イカの体じゅうに「毛」のセンサー。人の耳の奥と同じく、毛で水のゆれを感じるらしい

読む前に予想してみよう!
イカの体で、「毛の束」を持つ感覚の細胞が並んでいるのは頭と腕だけだ
生まれたての子イカを調べると、胴やヒレ、水を噴き出す管(ろうと)にも、毛の束を持つ細胞が線や面になって並んでいた。水の動きを感じているらしい(2026年、米国の研究チーム)。
- 対象
- アメリカケンサキイカの生まれたての子イカ
- 規模
- 匹数は本文に記載なし
- 研究の種類
- 観察研究(顕微鏡で体の表面と神経の通り道を観察)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
人の耳の奥で音を感じる細胞と同じく「毛の束」を持つ細胞が、子イカの頭と腕だけでなく、胴やヒレにも線や面になって並んでいた。水の動きを感じているらしい。
ひとことで言うとイカは体じゅうの細い「毛」で、まわりの水の動きを感じているらしい!
イカの頭と腕には、水の動きを感じる「毛」の列があります。毛といっても、顕微鏡でないと見えないほど細いものです。細胞の表面から生えた細い毛が束になっていて、まわりの水がゆれると束がゆれ、その細胞から神経に信号が送られます。
この「毛の束を持つ細胞」は、人の耳の奥で音を感じる細胞と同じく「有毛細胞」と呼ばれます。人の耳では、音の振動で毛の束がゆれ、その信号が脳に届いて音として聞こえます。
ただ、これまでくわしく調べられていたのは、イカの頭と腕だけでした。胴やヒレは、どうやって水の動きを感じているのか。論文はこれを「謎」と書いています。2026年9月、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学などのチームが、生まれたばかりの子イカの体を丸ごと調べた結果を、学術誌『Current Biology』に発表しました。毛の束は、胴にもヒレにも、水を噴き出す管にも、体じゅうに並んでいたのです。
01魚の「側線」に似た線が、イカにもある
魚の体の横には、頭から尾に向かって1本の線が見えることがあります。これが側線(そくせん)です。側線には、水の流れやゆれを感じるセンサーが並んでいます。
イカやコウイカの頭と腕にある線は、この側線のイカ版と考えられています。1988年の実験では、コウイカと小型のイカの頭の線に、小さな球をふるわせて水のゆれを当てました。いちばん感じやすい速さ(1秒に75〜100回)のゆれなら、水が0.2マイクロメートル(1万分の2ミリ)動いただけで線は反応しました。魚とイカは、似た働きのセンサーを別々に作り上げたと考えられています。
ただし、作りは違います。魚の毛の束は、「アクチン」というたんぱく質を芯にした毛が並び、そこに1本だけ別の種類の毛がまじる作りです。人の耳の毛の束も、アクチンを芯にした毛でできています。イカの毛の束は、「微小管」という別の材料を芯にした毛がたくさん集まったもので、毛の高さもほぼそろっています。魚の側線では毛を持つ細胞が小さなかたまりを作っていますが、イカでは細胞が1つずつ並んでいます。
02子イカを丸ごと、光る目印で写した
アメリカケンサキイカは、カナダのニューファンドランド島から南米のベネズエラ湾までの、大西洋の西側にすむイカです。NOAA(米国海洋大気庁)によると、胴の長さはふつう30cm足らずで、寿命は1年に満たないといいます。研究チームがこのイカを選んだのは、全部の遺伝情報(ゲノム)がすでに読まれていて、遺伝子を使った実験もしやすいからです。
03線のように並ぶ毛と、面に広がる毛
結果の中心は、毛の束の並び方が2通りあったことです。1つは、これまでも知られていた、線のように並ぶもの。もう1つは、線にならずに広い面に広がるものです(まばらな面も、ぎっしり詰まった面もありました)。研究チームは後者を「側線フィールド(面になった側線)」と名づけました。面に広がる並び方は、イカでも魚でも、これまではっきりとは報告されていませんでした。
イカは、胴(外套膜)のふちのすき間から水を吸いこみ、ろうと(水を噴き出す管)から勢いよく噴き出して進みます。その胴には、毛の束が並ぶ場所が4か所ありました。
- 胴のふち(えり)に沿った線
- 胴の表面に、まばらだが規則正しく散らばる面
- ヒレのふち。ヒレの平らな面には少しだけ
- 胴のいちばん後ろの先にある面
ろうとにも、根もとから先まで毛の束がありました。日本でよく食べられるスルメイカの子では、ろうとの毛の束は線のように並んでいると以前に報告されています。種類によって並び方が違うようです。
頭には左右それぞれ4本の線がありました。線と線のあいだや目のあたりにも、毛の束が散らばる面がありました。頭の腹側には、毛の束がぎっしり集まった大きな面が2つ。ところが、そのあいだの、ろうとから水が噴き出すあたりには、毛の束がほとんどありませんでした。研究チームは、噴き出す強い水の流れでセンサーが「振り切れて」しまうのを防いでいるのかもしれない、と考えています。
毛の長さも場所で違いました。胴のえりの線の毛は平均2.8マイクロメートル。頭の線の毛は平均14マイクロメートルで、約5倍の長さです。生きた子イカでは、頭の長い毛はまっすぐ海水の中に突き出していました。

生まれたての子イカの体は、感覚とは関係のない毛のかたまりにおおわれていて、ふ化から24〜36時間で胴から抜け落ちることが知られています。研究チームは成長の段階が違う子イカを比べ、今回の毛の束がそれとは形も毛の数も違うことを確かめました。胴の毛の束はおとなのイカにも残っていて、えりの近くのものは子イカとよく似ていました。
04毛の長さで、感じる水の動きを分けている?
毛の長さが場所で違うのはなぜか。論文は、背骨のある動物の耳の例を挙げています。耳の奥の有毛細胞では、毛の束の長さで聞き取りやすい音の高さが変わります。たとえばメンフクロウの耳では、背の高い毛の束は低い音に、短い毛の束は高い音に反応します。
イカでも同じだとすれば、胴のえりの短い毛は、呼吸やジェット噴射のために水を吸いこむときの速い流れを感じている。頭や腕の長い毛は、もっとゆっくりした水の動きを感じている。研究チームはそう考えていますが、まだ確かめられていない仮説です。
神経もたどりました。ヒレ、胴のえり、胴の表面の毛の細胞からのびた神経は、胴の内側にある星状神経節(せいじょうしんけいせつ)という神経の集まりへ向かっていました。途中は、胴の中を走る特別に太い神経(巨大神経線維)の通り道に沿っているように見えました。
研究を率いたマクダーモットさんは、大学の発表の中で、生まれつき耳が聞こえない子や、聞こえなくなった人では、毛の束が傷んでいることが多いと話しています。人の有毛細胞は耳の奥にうもれていますが、イカの毛の束は体の表面に出ています。イカの毛の束を調べれば、難聴の起こり方を理解する手がかりになるかもしれない。これは研究者の見通しで、論文そのものは難聴の話はしていません。
05どんでん返し:まだ「形を見た」段階
- 今回は、毛の形と並び方、神経のつながりを顕微鏡で見た研究。胴の毛が本当に水の動きに反応するかは、電気の信号を測って確かめていない。「水の動きを感じているらしい」は、反応が確かめられている頭の線と形が似ていることからの推測
- 毛の長さで感じる水の動きが違う、というのも仮説
- くわしく調べたのは生まれたての子イカ。おとなについては、胴の毛の束が残っていることを確かめた段階
- 大学の発表文には「イカの皮ふは人の耳のように働くらしい」という書き方もある。しかし論文で分かったのは「毛の束を持つ細胞が体じゅうに並んでいる」まで。毛の材料も細胞の並び方も、人とは違う
- 論文は2ページの短い報告。調べた子イカの数などは本文に書かれていない
06まとめ
イカは、体の表面のあちこちで、まわりの水の動きを感じ取っているのかもしれません。毛が線のように並ぶ場所もあれば、広い面に散らばる場所もある。毛の長さも、場所ごとに違う。魚の側線と似た仕事を、別の作りの毛で、体じゅうを使ってこなしている。そんなイカの姿が見えてきました。
次は、それぞれの毛が本当に水の動きに反応するのか、反応するならどんな流れに反応するのかを確かめる番です。
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音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Squid have very small hairs on their skin. These hairs grow on special cells, and they move when the water moves. Cells like this also help people hear. Scientists already knew about lines of these cells on the head and arms of squid.
Now a team in the United States has looked at baby squid with a microscope. They found the cells all over the body, even on the fins. The cells may help squid feel moving water.
78 words ・ CEFR A2
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イカの皮ふには、とても小さな毛がある。この毛は特別な細胞から生えていて、水が動くと動く。このような細胞は、人が音を聞くのも助けている。科学者たちは、イカの頭と腕にこうした細胞の線があることをすでに知っていた。
今回、米国のチームが顕微鏡で子イカを調べた。すると、体じゅうに、ヒレにまで、その細胞が見つかった。この細胞は、イカが水の動きを感じるのに役立っているのかもしれない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
イカの皮ふの小さな毛と、それが水の動きを感じているかもしれないという話なので、正解は B。
Q2. Where did scientists already know about these cells?
「Scientists already knew about lines of these cells on the head and arms of squid.」とあるので、正解は C。ヒレや体じゅうで見つかったのは今回の研究。
Q3. In the passage, "feel" in "help squid feel moving water" is closest in meaning to ___.
細胞の毛は水が動くと動くと説明されており、水の動きに「気づく・感じ取る」という意味なので、正解は A。
Deep inside your ear, sound makes tiny bundles of hairs move, and special cells turn that movement into signals for the brain. Squid also have cells with hair bundles on their skin, and these cells respond to moving water. Until now, they had only been described in detail on the head and arms.
A team led by Brian McDermott at Case Western Reserve University studied newly hatched longfin inshore squid with a light-sheet microscope. They found hair bundles on the mantle, the fins and the siphon as well. Some were arranged in neat lines, while others were spread across wide patches of skin. The hairs on the head were about five times longer than those along the front edge of the mantle.
122 words ・ CEFR B1
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耳の奥では、音によって小さな毛の束が動き、特別な細胞がその動きを脳への信号に変える。イカの皮ふにも、毛の束を持つ細胞があり、水の動きに反応する。これまで、こうした細胞がくわしく記録されていたのは頭と腕だけだった。
ケース・ウェスタン・リザーブ大学のブライアン・マクダーモットさんが率いるチームは、生まれたばかりのアメリカケンサキイカをライトシート顕微鏡で調べた。すると、胴(外套膜)、ヒレ、ろうとにも毛の束が見つかった。きれいな線のように並ぶものもあれば、皮ふの広い範囲に散らばるものもあった。頭の毛は、胴の前のふちに沿った毛の約5倍の長さだった。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
子イカの体じゅうで毛の束を持つ細胞の並び方を調べた研究の話なので、正解は B。
Q2. Where did the team find hair bundles that had not been described in detail before?
「They found hair bundles on the mantle, the fins and the siphon as well.」とあるので、正解は C。頭と腕はこれまでも知られていた場所。
Q3. What can we infer from the last sentence?
最後の文で、頭の毛は胴の前のふちの毛の約5倍の長さだったと述べており、場所によって長さが違うと分かるので、正解は B。年齢による変化は書かれていない。
Fish sense moving water with their lateral line, a row of sensors running along each side of the body. Squid have something similar: lines of cells on the head and arms that carry tiny bundles of hairs, much like the hair cells that detect sound in the human inner ear. The squid version is built differently.
Its bundles are made of a different kind of hair, and the cells do not sit in small clusters as they do in fish. In a short report in Current Biology, US researchers imaged whole newly hatched longfin inshore squid and found these cells across the whole surface, set in dense lines or broad fields. Nerves from the cells on the mantle ran toward the stellate ganglion, a nerve hub inside the mantle.
Hair length varied by location. Bundles near the front edge of the mantle averaged 2.8 micrometers, compared with 14 on the head. In a barn owl's ear, taller bundles respond to lower sounds, so the team suspects the different lengths may tune the cells to different kinds of water flow. That idea is untested. The study mapped anatomy only, and the team recorded no signals from the new cells.
198 words ・ CEFR B2
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魚は側線で水の動きを感じる。側線とは、体の左右それぞれに沿って走るセンサーの列だ。イカにも似たものがある。頭と腕にある細胞の線で、その細胞は小さな毛の束を持ち、人の内耳で音を感じる有毛細胞によく似ている。
ただし、イカのものは作りが違う。毛の束は別の種類の毛でできていて、細胞は魚のように小さなかたまりを作っていない。米国の研究者たちは『Current Biology』の短い報告で、生まれたばかりのアメリカケンサキイカを丸ごと撮影し、こうした細胞が体の表面全体に、密な線か、広い面の形で並んでいることを見つけた。
胴(外套膜)の細胞からの神経は、外套膜の内側にある神経の中継地、星状神経節へ向かっていた。毛の長さも場所によって違った。外套膜の前のふちの近くの毛の束は平均2.8マイクロメートルで、頭では14マイクロメートルだった。メンフクロウの耳では背の高い毛の束ほど低い音に反応するため、チームは、イカでも毛の長さの違いが、細胞をそれぞれ別の種類の水の流れに合わせているのではないかと考えている。この考えはまだ確かめられていない。研究は体のつくりを調べただけで、チームは新しく見つかった細胞から信号を測っていない。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
子イカの体じゅうに毛の束を持つ細胞が並んでいたことと、細胞の信号は測っていないという限界を述べているので、正解は B。
Q2. How long were the hair bundles near the front edge of the mantle, on average?
「Bundles near the front edge of the mantle averaged 2.8 micrometers, compared with 14 on the head.」とあるので、正解は B。14は頭の毛の束。
Q3. Why does the writer mention the barn owl?
メンフクロウの耳では背の高い毛の束ほど低い音に反応することを根拠に、イカも毛の長さで水の流れを感じ分けているかもしれないと述べているので、正解は B。
重要単語
- hair cellB2名詞有毛細胞(毛の束を持ち、ゆれを信号に変える細胞)Hair cells deep in the ear turn sound into signals.
hair bundle(毛の束)とセットで出てくる。難聴(hearing loss)の話題でよく使われる - lateral lineC1名詞側線(魚などの体の横にある、水の動きを感じる線)A fish can feel moving water with its lateral line.
lateral は「横の」。lateral thinking(水平思考)の lateral と同じ - mantleC1名詞(イカ・タコの)外套膜、胴の部分The squid pulls water into its mantle and then pushes it out.
もとは「マント」の意味。地球の「マントル」も同じ語 - detectB1動詞感じ取る、見つけるThese cells may detect very small movements in the water.
名詞は detection、「探知機」は detector。detect a change(変化に気づく)は入試頻出 - hatchB1動詞(卵から)かえる、ふ化するThe baby squid had hatched only a short time before.
newly hatched で「生まれたばかりの(卵からかえったばかりの)」。hatchling は「ふ化したばかりの子」 - bundleB1名詞束(たば)Each cell has a bundle of tiny hairs on top.
a bundle of ~ で「~の束」。bundle up は「着こむ、まとめる」 - tuneB2動詞(特定の音・刺激に)合わせる、調整するHair length may tune each cell to a different kind of flow.
be tuned to ~ で「~に合わせてある」。ラジオの周波数を合わせるのも tune
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公式・一次情報をチェック
- Newly discovered hair cells on squid may offer clues to understand hearing loss in humans(ケース・ウェスタン・リザーブ大学の発表文・2026年10月1日。難聴研究についての見通しは研究者のコメント。文中の「イカの皮ふは人の耳のように働くらしい」「魚の側線の毛の束は長さが変わらない」は論文本文には書かれていないため、本記事では根拠にしていない)case.edu
- Longfin Squid(米国海洋大気庁 NOAA Fisheries の種の解説ページ。すむ場所・大きさ・寿命)fisheries.noaa.gov
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イカの頭と腕には、人の耳の奥と同じく「毛の束」でゆれを感じる細胞が、線になって並ぶ。生まれたての子イカを調べると、胴やヒレ、水を噴き出す管にも、線や面になって並んでいた。毛の長さは場所によって約5倍も違った。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Wang, Wolff, Pintozzi, Petriv & McDermott (2026) An anatomical map of squid lateral lines, Current Biologydoi.org
- Budelmann & Bleckmann (1988) A lateral line analogue in cephalopods: water waves generate microphonic potentials in the epidermal head lines of Sepia and Lolliguncula, Journal of Comparative Physiology Adoi.org
- Fischer, Köppl & Manley (1988) The basilar papilla of the barn owl Tyto alba: A quantitative morphological SEM analysis, Hearing Researchdoi.org
- Albertin et al. (2022) Genome and transcriptome mechanisms driving cephalopod evolution, Nature Communicationsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











