チンパンジーは仲良しからは食べ物を盗みにくかった。仲良しに盗まれたときの騒ぎは、くり返すうちに小さくなった

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チンパンジーは、相手が誰でも同じように食べ物を盗む
ひもを引けば相手のパイナップルを取れる実験で、仲良しでない相手からは70%、仲良しからは61%の回で盗んだ(2026年、米国・ドイツなどの研究チーム)。
- 対象
- ウガンダの保護区のチンパンジー
- 規模
- 26頭(46組・138回)
- 研究の種類
- 実験(観察で仲良しを決めてから比較)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
ひもを引けば相手の食べ物を取れる実験で、チンパンジーは仲良しでない相手から70%、仲良しから61%の回で盗んだ。仲良しに食べ物を盗まれても、同じ相手と実験を3回くり返すうちに、騒ぐ反応は弱まった。
ひとことで言うとチンパンジーは仲良しからは盗みにくい。仲良しに盗まれても、くり返すうちに騒ぐ反応は弱まった!
もくじ
チンパンジーの目の前に、ひもが1本あります。ひもの先は、通路の向こうの部屋の前に置かれたトレイにつながっています。トレイにはパイナップル。向こうの部屋の仲間が、格子のすき間から指を出して、1切れずつ取って食べているところです。
ひもを引けば、そのパイナップルをトレイごと自分のほうへ引き寄せられます。2頭はそれぞれ鉄格子の部屋の中にいて、あいだの通路には入れません。だから相手は、取り返しにも来られません。
チンパンジーは引くでしょうか。相手が仲良しのときと、そうでない相手のときで違うでしょうか。
米国・ドイツなどの研究チームが、ウガンダのチンパンジー保護区で実際に試しました。結果は、相手が仲良しでないときは70%の回で盗み、仲良しのときは61%の回でした。仲良しからのほうが、盗みにくかったのです。また、同じ2頭で実験を3回くり返すと、仲良しに食べ物を盗まれても、騒ぐ反応は回を追うごとに弱まっていきました。ただしこれは研究チームも予想していなかった結果で、確かめ直しが必要です。論文は2026年9月、学術誌『Evolution and Human Behavior』にオンラインで公開されました。
01「仲良し」は800時間の観察で決めた
実験の舞台は、ウガンダのンガンバ島チンパンジー保護区です。参加したのは26頭(メス14頭・オス12頭、16〜39歳)です。
まず、誰と誰が仲良しかを決めました。研究助手が、1日4回のえさの時間に約30分ずつ群れを観察し、合わせて800時間の記録をとりました。数えたのは、2頭が次の4つをどれだけしていたかです。
- 毛づくろいをする
- 体をくっつけている
- 手が届くほど近くにいる
- 並んで一緒に食べる
この4つをまとめて「仲の良さの点数」にし、点数がいちばん高い相手を「仲良し」としました。ただし4頭は、いちばんの相手がふだん実験に参加しない個体だったので、2番目に点数が高い相手にしました。比べる相手には、点数がその個体にとって真ん中くらいの相手を選びました。しかも仲良しと同じ性別で、群れの中の地位(強さの順位)も同じくらいの相手です。違いを「仲の良さ」だけにするためです。
02実験:ひもを引けば、相手のパイナップルが自分のものに

この「盗み」は、盗む側にとって手間も危険もほとんどありません。練習の回では、盗まれる側がいないときに、ひもを引けばパイナップルが手に入りました。このとき、盗む役のチンパンジーは全員が、毎回ひもを引いています。それほどパイナップルは魅力的です。
03結果1:盗んだ割合は、仲良しでない相手で7割、仲良しで6割
本番は全部で138回。相手が仲良しの回と、仲良しでない回が69回ずつです。ひもが引かれたのは、全体の65%でした。相手ごとに分けると次のとおりです。
- 仲良しでない相手から:70%
- 仲良しから:61%
差は9ポイント(70%と61%の差)です。統計で確かめると、偶然では説明しにくい差でした。
逆に言えば、仲良しが相手でも半分以上の回では盗んでいます。「仲良しからは盗まない」のではなく、「盗む回数が少し減る」という結果です。
もう1つ、盗まれる側の地位が高いほど盗まれにくい、という結果も出ました。
04結果2:仲良しに盗まれた側は、3回くり返すうちに静かになった
研究チームは、盗まれた側の「嫌がる様子」も記録しました。気持ちは目に見えないので、次のような行動の長さ(秒数)を数えて、1つの点数にまとめています。
- 叫び声、くんくんと泣くような声、ほえる声
- 体を荒っぽくかく(不安なときに出るしぐさ)
- まわりをバンバンたたく(かんしゃくの一種)
この分析には、仲良しにも、仲良しでない相手にも盗まれたことのある15頭の、80回分(実際に盗まれた回だけ)を使いました。
仲良しでない相手に盗まれたときは、1回目から3回目まで、嫌がる様子にはっきりした変化はありませんでした。ところが仲良しに盗まれたときは、同じ仲良しとの3回のうち、回を追うごとに騒ぎが小さくなっていきました。1回目どうしで比べると、仲良しに盗まれたときのほうが、仲良しでない相手のときより騒ぎが大きい傾向がありました。
盗まれる3秒前から盗まれた30秒後までにしぼった追加の分析では、この違いはもっとはっきりしました。叫び声、泣くような声、たたく行動のそれぞれで、同じ形が見られました。
05結果3:盗む側は、仲良しでない相手から盗むときによく叫んだ
盗んだ側も、部屋に入ってから45秒間の行動を記録しました。すると、仲良しでない相手から盗んだときのほうが、嫌がる様子が強く出ました。中身はおもに叫び声でした。
論文は、盗む側が仲良しでない相手とのやりとりを、より「とげとげしい場面」として受け止めていたのではないか、と考えています。もう1つの見方として、仲良しから盗むときは、仲がこじれないよう気持ちを表に出すのをおさえた可能性も挙げています。
06なぜ騒ぎは静まったのか。論文の2つの見方
論文のタイトルは「チンパンジーは友だちから盗むことが少なく、友だちにも同じことを期待する」です。「仲良しなら盗まないはず」という期待があるなら、裏切られた1回目は騒ぎが大きくなるはずです。研究チームは、今回の結果はこの考え方とおおむね合う、と書いています。
では、なぜその騒ぎは静まったのか。論文は2つの見方を挙げています。
- 本当は腹を立てているが、仲を壊さないように抑えた
- 1回盗まれたことで、その仲良しへの期待を下げた
どちらなのかは、この実験では分かりません。
07この実験からは、まだ言えないこと
- 「騒ぎが静まる」は、研究チームが前もって予想していなかった結果。論文自身が「読みすぎないよう慎重でいたい。今後の研究で、同じ結果が出るか確かめるべきだ」と書いている
- 90秒間の全体で見ると、「仲良しのときだけ静まる」形は、まとめた点数では出たが、叫び声・たたくなど1つ1つの行動では、はっきりした差は出なかった。30秒にしぼった分析は、あとから足した分析で、論文自身が「探索的」(本番の確かめではなく、手がかり探し)と断っている
- 調べたのは1つの保護区の26頭。1組が試したのは3回だけ
- 「仲良し」は人が行動の記録から決めたもの。仲良しどうしが両思いだった(おたがいを仲良しに選んでいた)のは、23頭のうち10頭だった
- 測ったのは声やしぐさで、気持ちそのものではない。人の友情と同じものだとは言えない
08これまでの研究とのつながり
チンパンジーが仲良しを特別あつかいすることは、これまでにも分かっていました。2016年の研究では、チンパンジーは仲良しのほうをよく信頼しました。野生のチンパンジーを調べた2018年の研究では、食べ物を分け合うかどうかをいちばんよく言い当てたのは、長く続いていて、おたがいに選び合う「毛づくろい仲間」がいるかどうかでした。
ただし、これらは「良いことをする」側の話です。「嫌なことを控える」側を、仲の良さで比べた研究はあまりありませんでした。
2007年の実験(今回の論文も紹介しています)では、同じようにひもで相手の食べ物を引き寄せて盗める場面で、盗みが74%の回で起きました。盗まれたチンパンジーは、別のひもを引いて台ごと食べ物を落とし、どちらも食べられないようにする「仕返し」もしました。チンパンジーにとって、盗まれるのは嫌なことなのです。
09まとめ
ひも1本で、目の前のパイナップルが手に入る。相手は取り返しに来られない。それでもチンパンジーは、相手が仲良しだと、盗む回数を少し減らしました。
そして、仲良しに盗まれた側は、最初は騒いでも、3回のうちにだんだん静かになりました。腹立ちを抑えたのか、期待を下げたのか。チンパンジーの「友だちづきあい」の中身を知るには、この先の研究を待つ必要があります。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers watched a group of chimpanzees at a sanctuary in Uganda for 800 hours.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Two chimps are in two rooms. A wide hall is between them. One chimp is eating pineapple from a tray. The other chimp can pull a rope and take the tray.
Scientists tested 26 chimps in Uganda. The chimps took the food in 70 percent of tests when the partner was not a friend.
With a friend, it was 61 percent. When a friend took the food, the other chimp was upset at first. Over three tests, it calmed down.
80 words ・ CEFR A2
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2頭のチンパンジーが、2つの部屋にいる。あいだには広い通路がある。1頭はトレイのパイナップルを食べている。もう1頭は、ひもを引いてトレイを取ることができる。
科学者たちは、ウガンダで26頭のチンパンジーを調べた。相手が友だちでないとき、チンパンジーは70%の回で食べ物を取った。
相手が友だちだと、61%だった。友だちに食べ物を取られたとき、取られたチンパンジーは最初は動揺した。3回のテストのうちに、落ち着いていった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
友だちとそうでない相手から、ひもを引いて食べ物を取るかどうかを調べた話なので、正解は B。
Q2. How often did the chimps take the food when the partner was a friend?
「With a friend, it was 61 percent.」とあるので、正解は C。70% は友だちでない相手のとき、26 はチンパンジーの数。
Q3. In the passage, "calmed down" means the chimp ___.
「was upset at first. Over three tests, it calmed down.」と、最初は動揺していたがその後どうなったかを述べているので、正解は A。
Researchers watched a group of chimpanzees at a sanctuary in Uganda for 800 hours. They noted which pairs groomed each other, sat close together and ate side by side. Then they set up a simple test. One chimp ate pineapple from a tray outside its room.
Another chimp, across a corridor, could pull a rope and drag the tray away. During practice, when nobody else was eating, every thief pulled the rope every time. In the real test, they stole in 70 percent of trials when the victim was not a close friend, but in 61 percent when it was. When a friend stole, the victims tended to protest more at first than with other partners, but they grew quieter over three trials.
123 words ・ CEFR B1
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研究者たちは、ウガンダの保護区にいるチンパンジーの群れを800時間観察した。どの2頭が毛づくろいし合い、近くに座り、並んで食べているかを記録した。それから、簡単なテストを用意した。1頭のチンパンジーが、部屋の外にあるトレイからパイナップルを食べる。
通路の向こうにいるもう1頭は、ひもを引いてトレイを引き寄せることができた。ほかに誰も食べていない練習のときには、盗む役は全員が毎回ひもを引いた。本番のテストでは、盗まれる側が親しい友だちでないときは70%の回で盗んだが、友だちのときは61%だった。友だちが盗んだときは、盗まれた側は最初、ほかの相手のときより強く抗議する傾向があったが、3回のうちにだんだん静かになった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
観察で仲良しを決め、仲良しかどうかで盗みが変わるかを調べたテストの話なので、正解は B。
Q2. What did the thieves do during practice?
「During practice, when nobody else was eating, every thief pulled the rope every time.」とあるので、正解は C。
Q3. What can we infer from the passage?
練習では全員が毎回ひもを引くほど食べ物を欲しがっていたのに、友だちが相手だと盗みが70%から61%に減ったので、正解は B。友だちからも61%は盗んでいるので A は誤り。
A rope, a tray and three pieces of pineapple were all it took to test chimpanzee friendship. At Ngamba Island Chimpanzee Sanctuary in Uganda, a team led by Oded Ritov of the University of California, Berkeley first spent 800 hours recording who groomed, touched and fed beside whom. Each of 23 chimps was then paired with its closest friend and, separately, with a group mate of the same sex and similar rank as that friend.
While one chimp ate, the other entered a room across a two-meter corridor, where a rope could pull the food away. Thieves took the tray in 61 percent of trials with friends and 70 percent with others. When a friend stole, the victim's protests, timed in seconds of screaming, barking, whimpering, scratching and banging, tended to be stronger than with a non-friend in the first trial, then dropped off by the third.
With non-friends, the reaction stayed about the same. Thieves screamed more when they robbed a non-friend. The team had not predicted the change across trials, so they want it tested again. That analysis also rested on only 15 victims. In practice rounds with no victim, every thief pulled the rope every single time.
200 words ・ CEFR B2
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ロープとトレイ、パイナップル3切れ。チンパンジーの友情を調べるのに必要だったのは、それだけだった。ウガンダのンガンバ島チンパンジー保護区で、カリフォルニア大学バークレー校のオデッド・リトフさんが率いるチームは、まず800時間をかけて、誰が誰と毛づくろいし、体をふれ合い、並んで食べるかを記録した。次に23頭それぞれを、いちばんの仲良しと組ませ、別の回には、その仲良しと同じ性別で地位も同じくらいの群れの仲間と組ませた。
1頭が食べている間に、もう1頭が幅2mの通路の向こうの部屋に入った。そこには、食べ物を引き寄せられるロープがあった。盗む側がトレイを取ったのは、仲良しが相手だと61%の回、それ以外だと70%だった。
仲良しが盗んだとき、盗まれた側の抗議(叫ぶ、ほえる、泣くような声を出す、体をかく、たたく、といった行動の秒数で測った)は、1回目は仲良しでない相手のときより強めで、3回目までに弱まった。仲良しでない相手のときは、反応はほぼ変わらなかった。盗む側は、仲良しでない相手から奪ったときのほうがよく叫んだ。チームは回を重ねたときのこの変化を予想していなかったため、もう一度確かめたいとしている。また、この分析は盗まれた側15頭だけにもとづいていた。盗まれる側がいない練習の回では、盗む役は全員が、一度も欠かさずロープを引いた。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
仲良しかどうかで、盗む回数と、盗まれた側・盗んだ側の反応が変わった実験の話なので、正解は B。人の友情と同じだとは書かれていないので D は誤り。
Q2. How was each victim's non-friend partner chosen?
「paired with its closest friend and, separately, with a group mate of the same sex and similar rank」とあるので、正解は C。
Q3. Why do the researchers want the change in victims' reactions tested again?
「The team had not predicted the change across trials, so they want it tested again.」とあるので、正解は B。
重要単語
- stealA2動詞盗むThe chimps were less likely to steal from a friend.
steal - stole - stolen と不規則に変化。steal A from B(BからAを盗む)。人を目的語にするなら rob B of A - victimB1名詞被害を受けた側、被害者The victim could only reach one piece of fruit at a time.
fall victim to ~(~の犠牲になる)は入試にもよく出る。反対の立場は thief(泥棒)や attacker - bondB2名詞結びつき、きずなGrooming helps chimps keep a strong bond.
もとは「しばるもの」。a close bond(強いきずな)、bond with ~(~と親しくなる、動詞) - temptationB2名詞誘惑、~したくなる気持ちA sweet piece of pineapple is a strong temptation.
動詞は tempt(誘う)。resist the temptation to ~(~したい気持ちをがまんする)の形でよく使う - self-controlB1名詞自制心、がまんする力Leaving food alone takes self-control.
self-(自分を)+ control(おさえる)。self-esteem(自尊心)、self-confidence(自信)も同じ作り - trialB1名詞(実験の)1回分、試行/裁判Each pair did three trials in one session.
try の名詞形。trial and error(試行錯誤)は定番表現。法律の話では「裁判」の意味になる - groomB2動詞(動物が)毛づくろいするFriends groom each other more often than other pairs do.
人については「身だしなみを整える」。名詞の grooming(毛づくろい)は動物の研究でよく出る
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チンパンジー26頭の実験。通路の向こうで相手が食べているパイナップルを、ひもを引けば横取りできる。盗んだのは、仲良しでない相手だと70%の回、仲良しだと61%。仲良しに食べ物を盗まれても、同じ相手と3回くり返すうちに、騒ぐ反応は弱まっていった。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Ritov et al. (2026) Chimpanzees steal less from their friends and expect them to do the same, Evolution and Human Behaviordoi.org
- Jensen, Call & Tomasello (2007) Chimpanzees are vengeful but not spiteful, PNASdoi.org
- Engelmann & Herrmann (2016) Chimpanzees Trust Their Friends, Current Biologydoi.org
- Samuni et al. (2018) Social bonds facilitate cooperative resource sharing in wild chimpanzees, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












