囲碁の達人は、知能テストの点がアマチュアより低かった。ただし教育歴をそろえると差は「有意」でなくなった

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囲碁の熟達者は、知能テスト(パズル型)でアマチュアより高い点をとった
2回の測定とも熟達者のほうが低かった。ただし教育歴をそろえると、差は統計的に意味のある大きさではなくなった。
- 対象
- 囲碁の熟達者とアマチュア
- 規模
- 2つの研究(同じ参加者を再招待)
- 研究の種類
- 比較研究(研究1Bは事前登録あり)
- 確かさ
- ★★★☆☆
囲碁の熟達者はアマより「ひとりでの真剣な練習」がずっと多いと答え、知能テストの点は低かった。ただし教育歴をそろえて比べると、点の差は統計的に有意ではなくなった。
ひとことで言うと囲碁の達人は、アマよりひとり練習がずっと多かった。知能テストの点は低めだったけど、学校で過ごした時間のちがいで説明できるかもしれないんだって!
囲碁が強い人って、なんとなく「頭がいい人」のイメージがありませんか?
ところが、2026年9月に心理学の専門誌に出た研究で、その思い込みをゆさぶる結果が出ました。囲碁の熟達者とアマチュアに知能テストを受けてもらったら、熟達者のほうが点が低かったのです。効果量で見ると、かなり大きな差でした。
じゃあ、囲碁の強さは何で決まっていたのか。そして、なぜ達人の点が低く出たのか。カギとして浮かんだのは「練習」と「学校」でした。
01チェスではわからなかった「知能の本当の役割」
この研究の背景には、チェス研究の長年の悩みがあります。
チェスでは、強さと知能テストの点には弱めのプラスの関係があることがわかっています。チェスの研究をまとめた分析(メタ分析)では、関係は子どもやレーティングを持たない選手では比較的はっきり出るのに、大人やレーティングを持つ選手では小さくなっていました。
ここで出てくるのが「範囲の制限」という考え方です。チェスを本格的にやる人は、もともと知能テストの点が平均より高い人が多い。全員の点が高いところに集まっていると、点のちがいと強さの関係が見えにくくなる。つまり、知能の影響が実際より小さく見積もられているだけかもしれない、という疑いです。
02達人の点が低かったのはなぜ?
ここが一番の「マジか!?」ポイントです。研究チームは、達人が生まれつき推論が苦手だったとは考えていません。
カギは時間の使い方です。人の1日は24時間しかありません。成長期に囲碁の勉強に長い時間を注げば、そのぶん学校の勉強にあてる時間は減りやすい。そして別のメタ分析では、教育を1年長く受けると、知能テストの点が約1〜5ポイント上がることが示されています。
つまり、「学校に使う時間」と「囲碁に使う時間」のトレードオフが、知能テストの点と囲碁の強さの両方を形づくっているのではないか。研究チームはそう読み解いています(要旨では「示唆」という書き方です)。

03どんでん返し:「練習だけ」でもない
じゃあ「才能なんて関係ない、練習がすべて」なのかというと、そう単純でもありません。
チェスの子ども選手57人を調べた研究では、全体としては練習量がいちばん強く効いていましたが、知能も少し上乗せで効いていました。おもしろいのは、トップ層の子ども23人だけにしぼると知能の効果は消え、むしろマイナス方向の傾向さえ出たこと。トップ層では、知能が高い子ほど練習量が少なかったからです。今回の囲碁研究とよく似た構図ですね。
さらに、チェス選手をキャリアを通して追いかけた研究では、同じ量を練習しても、知能が高い人ほど早く上達し、ピークも高かったという結果も出ています。知能と練習は「どちらか」ではなく、からみ合って効いているようです。
04まとめ
囲碁の達人は、知能テストの点ではアマチュアを下回っていた。でもそれは「頭が悪い」からではなく、成長期に囲碁へ時間を注いだ結果だったのかもしれません。
「1万時間の法則」の話はこちらの記事、知能と遺伝の関係はこちらで深掘りしています。あなたが今いちばん時間を注いでいるものは、何ですか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerGo players are often seen as brilliant thinkers, so a new study came with a surprise.
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原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Go is an old board game, and it is very hard to master. Scientists in the United States compared expert Go players with amateurs. The experts did much more serious practice alone.
But on a puzzle test of reasoning, the experts got lower scores! The scientists think time is the answer. Hours spent on Go may be hours not spent at school. When they compared players with similar schooling, the gap in scores was not clear anymore.
77 words ・ CEFR A2
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囲碁は古いボードゲームで、極めるのがとても難しいゲームです。アメリカの科学者たちは、囲碁の熟達者とアマチュアを比べました。熟達者はひとりでの真剣な練習をずっと多くしていました。
しかし、推論のパズルテストでは、熟達者のほうが点が低かったのです!科学者たちは、時間がその答えだと考えています。囲碁に使った時間は、学校で過ごさなかった時間なのかもしれません。同じくらいの教育歴の人どうしで比べると、点の差ははっきりしなくなりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第2文で「囲碁の熟達者とアマチュアを比べた」とあり、その結果が全体の中心なので B。
Q2. What did the experts do more than the amateurs?
The experts did much more serious practice alone. とあるので C。
Q3. In this passage, "the gap in scores was not clear anymore" means the difference ...
not ... anymore は「もう~ない」。教育歴が同じくらいの人どうしで比べると、点の差がはっきりしなくなった(確かな差とは言えなくなった)という意味なので B。
Go players are often seen as brilliant thinkers, so a new study came with a surprise. A team led by Daniel Southwick at the University of Pennsylvania compared expert Go players with amateurs. The experts said they spent far more time on serious practice alone.
But on a reasoning test made of shape puzzles, they scored clearly lower than the amateurs. The team invited the same people back and tested them again with an improved version of the test, and the result was the same.
So are Go experts weaker thinkers? The researchers do not think so. When they took the players' education into account, the difference was no longer significant. Time spent studying Go may simply be time taken away from school.
123 words ・ CEFR B1
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囲碁のプレーヤーは優れた思考の持ち主だと見られがちなので、新しい研究は驚きをもたらしました。ペンシルベニア大学のダニエル・サウスウィック氏が率いるチームは、囲碁の熟達者とアマチュアを比べました。熟達者は、ひとりでの真剣な練習にはるかに多くの時間を費やしたと答えました。
しかし、図形パズルでできた推論テストでは、アマチュアよりはっきりと低い点でした。チームは同じ人たちを再び招き、改良版のテストでもう一度測りましたが、結果は同じでした。
では、囲碁の熟達者は考える力が弱いのでしょうか。研究者たちはそうは考えていません。プレーヤーの教育歴を考慮に入れると、差はもはや統計的に意味のあるものではなくなりました。囲碁の勉強に使った時間は、単に学校から奪われた時間なのかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. Why was the result of the study surprising?
囲碁の打ち手は頭が良いと見られがちなのに、they scored clearly lower than the amateurs とあるので B。
Q2. What did the team do in the second part of the study?
invited the same people back and tested them again with an improved version of the test とあるので C。
Q3. What do the researchers believe about the lower scores?
教育歴を考慮すると差が消え、最後に Time spent studying Go may simply be time taken away from school. とあるので A。
In chess, stronger players tend to score a little higher on intelligence tests, but the link is weaker among adults and ranked players. One explanation is range restriction. If nearly everyone who plays chess seriously is already above average, real differences in intelligence get squeezed into a narrow band, and the link looks smaller than it is. Daniel Southwick and his colleagues turned to Go, a game considered even more complex than chess, where players do not seem to be filtered by intelligence in the same way.
Their findings, published in 2026, went in the opposite direction. Expert players reported much more serious solo practice than amateurs, yet they scored far lower on a test of fluid intelligence, which measures how well people solve unfamiliar problems. A second round, with the same participants and a revised test, produced almost the same gap. The team had registered that prediction in advance.
Then came the turn. Once education was controlled for, the gap stopped being significant. The authors see a developmental trade-off at work. Years poured into Go may be years not spent in classrooms, and schooling is known to raise test scores by about one to five points per extra year.
200 words ・ CEFR B2
和訳を見る
チェスでは、強いプレーヤーほど知能テストの点がやや高い傾向があるが、その関係は大人やレーティングを持つ選手では弱くなる。その説明のひとつが「範囲の制限」だ。チェスを本格的に打つ人がほぼ全員すでに平均以上なら、知能の本当の差はせまい範囲に押し込められ、関係は実際より小さく見える。ダニエル・サウスウィック氏らは、チェスよりさらに複雑とされ、プレーヤーが同じように知能でふるい分けられていないように見える囲碁に目を向けた。
2026年に発表された彼らの結果は、逆方向を示した。熟達者はアマチュアよりもはるかに多くの真剣なひとり練習をしていると答えたが、なじみのない問題をどれだけうまく解けるかを測る流動性知能のテストでは、ずっと低い点だった。同じ参加者と改訂版のテストによる2回目でも、ほぼ同じ差が出た。チームはその予測を事前に登録していた。
そこで展開が変わる。教育歴を統制すると、差は統計的に意味のあるものではなくなった。著者たちは、発達上のトレードオフが働いていると見ている。囲碁に注ぎ込んだ年月は教室で過ごさなかった年月かもしれず、学校教育は1年延びるごとにテストの点を約1〜5点上げることが知られている。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
熟達者の点が低かったが、教育歴を統制すると差が消え、著者は発達上のトレードオフと見ていると述べているので B。A は本文の解釈と逆。
Q2. According to the passage, what is range restriction?
ほぼ全員が平均以上だと差がせまい範囲に押し込められ、関係が実際より小さく見える、と説明しているので C。
Q3. Why does the author mention that schooling raises test scores?
最後の文で、囲碁に注いだ年月は教室で過ごさなかった年月であり、教育はテストの点を上げると述べ、トレードオフの説明を支えているので A。
重要単語
- expertiseB2名詞熟達、専門的な技能Expertise in Go takes many years to build.
expert(専門家)の名詞形。アクセントは -tise /ˈtiːz/。develop expertise in ~ の形で長文に頻出。 - fluid intelligenceC1名詞(句)流動性知能(初めての問題を解く力)Puzzles with shapes are often used to measure fluid intelligence.
fluid は「流れる、柔軟な」。知識の量を表す crystallized intelligence(結晶性知能)と対で覚える。 - amateurB1名詞アマチュア、愛好家The amateurs played Go for fun on weekends.
ラテン語 amare(愛する)が語源で「好きでやる人」。対義語は professional / expert。 - range restrictionC1名詞(句)範囲の制限(データの幅がせまいこと)Range restriction can hide a real relationship.
統計の用語。restrict(制限する)の名詞形 restriction。心理学・教育の長文で登場する。 - trade-offB2名詞一方を取ると他方を失う関係There is a trade-off between school and training time.
a trade-off between A and B の形で使う。入試の内容一致で「代償」「引きかえ」と言い換えられる。 - account forB2熟語(原因などを)説明する、(割合を)占めるSchooling may account for the difference in scores.
take ~ into account(~を考慮に入れる)とセットで覚える。意味が2つあるので文脈で判断する。 - significantB2形容詞(統計的に)意味のある、重要なThe difference was no longer significant.
研究の文章では「偶然とは言いにくい」という統計用語。名詞は significance。
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囲碁の達人とアマチュアを比べたら、達人のほうが知能テストの点が低かったらしい。一方で達人は「ひとりで真剣に練習した量」がずっと多かった。しかも点の差は、教育歴をそろえて比べると統計的に有意ではなくなったという話。
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- Southwick, Baldwin, Harwell, Agler & Yoon (2026) What predicts expertise in Baduk? Intelligence, practice, and a natural test of the range restriction hypothesis, Journal of Experimental Psychology: Generaldoi.org
- Burgoyne et al. (2016) The relationship between cognitive ability and chess skill: A comprehensive meta-analysis, Intelligencedoi.org
- Bilalić, McLeod & Gobet (2007) Does chess need intelligence? A study with young chess players, Intelligencedoi.org
- Vaci et al. (2019) The joint influence of intelligence and practice on skill development throughout the life span, PNASdoi.org
- Ritchie & Tucker-Drob (2018) How Much Does Education Improve Intelligence? A Meta-Analysis, Psychological Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









