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タコとイカのDNAは大昔に並びが入れかわった 1か所消すと卵の中で脳が小さく育つイカも

タコとイカのDNAは大昔に並びが入れかわった 1か所消すと卵の中で脳が小さく育つイカも

読む前に予想してみよう!

タコやイカのDNAは、貝の仲間と比べても遺伝子の並び順がほとんど変わっていない

研究カード(どんな研究?)
対象
ハワイミミイカ・ヨーロッパコウイカ・カリフォルニアツースポットタコの胚と組織、近い仲間のイカの胚(DNAを消す処置をした25個と、何もしない20個)
規模
折りたたみの比較は3種、DNAを消す実験は別の1種(並び順の比較はタコ・イカの仲間14種)
研究の種類
DNAの折りたたみ方の比較と、DNAの一部を消す実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

タコとイカの祖先でDNAの並びが大きく入れかわり、遺伝子の新しいつながりができた。3種で調べ、イカの卵でスイッチ役らしい部分を消すと脳が小さく育つものも。

ひとことで言うとタコやイカのDNAの並びは大昔に大きく入れかわり、新しいつながりが脳づくりに関わるらしい!

もくじ
  1. 折りたたまれたDNAでは、遠い部分どうしが近づく
  2. 祖先の代に、並び順がまぜられた
  3. DNAのどこどうしが触れ合っているかを調べた
  4. 3種に共通のDNAの輪は3つだけ。中の遺伝子は神経で働く
  5. 1か所消すと、1450万文字先の遺伝子が弱まった
  6. どんでん返し:「賢さの原因」はまだ分からない
  7. まとめ

タコやイカは、アサリやホタテと同じ軟体動物の仲間です。それなのに、背骨のない動物の中でいちばん大きな神経系を持ち、カメラのような作りの目、物をつかめる腕、体の色を自在に変える仕組みまで備えています。同じ仲間の貝と、どこでこんなに差がついたのでしょうか。

その手がかりになりそうなのが、DNAの並び順です。タコ・イカ・コウイカの共通の祖先で、DNAの上の遺伝子の並びが大きく入れかわっていたのです。2026年10月、オーストリアのウィーン大学などのチームが、3種のDNAが細胞の中でどう折りたたまれているかを比べました。結果は学術誌『Nature Communications』に発表されています。チームはイカの卵で、DNAのスイッチ役らしい部分を約1000文字消しました。折りたたみでできたつながりの中にある部分です。すると、25個のうち5個で脳がはっきり小さく育ちました。

並びが入れかわったこと自体は、前から知られていました。分かっていなかったのは、その入れかわりが「遺伝子の働き方」をどう変えたのかです。チームは、折りたたまれたDNAで遠い部分どうしがくっつく様子を調べました。さらに1か所を実際に消して確かめました。

01折りたたまれたDNAでは、遠い部分どうしが近づく

DNAは、A・T・G・Cの4種類の「文字」が並んだ長いひもです。人のDNAは、1組で約30億5500万文字。この研究によると、イカやコウイカには50億文字を超える種があり、タコには約25億文字の種があります。

この長いひもは、細胞の中の小さな核に、折りたたまれて入っています。そのため、ひもの上では遠く離れた部分どうしが、核の中ではくっつくことがあります。折りたたみ方はでたらめではありません。どこがどこと近づくかが、ある程度決まっています。

DNAには、遺伝子のほかに、遺伝子の働きを強めたり弱めたりするスイッチ役の部分があります。スイッチ役の部分は、ひもが輪(ループ)を作って遺伝子のそばに来ることで、遠くの遺伝子にも働きかけられると考えられています。

02祖先の代に、並び順がまぜられた

2015年にタコのDNAの全体が読まれたとき、並び順が大きく入れかわった跡が見つかりました。2022年には、同じウィーン大学のチームが、入れかわりによって新しく隣どうしになった遺伝子のまとまりが数百できたと報告しています。その一部は、神経でよく働く遺伝子のまとまりでした。

入れかわり方は2通りあります。1本の染色体(DNAのひもをまとめた束)の中でまざるものと、別々の染色体の間でまざるものです。タコの仲間では、その後も染色体どうしの合体がたくさん起きました。今回の比較では、タコのDNAを1000万文字ずつの区間に分け、それぞれがハワイミミイカのDNAのどこにあたるかを調べました。すると、タコの1つの区間が、イカでは平均して別々の2か所に分かれていました。タコの仲間で、別々だった部分がくっついて混ざったためと考えられています。

03DNAのどこどうしが触れ合っているかを調べた

043種に共通のDNAの輪は3つだけ。中の遺伝子は神経で働く

全身の胚で見つかった輪の数は、ハワイミミイカ329、ヨーロッパコウイカ912、タコ663(輪を探す細かさを変えると、この数も変わります)。ところが、3種すべてに共通する輪は3つだけでした。ハワイミミイカとコウイカの2種だけに共通するものは27でした。輪は種ごとにどんどん作りかえられているようです。

一方で、もっと大きな単位の「まとまり」は、3種でよく似ていました。大きな骨組みは守られ、細かい輪は入れかわりやすい。DNAの立体の形には、変わりにくい部分と変わりやすい部分の段階がある、と論文はまとめています。

3種に共通の3つの輪にある遺伝子を、ハワイミミイカの体で調べました。すると、神経の組織と白体でよく働いていました。白体は頭足類だけが持つ器官で、血液や体を守る細胞を作ります。

タコには、もう1つ別の特徴がありました。DNAの全体は3種でいちばん短いのに、輪の長さ(真ん中の値)は約290万文字で、コウイカ(約130万文字)の2倍以上。タコの輪の半分以上は、イカやコウイカでは別々の染色体にある遺伝子どうしを結んでいました。染色体の合体で遠くから来た遺伝子をつなぐため、輪が長くなったのではないか、とチームは考えています。

DNAの並びの入れかわりと、輪で遠い部分がくっつくイメージ(イメージ。論文の図ではありません)
DNAの並びの入れかわりと、輪で遠い部分がくっつくイメージ(イメージ。論文の図ではありません)

051か所消すと、1450万文字先の遺伝子が弱まった

チームは、タコとイカの両方に残っている輪の1つに注目しました。この輪には、脳でよく働く遺伝子が集まっています。ホタテの仲間などでは、同じ遺伝子がバラバラの場所にあります。祖先の代の入れかわりのあとにできた並びと考えられます。

この輪の中の遺伝子には、たんぱく質を作る情報を持たない部分(イントロン)があります。そこに、種をこえて似た文字の並びが残っていました。チームは卵にゲノム編集の材料を注射し、スイッチ役かもしれないこの部分を約1000文字消しました。

調べたのは、ふ化の少し前の段階の胚です。DNAを消す処置をした胚25個は、どれも育ちが遅れていました。5個は見た目で脳がはっきり小さいと分けられ、とくに目からの情報を処理する部分が小さくなっていました。5個は体のあちこちが大きく崩れ、6個は全体が小さく腕が短め。9個には、育ちの遅れのほかに目立った異常は見られませんでした。

遺伝子の働きも調べました。輪の中の遺伝子には、はっきりした変化はありませんでした。はっきり弱まったのは、1450万文字も離れた遺伝子と、290万〜410万文字離れた遺伝子たちです。後者の多くは、ほかの動物には似たものが見当たらない、タコやイカの仲間だけの遺伝子とみられます。

06どんでん返し:「賢さの原因」はまだ分からない

  • 調べたのはDNAの形と遺伝子の働き。知能や行動は測っていない。「並びの入れかわりでできたつながりが、複雑な体や神経の進化を支えたのでは」は、チームの提案の段階
  • 消す実験は1種で、1か所だけ。論文に書かれた比べる相手は何も処置をしていない胚で、注射だけをした胚との比較は書かれていない。処置をした胚はすべて育ちが遅れ、25個中9個には育ちの遅れのほかに目立った異常がなかった。脳の大きさは見た目での分類で、論文の本文に測った数値は載っていない
  • 輪の中の遺伝子の働きは、はっきりとは変わらなかった。遠くの遺伝子がなぜ弱まったかは、DNAの形からの推測
  • DNAの立体の形を比べたのは3種だけ

07まとめ

DNAが折りたたまれ、輪で遠い部分どうしをつなぐ仕組みは、人の細胞にもあります。タコやイカでは、祖先の代に遺伝子の並びが大きく入れかわり、新しい輪の結び方が生まれた。その輪の中のスイッチ役らしい部分を壊すと、イカの胚の一部で脳の育ちが乱れた。今回分かったのはここまでです。

次の一歩として考えられるのは、ほかの輪のスイッチ役も壊してみること、タコでも同じことが起きるかを確かめることです。並びの入れかわりと賢い脳がどうつながるのかは、その先の謎です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOctopuses, squid and cuttlefish belong to the same group of animals as snails and clams. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Octopuses, squid and cuttlefish belong to the same group of animals as snails and clams. Even so, they have the largest nervous systems of any animals without a backbone. One clue may be hidden in their DNA. In their shared ancestor, the order of the genes was heavily rearranged. A team at the University of Vienna and other institutes compared how DNA is folded inside the cells of three species.

The folded DNA forms loops that bring distant parts together, but only three loops were found in all three species. Genes in those three loops were very active in nerve tissue. When the team removed about 1,000 letters of DNA inside one loop in squid eggs, five of 25 embryos grew clearly smaller brains.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

タコ、イカ、コウイカは、カタツムリや二枚貝と同じ動物のグループに入る。それでも、背骨のない動物の中でいちばん大きな神経系を持っている。その手がかりは、DNAの中に隠れているかもしれない。共通の祖先で、遺伝子の並び順が大きく入れかわったのだ。ウィーン大学などのチームは、3種の細胞の中でDNAがどう折りたたまれているかを比べた。折りたたまれたDNAは、遠い部分どうしを寄せる輪を作る。

しかし、3種すべてで見つかった輪は3つだけだった。その3つの輪にある遺伝子は、神経の組織でよく働いていた。チームがイカの卵で、ある輪の中のDNAを約1000文字取り除くと、25個の胚のうち5個で脳がはっきり小さく育った。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How many loops were found in all three species?

Q3. What can we infer about the three shared loops?

重要単語

  • genomeB2
    名詞ゲノム(その生き物が持つDNAの情報の全部)Some squid have a longer genome than humans do. gene(遺伝子)+-ome(全体)。genome editing で「ゲノム編集」
  • chromosomeB2
    名詞染色体(DNAのひもをまとめた束)Two chromosomes can fuse into one over a long time. chromo-(色)+-some(体)。染色すると色がつくことから。発音は「クロウモソウム」
  • rearrangeB2
    動詞並べかえる、並び順を変えるThe order of the genes was rearranged long ago. re-(もう一度)+arrange(並べる)。名詞 rearrangement は、この論文で祖先の染色体の大きな並べかえを指す語
  • ancestorB1
    名詞祖先Octopuses and squid share a common ancestor. common ancestor(共通の祖先)は進化の話の定番。反対は descendant(子孫)
  • embryoB2
    名詞胚(卵の中などで育っている途中の赤ちゃん)Five of the embryos grew smaller brains. 発音は「エンブリオウ」。複数形は embryos
  • deleteB1
    動詞消す、取り除くThe team deleted a short piece of DNA. パソコンの Delete キーと同じ語。名詞は deletion(欠失、削除)
  • nervous systemB1
    名詞神経系(脳と神経のまとまり)Octopuses have a large nervous system for an animal without a backbone. nervous は「緊張した」の意味もあるが、ここでは「神経の」。nerve(神経)の形容詞

動画でもっと知る

タコ・イカ・コウイカの祖先で、DNAの遺伝子の並びが大きく入れかわった。折りたたまれたDNAで遠い部分どうしがくっつく様子を3種で比べ、イカの卵でスイッチ役らしい部分を消すと25個中5個で脳がはっきり小さく育った。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Rogers, Stock, Schulz ... Albertin & Simakov (2026) Genome reorganisation and expansion shape 3D genome architecture and define a distinct regulatory landscape in coleoid cephalopods, Nature Communicationsdoi.org
  2. Schmidbaur, Kawaguchi ... Albertin & Simakov (2022) Emergence of novel cephalopod gene regulation and expression through large-scale genome reorganization, Nature Communicationsdoi.org
  3. Albertin, Simakov ... Ragsdale & Rokhsar (2015) The octopus genome and the evolution of cephalopod neural and morphological novelties, Naturedoi.org
  4. Nurk, Koren, Rhie ... Miga & Phillippy (2022) The complete sequence of a human genome, Sciencedoi.org
  5. Rao, Huntley, Durand ... Lander & Aiden (2014) A 3D map of the human genome at kilobase resolution reveals principles of chromatin looping, Celldoi.org