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ミツバチの針は体からちぎれても、中の2つの「ピストン」で毒を送り続ける

ミツバチの針は体からちぎれても、中の2つの「ピストン」で毒を送り続ける

読む前に予想してみよう!

ミツバチの毒は、注射針のように針の先の穴から出る

研究カード(どんな研究?)
対象
セイヨウミツバチの働きバチから切り離した針
規模
本数は要旨に記載なし
研究の種類
実験研究(高速度撮影・マイクロCT・拡大模型)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

ミツバチの針は、体からちぎれた後も自分で皮膚に潜り、毒を送る。中では2本の槍についた小さなピストンが交互に動き、毒を途切れず押し出していた。

ひとことで言うとミツバチの針の中では、2つのピストンが交互に動いて毒を送っていた!

もくじ
  1. ちぎれた針は、ひとりで皮膚に潜っていく
  2. 毒を「しぼる」動物と、ピストンで「押す」ミツバチ
  3. 高速度カメラで、ちぎれた針を撮った
  4. ピストンは、押すときに膨らみ、戻るときにつぶれる
  5. 「弁」と呼ばれてきた部品は、実はピストンだった
  6. 刺されたら、針は「すぐ」取る
  7. まとめ

ミツバチに刺されると、皮膚に針だけが残ることがあります。ハチはもういないのに、残った針はひとりでに皮膚の奥へ潜り、毒を送りこみ続けます。ハチの体から切れた針の中で、いったい何が毒を押し出しているのでしょうか。

答えは「ピストン」でした。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)キャンベラ校とマッコーリー大学のチームが、ちぎれた針が動くところを、高速度カメラで撮影しました。さらにCTで、針の中を立体的に調べました。針の根もとの小さな部屋の中で、2本の槍(やり)についた小さなピストンが、交互に動いて毒を押し出していたのです。2026年10月12日、学術誌『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』に発表されました。

刺して毒を入れる動物の多くは、毒をためた袋のまわりの筋肉を縮めて、毒をしぼり出します。ミツバチは、それとは根本から違うやり方をとっていました。ミツバチの針の形は、100年以上前から調べられてきました。けれども、針が動いているところを観察するのが難しく、どうやって毒を送っているのかは分かっていませんでした。

01ちぎれた針は、ひとりで皮膚に潜っていく

働きバチの針は、もとは卵を産むための管が形を変えたものです。長さは約2.5mm。そのうち皮膚に入りうるのは、先の約1.3mmまでです(10本を測った平均)。人の皮膚なら、いちばん外側の表皮を突き抜け、その下の真皮(皮膚の本体にあたる層)まで届く長さです。

針の先は、2本の細い槍と、それを支える1本の軸でできています。槍にはそれぞれ、抜けにくくするための後ろ向きのとげ(返し)が約10個並んでいます。2本の槍が交互に前へ出たり引っこんだりすると、引くほうの槍は返しが皮膚に引っかかって止まります。そのあいだに、もう片方の槍が少し先へ進みます。これをくり返して、針は少しずつ奥へ潜っていくと考えられています。

針は、ハチの体からちぎれるとき、槍を動かす筋肉や神経のかたまり、毒をためる袋まで、刺し続けるのに必要な部品をまるごと持っていきます。刺したハチがその後どうなるのかは、「ミツバチは一度刺すと死ぬ」の記事で紹介しています。

02毒を「しぼる」動物と、ピストンで「押す」ミツバチ

ほかの動物はどうでしょう。ガラガラヘビでは、毒を作ってためる器官(毒腺)のまわりの筋肉を刺激すると、毒が流れ出て、圧力も上がることが確かめられています(2000年の研究)。毒をためた器官を、外からしぼるやり方です。

ハチのなかでも、スズメバチの仲間などは毒袋の筋肉を縮めて毒を送りこむタイプ。ミツバチは、針の中の「弁」と呼ばれる部品で送るタイプ。これまでの研究では、ハチの仲間をこう分けてきました。ところが、その「弁」がどう動いて毒を送るのかは、はっきりしていませんでした。同じチームは2023年の論文で、2つの弁が逆向きに往復する様子を撮影していました。けれども、それでどうやって毒が一方向へ流れるのかはまだ分からない、と書いています。

03高速度カメラで、ちぎれた針を撮った

では、毒は針のどこから出てくるのでしょう。注射針とは違い、ミツバチの針の先には毒の出口がありません。同じチームの2023年の論文の撮影では、毒は2本の槍の合わせ目からしみ出していました。

04ピストンは、押すときに膨らみ、戻るときにつぶれる

針の根もとには、長さ約0.8mmのふくらみがあります。中は毒の袋とつながった小さな部屋で、2本の槍はこの部屋の中を通っています。それぞれの槍には「弁」が1つずつついています。弁は、大きさ約0.2mmの小さなカップ形の部分と、2枚のうすい半円形の膜でできています(2023年の論文)。

撮影と立体の再現から分かった動きは、次のとおりです。

  • 片方の向きに動くとき(論文では「ダウンストローク」)、弁は膨らんですき間をふさぎ、毒を押して圧力を生む
  • 反対向きに戻るとき(「アップストローク」)は、弁がしぼんでつぶれる。部屋に毒を補充しているあいだの逆流を、おそらくこれで小さくしている
  • 2本の槍は逆向きに動く。片方が押しているあいだ、もう片方は戻っている。2つの弁は、部屋の途中ですれ違う
  • 部屋は「逆さにした涙のしずく」の形で、押している最中でも、袋から新しい毒が入ってくる

だから毒は途切れずに流れます。押すときはふさがり、戻るときはつぶれる。そんなピストンが2つ、交互に働いていたのです。

針の根もとの部屋の中で、2つのピストンが交互に動くイメージ(イメージ。論文の図ではありません)
針の根もとの部屋の中で、2つのピストンが交互に動くイメージ(イメージ。論文の図ではありません)

ピストンを2つにすると、作りは複雑になります。それでも、小さくまとまったまま、ハチの体から離れても途切れずに毒を送り続けられる。論文はそう説明しています。弁は槍についているので、槍が往復すると、針を刺し進める動きと毒を送る動きが同時に起きます。2023年の論文によると、この2つの動きは切り離せません。どちらも、針の根もとの板についた同じ筋肉の力で動いています。

05「弁」と呼ばれてきた部品は、実はピストンだった

「弁」は本来、流れの向きを決めるだけの部品です。ところがミツバチの「弁」は、自分で毒を押して流れを作っていました。2023年の論文で著者らは、弁と呼ばれてきたこの部品は「つぶれるピストン」として働いているらしい、と書いています。今回はその動きを撮影と模型で確かめたことになります。

ただし、分かっていないこともあります。

  • 弁がつぶれることで逆流を抑えている、というのは要旨でも「おそらく」という書き方
  • 撮影は本物の皮膚ではなく、人工のゲルなどを使った実験。本物の皮膚の中で毒がどう流れるかは、これとまったく同じとは限らない
  • 1回の往復で送る毒の量や速さは、要旨には書かれていない
  • 弁がなぜそういう形に変わるのかは、研究チームが仕組みを提案した段階

06刺されたら、針は「すぐ」取る

ちぎれた針は、刺さったままだと毒を送り続けます。1996年、米国カリフォルニア大学リバーサイド校のヴィッシャーさんらが実験をしました。ミツバチの針が刺さってから取り除くまでの時間を変えて、腫れの大きさを比べたのです。腫れは、取るのが遅いほど大きくなり、数秒の違いでも差が出ました。2秒で取った場合、つまんで取ってもこそげ落としても、腫れは変わりませんでした。

米国疾病対策センター(CDC)の案内では、爪やガーゼでこそげ落とし、針をつまんだりピンセットを使ったりしないよう勧めています。1996年の実験とCDCの案内のどちらにも合うのは、取り方で迷わず、爪でさっとこそげ落とすやり方です。CDC は、刺された所を石けんと水で洗うこと、氷で冷やして腫れをおさえること、かかないことも勧めています。

研究チームは、この仕組みがとても小さなポンプ(マイクロポンプ)を設計するヒントになると考えています。2023年の大学の発表では、薬をねらった場所に届ける技術にも役立つかもしれない、という研究者の見通しが紹介されていました。

07まとめ

ミツバチの針は、ただの「とがった管」ではありませんでした。2本の槍が交互に動くと、針は皮膚に少しずつ潜り、根もとの部屋では2つのピストンが毒を押し出す。ハチの体から離れても、その小さなポンプは止まりません。

刺されたときに腫れを小さくするには、針をすぐ取ること。小さなピストンの往復を、1回でも少なくできます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA honey bee stinger can tear away from the bee and stay in the skin. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A honey bee stinger can tear away from the bee and stay in the skin. Even then, it keeps digging deeper and pumping venom. Many stinging animals push venom out by squeezing a bag of venom with their muscles, but the honey bee works in a different way. A team from two Australian universities filmed stingers that came off the bee with high-speed cameras and scanned them in 3D.

Inside a small chamber at the base of the stinger, two pistons slide back and forth in turns. Each piston swells and seals the chamber when it pushes, then folds up when it moves back. While one pushes, the other moves back, so the venom does not stop. The study came out in PNAS in October 2026.

126 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ミツバチの針は、ハチの体からちぎれて皮膚に残ることがある。それでも針は深く潜り続け、毒を送り続ける。刺す動物の多くは、毒の袋を筋肉でしぼって毒を押し出すが、ミツバチは違うやり方をとる。オーストラリアの2つの大学のチームが、ハチから外れた針を高速度カメラで撮影し、3Dでスキャンした。

針の根もとの小さな部屋の中で、2つのピストンが交互に往復している。それぞれのピストンは、押すときは膨らんで部屋をふさぎ、戻るときはたたまれる。片方が押すあいだにもう片方は戻るので、毒は止まらない。研究は2026年10月に『PNAS』に発表された。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. How did the team study the stingers?

Q3. Why does the venom not stop flowing?

重要単語

  • stingerB1
    名詞(ハチなどの)針The bee left its stinger in my arm. sting(刺す)+-er。sting だけでも「針」の意味で使える。be stung by a bee で「ハチに刺される」
  • venomB2
    名詞(ヘビ・ハチなどが刺したりかんだりして入れる)毒The stinger keeps pumping venom into the skin. poison は食べたり触れたりして害になる毒。venom は牙や針で注入される毒。形容詞は venomous
  • pistonB2
    名詞ピストン(筒の中を往復して液体や気体を押す部品)A bicycle pump has a piston inside. エンジンや注射器にも使われる。piston pump で「ピストン式ポンプ」
  • valveB2
    名詞弁(流れの向きや量を調節する部品)The heart has valves that stop blood from flowing backward. 心臓の弁も valve。発音は「ヴァルヴ」で、l もしっかり読む
  • in turnsB1
    熟語交互に、順番にThe two pistons move in turns. take turns ~ing で「交代で~する」。It's your turn.(あなたの番だよ)の turn と同じ
  • chamberB2
    名詞(体や機械の中の)小さな部屋、室Venom fills a tiny chamber at the base of the stinger. 心臓の「心室・心房」も chamber。もとは「部屋」の意味
  • collapseB2
    動詞つぶれる、崩れるThe flap collapses when it moves back. 建物が崩れる、人が倒れる、にも使う。collapsible は「たためる、つぶれる」
ミツバチに刺されると、ちぎれた針が皮膚に残ることがある。その針はひとりで奥へ潜りながら毒を送る。その中身は、2本の槍についたピストンが交互に動くポンプだった。高速度カメラとCTで、100年以上分からなかった動きを確かめた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Ramirez-Esquivel, Klose, Lee, Graco, Narendra & Ravi (2026) The honey bee stinger: An unusual pump with collapsible double pistons, PNASdoi.org
  2. Ramirez-Esquivel & Ravi (2023) Functional anatomy of the worker honeybee stinger (Apis mellifera), iSciencedoi.org
  3. Young, Zahn, Blair & Lalor (2000) Functional subdivision of the venom gland musculature and the regulation of venom expulsion in rattlesnakes, Journal of Morphologypubmed.ncbi.nlm.nih.gov
  4. Visscher, Vetter & Camazine (1996) Removing bee stings, The Lancetdoi.org