと「ここから飛んだら…」と思う現象には名前がある。「高所現象(コール・オブ・ザ・ボイド)」。ドイツの調査では約6割が経験し、死にたい気持ちがない人にも多かった。脳の「危ない!」サインの読み違い説があるらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Hames et al. (2012) An urge to jump affirms the urge to live: An empirical examination of the high place phenomenon, Journal of Affective Disordersdoi.org
  2. Teismann et al. (2020) High place phenomenon: prevalence and clinical correlates in two German samples, BMC Psychiatrydoi.org
  3. Wiesmann, Melzer & Teismann (2025) Call of the Void Scale: scale development, validation and psychometric properties, Frontiers in Psychiatrydoi.org