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イカの体じゅうに「毛」のセンサー。人の耳の奥と同じく、毛で水のゆれを感じるらしい

イカの体じゅうに「毛」のセンサー。人の耳の奥と同じく、毛で水のゆれを感じるらしい

読む前に予想してみよう!

イカの体で、「毛の束」を持つ感覚の細胞が並んでいるのは頭と腕だけだ

研究カード(どんな研究?)
対象
アメリカケンサキイカの生まれたての子イカ
規模
匹数は本文に記載なし
研究の種類
観察研究(顕微鏡で体の表面と神経の通り道を観察)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

人の耳の奥で音を感じる細胞と同じく「毛の束」を持つ細胞が、子イカの頭と腕だけでなく、胴やヒレにも線や面になって並んでいた。水の動きを感じているらしい。

ひとことで言うとイカは体じゅうの細い「毛」で、まわりの水の動きを感じているらしい!

もくじ
  1. 魚の「側線」に似た線が、イカにもある
  2. 子イカを丸ごと、光る目印で写した
  3. 線のように並ぶ毛と、面に広がる毛
  4. 毛の長さで、感じる水の動きを分けている?
  5. どんでん返し:まだ「形を見た」段階
  6. まとめ

イカの頭と腕には、水の動きを感じる「毛」の列があります。毛といっても、顕微鏡でないと見えないほど細いものです。細胞の表面から生えた細い毛が束になっていて、まわりの水がゆれると束がゆれ、その細胞から神経に信号が送られます。

この「毛の束を持つ細胞」は、人の耳の奥で音を感じる細胞と同じく「有毛細胞」と呼ばれます。人の耳では、音の振動で毛の束がゆれ、その信号が脳に届いて音として聞こえます。

ただ、これまでくわしく調べられていたのは、イカの頭と腕だけでした。胴やヒレは、どうやって水の動きを感じているのか。論文はこれを「謎」と書いています。2026年9月、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学などのチームが、生まれたばかりの子イカの体を丸ごと調べた結果を、学術誌『Current Biology』に発表しました。毛の束は、胴にもヒレにも、水を噴き出す管にも、体じゅうに並んでいたのです。

01魚の「側線」に似た線が、イカにもある

魚の体の横には、頭から尾に向かって1本の線が見えることがあります。これが側線(そくせん)です。側線には、水の流れやゆれを感じるセンサーが並んでいます。

イカやコウイカの頭と腕にある線は、この側線のイカ版と考えられています。1988年の実験では、コウイカと小型のイカの頭の線に、小さな球をふるわせて水のゆれを当てました。いちばん感じやすい速さ(1秒に75〜100回)のゆれなら、水が0.2マイクロメートル(1万分の2ミリ)動いただけで線は反応しました。魚とイカは、似た働きのセンサーを別々に作り上げたと考えられています。

ただし、作りは違います。魚の毛の束は、「アクチン」というたんぱく質を芯にした毛が並び、そこに1本だけ別の種類の毛がまじる作りです。人の耳の毛の束も、アクチンを芯にした毛でできています。イカの毛の束は、「微小管」という別の材料を芯にした毛がたくさん集まったもので、毛の高さもほぼそろっています。魚の側線では毛を持つ細胞が小さなかたまりを作っていますが、イカでは細胞が1つずつ並んでいます。

02子イカを丸ごと、光る目印で写した

アメリカケンサキイカは、カナダのニューファンドランド島から南米のベネズエラ湾までの、大西洋の西側にすむイカです。NOAA(米国海洋大気庁)によると、胴の長さはふつう30cm足らずで、寿命は1年に満たないといいます。研究チームがこのイカを選んだのは、全部の遺伝情報(ゲノム)がすでに読まれていて、遺伝子を使った実験もしやすいからです。

03線のように並ぶ毛と、面に広がる毛

結果の中心は、毛の束の並び方が2通りあったことです。1つは、これまでも知られていた、線のように並ぶもの。もう1つは、線にならずに広い面に広がるものです(まばらな面も、ぎっしり詰まった面もありました)。研究チームは後者を「側線フィールド(面になった側線)」と名づけました。面に広がる並び方は、イカでも魚でも、これまではっきりとは報告されていませんでした。

イカは、胴(外套膜)のふちのすき間から水を吸いこみ、ろうと(水を噴き出す管)から勢いよく噴き出して進みます。その胴には、毛の束が並ぶ場所が4か所ありました。

  • 胴のふち(えり)に沿った線
  • 胴の表面に、まばらだが規則正しく散らばる面
  • ヒレのふち。ヒレの平らな面には少しだけ
  • 胴のいちばん後ろの先にある面

ろうとにも、根もとから先まで毛の束がありました。日本でよく食べられるスルメイカの子では、ろうとの毛の束は線のように並んでいると以前に報告されています。種類によって並び方が違うようです。

頭には左右それぞれ4本の線がありました。線と線のあいだや目のあたりにも、毛の束が散らばる面がありました。頭の腹側には、毛の束がぎっしり集まった大きな面が2つ。ところが、そのあいだの、ろうとから水が噴き出すあたりには、毛の束がほとんどありませんでした。研究チームは、噴き出す強い水の流れでセンサーが「振り切れて」しまうのを防いでいるのかもしれない、と考えています。

毛の長さも場所で違いました。胴のえりの線の毛は平均2.8マイクロメートル。頭の線の毛は平均14マイクロメートルで、約5倍の長さです。生きた子イカでは、頭の長い毛はまっすぐ海水の中に突き出していました。

子イカの体に並ぶ毛の束のイメージ。線のように並ぶ場所と、面に散らばる場所がある(イメージ。論文の図ではありません)
子イカの体に並ぶ毛の束のイメージ。線のように並ぶ場所と、面に散らばる場所がある(イメージ。論文の図ではありません)

生まれたての子イカの体は、感覚とは関係のない毛のかたまりにおおわれていて、ふ化から24〜36時間で胴から抜け落ちることが知られています。研究チームは成長の段階が違う子イカを比べ、今回の毛の束がそれとは形も毛の数も違うことを確かめました。胴の毛の束はおとなのイカにも残っていて、えりの近くのものは子イカとよく似ていました。

04毛の長さで、感じる水の動きを分けている?

毛の長さが場所で違うのはなぜか。論文は、背骨のある動物の耳の例を挙げています。耳の奥の有毛細胞では、毛の束の長さで聞き取りやすい音の高さが変わります。たとえばメンフクロウの耳では、背の高い毛の束は低い音に、短い毛の束は高い音に反応します。

イカでも同じだとすれば、胴のえりの短い毛は、呼吸やジェット噴射のために水を吸いこむときの速い流れを感じている。頭や腕の長い毛は、もっとゆっくりした水の動きを感じている。研究チームはそう考えていますが、まだ確かめられていない仮説です。

神経もたどりました。ヒレ、胴のえり、胴の表面の毛の細胞からのびた神経は、胴の内側にある星状神経節(せいじょうしんけいせつ)という神経の集まりへ向かっていました。途中は、胴の中を走る特別に太い神経(巨大神経線維)の通り道に沿っているように見えました。

研究を率いたマクダーモットさんは、大学の発表の中で、生まれつき耳が聞こえない子や、聞こえなくなった人では、毛の束が傷んでいることが多いと話しています。人の有毛細胞は耳の奥にうもれていますが、イカの毛の束は体の表面に出ています。イカの毛の束を調べれば、難聴の起こり方を理解する手がかりになるかもしれない。これは研究者の見通しで、論文そのものは難聴の話はしていません。

05どんでん返し:まだ「形を見た」段階

  • 今回は、毛の形と並び方、神経のつながりを顕微鏡で見た研究。胴の毛が本当に水の動きに反応するかは、電気の信号を測って確かめていない。「水の動きを感じているらしい」は、反応が確かめられている頭の線と形が似ていることからの推測
  • 毛の長さで感じる水の動きが違う、というのも仮説
  • くわしく調べたのは生まれたての子イカ。おとなについては、胴の毛の束が残っていることを確かめた段階
  • 大学の発表文には「イカの皮ふは人の耳のように働くらしい」という書き方もある。しかし論文で分かったのは「毛の束を持つ細胞が体じゅうに並んでいる」まで。毛の材料も細胞の並び方も、人とは違う
  • 論文は2ページの短い報告。調べた子イカの数などは本文に書かれていない

06まとめ

イカは、体の表面のあちこちで、まわりの水の動きを感じ取っているのかもしれません。毛が線のように並ぶ場所もあれば、広い面に散らばる場所もある。毛の長さも、場所ごとに違う。魚の側線と似た仕事を、別の作りの毛で、体じゅうを使ってこなしている。そんなイカの姿が見えてきました。

次は、それぞれの毛が本当に水の動きに反応するのか、反応するならどんな流れに反応するのかを確かめる番です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerDeep inside your ear, sound makes tiny bundles of hairs move, and special cells turn that movement into… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Deep inside your ear, sound makes tiny bundles of hairs move, and special cells turn that movement into signals for the brain. Squid also have cells with hair bundles on their skin, and these cells respond to moving water. Until now, they had only been described in detail on the head and arms.

A team led by Brian McDermott at Case Western Reserve University studied newly hatched longfin inshore squid with a light-sheet microscope. They found hair bundles on the mantle, the fins and the siphon as well. Some were arranged in neat lines, while others were spread across wide patches of skin. The hairs on the head were about five times longer than those along the front edge of the mantle.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

耳の奥では、音によって小さな毛の束が動き、特別な細胞がその動きを脳への信号に変える。イカの皮ふにも、毛の束を持つ細胞があり、水の動きに反応する。これまで、こうした細胞がくわしく記録されていたのは頭と腕だけだった。

ケース・ウェスタン・リザーブ大学のブライアン・マクダーモットさんが率いるチームは、生まれたばかりのアメリカケンサキイカをライトシート顕微鏡で調べた。すると、胴(外套膜)、ヒレ、ろうとにも毛の束が見つかった。きれいな線のように並ぶものもあれば、皮ふの広い範囲に散らばるものもあった。頭の毛は、胴の前のふちに沿った毛の約5倍の長さだった。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Where did the team find hair bundles that had not been described in detail before?

Q3. What can we infer from the last sentence?

重要単語

  • hair cellB2
    名詞有毛細胞(毛の束を持ち、ゆれを信号に変える細胞)Hair cells deep in the ear turn sound into signals. hair bundle(毛の束)とセットで出てくる。難聴(hearing loss)の話題でよく使われる
  • lateral lineC1
    名詞側線(魚などの体の横にある、水の動きを感じる線)A fish can feel moving water with its lateral line. lateral は「横の」。lateral thinking(水平思考)の lateral と同じ
  • mantleC1
    名詞(イカ・タコの)外套膜、胴の部分The squid pulls water into its mantle and then pushes it out. もとは「マント」の意味。地球の「マントル」も同じ語
  • detectB1
    動詞感じ取る、見つけるThese cells may detect very small movements in the water. 名詞は detection、「探知機」は detector。detect a change(変化に気づく)は入試頻出
  • hatchB1
    動詞(卵から)かえる、ふ化するThe baby squid had hatched only a short time before. newly hatched で「生まれたばかりの(卵からかえったばかりの)」。hatchling は「ふ化したばかりの子」
  • bundleB1
    名詞束(たば)Each cell has a bundle of tiny hairs on top. a bundle of ~ で「~の束」。bundle up は「着こむ、まとめる」
  • tuneB2
    動詞(特定の音・刺激に)合わせる、調整するHair length may tune each cell to a different kind of flow. be tuned to ~ で「~に合わせてある」。ラジオの周波数を合わせるのも tune
イカの頭と腕には、人の耳の奥と同じく「毛の束」でゆれを感じる細胞が、線になって並ぶ。生まれたての子イカを調べると、胴やヒレ、水を噴き出す管にも、線や面になって並んでいた。毛の長さは場所によって約5倍も違った。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Wang, Wolff, Pintozzi, Petriv & McDermott (2026) An anatomical map of squid lateral lines, Current Biologydoi.org
  2. Budelmann & Bleckmann (1988) A lateral line analogue in cephalopods: water waves generate microphonic potentials in the epidermal head lines of Sepia and Lolliguncula, Journal of Comparative Physiology Adoi.org
  3. Fischer, Köppl & Manley (1988) The basilar papilla of the barn owl Tyto alba: A quantitative morphological SEM analysis, Hearing Researchdoi.org
  4. Albertin et al. (2022) Genome and transcriptome mechanisms driving cephalopod evolution, Nature Communicationsdoi.org