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人の脳は年をとると軽くなるのに、チンパンジーやゴリラの脳は目立って軽くならなかった

人の脳は年をとると軽くなるのに、チンパンジーやゴリラの脳は目立って軽くならなかった

読む前に予想してみよう!

チンパンジーやゴリラの脳も、人と同じように年をとると軽くなっていく

研究カード(どんな研究?)
対象
類人猿4種類(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン)。記録の出どころはアメリカの動物園や研究センターなど(論文の謝辞による)
規模
601頭分の脳(Nature の紹介記事による)
研究の種類
観察研究(死んだあとに量った脳の重さの記録を、大人から高齢までの年齢と比べた)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

人の脳は病気がなくても年とともに軽くなる。ところがチンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータンの脳は、大人から高齢まで重さがはっきり減っていなかった。

ひとことで言うとチンパンジーやゴリラの脳は、年をとってもあまり軽くならないらしい!

もくじ
  1. 人の脳は、病気がなくても縮んでいく
  2. 4種類の類人猿で、脳の重さを年齢ごとに比べた
  3. 大人から高齢まで、脳の重さははっきり減らなかった
  4. 実はチンパンジーの脳については、前から結果が割れていた
  5. 人の脳が縮みやすいのは、長生きのせい?
  6. まとめ

人の脳は、年をとると少しずつ軽くなります。病気がなくても、です。

1978年にアメリカで発表された研究は、病院の解剖(亡くなったあとに体を調べること)の記録から、病気の跡が見られない脳4,736個の重さを集めました。脳の重さは45〜50歳ごろから下がり始め、86歳を過ぎると、いちばん重い19歳ごろより平均で約11%軽くなっていました。

では、人にいちばん近い動物たちはどうでしょう。2026年10月5日、アメリカのジョージ・ワシントン大学などの研究チームが結果を発表しました。チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの脳の重さを、年齢ごとに比べたものです。4種類とも、大人になってから高齢になるまで、脳の重さがはっきり減る傾向は見られませんでした。ただし、死んだあとに量った重さの記録を集めた研究です。同じ1頭を何十年も追いかけたわけではありません。

01人の脳は、病気がなくても縮んでいく

年をとった人の脳が小さくなることは、MRI(体の中を輪切りのように写す装置)でも確かめられています。2010年にノルウェーの研究者がまとめた論文によると、認知症のない健康な人でも、年とともに脳は縮み、脳の中のすき間(脳室)は広がっていきます。同じ人を追いかけると、脳の多くの場所で、厚みや大きさが1年に0.5〜1%ほど減っていました。

縮む理由は、脳の神経細胞が大量に死ぬからではないようです。神経細胞そのものが小さくなることや、細胞どうしのつなぎ目(シナプス)が減ること、神経の線維(神経細胞からのびる細い線)が短くなることが、おもな理由だと考えられています。

今回の論文の要旨(論文の最初に載っている短いまとめ)によると、脳が軽くなる変化は、アルツハイマー病などの認知症ではさらに強くなります。では、この「年とともに脳が軽くなる」性質は、人だけのものなのでしょうか。それとも、人に近い動物にも共通する、ふつうの老化なのでしょうか。

024種類の類人猿で、脳の重さを年齢ごとに比べた

1頭の脳を一生のあいだに何度も量ることはできません。そこで、若くして死んだ個体の脳と、年をとってから死んだ個体の脳を、たくさん並べて比べました。年をとった個体ほど脳が軽ければ、「年とともに軽くなる」と読めます。

03大人から高齢まで、脳の重さははっきり減らなかった

論文の要旨によると、調べた4種類の類人猿では、大人の時期を通して、高齢になっても、脳の重さにはっきりした変化は見られませんでした。「はっきりした」とは、偶然のばらつきでは説明できないほどの差、という意味です。

体の大きさは、脳の重さにも関わります。そこで研究チームは、チンパンジーの一部の個体で、体重も計算に入れて調べ直しました。それでも結果は変わりませんでした。

論文は、年とともに脳が目立って軽くなるのは類人猿に共通する老化ではなく、ほぼ人だけの特徴らしいとまとめています。

年をとるにつれて、人の脳は少しずつ軽くなる。今回の研究では、4種類の類人猿の脳の重さに、はっきりした減り方は見られなかった(イメージ。実際のデータの図ではない)
年をとるにつれて、人の脳は少しずつ軽くなる。今回の研究では、4種類の類人猿の脳の重さに、はっきりした減り方は見られなかった(イメージ。実際のデータの図ではない)

04実はチンパンジーの脳については、前から結果が割れていた

類人猿の脳と老化を比べた研究は、今回が初めてではありません。

1999年には、エモリー大学の霊長類研究センターのチームが、チンパンジー76頭の脳の重さを調べました。7歳以上のチンパンジーで、脳は1年に約1.1gずつ軽くなる傾向がありました。チームは、チンパンジーの脳も人と同じようにゆるやかに軽くなるようだ、とまとめています。ただし、オスとメスの違いを計算に入れると、1年に約0.9gになり、偶然の差ではないと言い切れるほどではなくなりました。

2011年には、今回と同じシャーウッドさんたちが、MRIで調べた結果を発表しています。10〜51歳のチンパンジー99頭と、22〜88歳の人87人を比べました。人は、測った脳のどの部分も年とともに小さくなっていました。チンパンジーには、はっきりした変化はありませんでした。

さらに2024年の別の研究では、MRIをくわしく調べると、チンパンジーでも年とともに灰白質(神経細胞の体が集まる部分)が減る場所があると報告されました。ただ、人では、進化の中で大きく広がった場所ほど年とともに縮みやすかったのに、チンパンジーにはそうした関係が見られませんでした。

つまり、「チンパンジーの脳は年をとってもまったく変わらない」とまでは言えません。今回の研究は、脳全体の重さという大まかなものさしで、チンパンジーだけでなく4種類の類人猿をまとめて調べ、目立って軽くなる様子は見られなかったと報告したものです。

05人の脳が縮みやすいのは、長生きのせい?

なぜ人の脳は、類人猿とちがって、年とともに目立って軽くなるのでしょうか。まだ答えは出ていません。

考えられている説明の一つは「人は長生きだから」というものです。2011年の研究では、人のデータに、チンパンジーの最長寿命より年上の人たちが含まれていました。人の脳がはっきり縮んで見えたのは、その人たちのデータがあったためでした。Nature の紹介記事も、副題で「類人猿の寿命が比較的短いことが、脳の重さが保たれる理由かもしれない」と書いています。ただ、今回のデータには、人なら脳の変化が目立ちはじめる年ごろにあたる年齢まで生きた類人猿も含まれていました。寿命だけで説明できるのかは、これから確かめる必要があります。

研究チームは、人の脳のこうした縮みやすさが、年をとってから認知症などになりやすいことと関係しているかもしれないと考えています。これは可能性の話で、今回の研究で確かめられたことではありません。

ほかにも、気をつけたい点があります。

  • 死んだあとに量った重さを、年齢ごとに並べた研究。同じ1頭の変化を追ったわけではない
  • 論文の謝辞によると、記録の出どころはアメリカの動物園や研究センターなど。野生の類人猿とは食べ物も暮らしも違う
  • 体重を計算に入れた調べ直しは、チンパンジーの一部だけ
  • 脳全体の重さが変わらなくても、中の一部が縮んでいることはありうる

06まとめ

人の脳は、病気がなくても年とともに軽くなっていきます。ところが、人にいちばん近いチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの脳は、大人から高齢まで、重さがはっきり減っていませんでした。

人の脳が縮みやすいのは、長く生きるようになった代わりなのか。それとも、人の脳そのものの作りに理由があるのか。この問いの答えは、年をとってから認知症になりやすい理由を知る手がかりにもなるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn humans, the brain slowly loses weight with age, even without brain disease. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In humans, the brain slowly loses weight with age, even without brain disease. A team at George Washington University wanted to know if this also happens in our closest animal relatives. They collected brain weights recorded after death from chimpanzees, bonobos, gorillas and orangutans. The records came from US zoos and research collections, and the apes ranged from young adults to very old animals.

In all four kinds of ape, the team found no clear drop in brain weight with age. For some chimpanzees, they took body weight into account, and the result stayed the same. The researchers suggest that a shrinking brain may be largely a human trait, and that it could be linked to the high risk of dementia in older humans.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

人では、脳の病気がなくても、年とともに脳がゆっくり軽くなる。ジョージ・ワシントン大学のチームは、人にいちばん近い動物の仲間でも同じことが起きるのかを知りたいと考えた。チームは、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの、死んだあとに記録された脳の重さを集めた。記録はアメリカの動物園や研究用のコレクションから集めたもので、類人猿は若い大人からとても年をとった動物までそろっていた。

4種類すべてで、年齢とともに脳の重さがはっきり減ることはなかった。一部のチンパンジーについては体重も計算に入れたが、結果は変わらなかった。研究者たちは、脳が縮むのはおもに人の特徴なのかもしれず、それが、年をとった人の認知症のリスクの高さと関係しているかもしれないと考えている。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What did the team do for some of the chimpanzees?

Q3. What does the study suggest?

重要単語

  • great apeB2
    名詞大型類人猿(チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータン)Chimpanzees and gorillas are great apes. ape は「しっぽのないサルの仲間」。monkey(しっぽのあるサル)と区別する。人も分類上は great ape に含めることがある
  • shrinkB1
    動詞縮む、小さくなるMany parts of the human brain shrink with age. 活用は shrink-shrank-shrunk。服が洗濯で縮むときにも使う。The sweater shrank in the wash.
  • autopsyC1
    名詞解剖(死んだあとに体を調べること)The brain was weighed during the autopsy. auto-(自分で)+ -opsy(見ること)で「自分の目で確かめる」が語源。動物の場合は necropsy ということも多い
  • lifespanB2
    名詞寿命、一生の長さHumans have a longer lifespan than chimpanzees. life + span(長さ・期間)。life span と2語で書くこともある。attention span(集中が続く時間)も同じ span
  • dementiaC1
    名詞認知症Dementia makes it hard to remember new things. de-(離れて)+ ment(心)から。Alzheimer's disease(アルツハイマー病)は dementia の原因として最も多い病気
  • speciesB1
    名詞(生き物の)種、種類Chimpanzees and bonobos are two different species. 単数も複数も species。a species / two species。endangered species(絶滅危惧種)は入試頻出
  • relativeB1
    名詞親類/(生き物の)近い仲間Chimpanzees are our closest living relatives. 形容詞では「相対的な」。closest living relative(現在生きている中でいちばん近い仲間)は進化の話でよく出る

4コマでわかる

人の脳は年をとると軽くなるのに、チンパンジーやゴリラの脳は目立って軽くならなかったの4コマ漫画
人の脳は病気がなくても45〜50歳ごろから少しずつ軽くなる。ところがチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンの脳は、大人から高齢まで重さがはっきり減っていなかった。類人猿の中では、ほぼ人だけの変化らしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Hrvoj-Mihic et al. (2026) Brain weight across the adult lifespan in great apes, PNASdoi.org
  2. Dekaban & Sadowsky (1978) Changes in brain weights during the span of human life: Relation of brain weights to body heights and body weights, Annals of Neurologydoi.org
  3. Fjell & Walhovd (2010) Structural brain changes in aging: courses, causes and cognitive consequences, Reviews in the Neurosciencesdoi.org
  4. Sherwood et al. (2011) Aging of the cerebral cortex differs between humans and chimpanzees, PNASdoi.org
  5. Herndon et al. (1999) Brain weight throughout the life span of the chimpanzee, Journal of Comparative Neurologypubmed.ncbi.nlm.nih.gov