一流アスリートが本番前に「いつもの動作」をする理由。プレッシャーの心理学

読む前に予想してみよう!
緊張したときは「落ち着け」と自分に言い聞かせるのが一番効果的
ある実験では「落ち着こう」より「ワクワクしてきた」と言い換えたほうが、スピーチなどの成績が良かった。
- 対象
- 熟練アスリート・大学生など
- 規模
- 各実験は数十〜数百人(ルーティンのメタ分析は112効果量)
- 研究の種類
- 実験室実験+メタ分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
プレッシャーで実力が出せない「あがり」は、慣れた動きを意識しすぎることで起きやすい。ルーティンや「ワクワクしてきた」と言い換えることが対策として研究されている。
ひとことで言うと本番は「考えすぎ」が大敵。いつもの動きが、心のスイッチになる!
ラグビーのキッカーが、ボールを蹴る前に毎回同じポーズをとる。テニス選手が、サーブの前に決まった回数だけボールをつく。野球の打者が、打席に入る前に同じ動きをくり返す。
一流のアスリートほど、本番前に「いつもの動作」=ルーティンを大切にしています。
ただの縁起かつぎ? それとも意味がある? その答えのカギは、「プレッシャーで実力が出せなくなるしくみ」にありました。
01「あがり」は考えすぎから始まる
大事な場面で、練習ではできていたことができなくなる。英語では「チョーキング(息が詰まる)」と呼ばれ、日本語でいう「あがり」です。
1984年、アメリカの心理学者バウマイスターさんは、プレッシャーがかかると人は自分の動きを意識しすぎてしまうことが、失敗の原因になると考え、ゲーム課題を使った実験でこの考えを支持する結果を報告しました。
たとえるなら、ふだん何も考えずにできている階段の上り下りを、「右足を上げて、ひざを曲げて…」と考えながらやるようなもの。かえってぎこちなくなり、つまずきやすくなりますよね。
体がすでに覚えている動きは、自動運転モードのほうがうまくいく。プレッシャーで「手動運転」に切り替わると、ミスが増えてしまうのです。
02上級者ほど「意識すると」下手になる
つまり、上級者にとっての「考えすぎ」は敵。これがプレッシャー下で起きると、「あがり」につながると考えられています。

03ルーティンは「いつものモード」へのスイッチ
ここで登場するのがルーティンです。
スポーツ心理学の研究をまとめたレビューでは、本番前のルーティンには、
- 意識を「今やること」に集中させる
- 余計な考え(失敗したらどうしよう)が入り込むすき間を減らす
- 練習と同じ状態を作り、自動運転モードに入りやすくする
といった役割があるのではないかと考えられています。ただし、ルーティンがどんな働きをするのかは、このレビュー自身もまだはっきりしていないと述べています。
いわば、ルーティンは「いつもの自分」を呼び出すスイッチ。どんな大舞台でも、同じ動作をすれば、体と心が「いつもの練習だ」と思い出しやすくなるのです。
では、実際に効果はあるのでしょうか。2021年、ルプレヒトさんらがルーティンの効果を調べた研究をまとめたメタ分析(112の効果量を統合)では、ルーティンありとなしを比べた実験デザインの研究で成績が中程度〜大きめに良くなる傾向があり、プレッシャーがかかった条件でも同じような効果が見られました。一方、練習の前後を比べた研究では、効果は小さめでした。
ただし、1つ1つの研究は参加者が少ないものが多く、効果の大きさは研究によってばらつきもあります。「この動作をすれば必ず成功する」という魔法ではなく、練習の段階からくり返して身につけることが前提です。
04「落ち着け」より「ワクワクしてきた」
もう一つ、試しやすい研究があります。
2014年、アメリカのハーバード・ビジネス・スクールのブルックスさんは、人前でのスピーチや歌、計算テストの直前に、参加者にある言葉を口に出してもらう実験をしました。
すると、「ワクワクしてきた」と言った人は、「落ち着こう」や「不安だ」と言った人などと比べて、スピーチの評価や歌の正確さが高い傾向がありました。
緊張でドキドキする体の状態は、ワクワクしているときとよく似ています。無理に落ち着こうとするより、そのドキドキを「やる気のサイン」として受け止め直すほうが、うまくいきやすいと考えられています。
ただし、これは1人の研究者による一連の実験で、参加者も主に学生や一般の大人でした。プロのアスリートの本番で同じ効果が出るかは、まだ十分に確かめられていません。似た考え方はストレスの捉え方(ストレス・マインドセット)や自分を三人称で呼ぶセルフトークの研究にも通じます。
05まとめ
アスリートのルーティンは、ただの縁起かつぎではありません。プレッシャーの中で考えすぎを防ぎ、「いつもの自分」に戻るためのスイッチとして考えられています。
テストや発表、試合の前に、あなたも自分だけのルーティンを作ってみませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany top athletes repeat the same actions before a kick or a serve.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Before a big moment, many top athletes do the same small actions every time. This is called a routine. Why do they do it? Under pressure, people sometimes think too much about moves their bodies already know.
Then they make mistakes. A routine helps them focus and feel like it is just practice. In one study, people who said "I am excited" before a speech did better than people who said "I am calm."
74 words ・ CEFR A2
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大事な場面の前に、多くの一流アスリートは毎回同じ小さな動作をします。これはルーティンと呼ばれます。なぜそうするのでしょうか。プレッシャーがかかると、人は体がすでに覚えている動きについて考えすぎてしまうことがあります。
すると、ミスをしてしまうのです。ルーティンは集中を助け、ただの練習のように感じさせてくれます。ある研究では、スピーチの前に「ワクワクしている」と言った人は、「落ち着いている」と言った人よりうまくできました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is a routine in this passage?
do the same small actions every time. This is called a routine. とあるので B。
Q2. Why do people make mistakes under pressure?
people sometimes think too much about moves their bodies already know. Then they make mistakes. とあるので A。
Q3. In the study, which words helped people do better?
people who said "I am excited" ... did better とあるので D。
Many top athletes repeat the same actions before a kick or a serve. These pre-performance routines are not just superstitions. Psychologists say that pressure can make skilled people "choke," or perform badly, because they start paying too much attention to movements that are usually automatic. It is like thinking about every step while walking down stairs.
In a 2002 study, experienced golfers and soccer players performed worse when they focused on the details of their movements, while beginners did better that way. A routine may help athletes return to their usual "automatic mode." A 2021 review of many studies found that routines improved performance, even under pressure. Another study found that saying "I am excited" before a speech worked better than trying to calm down.
125 words ・ CEFR B1
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多くの一流アスリートは、キックやサーブの前に同じ動作を繰り返します。こうした本番前のルーティンは、単なる縁起かつぎではありません。心理学者たちは、プレッシャーによって熟練した人が「チョーク」、つまり本番で失敗してしまうことがあると考えています。ふだんは自動的にできている動きに注意を払いすぎるようになるからです。それは階段を下りるときに一歩一歩を考えるようなものです。
2002年の研究では、経験豊富なゴルファーやサッカー選手は、自分の動きの細部に集中すると成績が下がり、一方で初心者はそうしたほうがうまくできました。ルーティンは、アスリートがいつもの「自動モード」に戻るのに役立つのかもしれません。多くの研究をまとめた2021年のレビューでは、プレッシャーのもとでもルーティンが成績を向上させることがわかりました。別の研究では、スピーチの前に「ワクワクしている」と言うほうが、落ち着こうとするよりも効果的でした。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, why do skilled people "choke"?
because they start paying too much attention to movements that are usually automatic とあるので A。
Q2. What did the 2002 study find about beginners?
while beginners did better that way(動きの細部に集中すると)とあるので B。
Q3. What can we infer about routines from the passage?
A routine may help athletes return to their usual "automatic mode" から、プレッシャー下でいつもの状態を保つのに役立つと推論できるので C。
Kickers who adopt the same stance before every attempt, or tennis players who bounce the ball a fixed number of times, are not just superstitious. Their routines target a well-documented problem: choking under pressure. In 1984, Roy Baumeister proposed that pressure increases self-consciousness, prompting performers to monitor actions that would normally run smoothly on their own. Sian Beilock and colleagues later tested this with golf putting and soccer dribbling.
Experienced players performed worse when told to attend to the details of their movements but held up well when given a distracting secondary task, whereas novices benefited from focusing on their technique. For experts, overthinking is the enemy. Pre-performance routines may counter it by narrowing attention to the immediate task and recreating the conditions of practice. A 2021 meta-analysis combining 112 effect sizes found moderate to large improvements from routines in experiments, including under pressure, though many studies were small and results varied.
Another strategy concerns interpreting nerves. Alison Brooks found that people who said "I am excited" before singing or public speaking outperformed those who tried to calm down. However, those experiments came from a single researcher, and whether the effect holds for elite athletes in competition remains largely untested.
200 words ・ CEFR B2
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毎回の試技の前に同じ構えをとるキッカーや、決まった回数だけボールをつくテニス選手は、単に縁起をかついでいるのではありません。彼らのルーティンは、よく記録されている問題、つまりプレッシャーのもとでのチョーキング(あがり)を狙ったものです。1984年、ロイ・バウマイスターは、プレッシャーが自意識を高め、ふだんならひとりでに滑らかに進む動作を監視するよう促してしまうと提唱しました。シアン・バイロックらはその後、ゴルフのパッティングとサッカーのドリブルでこれを検証しました。
経験豊富な選手は、動きの細部に注意を向けるよう指示されると成績が下がりましたが、気をそらす別の課題を与えられたときには持ちこたえました。一方、初心者は自分の技術に集中することで恩恵を受けました。つまり、熟練者にとっては考えすぎが敵なのです。本番前のルーティンは、注意を目の前の課題に絞り、練習の状態を再現することで、それに対抗できるのかもしれません。112の効果量を統合した2021年のメタ分析は、実験デザインの研究で、プレッシャー下も含め、ルーティンが中程度から大きな向上をもたらすことを見出しましたが、多くの研究は小規模で結果にはばらつきがありました。
別の方略は、緊張の解釈に関わるものです。アリソン・ブルックスは、歌や人前でのスピーチの前に「ワクワクしている」と言った人が、落ち着こうとした人より良い成績を出したことを見出しました。しかし、それらの実験は1人の研究者によるもので、競技中の一流アスリートにもこの効果が当てはまるかは、ほとんど検証されていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Beilock and colleagues find about experienced players?
Experienced players performed worse when told to attend to the details ... but held up well when given a distracting secondary task とあるので B。
Q2. Which limitation of the routine research does the author mention?
though many studies were small and results varied とあるので C。
Q3. What is the author's view of Brooks' findings?
単独研究者の実験で、競技中の一流選手には未検証と述べているので A。
重要単語
- chokeC1動詞(プレッシャーで)本番に失敗する、あがるEven top players sometimes choke in the final.
本来は「窒息する・息が詰まる」。choke under pressure がスポーツ英語の定番。 - routineB1名詞いつも決まった手順She has a short routine before every serve.
daily routine「日課」。形容詞で「型どおりの・ありふれた」の意味もある。 - pressureB1名詞重圧、圧力He performed well under pressure.
under pressure「プレッシャーの中で」。put pressure on ~「~に圧力をかける」。 - reappraiseC2動詞捉え直す、評価し直すTry to reappraise your nerves as excitement.
re-(再び)+appraise(評価する)。名詞 reappraisal は感情調整の研究で頻出。 - automaticB1形容詞自動的な、無意識にできるRiding a bike becomes automatic with practice.
副詞 automatically。auto(自分で)+matic(動く)。 - self-consciousnessC1名詞自意識(過剰)Pressure can increase self-consciousness.
self-conscious は「人目を気にする」。conscious(意識している)とニュアンスが違う点に注意。 - noviceC1名詞初心者Novices benefited from focusing on their technique.
beginner の硬い語。反対は expert / veteran。
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本番で実力が出せない「あがり」。原因の一つは、体が覚えている動きを、プレッシャーで「意識しすぎる」ことらしい。実験では、緊張した時に「ワクワクしてきた」と口に出した人のほうが、スピーチや歌の成績が良かったんだとか。
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- Baumeister (1984) Choking under pressure: Self-consciousness and paradoxical effects of incentives on skillful performance, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Beilock et al. (2002) When paying attention becomes counterproductive: Impact of divided versus skill-focused attention on novice and experienced performance of sensorimotor skills, Journal of Experimental Psychology: Applieddoi.org
- Brooks (2014) Get excited: Reappraising pre-performance anxiety as excitement, Journal of Experimental Psychology: Generalpubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Cotterill (2010) Pre-performance routines in sport: Current understanding and future directions, International Review of Sport and Exercise Psychologydoi.org
- Rupprecht, Tran & Gröpel (2021) The effectiveness of pre-performance routines in sports: a meta-analysis, International Review of Sport and Exercise Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













